月が響鳴-カナデ-るカプリッチオ

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少年との出会い

月が響鳴-カナデ-るカプリッチオ 36話

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ビオレに案内されて、里の端。

生い茂る木々に隠れた道を行くと、一つの沼が見えてきた。

ゼニス「…沼…?」

ビオレ「ここに居るのよ。その魔物。

…見える? あの木。」

ビオレが指さした方には、枯れ木になった大木が。

ソレイユ「何の木だったの?」

ビオレ「サクラよ。一万年前からあると言われているサクラ。

魔物がここに居座ってから、どんどん生気を奪われて…」

枯れた。

サルファー「その魔物を倒せば、元に戻りませんかね?」

ビオレ「分からない。でも、試したいと思ってた。

私が小さい頃は、まだ咲いていたのよ。もう一度、見たいし、みんなにも見せたい」

しばらくその木を眺めていると…

パリス「…? 皆さん…左…!」

パリスが左を指し示す。そっちの方を見ると、確かに何か動いた。

ビオレ「出た…!」

ゼニス「みんな構えて!」

陰から出て来たのは、魔物。結構大きめの…獣…?

サルファー「ガルム、ですね。なぜこんな所に…」

ここのところ起きている異変に関係しているのかもしれない。

童話の話だったはずの四零士の出現もそう。

ソレイユ「弱点は?」

ビオレ「さあ…弱点属性は分からない。

けど、あれ、見えるかしら? 胸元の血が付いた部分にある石」

確かにガルムの胸元には血が付いていて、石のようなものが嵌まっていた。

ビオレ「あれを傷つける事ができれば、あいつは死に至る。

でも、あいつだって自分の弱点を分かってるから必死にそれを守ろうとする。

だから、までは前足を何とか、して…」

…要は、あいつの口の目の前に飛び込まないといけないわけだ。

前足を切り落とすにせよ、石を壊すにせよ。

そして、今までこいつに挑んだ里の人達は、みんな…喰い殺された。


ガルムはこっちに目もくれず、ただ歩いているだけ。

本当に、挑まなければ襲ってこないようだ。と思っていたら…

グルルルル…と、唸りながらこちらを向いて止まる。

あれ…?

ソレイユ「何もしなければ襲ってこないんじゃかったの!?」

ビオレ「そのはず! 何で…!?」

そんな事を言っている間に飛び掛かってくる。

サルファー「避けて!」

サルファーの声で反射的に全員躱す。

ビオレ「何が何だか分からないけど、攻撃的なら好都合!

やりやすい!」

ゼニス「確かに、敵意がない時に戦うよりは、余程…っ…来る!!」

パリス「視界を閉ざせ…フラッシュスクリーン!」

パリスがすぐに詠唱をし、視界を閉ざす。

けど、相手は獣の魔物だ。嗅覚でも分かるかもしれない。

ソレイユ「燃え盛れ…イフリティア!」

サルファー「水圧よ斬れ…アクアエッジ!」

ソレイユの炎が命中した直後に、サルファーの水が命中する。

弱点が分からない以上、急な温度変化による大ダメージを狙ったのだ。

狙った箇所は、両前足。明らかな叫び声が聞こえた。

ビオレ「嵐裂!」

ゼニス「閃実義!」

その隙を逃さない。ビオレとゼニスで両足を斬りつける。

がくっと足が崩れたような音。

今なら足での妨害は無い。でも、口はどうする?

石を傷つけようと近付いた時に、噛みつかれるだろう。

ソレイユ「…どうするの?」

ゼニス「……ビオレ。あいつは、里の仲間の仇でもあるんだよね?」

それに頷き返す。

ゼニス「ソレイユ、パリス。僕の回復を続けていてくれるか?」

パリス「え? …いいですけど、何を…」

……

ゼニス「サルファーは、もしもの時のために、矢であいつの前足と後ろ足を縫い留めて」

サルファー「ゼニス…何か、危険な事をしようと、してませんか?」

それに対する無言の返答。図星だというようなもの。

でも、取りあえずサルファーはガルムが再び変に動き出す前にその足を縫い留める。

ビオレ「ねえ。ゼニス…」

ゼニス「ガルムのトドメはビオレに任せる。僕はそのための盾になる」

そう言って、ガルムの右横に歩く。

ゼニス「パリス! ソレイユ! 頼む!」

ゼニスに叫ばれて、慌てて魔法を唱える。

パリス「癒せ…エードヒール!」

ソレイユ「光よ癒せ…エーテルキュア!」

途切れないように意識を集中してくれている。

何をしようとしているのか、察しがついているのだろうか。

とにかく、この集中が切れてしまう前に…

ゼルシェード「おい、ゼニス、何する気で!!」

ゼニス「………っ!」

ガルムの口の眼前に右腕を持って行って…

ゼニス「ぐ…っあ…!!」

噛みつかれた。腕が。でも、回復魔法をずっと続けているおかげで噛み切れない。

失血死なんて起きない。流血で気絶もできない。

ビオレ「ゼニス!!」

サルファー「あなたは…また…!」

ゼニス「ビオレ! トドメ刺して! 今のうちに!!」

その声に弾かれたように走り出す。

ガルムの眼前に。ゼニスに噛みついている限り、ビオレに害はない。

石に、狙いを定めて…

ビオレ「風刃華!!」

パリン、とその一撃が石を砕く。

悲鳴を上げて、崩れたガルムの口から、ゼニスの腕がようやく解放される。

ビオレ「はぁ…はぁ…や、った…?」

ゼニス「……う、はぁ……」

その場に崩れる。

ソレイユ「ゼニス! 何でここに来てから無茶ばっかり…!」

ああ、そういえば、ここに来てから自分は流血沙汰ばかりだなぁ…と

ぼーっとした頭で考える。

パリス「……」

隣に座ったパリスが、最後にもう一度回復魔法をかけた。

ゼニス「ごめん…」

パリス「いいんですよ…もう、心配かけさせないでください…」

ゼルシェード「まったくだ」

……ゼルシェードだけ胡散臭い。けど、嬉しかった。


サルファー「…ビオレ。ルナドロップはありそうですか?」

ビオレ「…えっと、あ、あった! これよ」

ビオレが拾いあげた、雫のような形をした葉っぱ。

ゼニス「…良かった。あったか…」

そう呟くと同時に、辺りが光に包まれる。

ソレイユ「え、何?」

ビオレ「……サクラ…」

ビオレの言葉で、先ほどの枯れたサクラの木を見上げる。

そこに光が集中して…咲き誇った。サクラが。

パリス「わ、あ…綺麗…!」

ビオレ「元に、戻った……あいつが吸った生気が戻ったから…!」

咲いていない所などない。満開。

さっきまで薄暗かった感じだった沼がすごく明るくなって見えた。

サルファー「…良かったですね。ビオレ」

ビオレ「うん」


しばらくサクラを見てから神社に戻る。

ビオレ「姉様、戻ったわよ」

リラ「お帰りなさい、ビオレ」

怖い感じの雰囲気は消え、穏やかなリラが迎えた。

言わずとも、倒したのが分かったらしい。

リラ「これから、戻るのよね。…貴方達が戦うは、強大…

ビオレ。そして皆さん、負けないでくださいね」

「「「「「はい!!」」」」」

応援されて、その場を後にする。

ゼニスが神社を出ようとした時に、リラに止められる。

リラ「そうそう…これ」

渡されたのはまが玉。

ゼニス「これ…」

リラ「いつでも、遊びに来てくださいね。

…あの子、素直じゃないところあるけど…これからも仲良くしてあげてください」

ゼニス「…もちろんです。ありがとうございます。リラさん」


村を出るときにまが玉を受け取った事を伝える。

ビオレ「姉様…が? 嘘…;;;」

サルファー「…本気で認めてくださったようですね」

今までのリラならありえなかったのだろう。

ソレイユ「ゼニスのおかげだね!」

ゼニス「え、僕…?」

パリス「自覚、無いんですか…? この姉妹の衝突を身を張って止めたんですよ?」

ああ…それか…。

そこへ、ゼニスの連絡端末に電話が入った。

ソレイユ「誰から???」

ゼニス「…はい、もしも…」

言いかけたところへ割り込んで叫び声が聞こえる。

バジル「ゼニス! お前今どこだ! すぐにセイクレイ城に来られるか!?」

ゼニス「え、な、何があったんですか!?」

バジル「ローレルが魔獣化してる! このままだと…まずい!!」

理性が無くなり、自我が無くなり、化け物に…このままだと…なる。

ビオレ「ま、待って、ここからだと遠いわよ! 船に乗って…それで…」

それを聞いてバジルが

バジル「分かった、この端末に転送機能を入れる。それで来い!」

ゼニス「わ、わかりました!」

連絡が切れる。

サルファー「ゼニス、シュロさんにも連絡しておきましょう。」

ゼニス「そうだ、ね…!」

端末でシュロに連絡を入れる。

シュロ「ローレル将軍が…!? もう99%は完成しているが…でも…」

パリス「お願い、します…!」

サルファー「貴方だけが頼りなんです。どうか、自身の研究を信じてください…!」

少しの沈黙の後…

シュロ「わかった。今すぐセイクレイ城に向かう。君達も来るんだろう!?

どうか、バジル将軍たちに加勢してあげてくれ!」

ゼニス「了解です!」

連絡を終え、急いで端末をいじる。

【転送先、セイクレイ城】
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