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「お邪魔します!」
うちの玄関先で、直立不動のまま元気に挨拶するのは祐樹だ。
「いらっしゃい。初めまして。橋本香緒です」
「俺は原祐樹。武琉の親友です!」
少年の様に元気よく、何故か親友を強調して挨拶する祐樹に、「お前……何が親友だよ」と呆れながら俺は言った。
「入って入って」と、手招きする香緒さんに顔を赤らめながら靴を脱ぎ、スリッパに履き替えると、こそっと「実物もむちゃくちゃ綺麗だな」と耳打ちした。
舞い上がりすぎだろ、と苦笑いしながら、俺は祐樹とリビングへ向かった。
ことの発端は少し前。
祐樹から『今度遊びに行ってもいいか?』と連絡が来た事だった。
勝手に返事をするわけに行かないから、皆が揃っていた夕食時に聞いてみると、希海さんは「お前の家でもあるんだから遠慮する事はない」と言ってくれた。
香緒さんは「前に会った子だよね?是非話してみたいな」と言い、香緒さんが休みの土曜日の午後、家に呼ぶ事にした。
「にしても……。凄いとこ住んでるんだな」
リビングに入ると真っ先に祐樹はそう言った。
「俺じゃなくて、希海さんが凄いんだけどな」
と俺は答える。
香緒さんは先にキッチンでコーヒーの用意をしてくれていて、それを見た祐樹は、持っていた紙袋を香緒さんに差し出した。
「これ、うちの近所の店のケーキです。甘いもの好きか分からなかったんですけど、良かったら」
「ありがとう。甘いもの好きだよ?折角だし今出そうか」
そう言いながら笑みを浮かべ香緒さんは受け取る。
「俺やるんで、香緒さんも座って待ってて下さい」
「そう?じゃあ祐樹君、向こうで待ってようか」
そう香緒さんに促されると、祐樹は子犬がブンブン尻尾を振っているかのような顔で「はい!」と返事をして香緒さんに着いて行った。
コーヒーを入れ終え、ケーキを皿に並べてトレイを持つと俺はリビングのソファに向かった。香緒さんと祐樹は楽しげに話をしていた。昔から祐樹は人懐っこくて、誰とでもすぐ仲良くなるタイプだった。俺にはないそのスキルを既に発揮している様だ。香緒さんも笑顔で話を聞いていた。それを見ながら、俺はテーブルにコーヒーとケーキを並べると香緒さんの横に座った。
「わ~!ケーキ、どれも美味しそう」
「町のケーキ屋さんって感じの店ですけど、どれもオススメです!」
自分のことのように誇らしげに祐樹は声を上げた。
「じゃあ。これにしようかな」
そう言って香緒さんはレアチーズケーキを選ぶ。すると祐樹は先にショートケーキを手に取り、残りのチョコレートケーキを俺に差し出した。
「俺に選択権はないのかよ……」
「だって俺、ショートケーキ食べたいし。武琉はこれでいいだろ?」
当たり前のような顔をしてそう言う祐樹から、俺は呆れながら皿を受けとった。いくら離れていた時間が長くても、幼い頃一緒にいた間柄だ。全く遠慮はない。
俺達のやりとりを見て、香緒さん「仲良いいんだね」と笑っている。
「お前、香緒さんがショートケーキ選んでたらどうしてたんだよ?」
「その時は、香緒さんに食べられるケーキ眺めながらチョコケーキ食べてたな!」
屈託なく笑いながらも当たり前のように言う祐樹を横目に、俺は溜め息とともにコーヒーカップに口をつけた。
それからは祐樹の独壇場と言ってもいいくらいに昔の話を色々と暴露された。
「武琉、香緒さんに初めて会った時凄いテンションだったんですよ!香緒さんにも見せたかったなぁ……。こいつ、基本仏頂面でしょ?子供の頃もそうだったんですけど、あんなに興奮した武琉は後にも先にも見たことないです」
「お前なぁ。何喋ってんだよ……」
祐樹は大きな溜め息しか出ない喋りっぷりで語っている。
「いいだろ?本当の事だし」
隣で香緒さんは、ずっとクスクス笑いっぱなしだった。
これ以上俺の話しばかりされてもバツが悪いと、俺は強制的に話を変える事にした。
「お前こそ、テンション上がるような話はないのかよ?」
俺の質問に、うーんと悩んだと思うと、祐樹は思いついたように口を開いた。
「俺、来年結婚決まった」
「……は⁈」
思いも寄らなかった答えに俺は驚いて声を上げた。
「大学から付き合ってた彼女いるんだけど……って言ってなかったっけ?そろそろ結婚しようかって話になってさ。ってそんなに驚いた?」
俺が唖然としている顔を見て祐樹はそう言った。
「お前。全く聞いてないけど……」
「あはは!ごめんごめん。結婚式呼ぶからさ、来てくれよな。香緒さんも是非!彼女、香緒さんの載ってる雑誌よく見てるんですよ。きっと喜びます」
あっけらかんと祐樹は言う。
こいつは昔からこう言う男だった。時々驚くような事をさらっと言うのだ。
「おめでとう!喜んで出席するよ。ね、武琉?」
昔からの友達の結婚報告を聞いたかのように、香緒さんは嬉しそうな顔でそう言った。
「祐樹、良かったな。幸せになれよ」
俺のその言葉に、祐樹は嬉しそうに「さんきゅ!」と笑顔を見せた。そして隣から、香緒さんの少し羨ましそうな「結婚かぁ。いいなぁ……」と小さく呟く声がした。
うちの玄関先で、直立不動のまま元気に挨拶するのは祐樹だ。
「いらっしゃい。初めまして。橋本香緒です」
「俺は原祐樹。武琉の親友です!」
少年の様に元気よく、何故か親友を強調して挨拶する祐樹に、「お前……何が親友だよ」と呆れながら俺は言った。
「入って入って」と、手招きする香緒さんに顔を赤らめながら靴を脱ぎ、スリッパに履き替えると、こそっと「実物もむちゃくちゃ綺麗だな」と耳打ちした。
舞い上がりすぎだろ、と苦笑いしながら、俺は祐樹とリビングへ向かった。
ことの発端は少し前。
祐樹から『今度遊びに行ってもいいか?』と連絡が来た事だった。
勝手に返事をするわけに行かないから、皆が揃っていた夕食時に聞いてみると、希海さんは「お前の家でもあるんだから遠慮する事はない」と言ってくれた。
香緒さんは「前に会った子だよね?是非話してみたいな」と言い、香緒さんが休みの土曜日の午後、家に呼ぶ事にした。
「にしても……。凄いとこ住んでるんだな」
リビングに入ると真っ先に祐樹はそう言った。
「俺じゃなくて、希海さんが凄いんだけどな」
と俺は答える。
香緒さんは先にキッチンでコーヒーの用意をしてくれていて、それを見た祐樹は、持っていた紙袋を香緒さんに差し出した。
「これ、うちの近所の店のケーキです。甘いもの好きか分からなかったんですけど、良かったら」
「ありがとう。甘いもの好きだよ?折角だし今出そうか」
そう言いながら笑みを浮かべ香緒さんは受け取る。
「俺やるんで、香緒さんも座って待ってて下さい」
「そう?じゃあ祐樹君、向こうで待ってようか」
そう香緒さんに促されると、祐樹は子犬がブンブン尻尾を振っているかのような顔で「はい!」と返事をして香緒さんに着いて行った。
コーヒーを入れ終え、ケーキを皿に並べてトレイを持つと俺はリビングのソファに向かった。香緒さんと祐樹は楽しげに話をしていた。昔から祐樹は人懐っこくて、誰とでもすぐ仲良くなるタイプだった。俺にはないそのスキルを既に発揮している様だ。香緒さんも笑顔で話を聞いていた。それを見ながら、俺はテーブルにコーヒーとケーキを並べると香緒さんの横に座った。
「わ~!ケーキ、どれも美味しそう」
「町のケーキ屋さんって感じの店ですけど、どれもオススメです!」
自分のことのように誇らしげに祐樹は声を上げた。
「じゃあ。これにしようかな」
そう言って香緒さんはレアチーズケーキを選ぶ。すると祐樹は先にショートケーキを手に取り、残りのチョコレートケーキを俺に差し出した。
「俺に選択権はないのかよ……」
「だって俺、ショートケーキ食べたいし。武琉はこれでいいだろ?」
当たり前のような顔をしてそう言う祐樹から、俺は呆れながら皿を受けとった。いくら離れていた時間が長くても、幼い頃一緒にいた間柄だ。全く遠慮はない。
俺達のやりとりを見て、香緒さん「仲良いいんだね」と笑っている。
「お前、香緒さんがショートケーキ選んでたらどうしてたんだよ?」
「その時は、香緒さんに食べられるケーキ眺めながらチョコケーキ食べてたな!」
屈託なく笑いながらも当たり前のように言う祐樹を横目に、俺は溜め息とともにコーヒーカップに口をつけた。
それからは祐樹の独壇場と言ってもいいくらいに昔の話を色々と暴露された。
「武琉、香緒さんに初めて会った時凄いテンションだったんですよ!香緒さんにも見せたかったなぁ……。こいつ、基本仏頂面でしょ?子供の頃もそうだったんですけど、あんなに興奮した武琉は後にも先にも見たことないです」
「お前なぁ。何喋ってんだよ……」
祐樹は大きな溜め息しか出ない喋りっぷりで語っている。
「いいだろ?本当の事だし」
隣で香緒さんは、ずっとクスクス笑いっぱなしだった。
これ以上俺の話しばかりされてもバツが悪いと、俺は強制的に話を変える事にした。
「お前こそ、テンション上がるような話はないのかよ?」
俺の質問に、うーんと悩んだと思うと、祐樹は思いついたように口を開いた。
「俺、来年結婚決まった」
「……は⁈」
思いも寄らなかった答えに俺は驚いて声を上げた。
「大学から付き合ってた彼女いるんだけど……って言ってなかったっけ?そろそろ結婚しようかって話になってさ。ってそんなに驚いた?」
俺が唖然としている顔を見て祐樹はそう言った。
「お前。全く聞いてないけど……」
「あはは!ごめんごめん。結婚式呼ぶからさ、来てくれよな。香緒さんも是非!彼女、香緒さんの載ってる雑誌よく見てるんですよ。きっと喜びます」
あっけらかんと祐樹は言う。
こいつは昔からこう言う男だった。時々驚くような事をさらっと言うのだ。
「おめでとう!喜んで出席するよ。ね、武琉?」
昔からの友達の結婚報告を聞いたかのように、香緒さんは嬉しそうな顔でそう言った。
「祐樹、良かったな。幸せになれよ」
俺のその言葉に、祐樹は嬉しそうに「さんきゅ!」と笑顔を見せた。そして隣から、香緒さんの少し羨ましそうな「結婚かぁ。いいなぁ……」と小さく呟く声がした。
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