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過去と現在は手を取り合って
月が響鳴-カナデ-るカプリッチオ 99話
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まだベレイザ…というか、もう初対面の姿ではないのだが。
まだ消えていない。水晶も壊れていない。
何とか同時に消すしかないのだが…。
ゼニス(これを壊せば……大罪が中に流れ込んでくる…
上手くいけばいいけど、もし駄目だった場合、僕は死ぬ。
神でさえ大罪には耐えきれない。
ここに居る全員で壊して大罪を分散させても耐えれるかは分からない。)
そもそも壊せるか保証はない。でも……もう時間が無い。
ゼニス「……っ」
剣を構えて近付いて行く。
サルファー「待ってください、ゼニス!」
サルファーに腕を掴まれた。
ビオレ「ちょっと、一人で壊す気!?」
パリス「私達も、手伝います!」
ゼニス「……みんなも死んだらどうするんだ。
犠牲者を増やす必要はない。僕がやる」
エルブ「でも、ゼニス師匠が死んだら!」
ソレイユ「…ゼニス!」
ゼニス「…別に、死ぬって決まったわけじゃないよ。
ただ、君達が死ぬ確率が上がるのは嫌だ」
ここに来て…自己犠牲がまた再発している。
ベレイザ「…く、フフ…そうよ…壊せない…
直接触れて剣でも食らわせれば…大罪は全て剣を通してその身に流れる。
……私がここで倒れようと、今迷おうとも、もう…っ」
ゼニス「この…! 時間が…っ」
そこへ、ゼファが歩いてきた。正直もう力は限界なのだろうか。
よろけている。
ゼニス「ゼファ、もう無理しないで!」
ゼファ「…いや、我にも手伝わせてくれ」
ゼニス「でも!!」
ゼファだって大罪には耐えきれない。参加させるわけには…
ゼファ「触れれば、大罪が流れ込むのだろう…なら、離れて壊せばいい…!」
……え、…焦ってわけが分からなくなっていた。その手があった…
ゼファ「流変剣ひとつでは壊せない。
だが、流変剣と律刻剣の力があればきっと…!」
ベレイザ「…なっ…!?」
サルファー「可能なんですね…!」
ビオレ「ゼニス、迷ってる場合じゃないわ!」
………
ゼファ「…そうだ、ゼニス。少し待ってくれ。」
ゼファがそう言うと、流変剣と同じものをもう一つ、律刻剣の力で作りだした。
エルブ「陛下、どうして…」
ゼファ「もしもの時の保険だ…多分、この攻撃で剣は破壊されてしまう」
パリス「り、律刻剣はいいんですか?」
ゼファ「ああ。流変剣は、ゼルシェードの形見だ。失ってはいけない。ゼニス、流変剣を構えろ」
律刻剣をゼファが、流変剣をゼニスが構えた。
ソレイユ「私も流変剣の魔力に適してるから手伝える!」
ソレイユがゼニスの持つ流変剣に手を添える。
ゼニス「……よし! ベレイザ! 終わりだ!」
ゼファ「この呪われた宿命に…」
ソレイユ「終止符を!」
この三人は、全員ゼルシェードと強く関わった者だ。
ベレイザ「ゼルシェードの加護を受けた奴が三人も…!?」
その時のベレイザには、三人にゼルシェードの影が重なって見えた。
ベレイザ「…おのれ…ゼルシェードオオオオオ!!」
ゼルシェード『これがお前の罪だ。
お前が奪った命に懺悔し、その命を枯らせ…』
「「「「いっけえええええ!!」」」
ゼニス・ソレイユ・ゼファ「はああああああああああ!!!! 三英神託刻流剣!!!」
ベレイザ「っ!!!」
バリーンと流変剣と律刻剣が壊れる酷く大きな音が響くと同時に、
大罪を溜めた水晶は壊れ、ベレイザは声にならない声を上げて弾けた。
水晶の近くにいなかったため、大罪は流れ込む事もなく霧散する。
ゼニス「……や、やった…」
ソレイユ「お、終わったぁ!!!」
ゼファ「……よくやった…敵だった我が言うのも、なんだけどね…」
思わず三人ともその場に座り込む。
パリス「皆さん!」
ビオレ「お疲れ様!」
サルファー「これで世界は救われました!」
エルブ「みんなで帰れます!!」
ああ、そうだ。やり切ったんだ。これで……
と、安心したところで、地震が起きた。
ゼニス「な、何!?」
ゼファ「…この城は、律刻剣と水晶で支えられていた。
それが壊れた今…この城はもうじき崩れ去る…!!」
な、な、な……
まだセピアとエピナールが下の階に!!
パリス「私行って来ます!」
エルブ「僕も行かないと!」
サルファー「ゼニス、ソレイユ、早く!」
ビオレ「急ぐわよ!」
四人が先に走っていく。
ゼニスはソレイユを引き上げて立ち去ろとする。
けど…ふと振り返る。
ゼニス「ゼファ! 何ぼーっとしてるんだ!」
ゼファ「我は…置いて行け」
ゼニス「何を寝言言ってるんだ! 早く…!」
思わず駆け寄ってその腕を掴む。
ゼニス「約束したんだよ! エルブと…フロスティたちと!!
僕は絶対に、君達を誰も死なせない…!」
ゼファ「………」
てこでも動こうとしないのか返事をしない。
そこへ、転移で誰かが来た。
フロスティ「兄!!」
フェズ「オイ、ゼファ! いいから来い!」
フェズ達だ。
ゼニス「みんな……」
ソレイユ「どうして…」
一度ゼファから手を放して振り返る。
サラテリ「エーリカとアクバールが行かせてくれたの!」
プリムローズ「目論見が阻止されたら、この城は崩れるって話したら…
グラファイト「陛下を説得に行けって」
ベレイザと戦っていた時…
プリムローズ『……! ねえ、姫様、そういえば…あの城は…』
フロスティ『…そうじゃ! …エーリカ、アクバール。相談がある。
……一つ、願いを聞いてはくれぬか?』
エーリカ『なんですか?』
急に質問されたので不思議そうな顔をする。
フロスティ『あの城は…兄の律刻剣と、ある水晶で存在が保たれているのじゃ。』
グラファイト『それを破壊しないと目論みを止められたとは言えない。』
サラテリ『でも破壊して目論みを止めたら、すぐに城は崩壊を始めると思うわけ!』
フェズ『あいつら疲弊してるだろ。それに多分ゼファは逃げようとしねぇ』
フロスティ『我らに、兄の説得と、ゼニス達の救助に行かせてほしいのじゃ』
少し沈黙した後、アクバールが口を開いた。
アクバール『…そうか。そういう事なら、頼んでも良いかな』
エーリカ『彼らをお願いします。』
ソレイユ「マスター、エーリカさん…!」
フェズ「セピアとエピナールは転移させてきたぜ。他のやつも先に帰した」
ゼファ「だが、我は…」
まだゼファは渋っている。ああ、もう時間が無いっていうのに。
フロスティ「兄よ、我らの本音を聞くか?」
ゼファ「本音…?」
フロスティの投げかけにゼファは顔を向ける。
フロスティ「我らは…兄のいないクレセディアなどいらぬ!」
ゼファ「!?」
はっきり言い切ったので、ゼファも目を丸くする。
フェズ「お前のいないクレセディアなんて意味ねーんだよ!」
プリムローズ「みんな、お人好しな陛下がいたから好きな国だった。」
グラファイト「あんたが死んで生き返って、本気で笑えると思ってる訳?」
サラテリ「私たちと、死んだ民、みんなの願いよ! 陛下が好きだったから、着いてきてたの!」
今まで言いたくても陛下の決意の手前、言い出せなかった事を、
みんな一気に吐露する。
ゼファ「…みんな…みんなもお人好しだよ…」
ソレイユ「貴方がお人好しだから移ったんじゃない?」
ゼニス「……ははっ、ほら、生きる気力は湧いたか?
死んで罪から逃れる気なら、そうはいかないよ!」
そして思い出したかのようにフロスティが呟いた。
フロスティ「それにまだ祝えてないからの。兄の誕生日」
ゼファ「…!! そうか、そうだ…国が滅んだのは我の誕生日の前だったか…」
ソレイユ「いこう、ゼファ! エルブがその事で、渡したいものもあるんだって!」
あの箱の中身。ゼファにしか開けられないプレゼント。
ゼファ「ああ、最後まで、
処刑されることになったとしても…その時まで生を諦める訳には行かない…」
ゼニス「させないよ、絶対に」
そう言ってもう一度ゼファの腕を掴む。今度は握り返して立ち上がってくれた。
サラテリ「3人とも来て! 全員で転移する!」
サラテリに呼ばれて、急いでそっちに駆け寄る。
フェズ「はじめるぞ!」
プリムローズ「今度は陛下の命のために!」
グラファイト「まったく、10000年振りだよ、陛下を生かすために力を使うの」
五人で作られた大きな転移魔法陣が敷かれる。
フロスティ「兄よ、生きよ」
転移の直前、フロスティのそんな言葉が聞こえた。
そして、転移した直後に、城は崩れ落ちた。
間一髪だ。
セピアとエピナールはギルドに。
サルファー達は元城前に戻されていた。
サルファー「ゼニスー! ソレイユー!」
エルブ「ゼニス師匠ー! ソレイユさーん!!」
……目の前には崩れ落ちた城。戻って来ない。
ビオレ「完全に崩れてるわよ…」
パリス「そんな!!」
そう思った瞬間、転移で一気に現れた。
サルファー「皆さん!!」
ビオレ「…ゼファも、連れて来れたんだ」
ゼニス「うん!」
もう、泣きたい気持ちでいっぱいだった。最後まで心配かけて。
フェズ「なに泣きそうな顔してんだよ、お前ら」
サラテリ「ま、まー泣きたくもなるんじゃん!?」
って、サラテリも泣いてる。
グラファイト「え、なんで!?」
プリムローズ「陛下が、生きてるからだと思う」
ゼファ「……我が…?」
フロスティ「当たり前じゃ。兄を殺してしまう事が分かってて戦っている事が
どれだけ辛かったか分かるか?」
これはしばらく、みんなに責められそうだな。ゼファは。
エルブ「そうだ、陛下! これ!!」
エルブが渡したのは、一つの箱。
さっきから言っている誕生日プレゼントだ。
パリス「開けてみたらどうでしょう?」
ソレイユ「中身って? 黄金とか?」
いや違うと思うが;;;
ゼファ「……………これは………」
ゼファが中身を見ると、大量の色紙やら手紙が。
「ゼファ様! 誕生日おめでとうございます!」
「またお店に遊びに来てください! ゼファ様なら大歓迎です!」
「猫ちゃん見つけてくれてありがとう!」
「動けない所を助けてくださってありがとうございます」
「おかげで村が助かりました。ゼファ様のおかげです!」
………
ゼファ「え、何枚あるんだ!?」
とんでもない量が入っている。
「我らのような魔物にも手を差し伸べてくださりありがとうございました。」
「いつでもいらしてください」
「たまには少し自分の事も労わってくださいよ。グラファイト」
「俺より先に死ぬなよな。何度も言うけどよ。フェズ」
「また一緒にお仕事手伝わせてね。大変そうだから! プリムローズ」
「今度また買い物行こうよ、ゼファ様!! サラテリ」
「お誕生日おめでとうございます。また冒険に連れ出してくださいな。 セピア」
「いつもありがとうございます。ゼファ様は私達の光です。エピナール」
「僕達兄弟を助けてくださって嬉しかったです。長生きしてください。エルブ」
「お前の優しさが皆を救っている。たまには自分を救え。ゼルシェード」
「誕生日おめでとう。兄。
この手紙は我らが国中走り回って書かせたんじゃ。
というより、みんな率先して書きたいと言ってな。
魔物の皆も書きたいと言ったから、伝えたい事を聞いて我が書いた。
これは国のみんなからじゃ。どうか元気で永く生きてくれ。
もう少し自分の事も労わるのじゃぞ。
兄の無鉄砲ぶりには皆困っておるからの?
兄の未来に幸あれ。クレセディア代表。フロスティ」
ゼファ「………みんな…」
サルファー「愛されていますね」
ビオレ「もう、泣いちゃって」
いつの間にか、ゼファが泣いている。
ゼファ「不意打ちだよ…」
パリス「ふふっ」
エルブ「改めて、言わせてください」
「「「「「「お誕生日おめでとう!」」」」」」
四零士とエルブとフロスティが口を揃えて言う。
……良かった、本当に。
クレセディアは取り戻せなかったが、これで良かったんじゃないだろうか。
サルファー「これからの事、考えなければなりませんね」
パリス「そうですね…」
ビオレ「ゼファ達も全員マスター室まで付いて来てもらうわよ?」
ソレイユ「さ、帰ろう、ゼニス。ギルド「天馬」に!」
………そうだ。僕達の戻る場所に。
ゼニス「……うん。胸を張って帰ろう。
……みんな待ってる!!」
元来た道を戻っていく。
その背で、ゼルシェードが頬笑んでいる気がして、思わず振り返る。
ゼニス「……」
(……やり遂げたよ…ゼルシェード…)
まだ消えていない。水晶も壊れていない。
何とか同時に消すしかないのだが…。
ゼニス(これを壊せば……大罪が中に流れ込んでくる…
上手くいけばいいけど、もし駄目だった場合、僕は死ぬ。
神でさえ大罪には耐えきれない。
ここに居る全員で壊して大罪を分散させても耐えれるかは分からない。)
そもそも壊せるか保証はない。でも……もう時間が無い。
ゼニス「……っ」
剣を構えて近付いて行く。
サルファー「待ってください、ゼニス!」
サルファーに腕を掴まれた。
ビオレ「ちょっと、一人で壊す気!?」
パリス「私達も、手伝います!」
ゼニス「……みんなも死んだらどうするんだ。
犠牲者を増やす必要はない。僕がやる」
エルブ「でも、ゼニス師匠が死んだら!」
ソレイユ「…ゼニス!」
ゼニス「…別に、死ぬって決まったわけじゃないよ。
ただ、君達が死ぬ確率が上がるのは嫌だ」
ここに来て…自己犠牲がまた再発している。
ベレイザ「…く、フフ…そうよ…壊せない…
直接触れて剣でも食らわせれば…大罪は全て剣を通してその身に流れる。
……私がここで倒れようと、今迷おうとも、もう…っ」
ゼニス「この…! 時間が…っ」
そこへ、ゼファが歩いてきた。正直もう力は限界なのだろうか。
よろけている。
ゼニス「ゼファ、もう無理しないで!」
ゼファ「…いや、我にも手伝わせてくれ」
ゼニス「でも!!」
ゼファだって大罪には耐えきれない。参加させるわけには…
ゼファ「触れれば、大罪が流れ込むのだろう…なら、離れて壊せばいい…!」
……え、…焦ってわけが分からなくなっていた。その手があった…
ゼファ「流変剣ひとつでは壊せない。
だが、流変剣と律刻剣の力があればきっと…!」
ベレイザ「…なっ…!?」
サルファー「可能なんですね…!」
ビオレ「ゼニス、迷ってる場合じゃないわ!」
………
ゼファ「…そうだ、ゼニス。少し待ってくれ。」
ゼファがそう言うと、流変剣と同じものをもう一つ、律刻剣の力で作りだした。
エルブ「陛下、どうして…」
ゼファ「もしもの時の保険だ…多分、この攻撃で剣は破壊されてしまう」
パリス「り、律刻剣はいいんですか?」
ゼファ「ああ。流変剣は、ゼルシェードの形見だ。失ってはいけない。ゼニス、流変剣を構えろ」
律刻剣をゼファが、流変剣をゼニスが構えた。
ソレイユ「私も流変剣の魔力に適してるから手伝える!」
ソレイユがゼニスの持つ流変剣に手を添える。
ゼニス「……よし! ベレイザ! 終わりだ!」
ゼファ「この呪われた宿命に…」
ソレイユ「終止符を!」
この三人は、全員ゼルシェードと強く関わった者だ。
ベレイザ「ゼルシェードの加護を受けた奴が三人も…!?」
その時のベレイザには、三人にゼルシェードの影が重なって見えた。
ベレイザ「…おのれ…ゼルシェードオオオオオ!!」
ゼルシェード『これがお前の罪だ。
お前が奪った命に懺悔し、その命を枯らせ…』
「「「「いっけえええええ!!」」」
ゼニス・ソレイユ・ゼファ「はああああああああああ!!!! 三英神託刻流剣!!!」
ベレイザ「っ!!!」
バリーンと流変剣と律刻剣が壊れる酷く大きな音が響くと同時に、
大罪を溜めた水晶は壊れ、ベレイザは声にならない声を上げて弾けた。
水晶の近くにいなかったため、大罪は流れ込む事もなく霧散する。
ゼニス「……や、やった…」
ソレイユ「お、終わったぁ!!!」
ゼファ「……よくやった…敵だった我が言うのも、なんだけどね…」
思わず三人ともその場に座り込む。
パリス「皆さん!」
ビオレ「お疲れ様!」
サルファー「これで世界は救われました!」
エルブ「みんなで帰れます!!」
ああ、そうだ。やり切ったんだ。これで……
と、安心したところで、地震が起きた。
ゼニス「な、何!?」
ゼファ「…この城は、律刻剣と水晶で支えられていた。
それが壊れた今…この城はもうじき崩れ去る…!!」
な、な、な……
まだセピアとエピナールが下の階に!!
パリス「私行って来ます!」
エルブ「僕も行かないと!」
サルファー「ゼニス、ソレイユ、早く!」
ビオレ「急ぐわよ!」
四人が先に走っていく。
ゼニスはソレイユを引き上げて立ち去ろとする。
けど…ふと振り返る。
ゼニス「ゼファ! 何ぼーっとしてるんだ!」
ゼファ「我は…置いて行け」
ゼニス「何を寝言言ってるんだ! 早く…!」
思わず駆け寄ってその腕を掴む。
ゼニス「約束したんだよ! エルブと…フロスティたちと!!
僕は絶対に、君達を誰も死なせない…!」
ゼファ「………」
てこでも動こうとしないのか返事をしない。
そこへ、転移で誰かが来た。
フロスティ「兄!!」
フェズ「オイ、ゼファ! いいから来い!」
フェズ達だ。
ゼニス「みんな……」
ソレイユ「どうして…」
一度ゼファから手を放して振り返る。
サラテリ「エーリカとアクバールが行かせてくれたの!」
プリムローズ「目論見が阻止されたら、この城は崩れるって話したら…
グラファイト「陛下を説得に行けって」
ベレイザと戦っていた時…
プリムローズ『……! ねえ、姫様、そういえば…あの城は…』
フロスティ『…そうじゃ! …エーリカ、アクバール。相談がある。
……一つ、願いを聞いてはくれぬか?』
エーリカ『なんですか?』
急に質問されたので不思議そうな顔をする。
フロスティ『あの城は…兄の律刻剣と、ある水晶で存在が保たれているのじゃ。』
グラファイト『それを破壊しないと目論みを止められたとは言えない。』
サラテリ『でも破壊して目論みを止めたら、すぐに城は崩壊を始めると思うわけ!』
フェズ『あいつら疲弊してるだろ。それに多分ゼファは逃げようとしねぇ』
フロスティ『我らに、兄の説得と、ゼニス達の救助に行かせてほしいのじゃ』
少し沈黙した後、アクバールが口を開いた。
アクバール『…そうか。そういう事なら、頼んでも良いかな』
エーリカ『彼らをお願いします。』
ソレイユ「マスター、エーリカさん…!」
フェズ「セピアとエピナールは転移させてきたぜ。他のやつも先に帰した」
ゼファ「だが、我は…」
まだゼファは渋っている。ああ、もう時間が無いっていうのに。
フロスティ「兄よ、我らの本音を聞くか?」
ゼファ「本音…?」
フロスティの投げかけにゼファは顔を向ける。
フロスティ「我らは…兄のいないクレセディアなどいらぬ!」
ゼファ「!?」
はっきり言い切ったので、ゼファも目を丸くする。
フェズ「お前のいないクレセディアなんて意味ねーんだよ!」
プリムローズ「みんな、お人好しな陛下がいたから好きな国だった。」
グラファイト「あんたが死んで生き返って、本気で笑えると思ってる訳?」
サラテリ「私たちと、死んだ民、みんなの願いよ! 陛下が好きだったから、着いてきてたの!」
今まで言いたくても陛下の決意の手前、言い出せなかった事を、
みんな一気に吐露する。
ゼファ「…みんな…みんなもお人好しだよ…」
ソレイユ「貴方がお人好しだから移ったんじゃない?」
ゼニス「……ははっ、ほら、生きる気力は湧いたか?
死んで罪から逃れる気なら、そうはいかないよ!」
そして思い出したかのようにフロスティが呟いた。
フロスティ「それにまだ祝えてないからの。兄の誕生日」
ゼファ「…!! そうか、そうだ…国が滅んだのは我の誕生日の前だったか…」
ソレイユ「いこう、ゼファ! エルブがその事で、渡したいものもあるんだって!」
あの箱の中身。ゼファにしか開けられないプレゼント。
ゼファ「ああ、最後まで、
処刑されることになったとしても…その時まで生を諦める訳には行かない…」
ゼニス「させないよ、絶対に」
そう言ってもう一度ゼファの腕を掴む。今度は握り返して立ち上がってくれた。
サラテリ「3人とも来て! 全員で転移する!」
サラテリに呼ばれて、急いでそっちに駆け寄る。
フェズ「はじめるぞ!」
プリムローズ「今度は陛下の命のために!」
グラファイト「まったく、10000年振りだよ、陛下を生かすために力を使うの」
五人で作られた大きな転移魔法陣が敷かれる。
フロスティ「兄よ、生きよ」
転移の直前、フロスティのそんな言葉が聞こえた。
そして、転移した直後に、城は崩れ落ちた。
間一髪だ。
セピアとエピナールはギルドに。
サルファー達は元城前に戻されていた。
サルファー「ゼニスー! ソレイユー!」
エルブ「ゼニス師匠ー! ソレイユさーん!!」
……目の前には崩れ落ちた城。戻って来ない。
ビオレ「完全に崩れてるわよ…」
パリス「そんな!!」
そう思った瞬間、転移で一気に現れた。
サルファー「皆さん!!」
ビオレ「…ゼファも、連れて来れたんだ」
ゼニス「うん!」
もう、泣きたい気持ちでいっぱいだった。最後まで心配かけて。
フェズ「なに泣きそうな顔してんだよ、お前ら」
サラテリ「ま、まー泣きたくもなるんじゃん!?」
って、サラテリも泣いてる。
グラファイト「え、なんで!?」
プリムローズ「陛下が、生きてるからだと思う」
ゼファ「……我が…?」
フロスティ「当たり前じゃ。兄を殺してしまう事が分かってて戦っている事が
どれだけ辛かったか分かるか?」
これはしばらく、みんなに責められそうだな。ゼファは。
エルブ「そうだ、陛下! これ!!」
エルブが渡したのは、一つの箱。
さっきから言っている誕生日プレゼントだ。
パリス「開けてみたらどうでしょう?」
ソレイユ「中身って? 黄金とか?」
いや違うと思うが;;;
ゼファ「……………これは………」
ゼファが中身を見ると、大量の色紙やら手紙が。
「ゼファ様! 誕生日おめでとうございます!」
「またお店に遊びに来てください! ゼファ様なら大歓迎です!」
「猫ちゃん見つけてくれてありがとう!」
「動けない所を助けてくださってありがとうございます」
「おかげで村が助かりました。ゼファ様のおかげです!」
………
ゼファ「え、何枚あるんだ!?」
とんでもない量が入っている。
「我らのような魔物にも手を差し伸べてくださりありがとうございました。」
「いつでもいらしてください」
「たまには少し自分の事も労わってくださいよ。グラファイト」
「俺より先に死ぬなよな。何度も言うけどよ。フェズ」
「また一緒にお仕事手伝わせてね。大変そうだから! プリムローズ」
「今度また買い物行こうよ、ゼファ様!! サラテリ」
「お誕生日おめでとうございます。また冒険に連れ出してくださいな。 セピア」
「いつもありがとうございます。ゼファ様は私達の光です。エピナール」
「僕達兄弟を助けてくださって嬉しかったです。長生きしてください。エルブ」
「お前の優しさが皆を救っている。たまには自分を救え。ゼルシェード」
「誕生日おめでとう。兄。
この手紙は我らが国中走り回って書かせたんじゃ。
というより、みんな率先して書きたいと言ってな。
魔物の皆も書きたいと言ったから、伝えたい事を聞いて我が書いた。
これは国のみんなからじゃ。どうか元気で永く生きてくれ。
もう少し自分の事も労わるのじゃぞ。
兄の無鉄砲ぶりには皆困っておるからの?
兄の未来に幸あれ。クレセディア代表。フロスティ」
ゼファ「………みんな…」
サルファー「愛されていますね」
ビオレ「もう、泣いちゃって」
いつの間にか、ゼファが泣いている。
ゼファ「不意打ちだよ…」
パリス「ふふっ」
エルブ「改めて、言わせてください」
「「「「「「お誕生日おめでとう!」」」」」」
四零士とエルブとフロスティが口を揃えて言う。
……良かった、本当に。
クレセディアは取り戻せなかったが、これで良かったんじゃないだろうか。
サルファー「これからの事、考えなければなりませんね」
パリス「そうですね…」
ビオレ「ゼファ達も全員マスター室まで付いて来てもらうわよ?」
ソレイユ「さ、帰ろう、ゼニス。ギルド「天馬」に!」
………そうだ。僕達の戻る場所に。
ゼニス「……うん。胸を張って帰ろう。
……みんな待ってる!!」
元来た道を戻っていく。
その背で、ゼルシェードが頬笑んでいる気がして、思わず振り返る。
ゼニス「……」
(……やり遂げたよ…ゼルシェード…)
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