月が響鳴-カナデ-るカプリッチオ

瑠璃✧*̣̩⋆̩☽⋆゜

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少年との出会い

月が響鳴-カナデ-るカプリッチオ 29話

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エピナールとの戦闘後、ゼルシェードの声はみんなにも聞こえるようになった。

ゼルシェードの声はそれまで誰にも聞こえていなかったから、

ゼルシェードだと伝えたら驚かれてしまった。

ソレイユ「名前から、男の人なのかな…とは思ってたけど…」

パリス「思ったより声低めですね…もっと妖精みたいなかわいい声かと思ってました…」

ゼルシェード「妖精…」

ゼニス「っく…」

まずい、笑ったらいけない。後で怒られるのは僕だ。

ビオレ「ま、まあそれは良いけど…どうするの?

砕かれたわよ?」

そこらに散らばっているのは球体の破片。

ゼルシェード「こうなったら、ギルドで保管されている宝玉と、

ソレイユの指輪をなにがなんでも奪われないようにするしかない」

サルファー「さらに、お相手の攻撃は激しくなっていくと考えた方がいいですかね…」

そう言えば…


サラテリ『そーだ、良い事教えてあげる。

ギルド「天馬」にあたし達が乗り込めるようにする準備は着々と進んでる。

ギルドの人達を巻き込みたくなかったら、降りる事をお勧めするよ♪』


プリムローズ『……ゼニス。ソレイユ。このギルドは、いつか墜とす。必ず。』


そう言われてかなり経つ気がするが…

まだ乗り込んでいないのか? 自分達がギルドに戻るのを待っている?

それとももう…

ゼルシェード「ゼニス。お前が考えている事なら安心しろ。

まだギルドにあいつらは乗り込んでいない」

ゼルシェードに心の中を見透かされた。

ゼニス「何で言い切れるんだ?」

ゼルシェード「仮にあいつらの手にギルドにある宝玉が手に入っている場合、

躍起になってソレイユの指輪が狙われるはずだ。

だが、まだ見逃してくれることが多い。残っているのが指輪だけではないからだ」

けど、逆に言えば、いつギルドに乗り込まれてもおかしくはない、か…

でも、多分マスターに連絡したところで、

「君達こそ狙われているんだから無理しないで。

宝玉には手を出せないようになっているから」

と、言われるだけだろう。

ソレイユ「エーリカさんを信じよう? きっと大丈夫だよ」

ゼニス「そう、だね…」

パリス「あ…そう言えば…ゼルシェードさん…」

パリスがゼルシェードに質問する。

パリス「エルブ、は…どうしてあんなに敵である私達を…」

…それは、ゼニスも思っていた。見逃さなければいいものを。

行かせなければいいものを。能力を使えばいいものを。

彼は卑怯だからの一点張りだ。

ゼルシェード「エルブは昔からだ。

心優しい奴だった。…悪い事なんてできない。

人を疑うのは心苦しい、悪いのは自分。そんな奴だった」

……前も思ったけど、何でこんなにあいつらに詳しいのだろう。

けど、今聞いてもまた言ってなどくれない。

ゼルシェード「ところでどうする。

町に戻るも良いが、ここを調べるならそれでもいい」

……

サルファー「調べて行きませんか? 

エピナールのおかげで、まともに見れませんでしたし」

ビオレ「そうね。ところでこの施設って結局…」

ゼルシェード「ビオレ。お前には必要な情報があると思うぞ」

ビオレに必要な情報…もしかして…


結局、出口に向かうついでに各部屋を見ていくことになった。

といっても、あまりに多すぎるので、何個か絞っていくことに。

そのほとんどが何もない部屋。でも、ある部屋がベッドと何か文字が書いてあった。

ソレイユ「あ、何か書いてあるけど…えーと、モルモット???」

ビオレ「モルモットって、それ、実験体の事じゃない!?」

そうだ、とゼルシェードが短く答える。

ゼルシェード「ここはビオレが追っている人体実験をしている科学者が、

もともと攫った人間を監禁しておく施設だった。

今は使われていない。が、ゼニス。そこの本棚に入ってる本を取れ」

本棚の中には一冊だけ本が入っていた。開いてみると…

ゼニス「……研究者…カイム。

…女神ベレイザの意志のもと。研究を…望みを…。

魔物と人間の融合…魔族の誕生を…。…女神…!?」


バジル『ああ、ローレル将軍…というか、魔族がいつか化け物になる、というもの。

あれは、一種の呪いだと発覚した。』

ソレイユ『呪い!? 実験の後遺症、とかじゃなくて?』

ガイラルディア『もちろんそれもあるのだが、

調べた結果、女神の力が加わっている事が分かった。

…もちろん、魔王討伐に協力してくれた女神とは別人だ。』


パリス「まさか…」

サルファー「なるほど、そう言う事でしたか。

魔族を造った科学者はカイムという者。

魔族がいずれ化け物になる呪いは、この女神ベレイザという者の力なのでしょう。」

ビオレ「カイム…そう、そいつが…」

ビオレの目付きが変わる。ずっと追っているんだもんな。

ゼニス「ビオレ、頼むから一人で行くことはしないで」

ソレイユ「拠点がもし見つかっても、私達に必ず話してね?」

ビオレ「…分かってるわよ。私一人じゃ厳しいって、分かってる」

でも、本当に、何でったって、女神がこんな…。

ゼルシェード「ベレイザ、か…」

ソレイユ「何か知ってるの?」

ゼルシェード「……いや、何でもないさ。

それよりそろそろここを出よう。他に手がかりはなさそうだ。

町か村に戻るぞ」

また、はぐらかされた。まあ、話せるようになるまで追及もやめておこう。


取りあえず施設の外に出て船に乗り込む。

サルファー「さて、どこに向かいましょうか…」

ビオレ「だったら、ソリスって町へ行ってくれないかしら?」

ゼニス「ソリス???」

ビオレがうなずく。

ビオレ「とりわけここから近いわけじゃないんだけど、

地図貸して。えーと、ディレオン大陸のここね。この近くに私の里があるのよ」

…なるほど。ビオレが言いたい事は分かった。

ソレイユ「…いいの?」

ビオレ「ええ。イテールナ城の王様が亡くなったら、国が混乱するわ」

確かに、それはそう、か…

サルファー「では、着くまで…」

そこまで言ったところで、急に雷が落ちた。

ゼニス「えっ!?」

次の瞬間には強風に大雨。嵐だ。

ソレイユ「うっそ、嵐!? まずいよ、この海域って嵐になると現れる魔物が!!」

みんなが納得するより先に、船が下から揺れた。

パリス「今、何か下からぶつかりました…よ!?」

ゼルシェード「不味い…穴開けられたかもしれないぞ…」

遠くに、船から遠ざかっていく影が見える。巨大な…蛇…海蛇??

ゼニス「戦わずに済んだけど、けど…船が…」

ガタン、と船が傾く。

ゼルシェード「飛び込め! 船の中に取り残されて沈めば死ぬぞ!!」

ゼルシェードの言葉に弾かれたように全員海に飛び込む。


ゼニス(あ…やばい…これ…死ぬか…?)

朦朧としてる。

ゼルシェード「ゼニス。ゼニス」

ゼニス(ゼルシェード……?)

ゼルシェードの声が聞こえる。でも応答できない。

まだ、僕は、海の中…なのか??

ゼルシェード「…起きろ。起きないか…!」


……!!!

ゼニス「はっ!?」

倒れていたのは砂浜だった。

ゼニス「あ、あれ…僕は…」

ゼルシェード「起きたか。流れ着いても目を覚まさないから、本気で心配したぞ。

胸が張り裂けるかと思った」

胡散臭い…。

ゼニス「み、みんなは!?」

慌てて周りを見渡す。……いた。

ゼニス「ソレイユ!!」

ソレイユだ。ソレイユだけはここに倒れていた。

ゼニス「ソレイユ、ソレイユ!!」

ソレイユ「……ゼ、ニス…?」

起きた…良かった。

ゼニス「大丈夫?」

ソレイユ「うん…みんなは?」

ゼルシェード「他の奴らは知らん。が、どこかに流れ着いているだろう。」

心配だな…

ゼニス「とにかく、ここがどこなのかだけ確認しないと。動ける?」

ソレイユ「うん、平気♪」

ソレイユの手を引いて立ち上がらせる。

ゼニス(…懐かしいな。ブライトさんに助けられた時も、浜辺で寝ていたんだっけ…)


あの日…

ゼニス『…はっ、え、ここは…僕は??』

ブライト『気が付いたか』

ゼニス『あなたは……』

ブライト『俺はブライト。お前は浜辺で倒れていたんだ。』


ブライトが浜辺に歩いてきた時…

ブライト『……人?

……おい、大丈夫か? 起きろ』

ゼニス『……ん…うば、…奪う、な…』

ブライト(奪う???)


ゼニス(じゃあ、助けてもらって…)

『あ、ありがとうございました…』

ブライト『お前、名前は?』

ゼニス『なま、え…分かりません…何をしていたのかさえ…』

ブライト『記憶喪失か。しかし、名前がないと不便だな…

……ゼニス。で、どうだ?』

ゼニス『ゼニス……』

ブライト『納得いかないなら自分で決めろ』

ゼニス『い、いえ、ゼニスで! お願いします!』

ブライト『わかった。ところで、その眼帯は…』

ゼニス『え…?』

確認すれば確かに眼帯がついている。

外そうとしたが外れない。

ゼニス『え!? な、何で外れない…』

ブライト『まあ、いい。記憶が戻り次第思い出すだろう。』

そんなに気にならないか? と思ったが、

過去を詮索しないタイプだったのは、当時の自分にとって安心だった。

ブライト『それで、お前はこれからどうする?

見た感じ、剣を使うようだが、振り方覚えているか?』

ゼニス『い、いえ…覚えてない、ですね…』

剣の振り方さえ忘れているとは重症だった。

ブライト『お前さえよければ俺が教えるが?』

ゼニス『……いいんですか!? こちらこそ、お願いします!』

ブライト『俺は元々騎士だった。かなり厳しいと思え』

ゼニス『はい!』


……ブライトさんとは、こんな出会いだった。

ソレイユ「ゼニスー! 行くよー!?」

ゼニス「あ、うん、今行くよ!」

ゼニスは急いでソレイユの後を追っていった。
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