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番外編12.next Stage
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高級旅館並みの見事な朝食を前に、みんなで手を合わせると、響は早速箸を持ち上げた。
「うめぇ! 最高!」
出汁をたっぷり含んだ出汁巻き卵を口に放り込むと、響はそんな声を上げる。
「それなら……よかった」
武琉は少し笑みを浮かべて、そう呟くように言う。
武琉は学校に通い始めて、よりいっそう腕を上げた。今はとにかく料理することが楽しいみたいで、習ったことの復習とばかりに家で披露してくれていた。
「そう言やさ。さっきの続き」
しばらく取り留めもない話をしながらご飯を食べ進めていると、唐突に響がそう言う。
「続き?」
何の話だっけ?と僕は響に尋ねる。
「ほら。ハンバーグ!」
「あぁ……」
そう言えば何か言いかけてたっけ、と思い出す。
「この前さ、撮影の合間にたまたま近くにあった店に入ったんだけどさ」
そう言うと、一旦味噌汁を啜ってから響はまた続けた。
「うちのに味が超似てた。もちろんすっげー美味かったんだけどさ」
響はもうすっかり、武琉のご飯を『うち』のと言うようになっていた。それをかなり前指摘すると、『うるさいなぁ。いいだろ? 別に』なんて照れ隠しのようにそんなことを言っていた。
「へぇ……。有名な店?」
「いや? なんかまだできて間もないって。そのときネットで調べても出てこなかったし」
「素人の俺の料理とプロが似てるって……失礼だろ」
武琉は隣で少し眉を顰めて言っている。ちょっと恥ずかしいみたいだ。
「いや、だって似てたしさ。食べに行ってみりゃいいじゃん。お盆にやってるか知らねーけど」
響は武琉のことを見ることなく、必死に金平の蓮根を摘んでは口に入れている。
「響がそこまで言うなら気になるよね。なんだかんだで一番味にはうるさいし」
隣で茶碗を持ち上げたままポカンとしている武琉のほうを向きそう言うと、武琉は「まぁ、確かに」と返した。
希海も僕も、意外と味にこだわりはなくって、食べられるものはなんでも有り難くいただくほうだと思う。響は、こだわりと言うか、合わなければはっきりと『マズイ』と言うほうだ。けれどそのぶん、美味しいものは素直に美味しいと言うし、味覚はいいと思う。
「じゃあ、行ってみる?」
「そうだな。香緒さえよければ」
「いいに決まってるでしょ? ついでにデートしようね?」
笑顔でそう言うと、武琉は顔を和らげて頷いた。
◆◆
「本当に……。ここ、かなぁ?」
スマホに表示した地図を確認し、周りをキョロキョロと確かめて、間違いないと思っても不安になる。
響から聞いた店に早速足を運んだわけだけど、下町にある有名観光地から歩いて来た先は、住宅街だった。確かに響からは『こんなところに店あんの? って思うような場所だった』とは聞いていた。けど、想像以上に家しかなくて、本当に大丈夫なのかと思ってしまう。
「もしかして……。あれか?」
少し先の角。普通の家にも見えるその建物から2人ほど人が出てくるのが見えた。
「そうかも。店は開いてそうだね」
見せてもらったショップカードで調べてみても、なかなか情報は少なく、お盆の最中にやっているのかわからなかった。わかっているのは、お昼の営業が15時までで、14時半にはラストオーダーらしい、ってことだった。
今は14時過ぎ。朝が遅めだったから、腹ごなしに武琉が行ったことがないと言う下町巡りをしてみた。
僕たちは有名な大きな赤い提灯のあるお寺やその周りを散策した。食べ歩きはさすがにあとでご飯を食べるからできなかったけど、甘味処でかき氷を食べたり、お土産物屋さんを見て回ったりして楽しんだ。
武琉は、いつも僕が連れて行く場所を素直に楽しみ、喜んでくれる。
僕が『武琉はどこか行きたいところ、ないの?』と聞いたら『俺はそう世の中のことを知らないから、香緒が教えてくれるのが嬉しい』なんて返ってきた。僕だって、そんなに知っているわけじゃないし、誰かとどこかへ行って散策するだけで楽しい、と思うことなんて、そうそう無かった。
だから一緒に、こうして小さな日常を楽しめることが、とてつもなく幸せだと感じていた。
目の前のお店はフレンチカントリー調の可愛らしい外観。入り口の横には控えめにグリーンが飾られ、小さなプレートにメニューが表示されていた。
「いらっしゃいませ」
扉を開けると、僕より少し上に見える女性が明るい表情で声を掛けてくれた。
店内はそう広くない。4人掛けのテーブルが6つ。ナチュラルな木製のもので、赤いギンガムチェックのテーブルクロスがかかっている。時間も時間だからか、先客は一組だ。年配のご夫婦が、窓際の明るい席で穏やかに食事をしているのが見えた。
なんか……。いいな。
そんなことを思って武琉の顔を見ると、同じように思ったのか武琉も柔らかな笑みを浮かべて僕を見てくれた。
「うめぇ! 最高!」
出汁をたっぷり含んだ出汁巻き卵を口に放り込むと、響はそんな声を上げる。
「それなら……よかった」
武琉は少し笑みを浮かべて、そう呟くように言う。
武琉は学校に通い始めて、よりいっそう腕を上げた。今はとにかく料理することが楽しいみたいで、習ったことの復習とばかりに家で披露してくれていた。
「そう言やさ。さっきの続き」
しばらく取り留めもない話をしながらご飯を食べ進めていると、唐突に響がそう言う。
「続き?」
何の話だっけ?と僕は響に尋ねる。
「ほら。ハンバーグ!」
「あぁ……」
そう言えば何か言いかけてたっけ、と思い出す。
「この前さ、撮影の合間にたまたま近くにあった店に入ったんだけどさ」
そう言うと、一旦味噌汁を啜ってから響はまた続けた。
「うちのに味が超似てた。もちろんすっげー美味かったんだけどさ」
響はもうすっかり、武琉のご飯を『うち』のと言うようになっていた。それをかなり前指摘すると、『うるさいなぁ。いいだろ? 別に』なんて照れ隠しのようにそんなことを言っていた。
「へぇ……。有名な店?」
「いや? なんかまだできて間もないって。そのときネットで調べても出てこなかったし」
「素人の俺の料理とプロが似てるって……失礼だろ」
武琉は隣で少し眉を顰めて言っている。ちょっと恥ずかしいみたいだ。
「いや、だって似てたしさ。食べに行ってみりゃいいじゃん。お盆にやってるか知らねーけど」
響は武琉のことを見ることなく、必死に金平の蓮根を摘んでは口に入れている。
「響がそこまで言うなら気になるよね。なんだかんだで一番味にはうるさいし」
隣で茶碗を持ち上げたままポカンとしている武琉のほうを向きそう言うと、武琉は「まぁ、確かに」と返した。
希海も僕も、意外と味にこだわりはなくって、食べられるものはなんでも有り難くいただくほうだと思う。響は、こだわりと言うか、合わなければはっきりと『マズイ』と言うほうだ。けれどそのぶん、美味しいものは素直に美味しいと言うし、味覚はいいと思う。
「じゃあ、行ってみる?」
「そうだな。香緒さえよければ」
「いいに決まってるでしょ? ついでにデートしようね?」
笑顔でそう言うと、武琉は顔を和らげて頷いた。
◆◆
「本当に……。ここ、かなぁ?」
スマホに表示した地図を確認し、周りをキョロキョロと確かめて、間違いないと思っても不安になる。
響から聞いた店に早速足を運んだわけだけど、下町にある有名観光地から歩いて来た先は、住宅街だった。確かに響からは『こんなところに店あんの? って思うような場所だった』とは聞いていた。けど、想像以上に家しかなくて、本当に大丈夫なのかと思ってしまう。
「もしかして……。あれか?」
少し先の角。普通の家にも見えるその建物から2人ほど人が出てくるのが見えた。
「そうかも。店は開いてそうだね」
見せてもらったショップカードで調べてみても、なかなか情報は少なく、お盆の最中にやっているのかわからなかった。わかっているのは、お昼の営業が15時までで、14時半にはラストオーダーらしい、ってことだった。
今は14時過ぎ。朝が遅めだったから、腹ごなしに武琉が行ったことがないと言う下町巡りをしてみた。
僕たちは有名な大きな赤い提灯のあるお寺やその周りを散策した。食べ歩きはさすがにあとでご飯を食べるからできなかったけど、甘味処でかき氷を食べたり、お土産物屋さんを見て回ったりして楽しんだ。
武琉は、いつも僕が連れて行く場所を素直に楽しみ、喜んでくれる。
僕が『武琉はどこか行きたいところ、ないの?』と聞いたら『俺はそう世の中のことを知らないから、香緒が教えてくれるのが嬉しい』なんて返ってきた。僕だって、そんなに知っているわけじゃないし、誰かとどこかへ行って散策するだけで楽しい、と思うことなんて、そうそう無かった。
だから一緒に、こうして小さな日常を楽しめることが、とてつもなく幸せだと感じていた。
目の前のお店はフレンチカントリー調の可愛らしい外観。入り口の横には控えめにグリーンが飾られ、小さなプレートにメニューが表示されていた。
「いらっしゃいませ」
扉を開けると、僕より少し上に見える女性が明るい表情で声を掛けてくれた。
店内はそう広くない。4人掛けのテーブルが6つ。ナチュラルな木製のもので、赤いギンガムチェックのテーブルクロスがかかっている。時間も時間だからか、先客は一組だ。年配のご夫婦が、窓際の明るい席で穏やかに食事をしているのが見えた。
なんか……。いいな。
そんなことを思って武琉の顔を見ると、同じように思ったのか武琉も柔らかな笑みを浮かべて僕を見てくれた。
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