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聖武器

花と十字架の想い 33話

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アスターが傷ついて戻ってきて1日が経った。

目を覚ましたかどうか確かめに、フクシアとアスターの元へ行く。

シオン「フクシア、アスター…目覚ましたか?」

フクシア「あっ…シオン! うん、気が付いたよ!」

まだ起き上がれないようだったが、話すだけの元気はあるようだった。

アスター「迷惑かけたな…あと少し休めば、動けるようにはなる…」



アイリス「…一体、あの洞窟の中で何が…」

しばらくアスターが黙り込んだ後、口を開いた。

アスター「そうだな…俺自身も何があったのかよくわからないけど…分かる限りで話す…。

…俺はシオンたちが去った後、魔王と戦って、殺されかけた…」


シオンたちを逃がした後、魔王との戦闘を始めていたアスター。

肉体を取り戻していないと言えど、魔王の力は強大で、

アスター1人で敵うはずはなく、一瞬の隙を突かれて右目を斬りつけられた…。

アスター『…っ!!』

魔王フロックス『ふっ…その程度の力で我に歯向かったのか』

アスター『勝てないとわかっていても、時間稼ぎにはなる…

シオンたちは、ここでお前に倒させるわけにはいかない…!』

切りつけられた右目を押えながら、魔王を睨みつける。

ここまで戦って負った傷もあり、もう立ち上がれない。

魔王フロックス『愚かなことだな。人のために死ねるか…

我々魔族には理解できない思考だな』

魔王がゆっくり近づいて、剣を突き付けてきた。

魔王フロックス『処刑の時間だ。死ね』

その言葉を最後にアスターは気を失った。けれどアスターはトドメを刺されていない。

誰かが、何かが自分を転移させたのだ。

それも、シオンたちがここにいるとわかっている者が…。


アスター「…というわけだ。自分でも、誰が助けてくれたのか…」

シオン「そうだったのか。…ごめん、アスター。俺たちが逃げていなければ右目は…」

頭を下げて謝ってくるシオンに慌てて顔を上げるように言う。

アスター「言っただろ? シオンたちは奪われてはならない物がたくさんある。

それに俺は今までシオンたちを傷つけていたんだ。これぐらい何ともない…」

心配かけまいと、アスターが微笑む。と、アスターの翼が天使に一瞬変わってしまった。

フクシア「あっ…そ、そうだよ! アスターはまだ悪魔の輝石使ってないから…!」

アスター「ああ…そうだった。…そういえば、あの時ハデスの塔で、

それを取るために最上階まで来てくれたんだよね、フクシアは」

がさごそと部屋の引き出しを漁りながらうなずくフクシア。

フクシア「えーっと…あ、これこれ! はい、アスター…」

アスターがそれを手にすると、フクシアが天使の輝石を手にした時と同じように、

今度は黒い光がアスターを包んだ。

アスター「よし。これで俺も生粋の悪魔に…」

フクシア「アスター! よかった…」

シオンたちも安心。

シオン「…アスター。頼みがある」

アスター「俺にできることなら、なんでも言ってくれ」

シオン「俺たちと、一緒に旅しないか?

フクシアも、アスターと一緒にいたいだろうし、もし1人で行動するつもりなら、

魔族に狙われる危険も考えると…。もちろん、悪魔界に帰るつもりなら止めないけど…」

やっぱりすぐには答えは出せないだろうと思っていたが、アスターは即答した。

アスター「構わない。一緒に行かせてほしい」

フクシア「い、いいの?」

アスター「悪魔界には、まだ帰るつもりはない。

それに、もうこれ以上、俺みたいに洗脳される被害者を出したくない」

アイリス「アスターさん…」

シオンがアスターに近づく。

シオン「まだ俺たちも魔族相手に必ず勝てる保証はないし、魔族にかなり狙われてもいる。

それでもいいなら…よろしく」

アスター「ああ、シオン」

シオンが差し出した手をアスターが取った。

シュロ「とりあえず、アスターが起き上がれないことには話にならないし、

もうしばらくここに滞在する必要があるな」

フクシア「医者の人にも見てもらったんだけど、

アスターがあちこちに負った傷を見る限り、1週間は安静だって」

レオノティス「一週間か…その間に次の目的地だけでも決めておくか?」

そうだな、とシオンが返した。

シオン「じゃあ、何個か候補は決めておいて、

アスターが起き上がれる頃の様子でどこに行くか最終決定しよう」

ブローディア「私たちで決めとくから、フクシアはアスターのそばにいてあげてよ!」

そう言って、フクシアとアスター以外は部屋を出て、下の食堂で会議をする事になった。


その頃、魔王城では…

魔王フロックス「…………」
 

???『まだ早いから!』


魔王フロックス(あの時…洞窟で聞いたあの声は一体…

その直後、アスターは転移された…)

アメシス「…どうなされましたか、フロックス様…」

魔王フロックス「…いや、なんでもない。気にするな」

アメシスが不安そうにする。

ジェイド「チッ…にしても、本当にアスターのやつ裏切ったな…」

カイヤ「そうですね…これで裏切り者は2人目ですか…もう1人は魔族ですけどね」

魔王フロックス「…あいつのことか」

しばらくの沈黙を挟んで、クロムが切りだした。

クロム「それで、次はどうするつもりなのかしら? セイクレイ城を攻める? それとも……」

クロムが入口の方を見る。

クロム「もうすぐここに来るかもしれない、

この場所を付きとめた復讐者の排除が先、かしら」

アメシス「来るかもしれないって…本当にここに乗り込んでくるのですか…?」

ジェイド「人間のくせに、身の程知らずだな…」

カイヤ「フロックス様、今のうちに我々が出向いて片づけて参りましょうか?」

魔王は少し黙っていたが、すぐに口を開いた。

魔王フロックス「…いや、そいつの相手は私がする。

お前たちは、セイクレイ城を攻めるときに備えて力を蓄えておけ」

そう言われてしまっては、反論も出来ない。全員頭を下げて黙る。

魔王フロックス(…万が一もある…そいつがもし「持って」いるなら、

殺すわけにはいかないからな…)

自分の剣を眺めながら、不敵そうな笑みを浮かべているのを、復讐者は知らずに…。
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