月が響鳴-カナデ-るカプリッチオ

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再び迫る影

月が響鳴-カナデ-るカプリッチオ 5話

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朝。適当に朝食を取って準備するとバレヌと鉢合わせた。

バレヌ「ああ、お前達か。」

ゼニス「ああ、おはよう、バレヌ。今日は依頼?」

バレヌ「ああ……これからロココをたたき起こしに行く所だ」

朝に弱いんだろうか。バレヌも弱そう…ああ、弱いけど頑張ってる感じか。

ソレイユ「私達はこれから遺跡行ってくるんだ!」

遺跡? とバレヌが聞き返してくる。

ソレイユ「ここここ! ファーム遺跡!」

バレヌ「ここか…1万年ほど前からあった遺跡らしいぞ。

不思議な事に、原形をとどめているらしい」

世界樹みたいに長く残り続けているのか……

バレヌ「まあ、気を付けて行って来てくれ」

そう言ってロココの部屋に入る。

ゼニス「僕達も行こうか…」

ソレイユ「うんっ! 楽しみー!」

と、廊下を歩き始めた時…

ドゴーーーンと大きな物音がロココの部屋から。

ロココ「魔法で起こす奴がある!?」

バレヌ「俺も朝は苦手なんだ! のんきに寝ていられたらムカつくだろう!?」

やれやれ…朝からやっている。

ゼニス「そういえば、エーリカさんに遺跡に行くことは…」

ソレイユ「ばっちり! 伝えてあるよ。だから転移魔法陣も出してもらってるはず!」

ソレイユが言ったとおり、転移エリアに魔法陣が設置されている。

ゼニス「よし、じゃあ行くか」


魔法陣に乗れば、そこは遺跡の目の前。

ソレイユ「わぁー! すごいっ、ほとんど壊れてないよ!」

ゼニス「…これが、一万年前の遺跡なのか? 綺麗すぎる…」

ソレイユからもらった本を見た限り、

一万年前から手入れをされたり造り変えられた事実はないようだ。

ゼニス(…何か加護でもあるのか……?)

ソレイユ「ゼニス! ここ入れるみたいだよ!」

言いながらさっさと遺跡の中に入っていってしまう。

さすがに危なくないか…魔物でもいたら…観光客だっていないし。

ゼニス「待ってソレイユ! 僕も行く!」

慌ててその後を追いかける。


内部も結構綺麗だった。

崩れて通れない道も無いし、奥に進むのに困りはしなさそうだ。

ソレイユ「仕掛けとかないのかな!?」

ゼニス「はは…さすがに仕掛けとかは停止してそうだけど…」

にしたって、本当に一万年経っているとは思えない。

それはソレイユも思っていたようで…

ソレイユ「…本当に、手入れされてないんだよね?

何かいるのかな……」

ゼニス「……あれ、これ…」

仕掛けがあった。これはレバー式の仕掛けだ。

ゼニス「ソレイユ、遺跡の本見せて」

ソレイユから本を受け取って、内部構造のページを開く。

ゼニス「…やっぱり…」

作動させられている。本来上がっているはずのレバーが下ろされている。

ソレイユ「私達の他に誰かいるって事?」

ゼニス「…慎重に先に進もう」


残りの仕掛けも全部作動させられていたため、誰かが最奥にいるかもと思ったが、

結局行き止まりまで進んでも誰もいなかった。

ソレイユ「…おかしい…誰もいないなんて…もう出て行ったのかな?」

ゼニス「…これ見て、ソレイユ。」

ゼニスが指さしたところに古代文字と何かが嵌まっていたような丸いくぼみがある。

ソレイユ「…読めない」

ゼニス「ちょっと待って。

僕の師匠のブライトさんに古代文字は教えてもらったから、多分読めるよ」

ブライトは結構な遺跡好きで、古代文字に詳しかった。

特訓ついでによく教えられていたのだ。

ゼニス「…えーと…」


『七つの秘宝。

それは願いを叶えし、神秘の魂。

それが集い、力を取り戻し時ーー

それが集い、彼の世の者に共鳴し時ーー

時の…は……る…』


ゼニス「…ごめん。ここまでだし、途中読めない。」

ソレイユ「何の事??? 一万年前の事だからよく分かんないかなぁ…」

もしかして七つの秘宝の一つは、ここに嵌っていた物なのか?

一万年前になくなっていたのなら良いが、誰かが最近取って行ったなんて事は…。

突如、酷い地震が起きる。

ソレイユ「何!?」

ゼニス「地震!? 不味い崩れる! ソレイユ出よう!」

急いでもと来た道を通る。

さっきまで頑丈で壊れそうでなかった遺跡がなぜ突然…


何とか崩れる前に脱出した二人。

ゼニス「はあ、はあ…間一髪…ソレイユ、平気か?」

ソレイユ「はぁっ、うん…大丈夫」

跡形もないな…と、崩れた遺跡の方を見る。

そこで、ソレイユに声をかけられた。

ソレイユ「ゼニス、誰かいる……」

ゼニス「え?」

慌てて飛び出してきた人だろうか。

ゼニス「……え…」

目の前に背を向いて立っている黒衣の男。

???「おーおー、無事だったか良かったなぁ?

中に人がいるなんて聞いてないぜ」

ゆっくりと振り返って言葉を発したその男。

その声に聞き覚えがあった。

ゼニスとソレイユ、二人とも。


???「お前の持ってるその指輪が目的だ。だから、それを渡してくれれば命は助けてやる」


???「……今ギルドに乗り込んだ女に用がある奴っていえばいいかぁ?

優柔不断な騎士様よぉ…」


ゼニス「あの時城を襲撃した奴か!」

ソレイユ「ぁ…あ…の時、村に来た…」

少し考えこんだ後、思い出したかのように反応する。

???「あーよく見たら優柔不断な騎士様と指輪の持ち主の女じゃねぇか!」

ゼニス「お前、誰だ! こっちの質問に全く答えないで!」

そう叫ぶと、黒衣を外した。

赤い装束に赤い髪をしたやつだ。



フェズ「俺はフェズ。四零士よんれいしって呼ばれてる。」

四零士…聞いた事が無い。いや、あるような気がするんだけど…

あれ、思い出せない。

ゼニス(記憶喪失だからな…知らないか…)

ソレイユ「ゼニス…四零士って…この世界の絵本に出て来る人だよ…」

ゼニス「は!? 絵本!?」

いや、落ち着け、絵本の中の登場人物を名乗っているだけかも…

フェズ「無視して話進めてんなよ…」

ゼニス「…ここに何をしに来た? 

口振りから、僕達がここに居る事は知らなかったみたいだし…」

そう言うとゼニスの事を…いや、その後ろにある遺跡の残骸を指さした。

フェズ「その遺跡の中にあった物を取りに来たのと、その遺跡をぶっ壊しに来た」

ソレイユ「ちょっ、と! 何してんの!?」

フェズ「必要だからだ。色々解読されちゃ困るし、こいつも奪われちゃ困んだよ」

フェズが見せたもの。赤い宝玉。恐らく最奥に嵌っていたものだ。

フェズ「これで帰って来いって言われてんだけど、お前がいるなら話は別だよなぁ!?」

フェズが見ているのは自分じゃない。ソレイユだ。

指輪の持ち主って言っていた。ソレイユが付けている指輪が狙いだ。

ゼニス「ソレイユ! 下がって!」

ソレイユ「だ、大丈夫! 私も戦えるよ、ゼニス!」

武器を構えてフェズの前に立つ。


フェズ「へぇー…やる気か? まあ、見逃す気もなかったけどな!」

フェズも剣のようだ。剣同士の戦いなら騎士の自分なら慣れている。

ゼニス「無明剣!!」

(先手必勝だ! とにかく相手よりも先に!)

キーンと剣同士のぶつかる音が響く。

でも、剣は弾けないし、相手もまだ余裕がありそうで。

フェズ「ダークアロー!」

ぶつかった剣から魔法が放たれる。

ゼニス「なっ!? 魔法!? なんで武器から!?」

フェズ「誰が物理しかないって言った? 俺の属性は闇属性。

俺達の武器は特殊でなぁ。武器から魔法を放つことも可能だ。お前らとは違ってな!」

今度はフェズがゼニスに斬りかかってきた。

ゼニス「ぐっ!」

(力が強い! 何者なんだ…!?)

ソレイユ「やああっ! 空天翔!!」

ゼニスとフェズの間に飛び掛かって引き離す。

そのまま連撃していくが、全てかわされる。

ゼニス「十字閃!!」

でも、ソレイユの方に気を取られている隙に十字に斬りつける。

フェズ「ちぃっ! さすが騎士隊長様だなぁ、やられそうだ…!」

嘘つけ、とは思ったが、言い争いをしている余裕はない。

ソレイユ「うるさい! よくも私の村を…そのままやられて!」

フェズ「俺がこの程度だと思ったか?」

そう言って剣を自身の前に構えた。

フェズ「俺は飢餓の能力を持つ紅零士…

飢えの痛みドロア・フェイムス!!」

そう唱えた途端、ゼニスとソレイユの真下から何か魔力が上がってきた。

その瞬間…

ゼニス「何、だ、これ…!?」

ソレイユ「力が…抜けるっ」

剣を持つ力が入らない。

ゼニスは立っているのが精いっぱい。ソレイユは立つ事さえ厳しかった。

フェズ「俺の能力スキルは生命力を喰らう。もう力が入らねぇだろ? そらっ!!」

ゼニス「がはっ!?」

ソレイユ「ゼニス!?」

ゼニスが壁に叩きつけられた。

フェズ「で、どーするよ。またこのパターンだな。

その指輪を寄越せば殺さねぇぞ?」

渡す以外に道は無い。けれど、それでも渡す気にはなれなくて…

ソレイユ「渡さない…村を滅ぼした貴方に渡す気なんて無い!」

フェズ「…いい加減気づけよ、命の方が大事だって」

不味い、このままじゃ、ソレイユが…

ゼニス「……っ」

(どうする…どうする…!? ギルドに連絡…間に合うか!?

逃げる…まともに立てないのに…!?

なら戦うか…無理だろう!? なら滑り込め、この二人の間に…!

自分が盾にさえなれば……!!)

ゼニス「ソレイユ!!!」

振り絞れる限りを尽くして二人の間に滑り込み、

弾かれる事を覚悟で剣を振るう。正直力なんてほぼ無かった…はずなのに…

カキーン…

フェズ「……!」

弾かれたのはフェズの剣の方。

ゼニス「栄華救世剣……!」

武器を持たないフェズに技を叩きこむ。

咄嗟に立ち退いたので、フェズは軽い傷で済んだ。

フェズ(何だ…今の…!)

ソレイユ「ゼニス……?」

ゼニス「……何だ、この力……あ、あれ…急に立っていられな…っ」

元々、走る事さえ厳しかったのを攻撃したのだ。無理もない。

まずい、ここで退いてくれなかったら…と思ったが、それは杞憂に終わる。

フェズ「……お前、なんでそこまで自己を犠牲にする?

そこまでして誰かを助けようとする?」

ゼニス「…大事な、仲間だからだ……! 目の前で誰かが傷つくのは見たくないからだ…!」

……

フェズ「それだけで能力を喰らっても俺に一撃入れるとはな……

お前はもちろん、そっちの女の連撃もいい動きしてた…。

ゼニス君、ソレイユちゃん。また会う事になるだろなぁ…

お前らの顔は覚えておくぜ……」

それだけ言い残して転移していった。

ソレイユ「ゼニス! 平気!?」

ゼニス「ちょっと…キツイかも…」

ギルドにすぐに連絡を入れて、歩く事もままならなかったので、

ここまでエーリカに迎えに来てもらった。バレヌとロココもギルド終わりで駆けつけてくれた。


食堂で休みがてらエーリカとアクバールに事の経緯を話した。

エーリカ「四零士ですか…童話の中の人物を名乗っていたと…」

アクバール「生命力を喰らう能力か…物騒だね…」

ソレイユ「あんなの喰らったら、ただ殴られただけでも瀕死になっちゃいます…」

……

ゼニス(でも、僕はフェズの剣を弾いて一撃を入れた。

馬鹿力って奴なのか……?)

アクバール「ゼニス君は、そいつに一撃入れたんだよね。

その技は今も使える?」

ゼニス「……いえ、やり方が分からないというか…

振り方が分からなくて…破れかぶれで偶然できた産物だったのかと…」

エーリカ「ソレイユさんを助けたいという一心でしょうか…」

重苦しい雰囲気だったので、マスターであるアクバールが手を叩いて切り上げる。

アクバール「まあ、古代文字の事とか、四零士って名乗る男の事とか、

奪われた宝玉の事についてはこっちでも調べてみるよ。

君達は今日はゆっくり休んで」

今日の所はゼニスとソレイユは部屋に戻る事になった。

情報も少ないため、後はマスター達に任せる形に。


某所。

???「おー? フェズお帰りー! どうだった?」

フェズ「指輪の持ち主のソレイユちゃんと、あの優柔不断な騎士様のゼニス君と会った。

けど…」

???「……どうしたの、その腕の傷…」

フェズ「…俺の能力スキルを喰らったゼニス君にやられた」

???「…あんたの能力を喰らったのに…?」

???「ちょっとちょっと凄いじゃん! あー、あたしも会ってこようかなぁ!」

フェズ「おい! ゼニス君は俺の獲物だからな!? 殺すなよ!?」

???「あんたのじゃないだろう。死んだらそこまでの奴だったってだけだ…」
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