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番外編4. (希海&響編) The Heart Asks Pleasure First
side希海1-1
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その頃の俺は、まだカメラマンとして独り立ちする前で、司の助手をしながら撮影手法の勉強をしていた。
その日も助手と言うよりただの打ち合わせの運転手兼付き添い。
人気のある男性アイドルを輩出する事務所に「お前も来い」の一言で連れて来られた。
響が目に入ったのは偶然だった。たまたま案内される途中にあったレッスン場。中にはアイドルを目指す者たちが、真剣にダンスに取り組んでいた。
あいつ……なんであんな顔してるんだ?
顔は笑顔。でも、一生懸命に無理矢理笑顔作ってますと言うのがありありと見て取れた。
アイドル、目指してるんだよな?
何故か興味を惹かれてつい眺めていたのは自覚している。でも、まさか本人に気付かれているとは思わなかった。
廊下で声を掛けられ、俺は思っていた事を口に出す。
「……やけに楽しくなさそうに踊るんだなと思って」
もともと口下手で、お世辞など言えない達だ。これで相手が怒っても仕方ない。だが、ムッとした顔を見せたものの怒る事はなく、響は俺が何者か尋ねて来た。
何か、面白いヤツだ。
その時俺はそう思った。
◆◆
その後、司はその仕事を放棄した。「変わりはお前がやれ」と言い残し消えたのだ。
寝耳に水とはまさにこの事で、途方に暮れる暇もなくクライアントと相談し、元の企画を変更した。幸いな事に、事務所側は快く変更に応じてくれた。
ただ一つ良かったのは、また響の姿が見れる。ただそれだけだった。ようやく響のレッスンを撮影出来たのは、4日目の事だった。
事務所のスタッフから「今日は演技のレッスンに入るんですね。このレッスン1、2を争う位厳しいんですよ。嫌がるコも多いからいい写真撮れるか…」と事前に話を聞いた。
俺は別にアイドルらしい写真ばかり撮りたいわけじゃない。アイドルだって人間。いろんな顔を持っている。俺はそれが見たかった。
レッスンは確かに今まで入ったどれよりも厳しかった。ダンスや歌の時は意気揚々と参加していた奴も、講師からダメ出し悔しさを滲ませている。そんな人間臭い部分が垣間見え、なかなか撮影のしがいがあった。
そして響は、ダンスの時に見せていた『無理をして作った自分』など微塵も見せず、本当に自然に演技していた。
あぁ、これが本当の姿か。
カメラを通して見る響はとても生き生きしていて、俺には輝いて見えた。
一通りレッスンも終わり、講師からの講評が伝えられていた時、ポケットに入れていたスマホが震えた。
取り出して確認すると、事務所と表示されている。あまり連絡してくる事のない事務所からの電話に、急用なのかとレッスン場を抜け出した。
「どう言う事ですか?」
電話で伝えられた内容に思わずそう聞き返す。
『本当に急で悪いんだけど、今の企画終わったらすぐニューヨークの仕事に入って欲しいんだ。司君が是非希海君にって』
「それは……もともと司の受けた仕事だったはずですよね」
『あーそうなんだけど……』
電話の向こうで歯切れの悪い答えが返ってくる。
ずっと司の様子がおかしいのは何となく気付いていた。あいつは……逃げたのだ。自分と向き合うことから。
「わかりました。詳細はまた送って下さい」
そう言って電話を切る。
廊下の向こうではレッスンが終わったのか、人の出てくる気配がした。響に声をかけてやりたい。
そう思い、目の前の自動販売機で飲みものを買うと、レッスン場に戻った。
その日も助手と言うよりただの打ち合わせの運転手兼付き添い。
人気のある男性アイドルを輩出する事務所に「お前も来い」の一言で連れて来られた。
響が目に入ったのは偶然だった。たまたま案内される途中にあったレッスン場。中にはアイドルを目指す者たちが、真剣にダンスに取り組んでいた。
あいつ……なんであんな顔してるんだ?
顔は笑顔。でも、一生懸命に無理矢理笑顔作ってますと言うのがありありと見て取れた。
アイドル、目指してるんだよな?
何故か興味を惹かれてつい眺めていたのは自覚している。でも、まさか本人に気付かれているとは思わなかった。
廊下で声を掛けられ、俺は思っていた事を口に出す。
「……やけに楽しくなさそうに踊るんだなと思って」
もともと口下手で、お世辞など言えない達だ。これで相手が怒っても仕方ない。だが、ムッとした顔を見せたものの怒る事はなく、響は俺が何者か尋ねて来た。
何か、面白いヤツだ。
その時俺はそう思った。
◆◆
その後、司はその仕事を放棄した。「変わりはお前がやれ」と言い残し消えたのだ。
寝耳に水とはまさにこの事で、途方に暮れる暇もなくクライアントと相談し、元の企画を変更した。幸いな事に、事務所側は快く変更に応じてくれた。
ただ一つ良かったのは、また響の姿が見れる。ただそれだけだった。ようやく響のレッスンを撮影出来たのは、4日目の事だった。
事務所のスタッフから「今日は演技のレッスンに入るんですね。このレッスン1、2を争う位厳しいんですよ。嫌がるコも多いからいい写真撮れるか…」と事前に話を聞いた。
俺は別にアイドルらしい写真ばかり撮りたいわけじゃない。アイドルだって人間。いろんな顔を持っている。俺はそれが見たかった。
レッスンは確かに今まで入ったどれよりも厳しかった。ダンスや歌の時は意気揚々と参加していた奴も、講師からダメ出し悔しさを滲ませている。そんな人間臭い部分が垣間見え、なかなか撮影のしがいがあった。
そして響は、ダンスの時に見せていた『無理をして作った自分』など微塵も見せず、本当に自然に演技していた。
あぁ、これが本当の姿か。
カメラを通して見る響はとても生き生きしていて、俺には輝いて見えた。
一通りレッスンも終わり、講師からの講評が伝えられていた時、ポケットに入れていたスマホが震えた。
取り出して確認すると、事務所と表示されている。あまり連絡してくる事のない事務所からの電話に、急用なのかとレッスン場を抜け出した。
「どう言う事ですか?」
電話で伝えられた内容に思わずそう聞き返す。
『本当に急で悪いんだけど、今の企画終わったらすぐニューヨークの仕事に入って欲しいんだ。司君が是非希海君にって』
「それは……もともと司の受けた仕事だったはずですよね」
『あーそうなんだけど……』
電話の向こうで歯切れの悪い答えが返ってくる。
ずっと司の様子がおかしいのは何となく気付いていた。あいつは……逃げたのだ。自分と向き合うことから。
「わかりました。詳細はまた送って下さい」
そう言って電話を切る。
廊下の向こうではレッスンが終わったのか、人の出てくる気配がした。響に声をかけてやりたい。
そう思い、目の前の自動販売機で飲みものを買うと、レッスン場に戻った。
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