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しばらく俺たちは腕を組んだまま歩き、路地を曲がると2人で顔を見合わせて笑い出す。
「武琉よかったのか?あんなで」
目尻に涙を浮かべる程笑いながら、祐樹は俺に尋ねる。
「正直助かったよ」
「ちょっと前から見てたんだけど、知り合いだったら邪魔するのもなーと思ったんだけどさ。お前物凄く困った顔してたからなぁ」
会うのは10年ぶり位なのに、子供の頃ずっと一緒に過ごした仲だ。俺の事をよく分かっている。
「まあ、ちょっと面白かったけどな」
一言余計なのも変わりはない。
「じゃ、気を取り直して飲みに行こうぜ~」
子供のころからの変わらない明るさで祐樹は俺にそう言った。
着いた店は、ごく普通の居酒屋だった。どちらかと言うと、会社帰りのサラリーマンが多くて、全く気取った店ではなくホッとする。
「ここ、安くて美味いんだぜ!」
案内された席に着きながら祐樹は自分のことのように自慢げに言う。席に案内してくれた店員に、『生2つねと』勝手に注文するのも、祐樹らしい。あっという間にやってきたビールを持つと、俺たちはジョッキを合わせた。
「再会にかんぱーい!」
「あぁ」
ビールが美味しくなる季節になり、祐樹は勢いよくビールを飲んでいる。
「はーうまい!ほんと、お前と飲める日が来るなんてな」
柴犬を彷彿とさせるような人懐っこい顔で祐樹は笑っている。
身体は別れた時より随分大きくなっているのに、その憎めない笑顔は全く変わっていなかった。
「お前、あのビルの中の会社で働いてるんだろ?凄いな」
俺は祐樹を見ながらしみじみと言う。
「あー……。まあ、運が良かったのかな。俺中学出てから親戚に世話になってたんだけどさ。その人達のおかげだな」
祐樹はそれから、今まで自分にあった事を話してくれた。親戚は子供のいない夫婦で、本当の子供のように可愛がってくれた事。大学まで出してくた事。無事就職も出来、今は恩返しをしたいけど、相手は当たり前のことをしたんだからと受け取ってくれない事。
「俺……施設出てからそんな人生が待ってるなんて思いもしなかったよ」
祐樹は並べられた料理をつつきながらしみじみと語った。
「で、武琉はどうなんだ?随分とイケメンになったし。だいたいあの看板!相手も無茶苦茶綺麗な人だな!」
食い気味に祐樹は俺に尋ねる。俺の方も、施設を出てからの事を話しだした。ただし、あまり心配はかけたくないので、希海さんに拾われるまでの事はあまり詳しく話さなかった。希海さんに拾われた経緯もさすがに変だろうから、たまたま知り合った人と言う事にしておいた。
「へー。良かったな、いい人と知り合えて。って、あの人男⁈えーちょっと残念。紹介して貰おうと思ったのに」
「そこかよ……。どっちだろうがお前には紹介しない」
「なんだよケチー!」
祐樹は舌をベーっと出している。本当にこいつは昔から俺とは正反対で表情豊かだ。学校でも人気者で友達もたくさんいた。
そんな事を思いながら祐樹を眺めていると、ふと何かを思い出したかのように祐樹が口を開いた。
「そういやさ、俺たちの施設の横にあった教会、取り壊されるの知ってる?」
俺は施設を出てから施設があった場所には行っていない。施設がなくなっているのを見たくなくて、なんとなく避けていた。本来なら施設と一緒売却される予定だったが、何とか管理を続けてくれる人が見つかり、教会だけは残る事になったと施設を出る前に聞いていた。
「だいぶ古くなってたからなぁ……。たまたま仕事で近くに行くことあったから寄ってみたら近所の人がそう言ってた。もう管理する人もいないんだと」
「そうか……」
まだあったんだと嬉しく思うのと同時に、無くなる寂しさが襲ってくる。最後に一回でいいから行ってみたい……そう思った。
「武琉はあそこ好きだったよな。そういや、小学生の頃に天使に会ったって言った事あったな」
「……そんな事あったか?」
俺がそう言うと、驚いたように祐樹はこちらを見た。
「いつだったかの夏休み入ってすぐだったぞ。珍しくお前興奮してて……。覚えてないの?」
「あぁ」
「うーん、絶対覚えてると思ったんだけどなぁ。あの後教会に通い詰めてたじゃん」
そこまで言うと、祐樹はポンと自分の手を叩いた。
「あ、あれだ。お前そのあとすっごい高熱で何日か寝込んでたからな。それで覚えてないとか?」
高熱で寝込んだ……で、そういえばそんな事もあったなと思い出す。その頃の記憶は何故か曖昧だ。それより前の事で覚えている事もあるのに。
記憶を掘り起こすように俺は思い出を辿る。自分の住んでいた場所。隣にあった教会までの砂利道。古びた教会の建物……。
『ずっと一緒にいようね。約束だよ』
突然、頭の中に誰かの声が響いた。
「武琉よかったのか?あんなで」
目尻に涙を浮かべる程笑いながら、祐樹は俺に尋ねる。
「正直助かったよ」
「ちょっと前から見てたんだけど、知り合いだったら邪魔するのもなーと思ったんだけどさ。お前物凄く困った顔してたからなぁ」
会うのは10年ぶり位なのに、子供の頃ずっと一緒に過ごした仲だ。俺の事をよく分かっている。
「まあ、ちょっと面白かったけどな」
一言余計なのも変わりはない。
「じゃ、気を取り直して飲みに行こうぜ~」
子供のころからの変わらない明るさで祐樹は俺にそう言った。
着いた店は、ごく普通の居酒屋だった。どちらかと言うと、会社帰りのサラリーマンが多くて、全く気取った店ではなくホッとする。
「ここ、安くて美味いんだぜ!」
案内された席に着きながら祐樹は自分のことのように自慢げに言う。席に案内してくれた店員に、『生2つねと』勝手に注文するのも、祐樹らしい。あっという間にやってきたビールを持つと、俺たちはジョッキを合わせた。
「再会にかんぱーい!」
「あぁ」
ビールが美味しくなる季節になり、祐樹は勢いよくビールを飲んでいる。
「はーうまい!ほんと、お前と飲める日が来るなんてな」
柴犬を彷彿とさせるような人懐っこい顔で祐樹は笑っている。
身体は別れた時より随分大きくなっているのに、その憎めない笑顔は全く変わっていなかった。
「お前、あのビルの中の会社で働いてるんだろ?凄いな」
俺は祐樹を見ながらしみじみと言う。
「あー……。まあ、運が良かったのかな。俺中学出てから親戚に世話になってたんだけどさ。その人達のおかげだな」
祐樹はそれから、今まで自分にあった事を話してくれた。親戚は子供のいない夫婦で、本当の子供のように可愛がってくれた事。大学まで出してくた事。無事就職も出来、今は恩返しをしたいけど、相手は当たり前のことをしたんだからと受け取ってくれない事。
「俺……施設出てからそんな人生が待ってるなんて思いもしなかったよ」
祐樹は並べられた料理をつつきながらしみじみと語った。
「で、武琉はどうなんだ?随分とイケメンになったし。だいたいあの看板!相手も無茶苦茶綺麗な人だな!」
食い気味に祐樹は俺に尋ねる。俺の方も、施設を出てからの事を話しだした。ただし、あまり心配はかけたくないので、希海さんに拾われるまでの事はあまり詳しく話さなかった。希海さんに拾われた経緯もさすがに変だろうから、たまたま知り合った人と言う事にしておいた。
「へー。良かったな、いい人と知り合えて。って、あの人男⁈えーちょっと残念。紹介して貰おうと思ったのに」
「そこかよ……。どっちだろうがお前には紹介しない」
「なんだよケチー!」
祐樹は舌をベーっと出している。本当にこいつは昔から俺とは正反対で表情豊かだ。学校でも人気者で友達もたくさんいた。
そんな事を思いながら祐樹を眺めていると、ふと何かを思い出したかのように祐樹が口を開いた。
「そういやさ、俺たちの施設の横にあった教会、取り壊されるの知ってる?」
俺は施設を出てから施設があった場所には行っていない。施設がなくなっているのを見たくなくて、なんとなく避けていた。本来なら施設と一緒売却される予定だったが、何とか管理を続けてくれる人が見つかり、教会だけは残る事になったと施設を出る前に聞いていた。
「だいぶ古くなってたからなぁ……。たまたま仕事で近くに行くことあったから寄ってみたら近所の人がそう言ってた。もう管理する人もいないんだと」
「そうか……」
まだあったんだと嬉しく思うのと同時に、無くなる寂しさが襲ってくる。最後に一回でいいから行ってみたい……そう思った。
「武琉はあそこ好きだったよな。そういや、小学生の頃に天使に会ったって言った事あったな」
「……そんな事あったか?」
俺がそう言うと、驚いたように祐樹はこちらを見た。
「いつだったかの夏休み入ってすぐだったぞ。珍しくお前興奮してて……。覚えてないの?」
「あぁ」
「うーん、絶対覚えてると思ったんだけどなぁ。あの後教会に通い詰めてたじゃん」
そこまで言うと、祐樹はポンと自分の手を叩いた。
「あ、あれだ。お前そのあとすっごい高熱で何日か寝込んでたからな。それで覚えてないとか?」
高熱で寝込んだ……で、そういえばそんな事もあったなと思い出す。その頃の記憶は何故か曖昧だ。それより前の事で覚えている事もあるのに。
記憶を掘り起こすように俺は思い出を辿る。自分の住んでいた場所。隣にあった教会までの砂利道。古びた教会の建物……。
『ずっと一緒にいようね。約束だよ』
突然、頭の中に誰かの声が響いた。
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