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番外編1. happiness
4.
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俺が入り口で立ち止まっていると、祐樹に「もー!鼻の下伸ばしてる場合か?早く着替え!」と部屋に押し込まれる。
「のっ伸ばしてないっ!」
と言うのをスルーされ、祐樹は忙しそうに出口に戻って行った。
「あ、武琉!」
俺に気づいた香緒さんがこちらを見て笑顔を見せる。
「遅くなりました」
「大丈夫。ちょうどいい時間だよ」
「あの、香緒さんは知ってたんですか?今日の事」
「ううん。ここに来て知ったよ?僕が祐樹君に聞かれたのは、誰か呼びたい人いないかってことかな」
「え、じゃあ、もしかして……」
「うん。今日うちの両親来てくれるって。あと希海の両親に……」
そこまで香緒さんが言うと「用意できてるか~?香緒」と声がした。そこにいたのは、やっぱり司さんで、もちろん片手にはカメラを持っている。
「希海も待ってる。撮影始めるぞ」
「はいはい。じゃあ先に行ってるから。武琉も来てね」
そう言って香緒さんがドレスを翻し去っていく姿を見ても、もう胸は痛まなかった。
俺は着替えるために、すみのパーテーションへ向かう。
香緒さんが今日のために選んでくれたタキシード。俺はそれにゆっくり袖を通した。きっと、香緒さんの横でいい顔が出来るだろうと信じて。
着替え終わると、俺は髪を整えてもらう。どこかで見たことあると思っていたら、前に一緒に行った撮影で同じように衣装を持ってきてくれた人だ。香緒さんとは昔から付き合いのあるヘアメイク担当の人で、今日は何もかも事情を知った上で来てくれているらしい。
「香緒さん、ずっとあなたが来るまでソワソワしてましたよ」
と言いながら、思い出したようにふふっと笑った。
「そうなんですか」
そう聞いてじわじわ顔が熱くなる。
「でも、よかった。あんなに幸せそうな香緒ちゃんを見ることができて。今まで、いつも何処か遠くを見つめているような人だったから」
俺の髪にワックスをつけ、手櫛で整えながらその人は寂しそうに言った。
「はい!出来た」
先程の表情と打って変わって、そう告げるその顔はとてもいい笑顔だ。
「ありがとうございます」
「さ、香緒ちゃんが待ってますよ!」
俺はその人の笑顔に送り出されて部屋を後にした。
部屋を出ると、祭壇前には香緒さんと、カメラを構える2人のプロカメラマン。
「ったく、あれ当分おわんねーぞ」
すぐそばに響がきて、愚痴のように俺に言う。希海さんも、司さんも、かなり本気で撮っているようだ。響がそう言いたくなるのもなんだかわかる。でも、3人とも、みんなそれぞれ楽しそうだった。
この時間を俺は邪魔できないな……
離れたところから眺め、俺はそう思った。
ふと、教会の後ろを見ると、何人か固まっているのが見える。
「あ、みんな着いたみたい。挨拶行くか?」
そう言われ、響と2人でそちらに向かって行った。
「武琉さん!」
俺に気づいた祥子さんが笑顔で手を振ってくれる。もちろん横には修志さんの姿もあった。
「今日は遠くまでありがとうございます」
頭を下げる俺に、祥子さんは「招待状をいただいた時には驚いたけど……。いいお友達がいるのね」と微笑んだ。
「はい。あいつは……俺の大事な親友です」
祐樹には照れ臭くて直接は言えない言葉を俺は口にした。
その様子を祥子さんは香緒さんと同じように優しくみてくれていた。
「あ。武琉君!響!」
次に声をかけて来たのはまどかさん。
「紹介するわね、夫の尊斗」
そう言われた先には、希海さんにそっくり人がいた。だが、希海さんが絶対に見せないような、へらっとした笑顔を見せたかと思うと俺の手を取りブンブンと握手をした。
「君が武琉君かぁ!最近の希海の栄養は武琉君から取っているって噂の!」
希海さんと同じ顔した人からの、その軽い調子に脳が着いていかずしばらく固まっていると、響に肘で小突かれた。
「あはは。ごめんねぇ。似てるの顔だけなのよ」
と隣でまどかさんが笑っていた。
と言うか、希海さんの中身は両親どちらにも似てないよな、なんてことを思った。
隣では響が誰なのか分からない綺麗な人と話をしていた。俺が見ていたのに気づき、その人がこちらに歩み寄った。そしてバッグから何かを出そうとして、響に「武琉に名刺いらないから!」と突っ込まれている。
「……失礼しました。初めまして。長門さんと仕事でご一緒させていただいております、長森瑤子と申します。本日はおめでとうございます」
何故か仕事と言う言葉を強調して、長森さんはにっこり笑って見せた。
「のっ伸ばしてないっ!」
と言うのをスルーされ、祐樹は忙しそうに出口に戻って行った。
「あ、武琉!」
俺に気づいた香緒さんがこちらを見て笑顔を見せる。
「遅くなりました」
「大丈夫。ちょうどいい時間だよ」
「あの、香緒さんは知ってたんですか?今日の事」
「ううん。ここに来て知ったよ?僕が祐樹君に聞かれたのは、誰か呼びたい人いないかってことかな」
「え、じゃあ、もしかして……」
「うん。今日うちの両親来てくれるって。あと希海の両親に……」
そこまで香緒さんが言うと「用意できてるか~?香緒」と声がした。そこにいたのは、やっぱり司さんで、もちろん片手にはカメラを持っている。
「希海も待ってる。撮影始めるぞ」
「はいはい。じゃあ先に行ってるから。武琉も来てね」
そう言って香緒さんがドレスを翻し去っていく姿を見ても、もう胸は痛まなかった。
俺は着替えるために、すみのパーテーションへ向かう。
香緒さんが今日のために選んでくれたタキシード。俺はそれにゆっくり袖を通した。きっと、香緒さんの横でいい顔が出来るだろうと信じて。
着替え終わると、俺は髪を整えてもらう。どこかで見たことあると思っていたら、前に一緒に行った撮影で同じように衣装を持ってきてくれた人だ。香緒さんとは昔から付き合いのあるヘアメイク担当の人で、今日は何もかも事情を知った上で来てくれているらしい。
「香緒さん、ずっとあなたが来るまでソワソワしてましたよ」
と言いながら、思い出したようにふふっと笑った。
「そうなんですか」
そう聞いてじわじわ顔が熱くなる。
「でも、よかった。あんなに幸せそうな香緒ちゃんを見ることができて。今まで、いつも何処か遠くを見つめているような人だったから」
俺の髪にワックスをつけ、手櫛で整えながらその人は寂しそうに言った。
「はい!出来た」
先程の表情と打って変わって、そう告げるその顔はとてもいい笑顔だ。
「ありがとうございます」
「さ、香緒ちゃんが待ってますよ!」
俺はその人の笑顔に送り出されて部屋を後にした。
部屋を出ると、祭壇前には香緒さんと、カメラを構える2人のプロカメラマン。
「ったく、あれ当分おわんねーぞ」
すぐそばに響がきて、愚痴のように俺に言う。希海さんも、司さんも、かなり本気で撮っているようだ。響がそう言いたくなるのもなんだかわかる。でも、3人とも、みんなそれぞれ楽しそうだった。
この時間を俺は邪魔できないな……
離れたところから眺め、俺はそう思った。
ふと、教会の後ろを見ると、何人か固まっているのが見える。
「あ、みんな着いたみたい。挨拶行くか?」
そう言われ、響と2人でそちらに向かって行った。
「武琉さん!」
俺に気づいた祥子さんが笑顔で手を振ってくれる。もちろん横には修志さんの姿もあった。
「今日は遠くまでありがとうございます」
頭を下げる俺に、祥子さんは「招待状をいただいた時には驚いたけど……。いいお友達がいるのね」と微笑んだ。
「はい。あいつは……俺の大事な親友です」
祐樹には照れ臭くて直接は言えない言葉を俺は口にした。
その様子を祥子さんは香緒さんと同じように優しくみてくれていた。
「あ。武琉君!響!」
次に声をかけて来たのはまどかさん。
「紹介するわね、夫の尊斗」
そう言われた先には、希海さんにそっくり人がいた。だが、希海さんが絶対に見せないような、へらっとした笑顔を見せたかと思うと俺の手を取りブンブンと握手をした。
「君が武琉君かぁ!最近の希海の栄養は武琉君から取っているって噂の!」
希海さんと同じ顔した人からの、その軽い調子に脳が着いていかずしばらく固まっていると、響に肘で小突かれた。
「あはは。ごめんねぇ。似てるの顔だけなのよ」
と隣でまどかさんが笑っていた。
と言うか、希海さんの中身は両親どちらにも似てないよな、なんてことを思った。
隣では響が誰なのか分からない綺麗な人と話をしていた。俺が見ていたのに気づき、その人がこちらに歩み寄った。そしてバッグから何かを出そうとして、響に「武琉に名刺いらないから!」と突っ込まれている。
「……失礼しました。初めまして。長門さんと仕事でご一緒させていただいております、長森瑤子と申します。本日はおめでとうございます」
何故か仕事と言う言葉を強調して、長森さんはにっこり笑って見せた。
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