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少年との出会い
月が響鳴-カナデ-るカプリッチオ 28話
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前後左右、上か下かもわからない。
今、上っているのか???
ソレイユ「ゼニス! 次どっちの方!?」
ゼニス「……えっと、右…え、二か所から魔力がある!」
二人いるとでも……!?
ゼルシェード「俺の知る限り、似た魔力を持った奴を知っている。
片方はエピナール、片方はエルブ。
二人は魔力が酷似しているから、判断は難しいぞ!」
ゼニス(くっ…どうする…!?)
ゼルシェード「……ゼニス、ソレイユの手を取れ!」
ゼニス「何するんだよ!?」
ゼルシェード「ソレイユなら俺の魔力を流せば同じ事ができるかもしれん!
魔力感知が!」
けど…それは…
ゼニス「ソレイユと別行動しろって言うのか!?
もし、エピナールの方へ行ってしまったら…!」
ゼルシェード「だが、それしか方法は無いぞ!」
……こうしている間にも時間は過ぎる。
サルファー「ゼニス! ゼルシェードさんから何か有効な手は聞けました!?」
ゼニス「……ソレイユ、君なら魔力感知が可能になると、ゼルシェードが言ってるんだ。
…エピナールの方へ行けるか、エルブの方へ行けるか分からない…
君が嫌なら、この作戦は却下する。…どうする?」
エルブの方ならもしかしたら何とかなるかもしれない。
エピナールの場合は、術がない。いや、それはゼニスだってそうだが。
ソレイユ「…やらせて。片方の道は私が担当する!」
ゼニス「ソレイユ……」
……
サルファー「ソレイユには私が付いて行きます。」
ビオレ「私も行くわ。ゼニスとパリスは二人で行って」
どう足掻いても割れない人数。二・三に割れるのは必然。
ゼニス「みんな、どうして…」
自分が言おうとした人数割りが分かったんだ…。
パリス「ゼニスさんは、ソレイユさんの方に、戦力を多く割り振ろうとする…
みんな、そう思ったんです…」
当たっている…見抜かれている…。
サルファー「パリス、ゼニスをお願いしますね」
パリス「はい…!」
ゼニスがソレイユの手を取る。
すると、ソレイユの手が光り…
ソレイユ「…分かる、魔力の在り処。本当に二個感じる…!」
ビオレ「じゃあ、さっそく別れましょう。私達は右側。
ゼニス達は左を!」
ゼニス「了解! みんな、必ず無事で!」
こうして分かれ、ゼニス側。
空間が変わっっているだけで、魔物はいないのに、
進んでいるのかもわからないし、景色も変わらない。
まるで同じ場所で足踏みしているようで気が狂いそうになる。
パリス「今、どの辺りなんでしょうか…?」
ゼニス「魔力が近い…結構走ってるから…けど…」
(これがエピナールの保証はないんだよな…)
エルブだった場合、相手にしている暇はない。
戦闘せずにソレイユたちの方へ迎えれば良いが、そう都合よくは…
そんな事を想いながら走っていると、急に空間が壊れた。
いたのはどう考えても、球体がある部屋じゃない。
というか、何もない。
ゼニス「……戻るよ、パリス…いやな予感がする」
パリス「……ゼニスさん!」
パリスの声に振り替えると、通ったところを扉が閉める。
ゼニス「!? 閉じ込められた!?」
目の前は壁。後ろは扉が施錠。
そしてその場には大きな魔力。
エルブ「おや、二人ですか。まあ、三人いた所で兄には敵いませんがね」
ゼニス「! …エルブ!!」
こっちの道は…魔力は、エルブだった。
エルブ「お久しぶりですね、お二方。」
パリス「……」
ゼニス「……」
久しぶり…そうだな、うん、久しぶり…。
前に会ったのは、結構前な、気がする…
ゼニス「エルブ。僕達は分かってる通り、ここで足踏みしている場合じゃない。
…けど、見逃せと言って、見逃す奴でもないよな?」
エルブ「ええ。私はここで足止めを命じられていますので」
にっこりと笑った。
その顔が、あまりにも…あまりにも…認めたくないのに…
エルブ「これ、見えますか?」
エルブが視線を送ったのは地面。時々地面の一点が赤く光る。
エルブ「この部屋、何か所かに、一定時間で光る地面があります。
ある場所もまばら。踏めば、落ちますよ」
ここから、一階へ? つまり…
パリス「下手に動けば、いつ踏んでしまうか分からない…」
ゼニス「…お前は、能力を使えば、あっさり…その場から動かず…」
エルブ「私は…使いませんよ」
え……
エルブ「兄が使う能力。消去。あれは、卑怯ですから…
圧倒的な一方的。相手に勝ちの選択肢を与えない。一瞬で終わる殺害。
私は…嫌なんです」
……フェズ達と、違う…エピナールやセピアとは違う…。
敵に、ここまで、慈悲をかけていいのか…?
ゼニス「エルブ…お前は…」
エルブ「おしゃべりはここまでです。急いでいるならさっさと始めましょう!
アイシクル!!」
エルブの刀から魔法が撃ちだされる。
ゼニス「避けて!」
パリスに指示して自分も避ける。
パリス「っ! 彼の者に枷を…セイントクロス!」
ゼニス「無名剣!」
能力を使っていないとはいえ、相手の素早さは笑えない。
パリスの魔法で気をそらしている隙に、斬りこむしかない。
エルブ「っ、と!」
こちら同様、エルブもそんなに広範囲は動けない。
下手に動けばエルブだって光った床を踏み抜きかねない。
エルブ「氷刃・一刀!!」
ゼニス「ぐっ!!」
エルブの攻撃を剣で受け止める。
パリス「ゼニスさん、後ろ!!」
パリスの声に後ろを振り向くと、一歩後ろの床が光っている。
ゼニス(! これを踏めば…!)
まずい…と思って前を向き直す。すると、エルブの後ろの床も光っていた。
エルブ「っ、こうなれば…っ」
そう言ってゼニスが後ろに飛びのく。待て、気付いていないのか!?
ゼニス「エルブそっちは!?」
時すでに遅し。エルブの足がその床に触れる。
エルブ「えっ…」
ガコンと音が鳴ってエルブの踏んでいた床が抜けた。
パリス「……落ち、たんですけど…」
ゼニス「……ああ……ん?」
エルブが落ちた床。それのせいで床のバランスが崩れ…
ゼニス「待っ、これは…!?」
パリス「床が崩れ、ます…!!」
そして見事にエルブの後を追って二人も落下する。
ゼニス「……いてて…パリス、大丈夫か!?」
落ちている最中、咄嗟にパリスの事を抱えたので、大事には至っていないと思うが…
パリス「は、はい、平気です…あの…」
パリスが指さした方。エルブが倒れている。
無視したっていいのだが……
ゼニス「……エルブ…? おい」
つい声をかけてしまった。
幸か不幸かすぐに目を覚ました。
エルブ「っ……なかなかやりますね…」
ゼニス(いや、何もしていない。前にも思った事あるけど、僕達は何もしていない)
……
パリス「ゼニスさん、早く上へ!」
ゼニス「そうだ! 落ちたから、また上り直し⁉」
時間が……ソレイユたちは…
エルブ「……消滅する時間」
エルブが唱えた。能力を…使わないって言ってたじゃ、ない、か…?
ゼニス「え…」
有ろう事か、能力は自分達にかけられた。
パリス「どういうことですか…?」
エルブ「早く動けますよ。急いでいるなら、早く行った方がいいんじゃないですか?」
ゼニス「行かせて、良いのか?」
エルブ「私の役目は足止め。時間稼ぎです。だから、これで良いんです。
後は兄に任せます」
わけがわからない。けど…いまはそれどころじゃない。
ゼニス「何か、分からないけど、ありがとう、エルブ!」
パリス「行きましょう…ゼニスさん…!」
登り口を見つけ、急いで駆け上がり始める。
ゼルシェード(……相変わらずだな、エルブ…)
ゼニス達がエルブと戦闘していた頃、ソレイユたちは…
ビオレ「ソレイユ! こっちで良いのね!?」
ソレイユ「うん、こっちで合ってる!」
ひたすら走り続けること数分。
こちらでも急に空間が壊れた。
サルファー「ん…今のは…」
エピナール「おや、来ましたか。早いような遅いような、微妙な位置ですね」
ソレイユ「エピナール!!」
その言葉に慌てて周りを見渡す。
球体があったであろう場所に破片らしきものが散らばっている。
ビオレ「…遅かった!?」
エピナール「厳密にはまだですね。後一つ壊し切っていないのですよ」
エピナールが自らの後ろを指さす。書かれている文字は…
superbia【傲慢】。
エピナール「これが全部回収できないと、指輪と宝玉があっても、
目的達成できませんのでね」
サルファー「させると思っていますか?」
ビオレ「ここで倒す!」
でも、エピナールとしては強がっているだけ。
エピナール「当たりませんよ。決して…」
その言葉は、ハッタリなどではない。
ソレイユ「連煌裂舞!!」
ビオレ「巻き上がれ…トルネード!!」
サルファー「水月弓!!」
三人同時で攻撃を仕掛けても、その全てがかわされる。
エピナールは一歩たりともそこから動いていない…ように見える。
ビオレ「だめ、当たらない!!」
エピナール「さらに、追い込みましょうか?」
追い込む…まさか…
エピナール「消滅する時間!」
そう唱えた途端、そこは再び青い舞台と化した。
サルファー「またこの…! この空間では私達は後手です!
ただでさえ追い付かない所へ…酷い追い打ちですね…」
ソレイユ「ゼニスが、いないと…」
(…駄目だ…ゼニスでも、今はエピナールに勝てる手段が無い…)
まだ、流れを向けるが使えない以上、
エピナールには勝てない。
エピナール「氷裂円舞!!!」
エピナールの達が舞うように…回ったんだと思われる。
早すぎる連撃。かわす余地もない。
ソレイユ「きゃあ!?」
ビオレ「くっ…!」
サルファー「っ…く…」
呆気なく斬られて、その場に伏す。
ソレイユ「…ぁ……」
ぼんやりした視界がとらえる。エピナールの姿を…
奥に向かう。奥を向く。
エピナール「さて、壊しますかね。」
ソレイユ(駄目…やめて…)
声が出ない。傷が深くて動けない。
エピナール「氷閣忌・絶!!!」
刹那、何かが割れる音がした。
サルファー「…砕かれた…」
ビオレ「う、そ…」
…壊れた…壊したのなら、今すぐ帰ってほしい。
どのみち壊れたものは元に戻せない、ならば帰ってほしい。
取り返すとか、そういう話じゃないのだから。でも…
エピナール「さて…後は貴方方ですよ。見逃してもらえる、なんて思っていませんよね?」
言われたくない事を言われた。
その時…後ろから足音が聞こえた、気がした…
ゼニス「パリス! 先に!! 三人の回復を!!」
パリス「はい!!」
エルブの能力で速く動ける二人がすぐ近くまで駆けて来ていた。
パリスは先行していく。
パリス「光の雨を…エードヒーリア!!」
パリスの光に包まれた三人の傷はすぐに癒えていく。
ソレイユ「パリス!?」
サルファー「ああ、無事でしたか…!」
その後ろを少し遅めに走る影。
ゼルシェード「ゼニス、ここで使えるようにならなければ、仲間全員死ぬだけだ」
ゼニス「言われなくても、分かってるよ…! そんなのは嫌だ!
土壇場で、やってやる……!」
その一歩から、速度を一気に上げて駆けだす。
ゼニス(四属性を同時に打ち出すか、万等属性を撃ちだす感覚で…!!!)
ゼニス「エピナールーーーーーー!!!!」
ソレイユたちの背後から、大声で駆けて来る。
ソレイユ「ゼニス! だめ!」
サルファー「返り討ちに合うだけです!!」
ビオレ「やめて!」
パリス「ゼニスさん! 頑張って、ください!」
三人が制止の言葉をかける中、パリスだけ、分かっているかのように、応援した。
エピナール「何を……」
ゼニス(やれ…放て!)
「流れを向ける!」
それは、その空間一体に光を放ち、
エピナール「っ!? …消滅する時間が、解かれた!?」
エピナールの能力を、解いた。
もちろん、ゼルシェードに説明されたとおり、舞台の空間はそのままで、
先手を取られる事は仕方ない。が、化け物染みた素早さは、無くなった。
ソレイユ「やったの!?」
パリス「これで、私達の攻撃だって当たりますよ!」
傷は癒えている。全然みんなも戦える。
でも…パリスは…
パリス「ゼニスさん。私達だけでやりましょう…!」
ゼニス「言われなくても、そうするつもりだよ」
無理はさせたくなかった。
ソレイユ「ゼニス…パリス…」
ゼニス「休んでいて」
短く一言告げて、エピナールに向き直る。
エピナール「…驚きました。まさか使えるとは…」
ゼニス「今、初めて成功したんだ」
……
少しの、沈黙。断ったのは、エピナールが刀を抜いた事。
ゼニス「パリス! 魔法を頼む!」
パリス「はい!」
弾かれたようにパリスに指示を出す。
エピナール「フローズナイフ!」
ゼニス「…!」
エピナールの魔法も防げる。十分間に合う!
パリス「飲み込め…タイダルウェーブ!」
エピナール「ぐ、はあっ!」
波さえ切り裂くが、最初から切り裂けなかったので、ダメージは喰らっている。
ゼニス「閃実義!!」
ゼニスはその波が切り裂かれると同時に斬りこむ。
エピナール「なっ! っ、消忌絶氷閣!!」
飛びのいて奥義を斬りこんでくる。が、狙い通り。
ゼニス「前と同じと思うな! 無に帰せ…流れを変えろ…無白流変剣!!」
フェズを追い詰めた奥義がエピナールの奥義とぶつかる。
そしてその剣は…。
ぶわ、と。
ビオレ「…空間が、元に戻った?」
エピナールの空間が壊れたのが証拠。決着。
ゼニスの勝ちだ。
パリス「ぁ…ゼニスさん!」
パリスが駆け寄ってきた。
それを合図にしたように、ソレイユたちも。
ソレイユ「すごい、また! やっちゃった!」
サルファー「どんどん成長しますね、あなたは…」
自分でも分かっていた。
迷って、判断が遅れて、危険に晒していたあの頃と、変わった。
エピナール「…ゼニスさん…」
よろけながらエピナールが声をかける。
ゼニス「! まだトドメが!? あ、あれ…」
どさっとその場に膝をつく。魔力切れだ。
エピナール「…心は、開かぬように。
どれだけ敵が優しくしてきても、敵は敵、ですよ?」
パリス「どういう…意味ですか…?」
それには答えずに転移していってしまった。
ゼルシェード「魔力の使いすぎだ。また無理したな?」
ソレイユ「今の声は?」
ゼルシェードの声にソレイユが反応した。いや、みんな反応している。
ゼルシェード「お前が流れを向けるを使えるようになったから、だな」
ゼニス「……ああ、そうか。
……みんな、この声が、ゼルシェードだよ」
………
「「「「ええええええ!?」」」」
今、上っているのか???
ソレイユ「ゼニス! 次どっちの方!?」
ゼニス「……えっと、右…え、二か所から魔力がある!」
二人いるとでも……!?
ゼルシェード「俺の知る限り、似た魔力を持った奴を知っている。
片方はエピナール、片方はエルブ。
二人は魔力が酷似しているから、判断は難しいぞ!」
ゼニス(くっ…どうする…!?)
ゼルシェード「……ゼニス、ソレイユの手を取れ!」
ゼニス「何するんだよ!?」
ゼルシェード「ソレイユなら俺の魔力を流せば同じ事ができるかもしれん!
魔力感知が!」
けど…それは…
ゼニス「ソレイユと別行動しろって言うのか!?
もし、エピナールの方へ行ってしまったら…!」
ゼルシェード「だが、それしか方法は無いぞ!」
……こうしている間にも時間は過ぎる。
サルファー「ゼニス! ゼルシェードさんから何か有効な手は聞けました!?」
ゼニス「……ソレイユ、君なら魔力感知が可能になると、ゼルシェードが言ってるんだ。
…エピナールの方へ行けるか、エルブの方へ行けるか分からない…
君が嫌なら、この作戦は却下する。…どうする?」
エルブの方ならもしかしたら何とかなるかもしれない。
エピナールの場合は、術がない。いや、それはゼニスだってそうだが。
ソレイユ「…やらせて。片方の道は私が担当する!」
ゼニス「ソレイユ……」
……
サルファー「ソレイユには私が付いて行きます。」
ビオレ「私も行くわ。ゼニスとパリスは二人で行って」
どう足掻いても割れない人数。二・三に割れるのは必然。
ゼニス「みんな、どうして…」
自分が言おうとした人数割りが分かったんだ…。
パリス「ゼニスさんは、ソレイユさんの方に、戦力を多く割り振ろうとする…
みんな、そう思ったんです…」
当たっている…見抜かれている…。
サルファー「パリス、ゼニスをお願いしますね」
パリス「はい…!」
ゼニスがソレイユの手を取る。
すると、ソレイユの手が光り…
ソレイユ「…分かる、魔力の在り処。本当に二個感じる…!」
ビオレ「じゃあ、さっそく別れましょう。私達は右側。
ゼニス達は左を!」
ゼニス「了解! みんな、必ず無事で!」
こうして分かれ、ゼニス側。
空間が変わっっているだけで、魔物はいないのに、
進んでいるのかもわからないし、景色も変わらない。
まるで同じ場所で足踏みしているようで気が狂いそうになる。
パリス「今、どの辺りなんでしょうか…?」
ゼニス「魔力が近い…結構走ってるから…けど…」
(これがエピナールの保証はないんだよな…)
エルブだった場合、相手にしている暇はない。
戦闘せずにソレイユたちの方へ迎えれば良いが、そう都合よくは…
そんな事を想いながら走っていると、急に空間が壊れた。
いたのはどう考えても、球体がある部屋じゃない。
というか、何もない。
ゼニス「……戻るよ、パリス…いやな予感がする」
パリス「……ゼニスさん!」
パリスの声に振り替えると、通ったところを扉が閉める。
ゼニス「!? 閉じ込められた!?」
目の前は壁。後ろは扉が施錠。
そしてその場には大きな魔力。
エルブ「おや、二人ですか。まあ、三人いた所で兄には敵いませんがね」
ゼニス「! …エルブ!!」
こっちの道は…魔力は、エルブだった。
エルブ「お久しぶりですね、お二方。」
パリス「……」
ゼニス「……」
久しぶり…そうだな、うん、久しぶり…。
前に会ったのは、結構前な、気がする…
ゼニス「エルブ。僕達は分かってる通り、ここで足踏みしている場合じゃない。
…けど、見逃せと言って、見逃す奴でもないよな?」
エルブ「ええ。私はここで足止めを命じられていますので」
にっこりと笑った。
その顔が、あまりにも…あまりにも…認めたくないのに…
エルブ「これ、見えますか?」
エルブが視線を送ったのは地面。時々地面の一点が赤く光る。
エルブ「この部屋、何か所かに、一定時間で光る地面があります。
ある場所もまばら。踏めば、落ちますよ」
ここから、一階へ? つまり…
パリス「下手に動けば、いつ踏んでしまうか分からない…」
ゼニス「…お前は、能力を使えば、あっさり…その場から動かず…」
エルブ「私は…使いませんよ」
え……
エルブ「兄が使う能力。消去。あれは、卑怯ですから…
圧倒的な一方的。相手に勝ちの選択肢を与えない。一瞬で終わる殺害。
私は…嫌なんです」
……フェズ達と、違う…エピナールやセピアとは違う…。
敵に、ここまで、慈悲をかけていいのか…?
ゼニス「エルブ…お前は…」
エルブ「おしゃべりはここまでです。急いでいるならさっさと始めましょう!
アイシクル!!」
エルブの刀から魔法が撃ちだされる。
ゼニス「避けて!」
パリスに指示して自分も避ける。
パリス「っ! 彼の者に枷を…セイントクロス!」
ゼニス「無名剣!」
能力を使っていないとはいえ、相手の素早さは笑えない。
パリスの魔法で気をそらしている隙に、斬りこむしかない。
エルブ「っ、と!」
こちら同様、エルブもそんなに広範囲は動けない。
下手に動けばエルブだって光った床を踏み抜きかねない。
エルブ「氷刃・一刀!!」
ゼニス「ぐっ!!」
エルブの攻撃を剣で受け止める。
パリス「ゼニスさん、後ろ!!」
パリスの声に後ろを振り向くと、一歩後ろの床が光っている。
ゼニス(! これを踏めば…!)
まずい…と思って前を向き直す。すると、エルブの後ろの床も光っていた。
エルブ「っ、こうなれば…っ」
そう言ってゼニスが後ろに飛びのく。待て、気付いていないのか!?
ゼニス「エルブそっちは!?」
時すでに遅し。エルブの足がその床に触れる。
エルブ「えっ…」
ガコンと音が鳴ってエルブの踏んでいた床が抜けた。
パリス「……落ち、たんですけど…」
ゼニス「……ああ……ん?」
エルブが落ちた床。それのせいで床のバランスが崩れ…
ゼニス「待っ、これは…!?」
パリス「床が崩れ、ます…!!」
そして見事にエルブの後を追って二人も落下する。
ゼニス「……いてて…パリス、大丈夫か!?」
落ちている最中、咄嗟にパリスの事を抱えたので、大事には至っていないと思うが…
パリス「は、はい、平気です…あの…」
パリスが指さした方。エルブが倒れている。
無視したっていいのだが……
ゼニス「……エルブ…? おい」
つい声をかけてしまった。
幸か不幸かすぐに目を覚ました。
エルブ「っ……なかなかやりますね…」
ゼニス(いや、何もしていない。前にも思った事あるけど、僕達は何もしていない)
……
パリス「ゼニスさん、早く上へ!」
ゼニス「そうだ! 落ちたから、また上り直し⁉」
時間が……ソレイユたちは…
エルブ「……消滅する時間」
エルブが唱えた。能力を…使わないって言ってたじゃ、ない、か…?
ゼニス「え…」
有ろう事か、能力は自分達にかけられた。
パリス「どういうことですか…?」
エルブ「早く動けますよ。急いでいるなら、早く行った方がいいんじゃないですか?」
ゼニス「行かせて、良いのか?」
エルブ「私の役目は足止め。時間稼ぎです。だから、これで良いんです。
後は兄に任せます」
わけがわからない。けど…いまはそれどころじゃない。
ゼニス「何か、分からないけど、ありがとう、エルブ!」
パリス「行きましょう…ゼニスさん…!」
登り口を見つけ、急いで駆け上がり始める。
ゼルシェード(……相変わらずだな、エルブ…)
ゼニス達がエルブと戦闘していた頃、ソレイユたちは…
ビオレ「ソレイユ! こっちで良いのね!?」
ソレイユ「うん、こっちで合ってる!」
ひたすら走り続けること数分。
こちらでも急に空間が壊れた。
サルファー「ん…今のは…」
エピナール「おや、来ましたか。早いような遅いような、微妙な位置ですね」
ソレイユ「エピナール!!」
その言葉に慌てて周りを見渡す。
球体があったであろう場所に破片らしきものが散らばっている。
ビオレ「…遅かった!?」
エピナール「厳密にはまだですね。後一つ壊し切っていないのですよ」
エピナールが自らの後ろを指さす。書かれている文字は…
superbia【傲慢】。
エピナール「これが全部回収できないと、指輪と宝玉があっても、
目的達成できませんのでね」
サルファー「させると思っていますか?」
ビオレ「ここで倒す!」
でも、エピナールとしては強がっているだけ。
エピナール「当たりませんよ。決して…」
その言葉は、ハッタリなどではない。
ソレイユ「連煌裂舞!!」
ビオレ「巻き上がれ…トルネード!!」
サルファー「水月弓!!」
三人同時で攻撃を仕掛けても、その全てがかわされる。
エピナールは一歩たりともそこから動いていない…ように見える。
ビオレ「だめ、当たらない!!」
エピナール「さらに、追い込みましょうか?」
追い込む…まさか…
エピナール「消滅する時間!」
そう唱えた途端、そこは再び青い舞台と化した。
サルファー「またこの…! この空間では私達は後手です!
ただでさえ追い付かない所へ…酷い追い打ちですね…」
ソレイユ「ゼニスが、いないと…」
(…駄目だ…ゼニスでも、今はエピナールに勝てる手段が無い…)
まだ、流れを向けるが使えない以上、
エピナールには勝てない。
エピナール「氷裂円舞!!!」
エピナールの達が舞うように…回ったんだと思われる。
早すぎる連撃。かわす余地もない。
ソレイユ「きゃあ!?」
ビオレ「くっ…!」
サルファー「っ…く…」
呆気なく斬られて、その場に伏す。
ソレイユ「…ぁ……」
ぼんやりした視界がとらえる。エピナールの姿を…
奥に向かう。奥を向く。
エピナール「さて、壊しますかね。」
ソレイユ(駄目…やめて…)
声が出ない。傷が深くて動けない。
エピナール「氷閣忌・絶!!!」
刹那、何かが割れる音がした。
サルファー「…砕かれた…」
ビオレ「う、そ…」
…壊れた…壊したのなら、今すぐ帰ってほしい。
どのみち壊れたものは元に戻せない、ならば帰ってほしい。
取り返すとか、そういう話じゃないのだから。でも…
エピナール「さて…後は貴方方ですよ。見逃してもらえる、なんて思っていませんよね?」
言われたくない事を言われた。
その時…後ろから足音が聞こえた、気がした…
ゼニス「パリス! 先に!! 三人の回復を!!」
パリス「はい!!」
エルブの能力で速く動ける二人がすぐ近くまで駆けて来ていた。
パリスは先行していく。
パリス「光の雨を…エードヒーリア!!」
パリスの光に包まれた三人の傷はすぐに癒えていく。
ソレイユ「パリス!?」
サルファー「ああ、無事でしたか…!」
その後ろを少し遅めに走る影。
ゼルシェード「ゼニス、ここで使えるようにならなければ、仲間全員死ぬだけだ」
ゼニス「言われなくても、分かってるよ…! そんなのは嫌だ!
土壇場で、やってやる……!」
その一歩から、速度を一気に上げて駆けだす。
ゼニス(四属性を同時に打ち出すか、万等属性を撃ちだす感覚で…!!!)
ゼニス「エピナールーーーーーー!!!!」
ソレイユたちの背後から、大声で駆けて来る。
ソレイユ「ゼニス! だめ!」
サルファー「返り討ちに合うだけです!!」
ビオレ「やめて!」
パリス「ゼニスさん! 頑張って、ください!」
三人が制止の言葉をかける中、パリスだけ、分かっているかのように、応援した。
エピナール「何を……」
ゼニス(やれ…放て!)
「流れを向ける!」
それは、その空間一体に光を放ち、
エピナール「っ!? …消滅する時間が、解かれた!?」
エピナールの能力を、解いた。
もちろん、ゼルシェードに説明されたとおり、舞台の空間はそのままで、
先手を取られる事は仕方ない。が、化け物染みた素早さは、無くなった。
ソレイユ「やったの!?」
パリス「これで、私達の攻撃だって当たりますよ!」
傷は癒えている。全然みんなも戦える。
でも…パリスは…
パリス「ゼニスさん。私達だけでやりましょう…!」
ゼニス「言われなくても、そうするつもりだよ」
無理はさせたくなかった。
ソレイユ「ゼニス…パリス…」
ゼニス「休んでいて」
短く一言告げて、エピナールに向き直る。
エピナール「…驚きました。まさか使えるとは…」
ゼニス「今、初めて成功したんだ」
……
少しの、沈黙。断ったのは、エピナールが刀を抜いた事。
ゼニス「パリス! 魔法を頼む!」
パリス「はい!」
弾かれたようにパリスに指示を出す。
エピナール「フローズナイフ!」
ゼニス「…!」
エピナールの魔法も防げる。十分間に合う!
パリス「飲み込め…タイダルウェーブ!」
エピナール「ぐ、はあっ!」
波さえ切り裂くが、最初から切り裂けなかったので、ダメージは喰らっている。
ゼニス「閃実義!!」
ゼニスはその波が切り裂かれると同時に斬りこむ。
エピナール「なっ! っ、消忌絶氷閣!!」
飛びのいて奥義を斬りこんでくる。が、狙い通り。
ゼニス「前と同じと思うな! 無に帰せ…流れを変えろ…無白流変剣!!」
フェズを追い詰めた奥義がエピナールの奥義とぶつかる。
そしてその剣は…。
ぶわ、と。
ビオレ「…空間が、元に戻った?」
エピナールの空間が壊れたのが証拠。決着。
ゼニスの勝ちだ。
パリス「ぁ…ゼニスさん!」
パリスが駆け寄ってきた。
それを合図にしたように、ソレイユたちも。
ソレイユ「すごい、また! やっちゃった!」
サルファー「どんどん成長しますね、あなたは…」
自分でも分かっていた。
迷って、判断が遅れて、危険に晒していたあの頃と、変わった。
エピナール「…ゼニスさん…」
よろけながらエピナールが声をかける。
ゼニス「! まだトドメが!? あ、あれ…」
どさっとその場に膝をつく。魔力切れだ。
エピナール「…心は、開かぬように。
どれだけ敵が優しくしてきても、敵は敵、ですよ?」
パリス「どういう…意味ですか…?」
それには答えずに転移していってしまった。
ゼルシェード「魔力の使いすぎだ。また無理したな?」
ソレイユ「今の声は?」
ゼルシェードの声にソレイユが反応した。いや、みんな反応している。
ゼルシェード「お前が流れを向けるを使えるようになったから、だな」
ゼニス「……ああ、そうか。
……みんな、この声が、ゼルシェードだよ」
………
「「「「ええええええ!?」」」」
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