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番外編11.とある日常の風景II(side香緒)
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「本当っっに、ありがとう!!」
夕方、予定通りに実家から帰ってきたさっちゃんは、玄関を開けるなり白い発泡スチロールの箱を差し出しながら頭を下げていた。
「これ、ほんの気持ちだから」
山陰地方の海沿いの実家に帰ってきた事から考えると、箱の中身は多分…。
「蟹!武琉君、これで香緒ちゃんに何か美味しいもの作ってあげて!」
「分かりました。ありがとうございます」
武琉は遠慮なくそれを受け取った。
かんちゃんは、やっぱりさっちゃんの事が一番で、玄関が開く前から興奮気味で吠えていて、さっちゃんが現れると飛びついていた。
「大変だったでしょ?武琉君、大丈夫だった?」
さっちゃんは、持って来た荷物を片付けながら僕に尋ねた。
「最初は威嚇したけど、後は大丈夫だったよ。今日もいっぱい遊んでご機嫌だったみたい」
「え?そんなにすぐ?睦月さんなんて、一か月ずっと吠えられっぱなしだったのに…」
さっちゃんが自分の旦那さん……僕が小さな頃から知るあの人、の名前を出し驚いているのを他所に、かんちゃんは目の前で楽しそうに走り回っている。
「そうならなくて良かったよ…」
苦笑いしながら僕が答えていると、武琉がケージを畳んで持って来た。
「ありがとう。じゃ帰るよ。かんちゃん!」
ワン!と返事をすると、さっちゃんの元に駆け寄り、リードをつけられる。結構な荷物だったけど、「下で睦月さん待ってくれてるから大丈夫だよ」とうちの玄関先で別れた。
パタンと、扉が閉まると急に火が消えたように静かになる。
なんだかちょっと…
と思っていると、後ろからそっと武琉に抱きしめられた。
「寂しい?」
肩越しに武琉が尋ねる。
「ちょっと、寂しいかな?」
正直にそう答えると、「俺はライバルが消えてホッとしてるよ」と笑う振動が背中に伝わって来た。
「アイツ、香緒しか見てないって言っただろ?」
「…う…。そうかも…知れないけど。ライバルって」
「やっと香緒を独占出来る…」
そう言いながら、武琉は僕の耳にチュッと音を立ててキスをする。
「僕も…やっと武琉を独占出来るよ」
僕はクルリと前を向くと、そう言って武琉の頰にキスをした。
武琉は嬉しそうに笑うと、「さ、夕飯の用意しようか。蟹、楽しみにしといてくれ」と唇に軽く触れるようにキスを落とした。
──その日の夜は、蟹のたっぷり入ったパスタを美味しくいただいて、僕は武琉に美味しくいただかれたのは、言うまでもなかった。
Fin
夕方、予定通りに実家から帰ってきたさっちゃんは、玄関を開けるなり白い発泡スチロールの箱を差し出しながら頭を下げていた。
「これ、ほんの気持ちだから」
山陰地方の海沿いの実家に帰ってきた事から考えると、箱の中身は多分…。
「蟹!武琉君、これで香緒ちゃんに何か美味しいもの作ってあげて!」
「分かりました。ありがとうございます」
武琉は遠慮なくそれを受け取った。
かんちゃんは、やっぱりさっちゃんの事が一番で、玄関が開く前から興奮気味で吠えていて、さっちゃんが現れると飛びついていた。
「大変だったでしょ?武琉君、大丈夫だった?」
さっちゃんは、持って来た荷物を片付けながら僕に尋ねた。
「最初は威嚇したけど、後は大丈夫だったよ。今日もいっぱい遊んでご機嫌だったみたい」
「え?そんなにすぐ?睦月さんなんて、一か月ずっと吠えられっぱなしだったのに…」
さっちゃんが自分の旦那さん……僕が小さな頃から知るあの人、の名前を出し驚いているのを他所に、かんちゃんは目の前で楽しそうに走り回っている。
「そうならなくて良かったよ…」
苦笑いしながら僕が答えていると、武琉がケージを畳んで持って来た。
「ありがとう。じゃ帰るよ。かんちゃん!」
ワン!と返事をすると、さっちゃんの元に駆け寄り、リードをつけられる。結構な荷物だったけど、「下で睦月さん待ってくれてるから大丈夫だよ」とうちの玄関先で別れた。
パタンと、扉が閉まると急に火が消えたように静かになる。
なんだかちょっと…
と思っていると、後ろからそっと武琉に抱きしめられた。
「寂しい?」
肩越しに武琉が尋ねる。
「ちょっと、寂しいかな?」
正直にそう答えると、「俺はライバルが消えてホッとしてるよ」と笑う振動が背中に伝わって来た。
「アイツ、香緒しか見てないって言っただろ?」
「…う…。そうかも…知れないけど。ライバルって」
「やっと香緒を独占出来る…」
そう言いながら、武琉は僕の耳にチュッと音を立ててキスをする。
「僕も…やっと武琉を独占出来るよ」
僕はクルリと前を向くと、そう言って武琉の頰にキスをした。
武琉は嬉しそうに笑うと、「さ、夕飯の用意しようか。蟹、楽しみにしといてくれ」と唇に軽く触れるようにキスを落とした。
──その日の夜は、蟹のたっぷり入ったパスタを美味しくいただいて、僕は武琉に美味しくいただかれたのは、言うまでもなかった。
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