月が響鳴-カナデ-るカプリッチオ

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再び迫る影

月が響鳴-カナデ-るカプリッチオ 9話

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街道を進んで、トロントの森に入っていく一行。

道中、色々話をしていた。

ゼニス「へぇ…アイリス、本書いてるのか。」

アイリス「うん、旅の記録をね。私にとってすごく大事な旅だったから」

ソレイユ「ねえアイリス、旅の仲間ってどんな人達だったの?」

少し間をおいてから、ゆっくり話し始めてくれた。

アイリス「…まず、ブローディア。ドジっ子で、いつも危なっかしかったけど、

私の事を身を挺して守ろうとしてくれたり、行き先を占ってくれたりしてた。

カピバラの精霊、カルビと一緒だったの。

次はシュロ。シュロとはカルビが家に突撃したのがきっかけで出会ったの。

彼は最初妹を殺したエルフを憎んでいたの。さらにはずっと一緒だったワイバーンを失って…

でも、妹の死には魔族が関わっていたことが分かって、今はエルフと和解してるわ。

そしてフクシア。その子は天使でね。出会った時は片翼が折れてた。

悪魔に折られたんだけど、その悪魔は敵に利用されていたからだった。

時期に悪魔になるというところ、色々あって輝石を見つけて今は無事だよ。

あとはレオノティス。彼はエルフの長の息子で、最初はシュロと衝突してたわ。

連携もうまく取れなくて…でも互いの誤解が魔族によるものだと分かった時以来、

喧嘩しながらも、すごくいいコンビになったわ。テイルってカルビのお兄さんの精霊がいるわ。

アスター。彼が魔族に利用された悪魔。悪魔同士の間に稀に生まれてしまった混血悪魔で、

銀髪を持っている悪魔なの。洗脳が解けた直後、私達を逃がす代わりに魔王と戦って負傷。

眼帯をつける事になってしまった。それ以降は私達の仲間で、フクシアとも凄く仲が良いの。

次は二人が出会ったリナリアとシスル。

まずリナリアはクレイドル大陸にある神社の巫女様でね。友達を救うために家出して来たの。

シスルと二人旅していて、たまたま私達の泊まっていた所に来たのが始まり。

いつもすぐに怒るシスルを宥める役目をやってたよ。

シスルはアサシンで、魔王を倒すために旅をしていた。魔王の肉体を封じていたせいで、

肉体の成長が遅れていたけど、それが無くなった今は急成長したって聞いてるわ。

リナリアの望まぬ結婚を阻止して攫ったって話も聞いてる。カラスの精霊、ゼロと一緒なの。」

何かすっごい濃い面子…あれ?


アイリス「立役者は私じゃない。…シオンよ」


ソレイユ「ねえ、シオンって人は?」

アイリス「………」

あ、聞いたらまずい事だったかな…

アイリス「シオンは…私が最初に出会った仲間…。そして、大好きな人。

彼は英雄の子孫だった。幼馴染を殺され、濡れ衣を着せられ、

村は焼かれ、命を狙われ…それでも世界のため、私を守るため、絶対に折れる事はなかった。

敵であっても内情をちゃんと理解しようとしてくれる人で……

敵から頼まれた事も、果たそうとする人だった……私も、敵の幹部もシオンに救われた。

そして、私は魔王を封じる永遠の鍵になる予定だった。なのに、シオンは私の代わりになった。

シオンが私に未来をくれた…今シオンは、魔王を封じている結晶と同化している。

…私が碑文を探す理由…彼を、結晶化から解放する事。

たとえそれで魔王が放たれても構わない。封印しなくてもいいように、今度こそ倒してみせる…!」

アイリス……

アイリス「湿っぽくなっちゃったね。」

ゼニス「それで、方法は見つかりそうなのか?」

アイリス「うん。もうすぐわかりそうなの」

ゼニスとソレイユはそれを聞いて顔を見合わせ、頷いた。

ソレイユ「ねえ、アイリスって連絡端末ある?」

アイリス「あるけど…」

ゼニス「方法が見つかったら僕達に連絡してくれ。

君に何かあったら、助けられてもシオンさんは笑えない。

解放する時は僕達にも手伝わせてほしいんだ」

ここまで聞いて知らんぷりはできない。

寄り添うものは、片方がいなくなってはどの道意味がない。

アイリス「…ありがとう。じゃあ、その時はお願いするね」

ゼニス「ああ、任せてくれ。シオンさんにも会ってみたいし」


そうこう話しているうちに、遺跡の前まで辿り着いた。

アイリス「二人は宝玉を探しているんだよね? まだあればいいけど…」

ソレイユ「いっつも先に取られてるんだよねー」

ゼニス「……ああ…また取られたな…」

まるで先回りをされているように、今回も何か気配を感じる。

遺跡の中から歩いてくる。この魔力の感じは、四零士だ。

足音を立てて歩いてきたのは、黒衣のやつだ。



???「…やっぱりいた……」

ゼニス「………女性?」

あまりにも中性的だったんだ。分からなかったんだ。

でもこれは男性だった場合、究極の地雷であって…

???「っ!!」

無言でそのまま思い切り蹴りをかましてきた。

ゼニス「うわっ!!?」

騎士勤めだったのが幸いか、何とか反射的に回避できた。

???「チッ…」

ソレイユ「ちょっ…ゼニス…そこの木……」

ゼニス「え?? げっ……」

自分が回避した代わりに蹴りを喰らった木が真っ二つになっている。

アイリス「なんて蹴りの威力……」

ソレイユ「ちょっと危ないじゃないの! 貴方も四零士!?」

少し沈黙したあと、黒衣を外す。



グラファイト「僕はグラファイト。四零士の一人。黒零士。

女とか勘違いが酷いよ。粉砕骨折したくなかったらやめろ」

怖い怖い怖い…じゃなくて。

ゼニス「グラファイト! お前、宝玉持ってるのか!?」

グラファイト「……ああ」

ソレイユ「何に使うか知らないけど、これを貴方達に渡すわけにはいかないの!」

はあ…と長いため息をついて武器を持つ。その手には鎌。

アイリス「物騒な武器を…」

グラファイト「死に誘われたくなければ抗ってみなよ。

もしくは、その指輪を渡せ」

やっぱり狙いはソレイユの指輪。

ソレイユ「渡さないって言ってるでしょ! 大体なんでこれを!」

グラファイト「必要だからだよ」

答える気は無いか。これ以上の問答は無駄だ。

ソレイユ「光臨舞!!」

リーチの長さ的にソレイユの方が不利だ。簡単に鎌に弾かれる。

ソレイユ「っ! 駄目、近付けない!」

アイリス「アローラッシュ!」

遠距離で弓を構えていたアイリスが連射する。

グラファイト「っ! 魔王を倒した一員か…やっかいな…!」

鎌を素早く振り回してほとんどの矢を弾き飛ばした。でも一本だけ肩を貫いた。

ゼニス「月下裂破!」

ゼニスの斬撃とグラファイトの鎌が衝突する。

グラファイト「っ! うざったいな…! スラッシュウェーブ!!」

鎌から放たれた広範囲水属性魔法で周囲の木ごと三人が吹っ飛ばされる。

ゼニス「くっ…!」

ソレイユ「範囲魔法…!」

アイリス「遠距離にいても、届くって…!」

でも、まだ立てる…まだやれる…!

相手が全く喋らない…いや、喋ってる…? 小声だけど。

グラファイト「ああもうほんとに腹立つムカつくめんどくさい

さっさとくたばれよ苛々するな黙ってろ大人しく下がれよ…」

何か超ぶつぶつ言っている…

ゼニス「……何、だ…」

グラファイト「僕は病苦の能力を持つ黒零士…

苦しむ獣パーティ・ベスティア…」

言い終えると、いきなり力が入らなくなった。

ゼニス「なっ…力が! こいつもフェズと同じ…いや、違う!?」

フェズの時との違い。熱い…発熱か? 苦しい…毒か?

ソレイユ「ゼニス…体、動かな…」

ソレイユは麻痺か!?

アイリス「…なんだか、眠…」

アイリスは眠気…!?

グラファイト「僕の能力スキル、病苦はその名の通り、相手を色んな状態異常にする事…

指輪はこれで奪えるし、命だって簡単だ」

ゼニス「!!!」

(動け、動け、立て、自分…! 状態異常の多さは自分が一番だけど、

動ける状態異常は僕だけだ…!)

カンッと鎌を構え直した音がする。

ゼニス「ぐ…っ、させ、るか…! アイリスはまだ目的がある…

ソレイユも死なせないし、大事な物も奪わせるか…!」

ほぼ視界は真っ暗と言っていいほど朦朧としてた。でも…

グラファイト「フラフラじゃん……」

ゼニス(歩いて斬りかかるのは無謀。瞬間的に斬る…)

「っ!」

瞬間、ゼニスが消えた。エルブの時に放ったあれだ。

グラファイト「それ…!」

ゼニス「瞬裂黎絶!!」

グラファイトの利き腕を斬りつける。

グラファイト「くっ…その技……」

ゼニス「ぐっ、はあ…はあ…っ」

限界だった。今の一撃が精いっぱい。

グラファイト「………ちょっと来て」

崩れ落ちそうなゼニスの腕を引き上げて遺跡の中へ連れて行く。

ソレイユ「…ぜ、ゼニス!!!」

アイリス「ゼニ、ス…」


ゼニス「う…な、何の用だ……」

グラファイト「……なんであんたがあの技使える?」

はあ?

ゼニス「知らない…自分でも使い終わるとやり方さえ分からない…破れかぶれの時だけ…

仲間が危険な時だけ使えるんだ…っ」

グラファイト「……その眼帯何?」

さっきから脈絡が無いぞ…

ゼニス「記憶喪失だから知らない…外れないんだ、引っ張っても燃やしても切り刻んでも…!」

グラファイトは少し無言になると…

グラファイト「これ、持ってっていい」

満身創痍の手に押し付けられたのは病苦の宝玉。

ゼニス「!? …何で…渡す…?」

グラファイト「どうせ、一個あんた達に渡ってるし。

いつでも奪えるからね…」

何か言ったが最後の方が聞き取れなかった。

グラファイト「じゃあ僕は帰る」

ゼニス「待っ…!!」

呼び止める声は届かず転移されてしまった。


ふらふらしながらも二人の所へ戻り、アイリスの肩を叩く。

アイリス「ん…あ、ゼニス!!」

睡眠状態は打撃を軽くでも与えれば解除される。

ゼニス「アイリスが一番…回復魔法に優れてるから…頼む…」

アイリス「わかった!」

急いでゼニスとソレイユの状態異常を回復させる。

ソレイユ「あ、体が動く…そうだ、ゼニス! 大丈夫だった!?」

そりゃ心配するだろう。ゼニスは何があったのか話しておいた。

眼帯の事はまだ黙っておいて…

ソレイユ「宝玉? 何で渡してくるのよ…」

アイリス「不思議だね…」

相手の思惑は分からないが、ここで悩んでいても仕方ない。

ゼニス「とりあえず、後でギルドに持って行っておこう。

今は遺跡だ。」


幸いあまり遺跡は広くなかったので、すぐに奥まで辿り着く事ができた。

ソレイユ「アイリス、何か書いてあった?」

アイリス「うん…解読してるから、ゼニス達は適当に待ってて」

ゼニス「あ、ああ…あっ!」

ゼニスが見つけたのは、前にファーム遺跡で見たものと似たものだった。

ソレイユ「ゼニス、これ……」

ゼニス「待って、読んでみる」


『七つの秘宝。

それは…を叶えし、神秘の魂。

それが集い、…を取り戻し時ーー

それが集い、…に共鳴し時ーー

時の…は……る…』


ゼニス「ファーム遺跡で読んだ分もあるけど、あそこより損傷がひどいな…

メモしておいた方が良かったかな…あ、続きがあるから待って…」


『一に、飢餓の魂。それは孤独な泣けぬ異形。

二に、勝率の魂。それは平和を願う優しい心。

三に、戦鬼の魂。それは復讐を誓う強き盾。

四に、病苦の魂。それは病を救う頼れる神官。』


ゼニス「……ここまで」

ソレイユ「宝玉…それがあいつらが探してる奴で、

それを集めると…何???」

どこかに綺麗に全部残っている遺跡はない物か…

いや、もしあちらがこれを知られたくないのなら、そんな遺跡はとっくに壊されているか…

ゼニス「ああ…謎だらけだ……一応メモしておこう。

ギルドに宝玉を持って行くついでにこのメモも渡そう」

メモを取り終わった頃に、アイリスから声がかかる。

アイリス「ありがとう、もう大丈夫」

ソレイユ「もういいの? 後は行き先ある?」

首を横に振る。

アイリス「後は準備だけだから。終わったらちゃんと連絡するね」

ゼニス「そっか、じゃあ取りあえず宿屋に戻ろうか」

とっくに日が暮れてしまったので、この日は宿屋に帰る事にした。


某所。

???「はあ…グラファイト。貴方も渡してしまったのですか?」

グラファイト「別に奪えるし…」

フェズ「あのギルドに俺達は入れねーだろうが!」

サラテリ「そーだよねー、でもさー」

プリムローズ「うん…私達じゃなければ入れる」

エルブ「……もしかして…」

???「ええ。「復讐者」は揃いました。

後々彼らに頑張っていただきますよ」
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