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番外編12.next Stage
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僕の元までやって来ると、はーちゃんは上機嫌で椅子がわりに僕の膝に乗る。それを見届けたかんちゃんは、武琉の元へ行き、尻尾を振りながら脚を膝に乗せていた。
「お茶、入ったよ」
「あ、俺運ぶよ」
トレーを持ったさっちゃんが現れると、睦月君はすぐに立ち上がりさっちゃんの元へ行く。元々細いさっちゃんのお腹は、まだ7ヶ月目だと言うのにはち切れそうで見ていてヒヤヒヤする。でもさっちゃんは、『まだまだ動けるから大丈夫だよ?』なんて言って、お母さんらしい顔で笑っていた。そして、睦月君もそんな愛妻のさっちゃんと、可愛い愛娘にデレデレだ。らしいと言えばらしいけど。
「はーちゃんも、かんちゃんも、よかったね。遊んでもらって」
「僕が遊んであげてるて言うか、もらってる、のほうが正しいかもね」
笑顔のさっちゃんに、僕も笑顔で返す。僕の膝の上には、隣で武琉と遊んでいるかんちゃんを見てキャッキャっと嬉しそうに声を上げバウンドしているはーちゃん。
「かんちゃん、武琉君に慣れてるねぇ」
そう言いながら、睦月君は向こう側のテーブルにカップを並べている。
「一応覚えてくれてたみたいです。前は凄く吠えられたんですが」
武琉はかんちゃんが運んできたオモチャを引っ張り合いながら答える。少し前に、うちでかんちゃんを数日預かったことがある。僕は何度かこの家に訪れたことがあってかんちゃんとは顔見知りだったけど、武琉とはほぼ初対面。最初こそ吠えられてた武琉だったけどすぐに慣れて、一緒にドッグランへ遊びに行った仲だ。
「ちょっと羨ましい。俺なんかさぁ……」
そう言って数年前の睦月君とかんちゃんの攻防戦を聞きながら、僕たちはさっちゃんの淹れてくれた紅茶をいただいた。
僕がひとしきり笑っていると、お疲れ様会最後の参加者がやってきた。今回はゲストも込みだ。
「……香緒、どうした?」
リビングに入ってくるなり、不審そうに顔を顰めて言う希海に、僕は「なんでもないよ? 仕事、お疲れ様」と涙を浮かべたまま返す。
毎年お疲れ様会は、僕たち3人の仕事が最後の日を選んでしているけど、今年はさっちゃんに自分の家でしたいと提案されて、みなの都合に合わせて今日になった。
「お招きありがとうございまーす!」
希海のあとに勢いよく入ってきたのは響だ。さっちゃんが気を利かせて招待してくれ、響は二つ返事でスケジュールを調整してくれたのだ。
僕の、最後のお疲れ様会のために。
今日は僕が料理、希海が飲み物を用意した。さっちゃんには何もしなくていいからね、と言ってあったけど、デザートを用意してくれていた。
料理は、武琉が忙しい仕事の合間に作ってくれていた日持ちするものに、デパ地下で買ってきたサラダなどのお惣菜。
飲み物は、希海厳選のお酒と、飲めないさっちゃんのためのフルーツジュースだ。
それもなくなりかけたころ、僕はあえて皆が触れないことに自分から触れてみた。
「この会も今年で終わりかぁ……。楽しかったなぁ」
暗くならないよう明るくそう言う。
「そう……だね。凄く楽しかったよ! 私、一生忘れない」
真っ先にそう言って、一瞬暗くなった顔を笑顔に変えたのはさっちゃんだ。
「俺もさ、こうやって仲間に入れてもらえて嬉しかったな。ほら、一昨年のこと、覚えてる?」
睦月君は穏やかな笑みを浮かべてそう言った。
睦月君がこの会に初めて参加したのは、ニューヨークから帰って来た年。まだたったの3年しか経ってないのに、その時はまだ付き合うどころか告白すらしてなかったさっちゃんと結婚して、子どもまでいるんだから人生って何があるかわからない。
そしてそのとき、僕は酔いに任せて皆と賭けをした。1年後、睦月君が結婚してるかどうか。僕と武琉は『してる』に賭け、希海とさっちゃんは『してない』に賭けた。結果、勝ったのは僕たちで、希海とさっちゃんがお疲れ様会を催すことになったのだ。それが一昨年。
「もちろん! なんか、お疲れ様会って言うか、睦月君たちの結婚祝い兼盛大な忘年会だったよね」
「あれなぁ、ホント、何の会かわからなかったよな」
「確かに」
それに参加した響も、その時を思い出しているのか、しみじみとそう言い、希海もそれに頷いている。
その時の会のお店は、さっちゃんが選んだのだけど、費用は全部持つと引かない希海に遠慮して、さっちゃんの知人の店になったのだ。
最初はいつも通りのお疲れ様会メンバーでするはずだったけど、お祝いも兼ねてあっちこっちに声を掛けた結果、出入り自由の忘年会になってしまった。
「あれだけは絶対忘れないよ。未だに奈々美ちゃんに一生の思い出だって言われるもの」
その時貸し切った店は、さっちゃんの弟さんの奥さんの叔父の店だ。ちょうど遊びに来ていた弟さんたちは飛び入り参加し、今では義妹となった奈々美ちゃんは僕のファンだったと、泣いて喜んでくれたのだった。
「それを言うならさ」
今度は響がそう切り出した。
「お茶、入ったよ」
「あ、俺運ぶよ」
トレーを持ったさっちゃんが現れると、睦月君はすぐに立ち上がりさっちゃんの元へ行く。元々細いさっちゃんのお腹は、まだ7ヶ月目だと言うのにはち切れそうで見ていてヒヤヒヤする。でもさっちゃんは、『まだまだ動けるから大丈夫だよ?』なんて言って、お母さんらしい顔で笑っていた。そして、睦月君もそんな愛妻のさっちゃんと、可愛い愛娘にデレデレだ。らしいと言えばらしいけど。
「はーちゃんも、かんちゃんも、よかったね。遊んでもらって」
「僕が遊んであげてるて言うか、もらってる、のほうが正しいかもね」
笑顔のさっちゃんに、僕も笑顔で返す。僕の膝の上には、隣で武琉と遊んでいるかんちゃんを見てキャッキャっと嬉しそうに声を上げバウンドしているはーちゃん。
「かんちゃん、武琉君に慣れてるねぇ」
そう言いながら、睦月君は向こう側のテーブルにカップを並べている。
「一応覚えてくれてたみたいです。前は凄く吠えられたんですが」
武琉はかんちゃんが運んできたオモチャを引っ張り合いながら答える。少し前に、うちでかんちゃんを数日預かったことがある。僕は何度かこの家に訪れたことがあってかんちゃんとは顔見知りだったけど、武琉とはほぼ初対面。最初こそ吠えられてた武琉だったけどすぐに慣れて、一緒にドッグランへ遊びに行った仲だ。
「ちょっと羨ましい。俺なんかさぁ……」
そう言って数年前の睦月君とかんちゃんの攻防戦を聞きながら、僕たちはさっちゃんの淹れてくれた紅茶をいただいた。
僕がひとしきり笑っていると、お疲れ様会最後の参加者がやってきた。今回はゲストも込みだ。
「……香緒、どうした?」
リビングに入ってくるなり、不審そうに顔を顰めて言う希海に、僕は「なんでもないよ? 仕事、お疲れ様」と涙を浮かべたまま返す。
毎年お疲れ様会は、僕たち3人の仕事が最後の日を選んでしているけど、今年はさっちゃんに自分の家でしたいと提案されて、みなの都合に合わせて今日になった。
「お招きありがとうございまーす!」
希海のあとに勢いよく入ってきたのは響だ。さっちゃんが気を利かせて招待してくれ、響は二つ返事でスケジュールを調整してくれたのだ。
僕の、最後のお疲れ様会のために。
今日は僕が料理、希海が飲み物を用意した。さっちゃんには何もしなくていいからね、と言ってあったけど、デザートを用意してくれていた。
料理は、武琉が忙しい仕事の合間に作ってくれていた日持ちするものに、デパ地下で買ってきたサラダなどのお惣菜。
飲み物は、希海厳選のお酒と、飲めないさっちゃんのためのフルーツジュースだ。
それもなくなりかけたころ、僕はあえて皆が触れないことに自分から触れてみた。
「この会も今年で終わりかぁ……。楽しかったなぁ」
暗くならないよう明るくそう言う。
「そう……だね。凄く楽しかったよ! 私、一生忘れない」
真っ先にそう言って、一瞬暗くなった顔を笑顔に変えたのはさっちゃんだ。
「俺もさ、こうやって仲間に入れてもらえて嬉しかったな。ほら、一昨年のこと、覚えてる?」
睦月君は穏やかな笑みを浮かべてそう言った。
睦月君がこの会に初めて参加したのは、ニューヨークから帰って来た年。まだたったの3年しか経ってないのに、その時はまだ付き合うどころか告白すらしてなかったさっちゃんと結婚して、子どもまでいるんだから人生って何があるかわからない。
そしてそのとき、僕は酔いに任せて皆と賭けをした。1年後、睦月君が結婚してるかどうか。僕と武琉は『してる』に賭け、希海とさっちゃんは『してない』に賭けた。結果、勝ったのは僕たちで、希海とさっちゃんがお疲れ様会を催すことになったのだ。それが一昨年。
「もちろん! なんか、お疲れ様会って言うか、睦月君たちの結婚祝い兼盛大な忘年会だったよね」
「あれなぁ、ホント、何の会かわからなかったよな」
「確かに」
それに参加した響も、その時を思い出しているのか、しみじみとそう言い、希海もそれに頷いている。
その時の会のお店は、さっちゃんが選んだのだけど、費用は全部持つと引かない希海に遠慮して、さっちゃんの知人の店になったのだ。
最初はいつも通りのお疲れ様会メンバーでするはずだったけど、お祝いも兼ねてあっちこっちに声を掛けた結果、出入り自由の忘年会になってしまった。
「あれだけは絶対忘れないよ。未だに奈々美ちゃんに一生の思い出だって言われるもの」
その時貸し切った店は、さっちゃんの弟さんの奥さんの叔父の店だ。ちょうど遊びに来ていた弟さんたちは飛び入り参加し、今では義妹となった奈々美ちゃんは僕のファンだったと、泣いて喜んでくれたのだった。
「それを言うならさ」
今度は響がそう切り出した。
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