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20 side 香緒 3.
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食事も終わり、「そろそろ帰るか」と司は席を立つ。
「ここで待ってろ?先に帰るなよ」
「ちゃんと送ってもらうから」
「はいはい」
そう言い残し司が出て行ったタイミングで、ようやくスマホを取り出す。司の前で気にする素振りを見せて詮索されるのが嫌で、あえて見なかった。もし、自分の予想が当たっているなら武琉は多分大丈夫だ。
画面のロックを外すと、メッセージアプリを確認した。
1件は希海から。
『武琉を捕まえたから心配するな』
それだけの短いメッセージ。
そしてもう1件は武琉から。
メッセージと共に写真も添付されていて、それを見て僕はふふっと笑う。そして、2人にメッセージを送ってスマホをしまった。
「香緒、帰るぞ」
ちょうど司が部屋の入り口から僕を呼び、席を立ち上がる。
僕はその素晴らしい眺望を振り返ることなく部屋をあとにした。
外に出ると、ほんの少し潮の香りのする風が吹いていた。雨の降る様子もなく、来るときに降っていた雨が局所的だったのがよくわかる。
「あーあ。せっかくのチャンスなのに、お前とドライブにも行けないなんてな」
車に乗り込み、僕が助手席でシートベルトをしていると、司は隣で面白くなさそうにワザとらしく声を上げる。
「司と過ごしたい人くらい、いくらでもいるでしょ?」
「俺はお前がいいんだ!」
まるで子供が駄々を捏ねるように司は言うと、僕のほうへ向き少し顔を近づける。
「なぁ、付き合ってるやつ、いるのか?」
「……いないよ」
司を見ず、真っ直ぐ前を見たまま僕は答える。
「じゃあ、好きなやつは?……例えば今日来てたやつ、とか」
「司には関係ないでしょ」
「はぐらかすってことはそうなんだな。ふーん。人が苦手なお前がねぇ。どんなやつか興味湧くな」
「だから、司には関係ない。いいから車出してよ」
「……へいへい」
そう言って肩を竦めると、司は車のエンジンをかけハンドルを握った。
◆◆
「香緒。着いたぞ!」
撮影で疲れていたのと、お腹が満たされたのに加え、車の心地よい揺れが眠気を誘い、いつの間にか僕は眠っていた。凭れかかっていた助手席の扉がゆっくりと開くと、司がシートベルトを外している気配がした。そして、まだぼんやりとしている僕の腕を引くと、降りるよう促した。僕はそこが何処だか確認しないまま、ぼんやりと車を降りた。
「ちょっと!ここどこ?」
明らかに撮影で使ったビルの駐車場ではない場所に、一気に目が覚める。
「いいから。いいから」
腕をがっちりと組まれ外す事もできず、僕は司に着いて歩くしかなかった。地下駐車場らしき場所から、エレベーターで1階に上がると、広々としたロビーに人が行き交うのが見えた。これまで何度か訪れた事のある老舗ホテルだと思った。
「司!ちゃんと元の場所に帰してって言ったでしょ!」
小さな声で抵抗しつつ司を見上げると、「別に取って食ったりしねーよ。お前が疲れてそうだから休ませてやるだけだ。……それとも何か期待してる?」と、最後だけ耳元で囁くように僕に言う。
「もう目は覚めたし大丈夫だよ!」
「もう少しくらいいいだろ?それに、あんまり抵抗すると目立つぞ」
背の高い男と、その男と腕を組んで引きずられるように歩いている男の2人組なんて、すでに視線を集めてるよ……と思いながら、それ以上目立つのはさすがに問題なので大人しく司の歩幅に合わせて歩く。司に伴われて共にフロントまでやって来ると、司は係に声をかけた。
「お帰りなさいませ、長門様。メッセージをお預かりしておりますので、少々お待ちください」
係の男性はそう言うと奥の扉へ消えて言った。
その時、「香緒さん!!」と後ろから声がした。
僕も司もその声に弾かれるように振り返る。司はそれが誰なのか確認すると、「……へえ」と呟いていた。
僕は緩んだ司の腕を振り解くと、声の主の元へ駆け寄っていた。
「ここで待ってろ?先に帰るなよ」
「ちゃんと送ってもらうから」
「はいはい」
そう言い残し司が出て行ったタイミングで、ようやくスマホを取り出す。司の前で気にする素振りを見せて詮索されるのが嫌で、あえて見なかった。もし、自分の予想が当たっているなら武琉は多分大丈夫だ。
画面のロックを外すと、メッセージアプリを確認した。
1件は希海から。
『武琉を捕まえたから心配するな』
それだけの短いメッセージ。
そしてもう1件は武琉から。
メッセージと共に写真も添付されていて、それを見て僕はふふっと笑う。そして、2人にメッセージを送ってスマホをしまった。
「香緒、帰るぞ」
ちょうど司が部屋の入り口から僕を呼び、席を立ち上がる。
僕はその素晴らしい眺望を振り返ることなく部屋をあとにした。
外に出ると、ほんの少し潮の香りのする風が吹いていた。雨の降る様子もなく、来るときに降っていた雨が局所的だったのがよくわかる。
「あーあ。せっかくのチャンスなのに、お前とドライブにも行けないなんてな」
車に乗り込み、僕が助手席でシートベルトをしていると、司は隣で面白くなさそうにワザとらしく声を上げる。
「司と過ごしたい人くらい、いくらでもいるでしょ?」
「俺はお前がいいんだ!」
まるで子供が駄々を捏ねるように司は言うと、僕のほうへ向き少し顔を近づける。
「なぁ、付き合ってるやつ、いるのか?」
「……いないよ」
司を見ず、真っ直ぐ前を見たまま僕は答える。
「じゃあ、好きなやつは?……例えば今日来てたやつ、とか」
「司には関係ないでしょ」
「はぐらかすってことはそうなんだな。ふーん。人が苦手なお前がねぇ。どんなやつか興味湧くな」
「だから、司には関係ない。いいから車出してよ」
「……へいへい」
そう言って肩を竦めると、司は車のエンジンをかけハンドルを握った。
◆◆
「香緒。着いたぞ!」
撮影で疲れていたのと、お腹が満たされたのに加え、車の心地よい揺れが眠気を誘い、いつの間にか僕は眠っていた。凭れかかっていた助手席の扉がゆっくりと開くと、司がシートベルトを外している気配がした。そして、まだぼんやりとしている僕の腕を引くと、降りるよう促した。僕はそこが何処だか確認しないまま、ぼんやりと車を降りた。
「ちょっと!ここどこ?」
明らかに撮影で使ったビルの駐車場ではない場所に、一気に目が覚める。
「いいから。いいから」
腕をがっちりと組まれ外す事もできず、僕は司に着いて歩くしかなかった。地下駐車場らしき場所から、エレベーターで1階に上がると、広々としたロビーに人が行き交うのが見えた。これまで何度か訪れた事のある老舗ホテルだと思った。
「司!ちゃんと元の場所に帰してって言ったでしょ!」
小さな声で抵抗しつつ司を見上げると、「別に取って食ったりしねーよ。お前が疲れてそうだから休ませてやるだけだ。……それとも何か期待してる?」と、最後だけ耳元で囁くように僕に言う。
「もう目は覚めたし大丈夫だよ!」
「もう少しくらいいいだろ?それに、あんまり抵抗すると目立つぞ」
背の高い男と、その男と腕を組んで引きずられるように歩いている男の2人組なんて、すでに視線を集めてるよ……と思いながら、それ以上目立つのはさすがに問題なので大人しく司の歩幅に合わせて歩く。司に伴われて共にフロントまでやって来ると、司は係に声をかけた。
「お帰りなさいませ、長門様。メッセージをお預かりしておりますので、少々お待ちください」
係の男性はそう言うと奥の扉へ消えて言った。
その時、「香緒さん!!」と後ろから声がした。
僕も司もその声に弾かれるように振り返る。司はそれが誰なのか確認すると、「……へえ」と呟いていた。
僕は緩んだ司の腕を振り解くと、声の主の元へ駆け寄っていた。
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