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番外編4. (希海&響編) The Heart Asks Pleasure First
side希海1-4
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人の間を縫いながら、リュックを上下させて響が走ってくるのが見えた。人の邪魔にならないよう歩道の隅によると、俺めがけて真っ直ぐに走ってきた。
「……追いつけたっっ」
はぁはぁと肩で息をしながら響は立ち止まる。柔らかそうな茶色の髪が風に煽られ所々跳ねていた。
「今日で最後だって聞いて。間に合ってよかった」
まだ少し呼吸を乱しながら響はそう言った。
「あぁ。今日で最後だ。世話になったな」
「世話になったのはこっちだよ! ……なあ、ちょっとだけ一緒に歩いてもいいか?」
「パーキングまででよかったら」
車を停めたパーキングはすぐそこで、一緒に歩いたのはほんの束の間だった。響は俺の背中を追いかけるように無言で後ろに続いて歩いている。狭いパーキングの一番奥に止めてある自分の車まで辿り着くと、助手席を開け荷物を置いた。俺がそうしている間、響はずっと無言で俯いていた。
「どうした?」
車のドアを閉めて響に向かい合い、頭をくしゃくしゃに撫でてやる。
「なあ、しばらく海外行くんだろ? スタッフから聞いた」
「あぁ、もう数日後には立つよ」
頭から手を下ろしそう答えた。その答えを聞いて顔を上げた響の瞳には影がさしているように見えた。
「また会える……かな?」
その顔に、昔の出来事が頭をよぎる。突然別れを余儀なくされた武琉を思い出し、胸が痛くなる。
「お互いこの業界にいれば、いつか会うこともあるかもな」
今はそれが精一杯の答えだ。お前だけを撮りたい気持ちは嘘じゃない。でも、この前の公園での約束を今は後悔していた。俺は知っているから。果たせなかった約束の成れの果てを。
「そっか。そうだよな」
そう言って響はぎこちない笑顔を作った。
「その日を楽しみにしている。……じゃあ」
「……うん」
俺は響を一人置いたまま、車を発進させた。うしろは……振り向けなかった。
「……追いつけたっっ」
はぁはぁと肩で息をしながら響は立ち止まる。柔らかそうな茶色の髪が風に煽られ所々跳ねていた。
「今日で最後だって聞いて。間に合ってよかった」
まだ少し呼吸を乱しながら響はそう言った。
「あぁ。今日で最後だ。世話になったな」
「世話になったのはこっちだよ! ……なあ、ちょっとだけ一緒に歩いてもいいか?」
「パーキングまででよかったら」
車を停めたパーキングはすぐそこで、一緒に歩いたのはほんの束の間だった。響は俺の背中を追いかけるように無言で後ろに続いて歩いている。狭いパーキングの一番奥に止めてある自分の車まで辿り着くと、助手席を開け荷物を置いた。俺がそうしている間、響はずっと無言で俯いていた。
「どうした?」
車のドアを閉めて響に向かい合い、頭をくしゃくしゃに撫でてやる。
「なあ、しばらく海外行くんだろ? スタッフから聞いた」
「あぁ、もう数日後には立つよ」
頭から手を下ろしそう答えた。その答えを聞いて顔を上げた響の瞳には影がさしているように見えた。
「また会える……かな?」
その顔に、昔の出来事が頭をよぎる。突然別れを余儀なくされた武琉を思い出し、胸が痛くなる。
「お互いこの業界にいれば、いつか会うこともあるかもな」
今はそれが精一杯の答えだ。お前だけを撮りたい気持ちは嘘じゃない。でも、この前の公園での約束を今は後悔していた。俺は知っているから。果たせなかった約束の成れの果てを。
「そっか。そうだよな」
そう言って響はぎこちない笑顔を作った。
「その日を楽しみにしている。……じゃあ」
「……うん」
俺は響を一人置いたまま、車を発進させた。うしろは……振り向けなかった。
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