月が響鳴-カナデ-るカプリッチオ

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過去は絶望を率いて

月が響鳴-カナデ-るカプリッチオ 46話

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翌日の昼、全員転移エリア前に集まっていた。

ソレイユ「アイリス、シオン!」

アイリス「久しぶり。呼んでくれてありがとう。

私達も、彼らの事は見過ごせなかったし…」

エーリカ「パーティは夕方からです。

それまではソムニウム城下町か、入れそうなら城内にて待機していてください」

…城の中は、普通なら入れないだろうけど…

一応ゼニスは騎士。シュネー王女がもしかしたら入れてくれるかもしれない。

ゼニス「わかりました。」

アクバール「ロココちゃんとバレヌ君とブライトさんは城下町で待機お願いね。

君達の場合、城の中に入ったら出遅れかねないから」

ロココ「ゼニス達ズルい! 城に交渉なんかするな!

あたし達と城下町!」

バレヌ「ロココ…;;; こいつの事は気にするな。

城に入れそうなら、お前達はそっちで待機すべきだ」

文句を垂れているロココをバレヌが制止する。

ブライト「戦闘が終わったらどうする。

各自ここに戻ってくるか?」

ビオレ「そうね。待ち合わせる中余裕があるか分からないし、

城から一人、戦闘終了時に城下町部隊に知らせる形でどう?」

ビオレの提案で通る事になった。

城から戦闘終了の連絡が無いと、城下町警護側も帰れない。

エーリカ「ご武運を…」


転移してソムニウム城下町に降り立つ。

やっぱりパーティは夕方からなだけに、今は何の違和感もない。

セイクレイ城の人達も、まだ来ていないかもしれない。

パリス「ええと、取りあえず城へ向かいますか?」

サルファー「そうですね。まず城に掛け合ってみましょうか…」

エルブ「……僕は……。ん…イテールナ城襲撃には参加してませんけど…

兄さんと似てますから…」

…そうか…エルブは、バレないだろうか。

少なくとも、敵の見た目は覚えているはずだ。

少しの心配はあったが、取りあえず城へ向かう。

すると、ちょうど庭を散歩していたシュネー王女がこちらに声をかけてきた。

シュネー「ゼニス様! 皆さん! お会いできて良かったです!」

ゼニス「え、どういう事ですか?」

シュネー「お父様を助けていただいた事もあって、

このパーティに貴方達も呼べないかと考えていたんです。

でも、居場所が分からなくて、諦めかけていたんですが…」

なるほど、タイミングとしては丁度良かったわけか。

エルブ「……あの……」

シュネー「…エーリカさんから昨日両国に伝達が行きましたよ。

あなたが味方であるという事が」

……ええ!? 昨日のあの忙しい時に!? いつ!?

エーリカの行動力にはツッコミしかできない。

ギルドから飛び降りて町に着地したと噂が流れた事もある。

エルブ「え、えっと…じゃあ大丈夫なんですか…?」

ええ、とほほ笑んでシュネー王女は答えた。

ソレイユ「良かったぁ……」

シュネー「さあさあ、入ってくださいな!

パーティまで時間がありますし、城内の探索でも私とお話でも何でもどうぞ♪」

城に入ろうとして、一応念を押す。

ゼニス「じゃあ、みんなは城下町の警護を頼むね」

ロココ「もー、襲撃始まるまで城下町でアイス食べ尽くしてやるー!」

バレヌ「襲撃時に腹壊しても知らんぞ!」

……

ブライト「こっちは任せろ」

アイリス「貴方達も気を付けて」

ぺこりと頭を下げて城内へ入る。ブライトたちも城下町へ戻って行った。


シュネー「その腕輪、ずっと付けていてくれてるんですのね」

ソレイユ「当然です」

ゼニス「友達からのプレゼントですからね」

王女から、ではなく友達から、という言葉に、シュネー王女は心底嬉しそうだった。

サルファー「それで、どうしますかこれから。

パーティが始まるまで自由でもいいですが…」

シュネー「どうぞどうぞ。見ていってくださいな。

……あ! ラージャ様!」

たまたまそこを通りかかったラージャに声をかける。

ラージャ「お前ら来てたのか! シュネー王女、何かご用ですか?」

…普段と王族に対する態度の差が本当に驚く…。

シュネー「王城案内お願いします。

私はゼニス様とお話したいので」

あんまり会えないんだから、と、みんなは気をきかせてくれたのか、

誰も文句を言わずにラージャについて行った。

エルブ(……似……でも、髪……)


ゼニスとシュネー王女は、バルコニーまで向かって、昼の城下を眺めていた。

シュネー「お父様とは、相変わらずあまり話していませんわ。

話したそうにしているのですけど、私が止めましたの。

まずは国の維持を最優先してほしいと。だから結構私は自由ですわ」

ゼニス「え、いいんですか?」

シュネー「私は大丈夫ですわ。自由じゃないとできない事もありますし」

…まったく、聞く人が聞けばお転婆姫だ。

シュネー「さっきの方達は?」

ゼニス「私達の…」

シュネー「畏まらなくていいですわ。ここでは友達として」

…そうだった。

ゼニス「僕達のギルド仲間と、僕の師匠です。」

シュネー「そうなのですね。楽しそうな方達でしたわ…」

心なしか、少し落ち込んでいる気がするのは気のせいだろうか。

シュネー「……ゼニス様。かつて、誰かが犯した罪をその場で裁くこと敵わなかったからと、

何年も経ってから、その事実を知らない人達を裁く、というのを…どう思いますか?」

ん…? 何の話だろう。

ゼニス「何とも言えないな…要は復讐って事?

裁けず無念の内に死に、亡霊になるか、子孫に託して、

その事件を知らない人達にし返すって事だよね」

復讐者の立場からしたら、心身引き裂かれそうな思いを抱え続けているのだろう。

消したくても消せない憎しみ。

でも、その過去の一件を何も知らない者達にとってはどうだろう。

昔の事を持ち出されて、はいそうですか。と、裁かれてもいいと思う人はいるだろうか。

多分、いない。

ゼニス「…悲しみを生み出すだけじゃ、ないのかな…

裁けなかったからと、未来の人達を、今、何もしていない人達を傷つける道理はないと思う」

シュネー「…優しいんですのね。やっぱり、あなたに話して正解でしたわ。

…きっと、ソレイユさん達も同じ意見でしょうね…」

ゼニス「どうしてこんな話を?」

………

シュネー「私達は…果たすだけですの」

???

シュネー「さあ、そろそろ部屋に戻りませんか?」

ゼニス「え、あ、ああ、はい!」


部屋に戻ってしばらく。夕方までみんなで休んでいた。

ラージャ「おーい、そろそろパーティ始まるぜ!」

…………

ビオレ「行こう。」

サルファー「そうですね」

エルブ「…気を付けてください、皆さん。何か、胸騒ぎがします」

ゼニス「え…あ、うん、わかった」

ソレイユ「ここから先はどうなるか分からない」

パリス「はい…」


玉座の間に向かうと、ネメシア将軍、ローレル将軍、バジル将軍、ガイラルディア王もいた。

シュネー「皆さん! お待ちしていました!」

ソレイユ「いいんですか、王様の隣にいなくて」

シュネー「私は基本的に自由ですから!」

ラージャ「じゃ、俺は向こうの将軍と話してくる。じゃあな!」

……パーティに出てると言っても、こっちは警備。

正直楽しめるわけじゃない。

シュネー「皆さんは何か食べませんの?」

ゼニス「…いや、ええと……」

まずい。断るわけにも……そう思った時…

「敵襲!! 魔物が大勢放たれている! 誰の仕業だ!!」

そんな声が廊下から聞こえてきた。

アイリス「…来た!?」

「人々と王を町へ逃がせ! 兵士以上のものは戦闘開始!」

兵士が叫ぶ。

シオン「…魔物、操っている…のか?」

ありえない話じゃない。使い魔使いや、魔物を操れる奴もいた。

そいつらの手伝いもあるかもしれない。

サルファー「外に連絡を! …バレヌさん!」

バレヌ「何かあったか!?」

パリス「場内で襲撃! 城内の人は城下町に逃げ出す事になってます!」

ブライト「了解だ。気を付けろ」

ビオレ「そっちもね!」

通信を切る。

自分達はここから逃げるわけにはいかない。

アリウムとプラタナスが来るはずだ。

ゼニス「……シュネー王女! なぜ残っているんです!?

逃げてください…!」

シュネー「ゼニス様…」

シュネーが動かないせいで、カテドラル王までその場を動こうとしない。

ソレイユ「王様も逃げてください!」

カテドラル「だ、だが…娘が動かないのでは…」

やり取りしているうちに、転移魔法が作動する。

出て来たのはプラタナスとアリウム。

プラタンス「…ああ、二年前の英雄二人も来てたんだね。

アイリス、シオン」

アイリス「……っ」

アリウム「…王女様。逃げなくていいんですか?

………なんて、ね? もう偽らなくても良いのでは? 

この時のために忍び込んでいただけでしょう」

シュネー王女……?

シュネー「……ヤダヤダ、こうなったのもぜーんぶ、あいつのせい。」

ゼルシェード(!? こいつは…!)

シュネー「あたしは、このまま王女が続いても良かったんだよ。

ゼニス君とソレイユと友達になれたし。でも…あたし達はやるべき事がある。」

ゼニス「………まさか…」

シュネー王女が振り返って答える。

シュネー「………ごめんね。あたしは…


……白零士サラテリ。」
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