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過去と現在は手を取り合って
月が響鳴-カナデ-るカプリッチオ 100話
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ゼファ達を連れてギルドのマスター室まで戻って来た。
カテドラル王とガイラルディア王、リラも含めての今後の話だ。
目を覚ましたセピアとエピナールもここに居る。
アクバール「…で、彼の…いや、彼らの処遇なんだけど…」
カテドラル「各大陸制圧時に命を落とした者は何人もいる」
ガイラルディア「そして未遂とはいえ、
もう少しでこの時代の人達は滅ぼされてしまうところだったんだ」
リラ「普通に考えたら、公開処刑か、それ以上の罰が必要なんでしょう」
確かに普通に考えたらそうだろう。
フェズ達は何も言わないし、抗議する気もないようだ。
ゼファ「彼らはゼニス達を救い出してくれた。
処刑なら我だけにしてくれ。魔物に食わせられても首をはねるにしても
海に投げられても火に焼かれようと、何でも受け入れる。
この時代の人達を殺そうとしたんだ。何も文句は言わない」
潔すぎるとかえってやりにくいのだが…。
ゼニス「……僕から提案してもいいですか?」
エーリカ「どうぞ?」
この会議になったら、そう言おうと思っていたことがあった。
ゼニス「ゼファ達を世界のために働かせる事はできませんか?」
提案に驚いたのは王様達だけじゃない。
ゼファ達もだ。
驚いていないのはゼニスたち一行だけ。
サルファー「世界はかなりパニックになっています。
未だにクレセディア復活を阻止された事を根に持つ魔物もいるでしょう」
ビオレ「ゼファを殺せば余計にひどくなるわ。」
パリス「メリディエムとテネブリス、インフェヌムもいますし、
彼らと協力させれば和平に使えるのでは?」
現在、その三体の龍は世界のために頑張ってくれている。
メリディエムはラディル大陸で人と馴染んでいて、
テネブリスもここ、ディレオン大陸で人から慕われ始めている。
インフェヌムは世界各地を回って、暴走する魔物の指揮をとろうとしている。
カテドラル「…なるほど。だが、素直に従うか?」
ソレイユ「その事なら心配なく!」
エルブ「ゼニス師匠が案があるって言ってました」
ゼニス「流変剣の能力で、あの戦いの後使えるようになったものがあるんです。
ゼルシェードが恐らく消える間際に託してくれた神の力。
世界の管理神が持つ力。」
それは、世界の管理神と人同士の契約。
管理神との契約に反する事ができないものだ。
ゼニス「これなら、ゼファ達は僕に逆らえません。
これで縛りつければ、世界のために動かしても問題ないですよね?」
ガイラルディア「確かに……」
リラ「クレセディア王。契約する気はありますか?
四零士、彼の側近だったお二人も」
それには彼らは即答だった。
ゼファ「我はもう王ではないよ。契約する気はある。
言っただろう、我は何でも受け入れる」
フェズ「俺達もゼファがそう言うなら文句はねーよ」
サラテリ「あたし達も助けられた側だし」
プリムローズ「手伝ったりしてたから、今さら」
グラファイト「まあ、逆らう理由も無いしね」
セピア「ゼッ君を助けていただきましたから…」
エピナール「生かしてもらえるのなら、それで構いません」
フロスティ「…我も同意見じゃ。ゼニス、頼む」
…うん、了解は得られたようだ。
ガイラルディア「問題は、どこで引き取る?」
どの国で引き取っても騒ぎになるだろう。
それを考えたら……というか、できるだけ近くにいてほしいが…。
アクバール「全員、ギルド「天馬」で引き取ります」
すがすがしい笑顔でアクバールが言い出してくれた。
カテドラル「…いいのか?」
エーリカ「ゼニスさんが一緒の方が色々安心でしょう。
それに、このギルドは世界中を回るので、世界のために働かせるのならもってこいです」
……ん? そうなると…ゼニスはどうするんだ?
カテドラル「ゼニス…」
ゼニス「……色々考えたんです。それで…
……城に戻るのは、世界がもう少し落ち着いてからでいいでしょうか?
それまでは、どうかギルドに居させてください」
それがゼニスの本心だった。
世界のために、ゼファであった自分も何かしたい。
そのためにはギルドにいた方が都合がいい。
ゼファ達の監視も含め。
…でも、正直建前かもしれない。落ち着いて、世界を視て回りたかったのも理由の一つだ。
カテドラル「……ラージャにはいっておく。必ず、いつか戻るんだろう?」
ゼニス「はい。必ず…いつか戻ります。…僕の隊の人達にもどうかお伝えください」
………
カテドラル「……たまには顔を出しに来い」
ゼニス「はい!」
アクバール「…いいんだね。僕達は大歓迎だけど」
エーリカ「じゃあ、お願いします。ゼニスさん」
ゼニスがゼファ達の前に来る。
ゼニス「これからは君達は世界のために働かせられる。いいよね?」
ゼファ「自分の意志で働くんだ。問題ないよ」
ゼニス「よし、契約。人と神の世契約!」
残りは、みんなの事だ。
エーリカ「ソレイユさん、ビオレさん、サルファーさん、エルブさん、パリスさんはどうしますか?」
………
それぞれ帰る場所がある人もいれば、行き場がない人もいる。
ソレイユ「私はギルドで働きながら、村の復興しようかな」
エルブ「僕も、フェズさん達がここに居るならここに」
まあ、二人はこうなるだろうな。
サルファー「……あの、ギルドと屋敷を往復する形でもいいでしょうか?」
ゼニス「サルファー?」
サルファー「ジューン様と、奥様と旦那様によく言われていたんです。
たまには自分のために生きろと。…それにお嬢様は旅に出られる人じゃない。
外の世界を視て、お嬢様に伝えたい、そう思うんです」
サルファー…。
パリス「私も…普段は学園があるから無理ですけど…
私もジューンに色んな事を話したいし、外を見ないと得られないものもあるから…
暇な時は、来て依頼をしててもいいですか?」
パリス…。
ビオレ「私も、長を継ぐまでは好きにしてていいって言われてるのよね。
それに、ずっと使命感で戦ってたし、今度こそ自由に世界中歩きたいかな。
忍びに対する風当たりも少なくなったし…」
ビオレ…。
アクバール「…よしっ、みんな大歓迎だ。
いやー、ギルドの人員がすごーく増えるなぁ助かるなぁ!」
エーリカ「マスター。仕事を押し付けないでくださいね。彼らに」
エーリカがにっこりと威圧。
やれやれ…緊張感が消えたな。
こうして、ゼファ達がギルドに加わる事になり、一か月ほど経った。
時々旅のメンバーが揃う事もあったりになったのだが……。
ロココ「ゼフ…パシリ! ソムニウム城下町のアイス買って来てー!」
ゼファ「もう買って冷やしてあるよ。後で持って行ってくれ」
この通り。いい感じに使われている。
慈悲深い故か、全然嫌な顔もせずに受けるから余計に。
バレヌ「…こんなに扱き使って良いのか…?」
ロココ「いいのいいの!」
いや…調子に乗りすぎ。
ビオレ「私達より扱き使ってない?」
サルファー「あはは……」
ソレイユ「嫌な顔しないで全部引き受けるなんて…」
パリス「さすが慈悲深い王子様…」
エルブ「でも、この前全員の好みのもの買ってきましたよね?」
ゼニス「全員分の好みを把握してるって事??」
…すごすぎる。
グラファイト「サルファー。これ」
グラファイトがサルファーに渡したのは、薬学についてグラファイトがまとめた本だ。
グラファイト「…また、あの子が病とかかかった時に、役立てて」
サルファー「…ありがとうございます。ああ、そうだ、グラファイト。
ジューン様が会いたいとこの前言っていまして。良ければ今度会いに行きますか?」
グラファイト「………分かった」
グラファイトはこんな感じ。一応ギルドの手伝いをしていただけあって馴染んできてる。
プリムローズ「ビオレ。…依頼頼まれた。手伝って」
ビオレ「もう、私の監視いらないでしょ。プリムローズ、変な事しようとしないし」
プリムローズ「ビオレと仕事したい。すばやい戦闘羨ましい」
プリムローズはビオレと依頼に行くことが増えた。
かつていがみ合っていたとは思えない。それはサルファーとグラファイトも何だが。
防御型と敏捷型の正反対の戦闘スタイルで、お互い惹かれるものがあるのだろう。
サラテリ「ソレーイユ!! ね、ね、買い物付き合ってよ! 王都カイルスに!」
ソレイユ「ええ!? 良いけど…何買いに行くの?」
サラテリ「アクセサリーとか、甘いもの食べたりとか? かっこいい彼氏欲しいし!」
ソレイユ「あれ、ゼニスの事は?」
サラテリ「…ソレイユに譲るよ。本気なんでしょ?」
そこへフロスティも割込み。
フロスティ「我もじゃ。ゼニスの事は好きじゃが、ゼニスの隣はソレイユだけじゃ」
でも彼氏は欲しい! ということで、お洒落はしたいと。
ソレイユ「おしゃれしても太るよ?」
サラテリ「ひっどい! スイーツは女の子のエネルギー源!」
フロスティ「見た目で判断する男は所詮それまでの男じゃ。我は太りにくいしの」
女の子同士。というか、ゼニス好きだった者同士で今は仲良くなっている。
話題はゼニスの事だろうか。無論、ゼニスは自分が話題など知らない。
セピア「パリス…また来ましたの?」
パリス「あ、セピア。エルブと話してたんですか?」
エルブ「あ、え、うん。さっきまでまた紳士指導されてて;;;」
エピナール「セピアさん。程々にしてあげてくださいね。」
この四人は、パリスがギルドに来た時なんかはよく出くわしている。
セピアとエピナールはエルブとパリスの気持ちに気付いているようだ。
セピア「……エピナール。ちょっとお茶に付き合ってくれません?」
エピナール「セピアさんからのお誘いなんて光栄ですね。
では、パリス、エルブ、また後で」
何かと理由をつけては立ち去って二人きりにする。
エルブ「え、ちょっと!? ……あ、あはは…どうしよう」
パリス「エルブ、この後時間あったら、ギルドの依頼やりたいんだけど…」
エルブ「て、手伝う! 全然、時間はあるよ!」
二人がくっつくのも時間の問題だろうか。
で、ゼニスはというと……
フェズ「ゼニス君! ちょっと手合わせ付き合えよ!」
ゼニス「ちょっ!? 僕さっき依頼から戻って来たばっかなんだけど!?
少し休んだら、もう一つやるつもりだし!」
フェズ「じゃーそれ帰って来てからでいい」
ゼニス「疲れ切ってるよ!!」
こんな感じで度々時間を考えずにフェズに手合わせと言う名の死闘を申し込まれる。
ゼニス「…っていうか、クレセディアを新たに作るための準備の依頼だよ。
フェズも手伝ってよ…」
フェズ「あー、はいはい。それなら手伝う」
今現在、クレセディアの大陸は残っているので、
この時代で再度クレセディアを作り出そうという話になっている。
ゼニスと元クレセディアの人達、テネブリス、メリディエム、インフェヌムが、
積極的に取り組んでいる。
元に戻す事はかなわないが、王様の本質は変わっていない。
それなら、今の時代でも、素晴らしい国になるはずだから。
フェズ「終わったら手合わせ付き合えよー?」
ゼニス「……疲れてなければね…君、手合わせの割りに容赦ないからさ;;;」
ゼファ「じゃあ、我も手伝うよ。三人なら依頼もすぐに終わるだろう」
フェズ「おおっ!? お前パシリはいいのかよ?」
ゼファ「一通り終わったからね。」
クレセディアが再建されるのはまだまだ先だろうが…
ギルド「天馬」は依頼に追われながらも、仲良くやっている。
相変わらずマスターはエーリカに尻に敷かれている。
ラージャの方はラージャの方で、ゼニスの隊をまだ率いてくれていた。
時々顔を出すと、憎まれ口をたたかれる。
忍びの里。ルーナの里の人は外に出てくるようになり、
里の中にも外界の人の姿が見えるようになった。
シオン達も、再び平穏な生活に戻ったようだ。
ハーフエルフ差別は今や全くない。
……そして……
ソレイユ「お疲れ様。ゼニス」
ゼニス「ソレイユ。初めて会った時からいつもありがとう」
ソレイユ「何、今さら畏まって! 私がゼニスが好きだからしてるだけだもーん!」
考えてみれば、旅の最初はこの二人だけだった。
色々四零士やらセピアたちやらにぼこぼこにされた気がする。
ソレイユ「ゼファ達も大分人々に受け入れられてきたね」
ゼニス「うん。元が優しすぎる人だから、みんなもすぐに分かってくれたみたい」
………
ゼニス「約束、守ってくれたんだよね。」
ソレイユ「当然でしょ。あの約束は、ゼルシェードの力も含まれてるんだから」
そうだったなぁ。
ゼニス「……ソレイユ。今まで冗談だと思ってつい流しちゃってたんだけど…
僕も、いつの間にか思うようになった…。」
ソレイユ「え?」
…長く一緒にいて、約束をして、「殺して」と頼んでも、それを選ばなかった。
最後の最後まで力を貸してくれた。
誰のために戦っているか、そう問われたら答えは一つ。ソレイユのためだ。
この気持ちの名前に気付くのが遅くなりすぎた。
ゼニス「……ふぅ。
……ソレイユは、僕の最初の仲間だ」
ソレイユ「私も♪」
ゼニス「唯一無二の人だよ」
ソレイユ「当然♪」
ゼニス「……今も、これからも、ソレイユの隣にいるのは僕でありたい」
ソレイユ「……!!」
やっと言えた。本当に長かった。待たせすぎたかもしれない。
ソレイユ「…その言葉、ずっと聞きたかった♪ 私もだよ。
ゼニスの隣にいるのは、私でありたい!」
………
ゼニス「正式なのは待ってて。クレセディアと三大陸の隔たりとか、
クレセディアの再建がもう少し落ち着いてからでもいい?」
ソレイユ「それくらい、いいよ♪」
ふと思い立ち流変剣を手に取る。
ゼニス「……ゼルシェード」
ゼルシェード『フッ…本当に見せつけてくれるな』
ゼニス「!? ゼルシェード!?」
ソレイユ「今、聞こえたよね!?」
問いかけても、返事はもうない。幻聴だったのか?
でも、なにか、聞かれている気がするとやたらと恥ずかしくなってくる。
今も茶化されている気がして。
ゼニス「ぜ、ゼルシェードおおお!!!!」
ちなみに、その時二人の後ろの方では大勢が盗み見ていたもんで。
サルファー「やっとくっつきましたか。
盗み聞きは申し訳ないですが…」
ビオレ「みたいね。長いったらない。
…おめでとう。ゼニス、ソレイユ」
サルファー「というか、なぜゼルシェードさんの名前を…」
セピア「次は二人ですわね…もう付き合ってるも同然ですけれど…」
エピナール「はは、告白ぐらいしておきなさい、エルブ」
エルブ「なっ!? ……っ…パ…パリス、後でちょっと…話良い…?」
パリス「え? は、はい…」
プリムローズ「あっちもこっちも熱い」
グラファイト「あー……暑苦しい…」
フロスティ「まったく、とられてしまったの。」
ゼファ「後で妹を誑かしたって事で膝カックンでもしておこうかな」
フロスティ「……ゼニス、背後には気を付けるのじゃ」
ゼファ「嫌だな、闇討ちする気は無いよ、フフ」
フェズ「…お前は悔しくねぇのかよ?」
サラテリ「悔しいけど、ゼニス君が選んだのはソレイユだもん。私はそれを応援するよ。
はーあ、どっかにあたしをもらってくれる人いないかなー?」
……………
サラテリ「っ…はーあ、どっかにあたしをもらってくれる紅い騎士はいないかなー!?」
…………
サラテリ「ちょっと! ここまで限定して言ってるのに気づかないの!?
それとも気付いているうえで無視なの!?」
フェズ「あ? 何の事だよ」
サラテリ「あんったねぇ……!!」
フロスティ「……こっちも恋愛じゃ。というより…」
グラファイト「そこまで大声で騒いでたら…」
そんな大声で騒いでいたからかゼニスとソレイユに気付かれた。
ゼニス「み、みんな何聞いてるんだよ!? どこから聞いてたの!?」
ソレイユ「ちょっと! 恥ずかしいなぁ、もう!!」
やばいとばかりに一目散に逃げだす一同。
ゼニス「こら、待て! どこから聞いてた!?」
怒りながらも追うその姿は思いっ切り笑顔で。
まるで人の人生のような狂想曲。
その名の通り、波瀾に塗れて、振り回された過去と現在。
失ったものもあって、でも得たものは大きくて。
二度とこんな争いが起きないよう、月はこの世を、平和を照らし続ける。
彼らも、今、手に入れた絆で生き続ける。
散った者の分まで、思い切り、幸せに。
カテドラル王とガイラルディア王、リラも含めての今後の話だ。
目を覚ましたセピアとエピナールもここに居る。
アクバール「…で、彼の…いや、彼らの処遇なんだけど…」
カテドラル「各大陸制圧時に命を落とした者は何人もいる」
ガイラルディア「そして未遂とはいえ、
もう少しでこの時代の人達は滅ぼされてしまうところだったんだ」
リラ「普通に考えたら、公開処刑か、それ以上の罰が必要なんでしょう」
確かに普通に考えたらそうだろう。
フェズ達は何も言わないし、抗議する気もないようだ。
ゼファ「彼らはゼニス達を救い出してくれた。
処刑なら我だけにしてくれ。魔物に食わせられても首をはねるにしても
海に投げられても火に焼かれようと、何でも受け入れる。
この時代の人達を殺そうとしたんだ。何も文句は言わない」
潔すぎるとかえってやりにくいのだが…。
ゼニス「……僕から提案してもいいですか?」
エーリカ「どうぞ?」
この会議になったら、そう言おうと思っていたことがあった。
ゼニス「ゼファ達を世界のために働かせる事はできませんか?」
提案に驚いたのは王様達だけじゃない。
ゼファ達もだ。
驚いていないのはゼニスたち一行だけ。
サルファー「世界はかなりパニックになっています。
未だにクレセディア復活を阻止された事を根に持つ魔物もいるでしょう」
ビオレ「ゼファを殺せば余計にひどくなるわ。」
パリス「メリディエムとテネブリス、インフェヌムもいますし、
彼らと協力させれば和平に使えるのでは?」
現在、その三体の龍は世界のために頑張ってくれている。
メリディエムはラディル大陸で人と馴染んでいて、
テネブリスもここ、ディレオン大陸で人から慕われ始めている。
インフェヌムは世界各地を回って、暴走する魔物の指揮をとろうとしている。
カテドラル「…なるほど。だが、素直に従うか?」
ソレイユ「その事なら心配なく!」
エルブ「ゼニス師匠が案があるって言ってました」
ゼニス「流変剣の能力で、あの戦いの後使えるようになったものがあるんです。
ゼルシェードが恐らく消える間際に託してくれた神の力。
世界の管理神が持つ力。」
それは、世界の管理神と人同士の契約。
管理神との契約に反する事ができないものだ。
ゼニス「これなら、ゼファ達は僕に逆らえません。
これで縛りつければ、世界のために動かしても問題ないですよね?」
ガイラルディア「確かに……」
リラ「クレセディア王。契約する気はありますか?
四零士、彼の側近だったお二人も」
それには彼らは即答だった。
ゼファ「我はもう王ではないよ。契約する気はある。
言っただろう、我は何でも受け入れる」
フェズ「俺達もゼファがそう言うなら文句はねーよ」
サラテリ「あたし達も助けられた側だし」
プリムローズ「手伝ったりしてたから、今さら」
グラファイト「まあ、逆らう理由も無いしね」
セピア「ゼッ君を助けていただきましたから…」
エピナール「生かしてもらえるのなら、それで構いません」
フロスティ「…我も同意見じゃ。ゼニス、頼む」
…うん、了解は得られたようだ。
ガイラルディア「問題は、どこで引き取る?」
どの国で引き取っても騒ぎになるだろう。
それを考えたら……というか、できるだけ近くにいてほしいが…。
アクバール「全員、ギルド「天馬」で引き取ります」
すがすがしい笑顔でアクバールが言い出してくれた。
カテドラル「…いいのか?」
エーリカ「ゼニスさんが一緒の方が色々安心でしょう。
それに、このギルドは世界中を回るので、世界のために働かせるのならもってこいです」
……ん? そうなると…ゼニスはどうするんだ?
カテドラル「ゼニス…」
ゼニス「……色々考えたんです。それで…
……城に戻るのは、世界がもう少し落ち着いてからでいいでしょうか?
それまでは、どうかギルドに居させてください」
それがゼニスの本心だった。
世界のために、ゼファであった自分も何かしたい。
そのためにはギルドにいた方が都合がいい。
ゼファ達の監視も含め。
…でも、正直建前かもしれない。落ち着いて、世界を視て回りたかったのも理由の一つだ。
カテドラル「……ラージャにはいっておく。必ず、いつか戻るんだろう?」
ゼニス「はい。必ず…いつか戻ります。…僕の隊の人達にもどうかお伝えください」
………
カテドラル「……たまには顔を出しに来い」
ゼニス「はい!」
アクバール「…いいんだね。僕達は大歓迎だけど」
エーリカ「じゃあ、お願いします。ゼニスさん」
ゼニスがゼファ達の前に来る。
ゼニス「これからは君達は世界のために働かせられる。いいよね?」
ゼファ「自分の意志で働くんだ。問題ないよ」
ゼニス「よし、契約。人と神の世契約!」
残りは、みんなの事だ。
エーリカ「ソレイユさん、ビオレさん、サルファーさん、エルブさん、パリスさんはどうしますか?」
………
それぞれ帰る場所がある人もいれば、行き場がない人もいる。
ソレイユ「私はギルドで働きながら、村の復興しようかな」
エルブ「僕も、フェズさん達がここに居るならここに」
まあ、二人はこうなるだろうな。
サルファー「……あの、ギルドと屋敷を往復する形でもいいでしょうか?」
ゼニス「サルファー?」
サルファー「ジューン様と、奥様と旦那様によく言われていたんです。
たまには自分のために生きろと。…それにお嬢様は旅に出られる人じゃない。
外の世界を視て、お嬢様に伝えたい、そう思うんです」
サルファー…。
パリス「私も…普段は学園があるから無理ですけど…
私もジューンに色んな事を話したいし、外を見ないと得られないものもあるから…
暇な時は、来て依頼をしててもいいですか?」
パリス…。
ビオレ「私も、長を継ぐまでは好きにしてていいって言われてるのよね。
それに、ずっと使命感で戦ってたし、今度こそ自由に世界中歩きたいかな。
忍びに対する風当たりも少なくなったし…」
ビオレ…。
アクバール「…よしっ、みんな大歓迎だ。
いやー、ギルドの人員がすごーく増えるなぁ助かるなぁ!」
エーリカ「マスター。仕事を押し付けないでくださいね。彼らに」
エーリカがにっこりと威圧。
やれやれ…緊張感が消えたな。
こうして、ゼファ達がギルドに加わる事になり、一か月ほど経った。
時々旅のメンバーが揃う事もあったりになったのだが……。
ロココ「ゼフ…パシリ! ソムニウム城下町のアイス買って来てー!」
ゼファ「もう買って冷やしてあるよ。後で持って行ってくれ」
この通り。いい感じに使われている。
慈悲深い故か、全然嫌な顔もせずに受けるから余計に。
バレヌ「…こんなに扱き使って良いのか…?」
ロココ「いいのいいの!」
いや…調子に乗りすぎ。
ビオレ「私達より扱き使ってない?」
サルファー「あはは……」
ソレイユ「嫌な顔しないで全部引き受けるなんて…」
パリス「さすが慈悲深い王子様…」
エルブ「でも、この前全員の好みのもの買ってきましたよね?」
ゼニス「全員分の好みを把握してるって事??」
…すごすぎる。
グラファイト「サルファー。これ」
グラファイトがサルファーに渡したのは、薬学についてグラファイトがまとめた本だ。
グラファイト「…また、あの子が病とかかかった時に、役立てて」
サルファー「…ありがとうございます。ああ、そうだ、グラファイト。
ジューン様が会いたいとこの前言っていまして。良ければ今度会いに行きますか?」
グラファイト「………分かった」
グラファイトはこんな感じ。一応ギルドの手伝いをしていただけあって馴染んできてる。
プリムローズ「ビオレ。…依頼頼まれた。手伝って」
ビオレ「もう、私の監視いらないでしょ。プリムローズ、変な事しようとしないし」
プリムローズ「ビオレと仕事したい。すばやい戦闘羨ましい」
プリムローズはビオレと依頼に行くことが増えた。
かつていがみ合っていたとは思えない。それはサルファーとグラファイトも何だが。
防御型と敏捷型の正反対の戦闘スタイルで、お互い惹かれるものがあるのだろう。
サラテリ「ソレーイユ!! ね、ね、買い物付き合ってよ! 王都カイルスに!」
ソレイユ「ええ!? 良いけど…何買いに行くの?」
サラテリ「アクセサリーとか、甘いもの食べたりとか? かっこいい彼氏欲しいし!」
ソレイユ「あれ、ゼニスの事は?」
サラテリ「…ソレイユに譲るよ。本気なんでしょ?」
そこへフロスティも割込み。
フロスティ「我もじゃ。ゼニスの事は好きじゃが、ゼニスの隣はソレイユだけじゃ」
でも彼氏は欲しい! ということで、お洒落はしたいと。
ソレイユ「おしゃれしても太るよ?」
サラテリ「ひっどい! スイーツは女の子のエネルギー源!」
フロスティ「見た目で判断する男は所詮それまでの男じゃ。我は太りにくいしの」
女の子同士。というか、ゼニス好きだった者同士で今は仲良くなっている。
話題はゼニスの事だろうか。無論、ゼニスは自分が話題など知らない。
セピア「パリス…また来ましたの?」
パリス「あ、セピア。エルブと話してたんですか?」
エルブ「あ、え、うん。さっきまでまた紳士指導されてて;;;」
エピナール「セピアさん。程々にしてあげてくださいね。」
この四人は、パリスがギルドに来た時なんかはよく出くわしている。
セピアとエピナールはエルブとパリスの気持ちに気付いているようだ。
セピア「……エピナール。ちょっとお茶に付き合ってくれません?」
エピナール「セピアさんからのお誘いなんて光栄ですね。
では、パリス、エルブ、また後で」
何かと理由をつけては立ち去って二人きりにする。
エルブ「え、ちょっと!? ……あ、あはは…どうしよう」
パリス「エルブ、この後時間あったら、ギルドの依頼やりたいんだけど…」
エルブ「て、手伝う! 全然、時間はあるよ!」
二人がくっつくのも時間の問題だろうか。
で、ゼニスはというと……
フェズ「ゼニス君! ちょっと手合わせ付き合えよ!」
ゼニス「ちょっ!? 僕さっき依頼から戻って来たばっかなんだけど!?
少し休んだら、もう一つやるつもりだし!」
フェズ「じゃーそれ帰って来てからでいい」
ゼニス「疲れ切ってるよ!!」
こんな感じで度々時間を考えずにフェズに手合わせと言う名の死闘を申し込まれる。
ゼニス「…っていうか、クレセディアを新たに作るための準備の依頼だよ。
フェズも手伝ってよ…」
フェズ「あー、はいはい。それなら手伝う」
今現在、クレセディアの大陸は残っているので、
この時代で再度クレセディアを作り出そうという話になっている。
ゼニスと元クレセディアの人達、テネブリス、メリディエム、インフェヌムが、
積極的に取り組んでいる。
元に戻す事はかなわないが、王様の本質は変わっていない。
それなら、今の時代でも、素晴らしい国になるはずだから。
フェズ「終わったら手合わせ付き合えよー?」
ゼニス「……疲れてなければね…君、手合わせの割りに容赦ないからさ;;;」
ゼファ「じゃあ、我も手伝うよ。三人なら依頼もすぐに終わるだろう」
フェズ「おおっ!? お前パシリはいいのかよ?」
ゼファ「一通り終わったからね。」
クレセディアが再建されるのはまだまだ先だろうが…
ギルド「天馬」は依頼に追われながらも、仲良くやっている。
相変わらずマスターはエーリカに尻に敷かれている。
ラージャの方はラージャの方で、ゼニスの隊をまだ率いてくれていた。
時々顔を出すと、憎まれ口をたたかれる。
忍びの里。ルーナの里の人は外に出てくるようになり、
里の中にも外界の人の姿が見えるようになった。
シオン達も、再び平穏な生活に戻ったようだ。
ハーフエルフ差別は今や全くない。
……そして……
ソレイユ「お疲れ様。ゼニス」
ゼニス「ソレイユ。初めて会った時からいつもありがとう」
ソレイユ「何、今さら畏まって! 私がゼニスが好きだからしてるだけだもーん!」
考えてみれば、旅の最初はこの二人だけだった。
色々四零士やらセピアたちやらにぼこぼこにされた気がする。
ソレイユ「ゼファ達も大分人々に受け入れられてきたね」
ゼニス「うん。元が優しすぎる人だから、みんなもすぐに分かってくれたみたい」
………
ゼニス「約束、守ってくれたんだよね。」
ソレイユ「当然でしょ。あの約束は、ゼルシェードの力も含まれてるんだから」
そうだったなぁ。
ゼニス「……ソレイユ。今まで冗談だと思ってつい流しちゃってたんだけど…
僕も、いつの間にか思うようになった…。」
ソレイユ「え?」
…長く一緒にいて、約束をして、「殺して」と頼んでも、それを選ばなかった。
最後の最後まで力を貸してくれた。
誰のために戦っているか、そう問われたら答えは一つ。ソレイユのためだ。
この気持ちの名前に気付くのが遅くなりすぎた。
ゼニス「……ふぅ。
……ソレイユは、僕の最初の仲間だ」
ソレイユ「私も♪」
ゼニス「唯一無二の人だよ」
ソレイユ「当然♪」
ゼニス「……今も、これからも、ソレイユの隣にいるのは僕でありたい」
ソレイユ「……!!」
やっと言えた。本当に長かった。待たせすぎたかもしれない。
ソレイユ「…その言葉、ずっと聞きたかった♪ 私もだよ。
ゼニスの隣にいるのは、私でありたい!」
………
ゼニス「正式なのは待ってて。クレセディアと三大陸の隔たりとか、
クレセディアの再建がもう少し落ち着いてからでもいい?」
ソレイユ「それくらい、いいよ♪」
ふと思い立ち流変剣を手に取る。
ゼニス「……ゼルシェード」
ゼルシェード『フッ…本当に見せつけてくれるな』
ゼニス「!? ゼルシェード!?」
ソレイユ「今、聞こえたよね!?」
問いかけても、返事はもうない。幻聴だったのか?
でも、なにか、聞かれている気がするとやたらと恥ずかしくなってくる。
今も茶化されている気がして。
ゼニス「ぜ、ゼルシェードおおお!!!!」
ちなみに、その時二人の後ろの方では大勢が盗み見ていたもんで。
サルファー「やっとくっつきましたか。
盗み聞きは申し訳ないですが…」
ビオレ「みたいね。長いったらない。
…おめでとう。ゼニス、ソレイユ」
サルファー「というか、なぜゼルシェードさんの名前を…」
セピア「次は二人ですわね…もう付き合ってるも同然ですけれど…」
エピナール「はは、告白ぐらいしておきなさい、エルブ」
エルブ「なっ!? ……っ…パ…パリス、後でちょっと…話良い…?」
パリス「え? は、はい…」
プリムローズ「あっちもこっちも熱い」
グラファイト「あー……暑苦しい…」
フロスティ「まったく、とられてしまったの。」
ゼファ「後で妹を誑かしたって事で膝カックンでもしておこうかな」
フロスティ「……ゼニス、背後には気を付けるのじゃ」
ゼファ「嫌だな、闇討ちする気は無いよ、フフ」
フェズ「…お前は悔しくねぇのかよ?」
サラテリ「悔しいけど、ゼニス君が選んだのはソレイユだもん。私はそれを応援するよ。
はーあ、どっかにあたしをもらってくれる人いないかなー?」
……………
サラテリ「っ…はーあ、どっかにあたしをもらってくれる紅い騎士はいないかなー!?」
…………
サラテリ「ちょっと! ここまで限定して言ってるのに気づかないの!?
それとも気付いているうえで無視なの!?」
フェズ「あ? 何の事だよ」
サラテリ「あんったねぇ……!!」
フロスティ「……こっちも恋愛じゃ。というより…」
グラファイト「そこまで大声で騒いでたら…」
そんな大声で騒いでいたからかゼニスとソレイユに気付かれた。
ゼニス「み、みんな何聞いてるんだよ!? どこから聞いてたの!?」
ソレイユ「ちょっと! 恥ずかしいなぁ、もう!!」
やばいとばかりに一目散に逃げだす一同。
ゼニス「こら、待て! どこから聞いてた!?」
怒りながらも追うその姿は思いっ切り笑顔で。
まるで人の人生のような狂想曲。
その名の通り、波瀾に塗れて、振り回された過去と現在。
失ったものもあって、でも得たものは大きくて。
二度とこんな争いが起きないよう、月はこの世を、平和を照らし続ける。
彼らも、今、手に入れた絆で生き続ける。
散った者の分まで、思い切り、幸せに。
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