41 / 134
2
23.
しおりを挟む
「げ、まどか!!」
「まどかさん?!」
司さんは苦虫を噛み潰したような顔で、香緒さんは綻んだ顔でそれぞれ声を上げた。
『まどかさん』と呼ばれたその女性は、司さんのすぐ横にやってくると、その耳を引っ張った。
「私を放って置いて、こんなところで何やってるのかしら?」
突然現れた美女に、俺は呆然としながらその様子を見守る。明るめの茶色の長い髪に高い身長。そのスタイルの良さにモデルなんだろうかと思った。
さっきまで独壇場だった司さんは、すっかりタジタジになっていて、さっきまでの勢いはなくなっている。そして何故か希海さんに睨みつけるような視線を送り、それを見た希海さんは「お前が悪い」とだけ言い涼しい顔をしていた。
「別に放ってない。ちゃんと行こうと思ってたんだ!」
まるで子供の言い訳のように司さんが言うと、まどかさんは「言ったわね?」とキツめに返し、司さんから手を離した。そして、香緒さんを見ると、正反対な笑顔を見せた。
「香緒!久しぶり!」
そう言いながら香緒さんの方に近づくと、香緒さんは立ち上がり、まどかさんを抱きしめた。
「まどかさん、元気だった?」
「元気よ。ほんと、祥子にそっくりになっちゃって」
一見すると美女が2人戯れているようにも見えるその光景。
俺は一体今、何を見ているんだろうか?これって修羅場ってやつか?と内心気が気じゃなかった。
そんな俺の心の中を知ってか知らずか、まどかさんは俺を見た。
「これが噂の彼ね?」
「噂って、何を聞いたの?」
クスクスと笑いながら香緒さんは答える。まどかさんは笑みを浮かべたまま俺に近づき、それを見て反射的に俺は立ち上がった。
「はじめまして。大江まどかと言います。いつも希海がお世話になっています」
俺の前に立つと、まどかさんはそう言って深々と頭を下げる。思考のついていっていない俺の横の席で、希海さんは呆れたように口を開いた。
「それだけじゃ分からないだろ?母さん」
「……えっ?」
俺が言えたのはこれだけだった。
店の人に声を掛け、イスをもう一つ持って来てもらうと、まどかさんは希海さんと司さんの間に座った。そして目の前にはさっき運ばれてきたシャンパンがあった。
「昼間から飲むのか……」
呆れたように言う希海さんに、「いいじゃない。どうせ司に送らせるし」と言いながらまどかさんはグラスに口をつける。その隣では、不貞腐れたように司さんがアイスコーヒーを飲んでいた。
「ごめんね。弟が迷惑かけて。ちょうど近くにいてよかったわ」
俺に向かってそう言うまどかさんに「いえ、大丈夫です」と答えた。
司さんと並んでいるまどかさんを見て、最初に誰かに似ていると思ったのはこの2人だったのかと思った。姉弟と言われて納得は出来る。
だが、その反対に座る希海さんと見比べても、全く親子に見えない。下手をするとカップルだ。まどかさんの見た目自体、司さんとさほど歳が変わらなく見えて、まさかこんな大きな子供がいるようには、間違っても見えなかった。
つい不躾な視線で眺めてしまっていたのを感じたのか、まどかさんが笑いながら口を開いた。
「やあねぇ、ちゃんと血は繋がってるわよ?この子が旦那にそっくりなだけ」
「……すいません。じろじろ見てしまって」
「いいのよ。今度遊びに来てね。きっと笑っちゃうから。香緒もね」
「うん。行くね。尊斗さんにも会いたいし」
「楽しみにしてるわ?希海、あなたは少しくらい家に帰りなさい」
「時間ができたらな」
「ほんと、こう言う時だけ呼びつけといて可愛くないわね!」
さっきまでの気まずい雰囲気をまどかさんがガラッと変えてくれたおかげで、香緒さんは楽しそうに笑っていて、俺も釣られて笑う。面白くなさそうな顔をしているのは、司さんだけだった。
しばらく皆で話をして、揃ってラウンジを出てロビーへ移る。
「じゃあ、そろそろ私は行くわね。ほら、司行くわよ」
「あぁ?」
司さんはそう言うと心底嫌そうな顔を見せる。
「お父様にあなたを連れて帰るって言ってあるのよ。だいたい日本に帰って来ても家に寄り付かないあなたが悪いのよ」
「はいはい。わかりましたよ」
司さんは諦めたように返事をしたかと思うと、少し離れていた俺の方へやって来た。
「まどかさん?!」
司さんは苦虫を噛み潰したような顔で、香緒さんは綻んだ顔でそれぞれ声を上げた。
『まどかさん』と呼ばれたその女性は、司さんのすぐ横にやってくると、その耳を引っ張った。
「私を放って置いて、こんなところで何やってるのかしら?」
突然現れた美女に、俺は呆然としながらその様子を見守る。明るめの茶色の長い髪に高い身長。そのスタイルの良さにモデルなんだろうかと思った。
さっきまで独壇場だった司さんは、すっかりタジタジになっていて、さっきまでの勢いはなくなっている。そして何故か希海さんに睨みつけるような視線を送り、それを見た希海さんは「お前が悪い」とだけ言い涼しい顔をしていた。
「別に放ってない。ちゃんと行こうと思ってたんだ!」
まるで子供の言い訳のように司さんが言うと、まどかさんは「言ったわね?」とキツめに返し、司さんから手を離した。そして、香緒さんを見ると、正反対な笑顔を見せた。
「香緒!久しぶり!」
そう言いながら香緒さんの方に近づくと、香緒さんは立ち上がり、まどかさんを抱きしめた。
「まどかさん、元気だった?」
「元気よ。ほんと、祥子にそっくりになっちゃって」
一見すると美女が2人戯れているようにも見えるその光景。
俺は一体今、何を見ているんだろうか?これって修羅場ってやつか?と内心気が気じゃなかった。
そんな俺の心の中を知ってか知らずか、まどかさんは俺を見た。
「これが噂の彼ね?」
「噂って、何を聞いたの?」
クスクスと笑いながら香緒さんは答える。まどかさんは笑みを浮かべたまま俺に近づき、それを見て反射的に俺は立ち上がった。
「はじめまして。大江まどかと言います。いつも希海がお世話になっています」
俺の前に立つと、まどかさんはそう言って深々と頭を下げる。思考のついていっていない俺の横の席で、希海さんは呆れたように口を開いた。
「それだけじゃ分からないだろ?母さん」
「……えっ?」
俺が言えたのはこれだけだった。
店の人に声を掛け、イスをもう一つ持って来てもらうと、まどかさんは希海さんと司さんの間に座った。そして目の前にはさっき運ばれてきたシャンパンがあった。
「昼間から飲むのか……」
呆れたように言う希海さんに、「いいじゃない。どうせ司に送らせるし」と言いながらまどかさんはグラスに口をつける。その隣では、不貞腐れたように司さんがアイスコーヒーを飲んでいた。
「ごめんね。弟が迷惑かけて。ちょうど近くにいてよかったわ」
俺に向かってそう言うまどかさんに「いえ、大丈夫です」と答えた。
司さんと並んでいるまどかさんを見て、最初に誰かに似ていると思ったのはこの2人だったのかと思った。姉弟と言われて納得は出来る。
だが、その反対に座る希海さんと見比べても、全く親子に見えない。下手をするとカップルだ。まどかさんの見た目自体、司さんとさほど歳が変わらなく見えて、まさかこんな大きな子供がいるようには、間違っても見えなかった。
つい不躾な視線で眺めてしまっていたのを感じたのか、まどかさんが笑いながら口を開いた。
「やあねぇ、ちゃんと血は繋がってるわよ?この子が旦那にそっくりなだけ」
「……すいません。じろじろ見てしまって」
「いいのよ。今度遊びに来てね。きっと笑っちゃうから。香緒もね」
「うん。行くね。尊斗さんにも会いたいし」
「楽しみにしてるわ?希海、あなたは少しくらい家に帰りなさい」
「時間ができたらな」
「ほんと、こう言う時だけ呼びつけといて可愛くないわね!」
さっきまでの気まずい雰囲気をまどかさんがガラッと変えてくれたおかげで、香緒さんは楽しそうに笑っていて、俺も釣られて笑う。面白くなさそうな顔をしているのは、司さんだけだった。
しばらく皆で話をして、揃ってラウンジを出てロビーへ移る。
「じゃあ、そろそろ私は行くわね。ほら、司行くわよ」
「あぁ?」
司さんはそう言うと心底嫌そうな顔を見せる。
「お父様にあなたを連れて帰るって言ってあるのよ。だいたい日本に帰って来ても家に寄り付かないあなたが悪いのよ」
「はいはい。わかりましたよ」
司さんは諦めたように返事をしたかと思うと、少し離れていた俺の方へやって来た。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
72
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる