19 / 134
2
1.
しおりを挟む
──ミーンミーンミーン……
今年もセミが嫌になるくらいに喧しく鳴いている。暑い夏がやって来た。夏休みになったばかりで、まだまだこの声を聞かされるのかと思うとうんざりだ。
俺はそんな事を思いながら、1人教会に向かっていた。
俺の住んでいる施設の横には教会がある。日曜日に集まる人はいるが、平日の朝に来る人なんてまずいない。誰にも邪魔されずにいれる俺の秘密基地のような場所だ。
俺はいつものように教会へ向かう生垣を通り、一本だけある大きな木の横を通り過ぎようとしていた。
何かいつもと違う気がする。何故か木の上にヒラヒラと白い何かが引っかかっていた。なんだろう?そう思って見上げる。
「ねえ、そこの君!」
白い布から声がする。驚いて目を凝らすと、布ではない。人だ。白いドレスを来た女の子が木にしがみついていた。
「ドレスが木に引っかかって取れないんだ。登って取ってくれない?」
同じ年くらいに見える女の子は、必死な顔で訴えかけてくる。
「わかった!ちょっと待って」
俺は何度も登ったことのあるこの木の裏に回り、女の子に近づいた。確かにドレスの裾が枝に引っかかっている。破かないように丁寧に外すと、俺は先に降りた。
「俺が受け止めるから、こっちに飛んでいいよ」
俺はその子にそう言った。後で考えるととても無謀だが、子供の浅知恵で大丈夫だと思った。
「でも……」
「大丈夫!信用して」
根拠のない自信で女の子にそう告げる。
「わかった」
その子は意を決して木から飛び降りた。白いドレスがフワフワと揺れ、羽根のように見えた。
あぁ……天使だ……
その時俺はそう思った。
女の子を無事受け止めた、と言いたいところだけど、本当はギリギリで、受け止めた反動でこけ、軽く頭を打つ。
「痛っ……」
女の子の方は怪我はなさそうだ。俺にしがみついたまま、こちらを心配そうに眺めていた。
「大丈夫?」
見たことのないような栗色の長い髪。大きな茶色の瞳に長い睫毛。近くで見るとびっくりするぐらい綺麗だった。
天使様って本当にいるんだ……
人形のような女の子を眺めて俺はそんな事を思った。
「──っ!」
遠くで誰かが、何か言っている声が聞こえてくる。その声に女の子はハッとしたように立ち上がった。
「行かなきゃ」
「どこ行くの?」
「あそこの教会だよ」
「俺も今から行くところ」
そう俺が告げると、女の子はにっこりと笑い、じゃあ一緒に行こ?と手を差し伸べてくれた。
「うん」
その手を俺は取り、一緒に歩き出した。
教会の前に着くと、いつもと様子が違っていた。何人かの大人達が教会の前をウロウロしていて、大きな機材も置いてあるのが見えて、俺は驚いて足を止めた。
「どうかした?」
女の子は不思議そうに尋ねる。
「だってあんなに人がいるの見た事ない」
「大丈夫だよ?知り合いだから」
そう話していると、誰かが近づいてきた。
「探したぞ。何やってたんだ」
さっき呼んでいた声の主のようだ。大人かと思ったが、そうじゃなさそうだ。多分中学生くらいだ。その人は俺をじっと見つめていた。
「誰?」
「命の恩人だよ」
さすがにそれは大袈裟だと思う。否定しようと俺は口を開いた。
「あの、木から降りられなくなってたから助けただけです」
俺は正直にそう答えた。それを聞いて女の子が何をしていたか察したようで、その人は軽く女の子を睨む。女の子の方は悪びれもせず笑っていた。
「悪かったな。助けてくれてありがとう」
ほんの少しだけ口元を緩めてそう言うと、その人は俺の頭を撫でてくれた。
「いえ……」
ちょっと気恥ずかしく思いながら俺はそう答えた。
今年もセミが嫌になるくらいに喧しく鳴いている。暑い夏がやって来た。夏休みになったばかりで、まだまだこの声を聞かされるのかと思うとうんざりだ。
俺はそんな事を思いながら、1人教会に向かっていた。
俺の住んでいる施設の横には教会がある。日曜日に集まる人はいるが、平日の朝に来る人なんてまずいない。誰にも邪魔されずにいれる俺の秘密基地のような場所だ。
俺はいつものように教会へ向かう生垣を通り、一本だけある大きな木の横を通り過ぎようとしていた。
何かいつもと違う気がする。何故か木の上にヒラヒラと白い何かが引っかかっていた。なんだろう?そう思って見上げる。
「ねえ、そこの君!」
白い布から声がする。驚いて目を凝らすと、布ではない。人だ。白いドレスを来た女の子が木にしがみついていた。
「ドレスが木に引っかかって取れないんだ。登って取ってくれない?」
同じ年くらいに見える女の子は、必死な顔で訴えかけてくる。
「わかった!ちょっと待って」
俺は何度も登ったことのあるこの木の裏に回り、女の子に近づいた。確かにドレスの裾が枝に引っかかっている。破かないように丁寧に外すと、俺は先に降りた。
「俺が受け止めるから、こっちに飛んでいいよ」
俺はその子にそう言った。後で考えるととても無謀だが、子供の浅知恵で大丈夫だと思った。
「でも……」
「大丈夫!信用して」
根拠のない自信で女の子にそう告げる。
「わかった」
その子は意を決して木から飛び降りた。白いドレスがフワフワと揺れ、羽根のように見えた。
あぁ……天使だ……
その時俺はそう思った。
女の子を無事受け止めた、と言いたいところだけど、本当はギリギリで、受け止めた反動でこけ、軽く頭を打つ。
「痛っ……」
女の子の方は怪我はなさそうだ。俺にしがみついたまま、こちらを心配そうに眺めていた。
「大丈夫?」
見たことのないような栗色の長い髪。大きな茶色の瞳に長い睫毛。近くで見るとびっくりするぐらい綺麗だった。
天使様って本当にいるんだ……
人形のような女の子を眺めて俺はそんな事を思った。
「──っ!」
遠くで誰かが、何か言っている声が聞こえてくる。その声に女の子はハッとしたように立ち上がった。
「行かなきゃ」
「どこ行くの?」
「あそこの教会だよ」
「俺も今から行くところ」
そう俺が告げると、女の子はにっこりと笑い、じゃあ一緒に行こ?と手を差し伸べてくれた。
「うん」
その手を俺は取り、一緒に歩き出した。
教会の前に着くと、いつもと様子が違っていた。何人かの大人達が教会の前をウロウロしていて、大きな機材も置いてあるのが見えて、俺は驚いて足を止めた。
「どうかした?」
女の子は不思議そうに尋ねる。
「だってあんなに人がいるの見た事ない」
「大丈夫だよ?知り合いだから」
そう話していると、誰かが近づいてきた。
「探したぞ。何やってたんだ」
さっき呼んでいた声の主のようだ。大人かと思ったが、そうじゃなさそうだ。多分中学生くらいだ。その人は俺をじっと見つめていた。
「誰?」
「命の恩人だよ」
さすがにそれは大袈裟だと思う。否定しようと俺は口を開いた。
「あの、木から降りられなくなってたから助けただけです」
俺は正直にそう答えた。それを聞いて女の子が何をしていたか察したようで、その人は軽く女の子を睨む。女の子の方は悪びれもせず笑っていた。
「悪かったな。助けてくれてありがとう」
ほんの少しだけ口元を緩めてそう言うと、その人は俺の頭を撫でてくれた。
「いえ……」
ちょっと気恥ずかしく思いながら俺はそう答えた。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?
おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。
『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』
※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる