月が響鳴-カナデ-るカプリッチオ

瑠璃✧*̣̩⋆̩☽⋆゜

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取り戻すべく

月が響鳴-カナデ-るカプリッチオ 81話

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ゼファが一振りしただけで、ソレイユたちは全員倒れてしまった。

おまけに相手にまるで攻撃が当たらない。

ゼファ「世界を正すための一振り。

それだと命を失うけど、君達を倒す程度なら、体力を消耗させればできるからね」

ゼルシェード「ゼファ…この時代の奴らは無関係だ…

今すぐにやめろ…!」

ゼルシェードの言葉も届かない。

ゼファ「…そうだな…ゼニスの時に君達にはお世話になったし、

君達ぐらいなら、命の燃料から外してもいいよ?」

甘い誘惑。でも、誰一人引っかかる気は無い。

サルファー「私達が、そういうとでも!?」

ビオレ「死んだって、食らいつく…!」

パリス「私達だけ生きたって、意味がない…!」

エルブ「ゼニス師匠と知り合った人たちに、そんな考えをする事はいませんよ!」

ソレイユ「そうよ…勝手な事言ってるんじゃない!」

その時、フロスティがこちらに歩いてきた。

思わず立ち上がろうとするが、力が全然入らない。

でも、そんな心配は杞憂だった。

フロスティ「兄よ。フェズとの戦いで分かっていると思うが、

改めて言うぞ。…我は、ソレイユ達に付く」

セピア「姫様!?」

エピナール「し、正気ですか?」

戸惑う側近。それはソレイユ達も同じだった。

ゼファ「……うん、だろうと思ったよ…」

フロスティ「ゼニスの…体を返せ。」

ゼファ「それは、無理かな…せめて意識を切り離す、とかできないとさ」

フロスティ「ソレイユならやり遂げるぞ。」

ソレイユがそれに顔を上げる。

少し、期待した。指輪の主は、いつも助けてくれたから。

……彼女は本当に、こちら側なのだ。

ゼファ「随分、買ってるんだね」

フロスティ「ずっとソレイユの事を見て来たのじゃ。

それに、我はゼニスが好きだからの」

ソレイユ「はあ!?」

ついついそれに反応してしまった。

フロスティ「どっちが好かれるか勝負じゃの、ソレイユ♪」

ゼファ「兄としてはなんだか複雑だよ。」

フロスティ「サラテリもじゃからな? ゼニスは罪な男じゃの」

……ゼニスのモテ具合がとんでもない。

ゼファ「その場合、君も始末しないといけないね。

大丈夫。クレセディアを取り戻す時に君も生き返らせる」

フロスティ「…兄のいないクレセディアなど…誰が望む…

誰が、昔のように笑えると思っている…!」

妹の言葉も聞かずに剣を持ち直す。

…正直、絶体絶命。


そこへ、ブライトさんが駆けあがってきて…

ブライト「はあっ!」

一撃。ゼファはもちろんかわしたが。

ゼファ「……どういうつもりだ?」

ブライト「すまないな。見ていられなかった。」

セピア「ブライト。サーリさんを生き返らせる事は許可しましたのよ。

今からでも遅くないですから、陛下に謝りなさい」

ブライト「断る。俺はゼニスをこいつから助けねばならん」

ゼファ「………ブライトさん……っ!? なっ、今…彼の意識が…!!」

フロスティ「兄よ、分かっているじゃろう。

ゼニスの意識は兄と別に独立しておる。

返せ。それは、ゼニスの体じゃ」

今一瞬、ゼニスの意識が浮上した?

ゼルシェード「っ、よく聞け! 確かにゼニスはゼファ本人だ。

だが、お前達と過ごしたゼニスの記憶がゼニスという別の存在をゼファの中に作らせている。

つまり、ゼニスがゼファになったというより、

ゼファがゼニスを取り込んだような状態になっているんだ」

それは、どちらかというなら嬉しい誤算。

ゼルシェード「この時代の人間としてゼニスを登録すれば、

ゼニスだけがゼファから弾かれる。…やるか?」

問いかけたのはソレイユに。

ソレイユ「……やる!」

ほぼもう限界の体を引きずり起こして剣を構える。

ソレイユ「彼の時の歪曲アクセプト・エグゼスト!」

ゼファ「がっ!?」

一瞬ゼファの瞳の色が変わったが、それまで。

ソレイユ「駄目!?」

ゼルシェード「ゼファの意識が強すぎる! 一回じゃ無理か…!」

ソレイユ「な、ならもう一回…っ!?」

もう一度能力を使おうとして、その場に崩れ落ちた。

ゼルシェード「本来適合しないお前に無理矢理適合させて、

今ので二回使ったんだ。…今これ以上は無理か…!」

でも、ゼニスは取り返せるかもしれない。

それは、分かった。


………

ブライト「……護れ、ゴーストフレイム」

ブライトがそう唱えると、フロスティも含めてこちら側にいる全員。

霊属性の炎に阻まれた。ブライトを除いて。

サルファー「ブライトさん!?」

ブライト「…この炎にいる間は、誰の攻撃も通り抜けも一切許さん。

……今のうちに逃げろ。」

パリス「え、でもブライトさんは…!」

ブライトが剣を構える。

ゼファ「……君一人残るつもりかい?」

ブライト「……こいつらにはゼニスを取り戻す役目があるのでな。

…呪いの姫よ。お前は転移が使えるだろう。ここに居る全員連れて行ってくれ」

フロスティ「……いいのじゃな?」

ラージャ「お前、いいのか!? 生きて帰って来れるんだろうな!?」

それにブライトは答えない。…死ぬ気だ。

ブライト「この炎も長くはもたん。早く行け。」

……ここで効果が切れたら、ブライトの覚悟が無駄に…。

フロスティ「全員、転移させるぞ」

エルブ「そんな!?」

……

ネメシア「あなたは…」

ローレル「……なんか、伝言とか、誰かにあるか?」

少し黙り込んだ後に口を開く。

ブライト「そうだな……一人残してすまない。

ソレイユ達に力を貸してやってくれ、と。…カテドラルに伝えてくれ」

バジル「……分かった。」

カテドラルは確かブライトとサーリと友達。

……サーリが死に、ブライトがいなくなって…だから、伝言を任せたんだろう。

ロココ「……ゼニスの師匠って」

バレヌ「覚悟が、凄い…」

そうこうしているうちにフロスティの転移準備が整う。

ソレイユ「待って、ブライトさん!! 私まだ貴方に恩返しできてない!

ゼニスは!? ゼニスはどうするの!?」

ブライト「恩なら、さっき返してもらった。」

さっき…。正気に戻した時の事だ。

ブライト「ゼニスの事はお前に任せる。

……頼んだぞ、ソレイユ。」

ソレイユ「………っ……はい!!!」

今出せる精一杯の声を張り上げて返事する。

その直後、ブライトを除いて全員転移した。


ほぼ同タイミングで霊属性の炎も消え去る。

セピア「やってくれましたわね」

エピナール「かなりの戦力を逃がす事に…」

かなりご立腹のようだ。

ゼファ「待て。彼の相手は私がするよ。一人で立ち向かう、その敬意を表してね」

そう言って側近二人を下げ、前に出る。

ブライト「あいつらは、お前達が思うよりもずっと強い。

だから、俺はここで命を張れる。」

ゼファ「……我も、そう「だった」よ」

ブライト「今もだろう。クレセディアを取り戻して、自分は死ぬつもり…」

返事はない。

ブライト「……ゼニス! 聞こえるか!?

俺はお前の師だ。お前を取り戻すなら、命さえ賭けよう!

だが気に病むな! これは俺の下した決断だ!

ただ一つ、約束してくれればいい。戻って来い。」


ゼニス「………っ!」


ブライト「…本当は、フェズとの戦いの後に言うつもりだったんだがな…

今しか言えないようだから言わせてもらう。

……強くなったな。今日で、免許皆伝だ!

これからは、お前の足で、未来を歩け! そして、胸を張れ!」

言いたい事を言い切ったのか、ブライトの目はゼニスではなく、ゼファを見た。

ゼファ「……彼は、いい師匠を持ったようだね…」

ブライト「光栄だな。………

元イテールナ城騎士、ブライト! 

ゼニス希望の師として生きた奴の名だ! 覚えておけ!」


そう言って、ブライトはゼファに斬りかかった。

これが、ブライトの最期になった…

ブライトとしては、満足だったのだろう。

最後の最後、師匠らしい事ができた、と…。

大切にしてやれる奴を見つけろ。という、恋人との約束を守れた、と…。
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