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12 side 香緒 3.
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僕は死にたいわけじゃない。生きる事に何の価値も見出せないだけだ。ずっと大事なものを失ったまま、何かが欠落したまま、ただ生きているだけだ。
「そんな事ない」
「希海が心配してるぞ」
「……わかってるよ」
返事をするのも面倒で放置したままのメール。僕の事を見限っても仕方がないとさえ思う。反面、希海が僕のことを見捨てることもないだろうと思う気持ちもあった。
「希海でもダメって重傷だな」
小さくそう呟いたかと思うと、司は僕の顎を掴み顔を自分の方へ向かせた。じっとこちらを見る視線を感じるが、僕は司と目を合わすことはしない。
「落ちるところまで落ちればいい」
司は僕の唇に喰らいつくように重なった。そのまま隙間から舌が割って入ると、強い力で口の中を蹂躙される。
突然の事で抵抗する隙さえなく、されるがままに激しいキスを受け入れてしまう。
司にこんな事をされるのは初めてだ。今までは頰にキスされるくらいで、ちょっとしたスキンシップ位にしか感じていなかったのに、突然の変貌に驚く。
「っはぁっ……つ、かさ……やだっ」
押し返そうとするが、僕の細い手首は司に掴まれ微動だにしない。
司の方は意に介さず僕を激しく貪り続けている。
口の中にもある敏感な部分を舌で探られ、時々背中には電流が走ったようにゾクゾクし、生理的に甘い吐息が口から漏れてしまう。
「いい声だ……。もっと啼け香緒」
離された司の唇が僕の耳元にやってくると、そう囁きながら舌が這う。
「やっっ!」
より一層反応し、声が漏れる。
「司っ……!なんで……。こんなこと……」
首筋に唇を這わしている司に抵抗するように尋ねる。
「理由?お前が欲しいから。それだけだ」
顔を上げ、真っ直ぐこちらを見る司が視界に入る。
もう何年も前から知っているその顔は、見たことがないくらい熱を帯びているのに、反面とても悲しげな顔をしていた。
「司……」
僕はその顔を見て、酷く苦しくなった。司は多分、僕に生きる理由を作ろうとしているのだ。それがどんな方法だとしても。
「……好きにすれば良いよ」
僕はそう言って目を閉じた。
◆◆
司はそれからふらっとやってくるようになった。
事前に連絡なんてないから、何時だろうがインターフォンを鳴らされるので、僕はいつも不機嫌な顔で出迎える。それなのに、司はそれを気にする様子もなく、僕を寝室に連れ込むと当たり前のように僕を抱いた。
事が終わると、「運動した後は腹が減るだろ?」と、普段はデリバリーなどしていなさそうな有名店の食事を運ばせていた。
希海から海外での仕事が入ったからしばらく不在にすると連絡があったのはその頃だった。
『お前の事が心配だ。ちゃんと飯は食え』
『心配しないで。ちゃんと食べてる。気をつけて行って来て』
希海は司がうちに入り浸っている事を知らないらしい。
心配をかけないように、今回はすぐに返信をすると、『帰国したら会いに行く。土産を楽しみにしてろ』と返って来た。
そんな風に忙しくしている希海とは反対に、司は僕の家にずっと泊まり込むようになった。
だからと言って、必要以上に干渉してくる事もなく、お互い好きな事をして過ごしている。僕はだいたいの日は本を読んだり、観葉植物の手入れをしたりしている。司はパソコンで作業したり、僕の横で本を読んだりしていた。
「ねえ司。仕事、してる?」
「あぁ、してないな。全部希海にやらせてる。俺じゃなくてもいいからな」
自虐的とも思える物言いに、それ以上は何も言えなくなる。司には司の事情があるのだろう。けれど、僕にはなんの関係の無い事だ。
僕たちは、ただお互い依存し合って、何かから逃れようとしているだけなのだから。
「そんな事ない」
「希海が心配してるぞ」
「……わかってるよ」
返事をするのも面倒で放置したままのメール。僕の事を見限っても仕方がないとさえ思う。反面、希海が僕のことを見捨てることもないだろうと思う気持ちもあった。
「希海でもダメって重傷だな」
小さくそう呟いたかと思うと、司は僕の顎を掴み顔を自分の方へ向かせた。じっとこちらを見る視線を感じるが、僕は司と目を合わすことはしない。
「落ちるところまで落ちればいい」
司は僕の唇に喰らいつくように重なった。そのまま隙間から舌が割って入ると、強い力で口の中を蹂躙される。
突然の事で抵抗する隙さえなく、されるがままに激しいキスを受け入れてしまう。
司にこんな事をされるのは初めてだ。今までは頰にキスされるくらいで、ちょっとしたスキンシップ位にしか感じていなかったのに、突然の変貌に驚く。
「っはぁっ……つ、かさ……やだっ」
押し返そうとするが、僕の細い手首は司に掴まれ微動だにしない。
司の方は意に介さず僕を激しく貪り続けている。
口の中にもある敏感な部分を舌で探られ、時々背中には電流が走ったようにゾクゾクし、生理的に甘い吐息が口から漏れてしまう。
「いい声だ……。もっと啼け香緒」
離された司の唇が僕の耳元にやってくると、そう囁きながら舌が這う。
「やっっ!」
より一層反応し、声が漏れる。
「司っ……!なんで……。こんなこと……」
首筋に唇を這わしている司に抵抗するように尋ねる。
「理由?お前が欲しいから。それだけだ」
顔を上げ、真っ直ぐこちらを見る司が視界に入る。
もう何年も前から知っているその顔は、見たことがないくらい熱を帯びているのに、反面とても悲しげな顔をしていた。
「司……」
僕はその顔を見て、酷く苦しくなった。司は多分、僕に生きる理由を作ろうとしているのだ。それがどんな方法だとしても。
「……好きにすれば良いよ」
僕はそう言って目を閉じた。
◆◆
司はそれからふらっとやってくるようになった。
事前に連絡なんてないから、何時だろうがインターフォンを鳴らされるので、僕はいつも不機嫌な顔で出迎える。それなのに、司はそれを気にする様子もなく、僕を寝室に連れ込むと当たり前のように僕を抱いた。
事が終わると、「運動した後は腹が減るだろ?」と、普段はデリバリーなどしていなさそうな有名店の食事を運ばせていた。
希海から海外での仕事が入ったからしばらく不在にすると連絡があったのはその頃だった。
『お前の事が心配だ。ちゃんと飯は食え』
『心配しないで。ちゃんと食べてる。気をつけて行って来て』
希海は司がうちに入り浸っている事を知らないらしい。
心配をかけないように、今回はすぐに返信をすると、『帰国したら会いに行く。土産を楽しみにしてろ』と返って来た。
そんな風に忙しくしている希海とは反対に、司は僕の家にずっと泊まり込むようになった。
だからと言って、必要以上に干渉してくる事もなく、お互い好きな事をして過ごしている。僕はだいたいの日は本を読んだり、観葉植物の手入れをしたりしている。司はパソコンで作業したり、僕の横で本を読んだりしていた。
「ねえ司。仕事、してる?」
「あぁ、してないな。全部希海にやらせてる。俺じゃなくてもいいからな」
自虐的とも思える物言いに、それ以上は何も言えなくなる。司には司の事情があるのだろう。けれど、僕にはなんの関係の無い事だ。
僕たちは、ただお互い依存し合って、何かから逃れようとしているだけなのだから。
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