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番外編1. happiness
5.
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「しっかし、花嫁撮影会はいつまで続くんだよ」
俺の隣でブラックスーツを着た響が呆れたようにため息をつく。
「まあ……。ある意味あっちが主役だし」
俺は半分諦めながら答える。
「司も希海もいい加減になさい!!」
流石に同じ事を思ったのか、まどかさんが声を上げた。姿は似ていないのに、仕方ない、と言うような同じ表情を見せて2人はカメラを下ろした。
ようやく香緒さんのみの撮影は終わり、俺との写真に移る。
希海さんはもちろん撮ってくれたが、司さんも一応撮ってくれた。
「なんだよ、顔がさっきまでと違うじゃねーか!」
なんてぶつぶつ言いながら。
それが終わると、牧師の姿に扮した祐樹が現れた。
「はーい!皆さーん!式始めるので前に来てくださーい!」
それに従い、ゲストが前の席に分かれて並んだ。入場はさすがに省略して、香緒さんと共に祭壇の前に並んだ。リハーサルなんてなくて、ぶっつけ本番だ。祐樹が俺達の前で咳払いをすると、誓いの言葉を読み上げ始めた。
なんとか2人で「誓います」と答えると、祐樹はニヤリと笑い、「では誓いのキスを」と俺達を促した。
やっぱりやるのかよ……
そう思いながらも、ここでやらない選択肢などなく、そっと香緒さんのベールを持ち上げた。
香緒さんも少し恥ずかしそうにこちらを見ているが、意を決して香緒さんの唇にそっと触れた。
ゲストから「ヒュ~!」なんて囃し立てる音が聞こえて来て、多分司さんだな、と思いながら唇を離した。
また香緒さんと向き合うと、見る見るうちに瞳から雫が溢れ落ちた。
「えっ!香緒さん⁈」
俺が慌てふためくのを他所に、祐樹が白いハンカチを差し出した。
「ありがとう」
香緒さんはそう言ってそれを笑顔で受け取ると涙を拭った。
「嬉し過ぎて。ごめんね、びっくりさせて」
「俺も嬉しいです」
そんな会話をしていると、隣から「ううんっ!」と祐樹の咳払いをした。
「では、皆さん。外に軽食を用意してますので、移動お願いしまーす!」
何から何まで、祐樹は用意周到だった。
しばらくその場に溜まっていたゲストが、出口にゾロゾロと向かっているのを見ながら、俺は香緒さんの手を取った。
「行きましょうか」
「うん」
香緒さんはそう言う俺の腕にそっと掴まった。2人で微笑みあって、ゆっくりとバージンロードを歩く。長く広がったドレスの裾が、香緒さんに合わせてゆっくりと着いてきた。
子供の頃俺の秘密基地だった場所で、こうやって大切な人と、大事な人達と過ごせる日が来るなんて思ってなかった。そんなに広くはない教会の中を見渡しながら、言葉では言い表せない幸福感でいっぱいになった。
いつの間にか、出口の両脇にカメラを構えている希海さんと司さんが立っていた。
「ったく、幸せそうな顔しやがって」
司さんはそう言いながらも、自身もなんだか幸せそうだ。
「やっぱりお前たちは自然な姿が一番いい」
希海さんがそう言って、いつもの顔で身近な人だけが分かる微笑みを浮かべた。
2人で一番後ろの席までやってくると、今度はスーツに着替えた祐樹がやって来た。
「どうだった~?俺の牧師姿!」
「どうもこうもあるか!まあ、助かったよ。色々と」
祐樹は子供の様にニコニコ笑いながら「だろ~?」なんて得意げに言った。それから唐突に上着の内ポケットから何か取り出した。
「はい、これ」
「手紙……?まさかお前から?」
「なわけないだろ!先生だよ!なんとか連絡取れて送ってもらったの!」
俺はおずおずとそれを受け取った。俺が施設に入っていた時、一番世話になった先生は、施設を閉鎖したあと九州の実家に帰ったらしいとは聞いていた。俺の手の中にあるのは『武琉君へ』と懐かしい字で書かれた封筒だ。
「開けないの?」
「いや……多分、今読んだら泣く……」
「だよな!俺宛もあったけど、ちょー泣いた!ダムが決壊したくらいに!」
なんて、内容と一致しない明るい様子で言っていて、それを聞いて隣で香緒さんが笑っていた。
「あと、これは俺からの結婚祝いね!」
そう言ったかと思うと、祐樹は俺たちの思い出の天使像の前まで行き「よいしょっ」と持ち上げ、それを俺たちの前まで持って来た。
「はい」
そう言いながら重そうに差し出す。
「はいって、お前……」
そう言いながらも、俺はそれを受け取った。
「ちゃんと許可貰ってるから!安心しろ」
戸惑っている俺の横で「本当にいいの?」と香緒さんが尋ねた。
「もちろん!武琉、これ子供の頃から気に入ってたし、教会と一緒に無くなるのは偲びないですから」
最後は祐樹にしてはしんみりとした口調になる。
俺の心の拠り所で、香緒さんと出会った大切な場所。無くなるのを実感したらもうダメだった。
「うわっ!武琉⁈」
祐樹が目の前であたふたしながら、ポケットからさっきと同じ白いハンカチを香緒さんに差し出した。それを香緒さんは受け取ると、俺の頬を伝う涙をそっと拭いてくれた。
「すみません」
鼻を啜りながら俺が言うと「僕も同じ気持ちだからね」と淋しそうにそう香緒さんは言う。
「あー!もうっ!俺だって同じだよっ!ヤメヤメ。主役は披露宴会場に移動して下さーい!」
ちょっとだけ涙目の祐樹は、俺からまた天使像を受け取り俺たちを外に促した。
俺の隣でブラックスーツを着た響が呆れたようにため息をつく。
「まあ……。ある意味あっちが主役だし」
俺は半分諦めながら答える。
「司も希海もいい加減になさい!!」
流石に同じ事を思ったのか、まどかさんが声を上げた。姿は似ていないのに、仕方ない、と言うような同じ表情を見せて2人はカメラを下ろした。
ようやく香緒さんのみの撮影は終わり、俺との写真に移る。
希海さんはもちろん撮ってくれたが、司さんも一応撮ってくれた。
「なんだよ、顔がさっきまでと違うじゃねーか!」
なんてぶつぶつ言いながら。
それが終わると、牧師の姿に扮した祐樹が現れた。
「はーい!皆さーん!式始めるので前に来てくださーい!」
それに従い、ゲストが前の席に分かれて並んだ。入場はさすがに省略して、香緒さんと共に祭壇の前に並んだ。リハーサルなんてなくて、ぶっつけ本番だ。祐樹が俺達の前で咳払いをすると、誓いの言葉を読み上げ始めた。
なんとか2人で「誓います」と答えると、祐樹はニヤリと笑い、「では誓いのキスを」と俺達を促した。
やっぱりやるのかよ……
そう思いながらも、ここでやらない選択肢などなく、そっと香緒さんのベールを持ち上げた。
香緒さんも少し恥ずかしそうにこちらを見ているが、意を決して香緒さんの唇にそっと触れた。
ゲストから「ヒュ~!」なんて囃し立てる音が聞こえて来て、多分司さんだな、と思いながら唇を離した。
また香緒さんと向き合うと、見る見るうちに瞳から雫が溢れ落ちた。
「えっ!香緒さん⁈」
俺が慌てふためくのを他所に、祐樹が白いハンカチを差し出した。
「ありがとう」
香緒さんはそう言ってそれを笑顔で受け取ると涙を拭った。
「嬉し過ぎて。ごめんね、びっくりさせて」
「俺も嬉しいです」
そんな会話をしていると、隣から「ううんっ!」と祐樹の咳払いをした。
「では、皆さん。外に軽食を用意してますので、移動お願いしまーす!」
何から何まで、祐樹は用意周到だった。
しばらくその場に溜まっていたゲストが、出口にゾロゾロと向かっているのを見ながら、俺は香緒さんの手を取った。
「行きましょうか」
「うん」
香緒さんはそう言う俺の腕にそっと掴まった。2人で微笑みあって、ゆっくりとバージンロードを歩く。長く広がったドレスの裾が、香緒さんに合わせてゆっくりと着いてきた。
子供の頃俺の秘密基地だった場所で、こうやって大切な人と、大事な人達と過ごせる日が来るなんて思ってなかった。そんなに広くはない教会の中を見渡しながら、言葉では言い表せない幸福感でいっぱいになった。
いつの間にか、出口の両脇にカメラを構えている希海さんと司さんが立っていた。
「ったく、幸せそうな顔しやがって」
司さんはそう言いながらも、自身もなんだか幸せそうだ。
「やっぱりお前たちは自然な姿が一番いい」
希海さんがそう言って、いつもの顔で身近な人だけが分かる微笑みを浮かべた。
2人で一番後ろの席までやってくると、今度はスーツに着替えた祐樹がやって来た。
「どうだった~?俺の牧師姿!」
「どうもこうもあるか!まあ、助かったよ。色々と」
祐樹は子供の様にニコニコ笑いながら「だろ~?」なんて得意げに言った。それから唐突に上着の内ポケットから何か取り出した。
「はい、これ」
「手紙……?まさかお前から?」
「なわけないだろ!先生だよ!なんとか連絡取れて送ってもらったの!」
俺はおずおずとそれを受け取った。俺が施設に入っていた時、一番世話になった先生は、施設を閉鎖したあと九州の実家に帰ったらしいとは聞いていた。俺の手の中にあるのは『武琉君へ』と懐かしい字で書かれた封筒だ。
「開けないの?」
「いや……多分、今読んだら泣く……」
「だよな!俺宛もあったけど、ちょー泣いた!ダムが決壊したくらいに!」
なんて、内容と一致しない明るい様子で言っていて、それを聞いて隣で香緒さんが笑っていた。
「あと、これは俺からの結婚祝いね!」
そう言ったかと思うと、祐樹は俺たちの思い出の天使像の前まで行き「よいしょっ」と持ち上げ、それを俺たちの前まで持って来た。
「はい」
そう言いながら重そうに差し出す。
「はいって、お前……」
そう言いながらも、俺はそれを受け取った。
「ちゃんと許可貰ってるから!安心しろ」
戸惑っている俺の横で「本当にいいの?」と香緒さんが尋ねた。
「もちろん!武琉、これ子供の頃から気に入ってたし、教会と一緒に無くなるのは偲びないですから」
最後は祐樹にしてはしんみりとした口調になる。
俺の心の拠り所で、香緒さんと出会った大切な場所。無くなるのを実感したらもうダメだった。
「うわっ!武琉⁈」
祐樹が目の前であたふたしながら、ポケットからさっきと同じ白いハンカチを香緒さんに差し出した。それを香緒さんは受け取ると、俺の頬を伝う涙をそっと拭いてくれた。
「すみません」
鼻を啜りながら俺が言うと「僕も同じ気持ちだからね」と淋しそうにそう香緒さんは言う。
「あー!もうっ!俺だって同じだよっ!ヤメヤメ。主役は披露宴会場に移動して下さーい!」
ちょっとだけ涙目の祐樹は、俺からまた天使像を受け取り俺たちを外に促した。
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