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番外編11.とある日常の風景II(side香緒)
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「本当に可愛かった~!」
夕方6時。
夕食時には少し早いこの時間に2人でご飯を食べるのもすっかり日常になった。
仕事で嫌って言うほど料理をみているはずの武琉だけど、まだ2年目の職場では、まだまだ下っ端で思うように料理することはできないらしい。
だからか、帰ってからは思う存分料理出来ると毎日美味しいご飯を食べさせてくれる。
「そんなに可愛かったんだ…」
目の前でお茶碗とお箸を持ったまま、最後に「いいなぁ…」と付け加えて武琉は言った。
今日は昼間、響に久しぶりに会いに行った。
子猫飼い始めたって聞いて、いてもたってもいられなくて、ずっと見に行きたかったけど、ようやく響のオフにタイミングを合わすことが出来た。
「ハナちゃんって言うんだけど、もう響がメロメロでさ~。あんな顔ファンには見せられないよ!」
この頃の響は、すっかり若手実力派俳優と呼ばれ出していて、ドラマに映画に忙しくしている。
今度も、本格的な時代劇の映画を撮るから殺陣の練習をしていると言っていた。
でも可愛い愛猫の前では、希海の前でも見せないくらいにデレデレで、正直希海の心情を察すると、気の毒にもなった。
「可愛いけど、うちで飼うのは難しいよねぇ…」
今日のメインである鯖の煮付けをつつきながら、僕はそう言った。
「なんで?」
武琉が不思議そうに僕に言う。
「えー…だって、自分の事でいっぱいいっぱいなのに、それ以外の世話を責任持ってするなんて、自信ないしなぁ…」
そう言ってから鯖を口にすると、醤油ベースに生姜の風味が広がって、すぐに白米が食べたくなった。
「俺も動物は飼ったことないし、自信ないかも。ただ可愛いだけじゃダメだし」
「だよね~。まあ、ハナちゃんも、実質は希海が世話してそうだしなぁ。なんだかんだで面倒見いいから」
武琉は、僕がそう言うのに同意するように大きく頷くとお味噌汁を啜った。
けどその時の僕達は、後にあんな事が起こるなんて思ってもいなかった。
◆◆
「本当に本当にごめんね!香緒ちゃん!」
うちのマンションのリビングで、平身低頭の勢いで謝っているのは、僕がモデルとして再出発した頃からヘアメイクを担当してくれている、さっちゃんこと咲月ちゃんだ。
急遽実家に帰る事になったのだが、ペットホテルが見つからず、彼女の愛犬を預かって欲しいと僕に泣きついてきたのだ。
もちろん、何度かさっちゃんの家には遊びに行った事があって、行くと尻尾を振って駆けてきてくれる可愛い存在だ。
「これがフードで、これがおやつ。あと玩具とトイレ…」
そう言ってさっちゃんは次々と大きな袋から取り出している。
2泊3日だけど、流石に大荷物だ。
「わかった。なんとか頑張るよ。何かあったら連絡するし、さっちゃんはゆっくりして来て」
「ありがとう、香緒ちゃん~!武琉君にもよろしく言っといてね!」
さっちゃんは、僕達の結婚式でヘアメイクもしてくれて、事情を知ってくれている一人だ。
僕の一つ下で、ちっちゃくて可愛らしい彼女は、一児の母でもある。
「かんちゃん。香緒ちゃんに迷惑かけちゃダメだからね!」
そう言って、彼女に向かってブンブン尻尾を振ったままの愛犬の頭を撫でて、さっちゃんは去っていった。
「じゃあ、かんちゃん。これからしばらくよろしくね」
僕がそう言うと、彼は『分かった!』と言いたげな顔でこちらを見上げて、「ワンっ!」と吠えた。
明るい栗色の毛並みに、長い胴体と短い足。
愛嬌のあるこのミニチュアダックスの名前の由来は、10月生まれだから『神無月』で、かんちゃん、だそうだ。
今年4歳になる元気一杯の男の子。
飼い主のさっちゃんが居なくなって、玄関先で、キュンキュン鳴くから、気を紛らわそうと、袋から玩具を取り出し鳴らしてみた。
すると、『何?』と振り返ってこっちにやって来た。
「かんちゃん。ほら、一緒に遊ぼ?」
そう言って僕は持っていたボールを転がした。
夕方6時。
夕食時には少し早いこの時間に2人でご飯を食べるのもすっかり日常になった。
仕事で嫌って言うほど料理をみているはずの武琉だけど、まだ2年目の職場では、まだまだ下っ端で思うように料理することはできないらしい。
だからか、帰ってからは思う存分料理出来ると毎日美味しいご飯を食べさせてくれる。
「そんなに可愛かったんだ…」
目の前でお茶碗とお箸を持ったまま、最後に「いいなぁ…」と付け加えて武琉は言った。
今日は昼間、響に久しぶりに会いに行った。
子猫飼い始めたって聞いて、いてもたってもいられなくて、ずっと見に行きたかったけど、ようやく響のオフにタイミングを合わすことが出来た。
「ハナちゃんって言うんだけど、もう響がメロメロでさ~。あんな顔ファンには見せられないよ!」
この頃の響は、すっかり若手実力派俳優と呼ばれ出していて、ドラマに映画に忙しくしている。
今度も、本格的な時代劇の映画を撮るから殺陣の練習をしていると言っていた。
でも可愛い愛猫の前では、希海の前でも見せないくらいにデレデレで、正直希海の心情を察すると、気の毒にもなった。
「可愛いけど、うちで飼うのは難しいよねぇ…」
今日のメインである鯖の煮付けをつつきながら、僕はそう言った。
「なんで?」
武琉が不思議そうに僕に言う。
「えー…だって、自分の事でいっぱいいっぱいなのに、それ以外の世話を責任持ってするなんて、自信ないしなぁ…」
そう言ってから鯖を口にすると、醤油ベースに生姜の風味が広がって、すぐに白米が食べたくなった。
「俺も動物は飼ったことないし、自信ないかも。ただ可愛いだけじゃダメだし」
「だよね~。まあ、ハナちゃんも、実質は希海が世話してそうだしなぁ。なんだかんだで面倒見いいから」
武琉は、僕がそう言うのに同意するように大きく頷くとお味噌汁を啜った。
けどその時の僕達は、後にあんな事が起こるなんて思ってもいなかった。
◆◆
「本当に本当にごめんね!香緒ちゃん!」
うちのマンションのリビングで、平身低頭の勢いで謝っているのは、僕がモデルとして再出発した頃からヘアメイクを担当してくれている、さっちゃんこと咲月ちゃんだ。
急遽実家に帰る事になったのだが、ペットホテルが見つからず、彼女の愛犬を預かって欲しいと僕に泣きついてきたのだ。
もちろん、何度かさっちゃんの家には遊びに行った事があって、行くと尻尾を振って駆けてきてくれる可愛い存在だ。
「これがフードで、これがおやつ。あと玩具とトイレ…」
そう言ってさっちゃんは次々と大きな袋から取り出している。
2泊3日だけど、流石に大荷物だ。
「わかった。なんとか頑張るよ。何かあったら連絡するし、さっちゃんはゆっくりして来て」
「ありがとう、香緒ちゃん~!武琉君にもよろしく言っといてね!」
さっちゃんは、僕達の結婚式でヘアメイクもしてくれて、事情を知ってくれている一人だ。
僕の一つ下で、ちっちゃくて可愛らしい彼女は、一児の母でもある。
「かんちゃん。香緒ちゃんに迷惑かけちゃダメだからね!」
そう言って、彼女に向かってブンブン尻尾を振ったままの愛犬の頭を撫でて、さっちゃんは去っていった。
「じゃあ、かんちゃん。これからしばらくよろしくね」
僕がそう言うと、彼は『分かった!』と言いたげな顔でこちらを見上げて、「ワンっ!」と吠えた。
明るい栗色の毛並みに、長い胴体と短い足。
愛嬌のあるこのミニチュアダックスの名前の由来は、10月生まれだから『神無月』で、かんちゃん、だそうだ。
今年4歳になる元気一杯の男の子。
飼い主のさっちゃんが居なくなって、玄関先で、キュンキュン鳴くから、気を紛らわそうと、袋から玩具を取り出し鳴らしてみた。
すると、『何?』と振り返ってこっちにやって来た。
「かんちゃん。ほら、一緒に遊ぼ?」
そう言って僕は持っていたボールを転がした。
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