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そのメッセージは唐突にやって来た。
今日は皆出ていて、家には俺1人。ひと通り家の事を終わらせてから、部屋のベッドに転がって本を読んでいると、傍にあるスマホから通知音が聞こえてきた。
誰だ……?
スマホを開くと、1枚の写真に短いメッセージ。
『この看板お前か⁈』
屋上から撮っただろうあの看板の写真。送り主は祐樹だった。平日の昼下がり、多分今は休憩時間なんだろう。
『よく分かったな』
すぐに既読が付き、『当たり前だろ!コーヒー吹きそうになったわ』と返ってきた。なんだか様子が目に浮かんで俺は笑ってしまう。
『つか、今週空いてる日あるか?やっと仕事も落ち着いたから飲みに行かね?』
『木曜日なら大丈夫だと思うけど聞いてみる』
そう送ると、祐樹からOKと書かれたスタンプが送られてきた。
こんな何気ないやりとりが嬉しくて、しばらくスマホのメッセージを眺めてしまう。ほんの数ヶ月前まで携帯すら持った事がなくて、あんな大きなビルに入る事もなかった。
希海さんに拾われてから、俺の生活は一変した。そして何もかもが嘘みたいに上手く行っている。
でも時々不安に苛まれる。
この夢はいつか醒めるんじゃないだろうかと。全ては長い長い夢の中の出来事で、ある日突然消えてなくなるんじゃないかと。
何も持っていなかった頃はこんな気持ちになる事なんてなかった。ただ、日々を流されるままに生きていた。でも、一度手に入れてしまうと途端に失うのが怖くなる。
もしも……香緒さんを失ってしまったら、俺はどうなってしまうんだろうか。そう思うだけで背筋が寒くなる。
ずっと一緒に居られるなんて、あるわけないのに……
◆◆
木曜日午後7時前。ビジネス街に程近い駅前。
俺は待ち合わせ場所のコンビニの前に立っていた。
希海さんと香緒さんに夜出かける事情を説明し、承諾を貰った。と言っても2人とも『自分達に遠慮する事なく自由に出かけたらいい』と言ってくれた。
香緒さんは祐樹と再会した経緯を知っているから『祐樹に会ってきます』と伝えると、自分のことのように喜び、『楽しんで来てね』と声を掛けてくれた。
それから祐樹とやりとりし、土地勘のない俺でも分かるだろう駅前のコンビニ前を待ち合わせ場所に指定してくれたのだった。
早めに着き、俺は行き交う人々を眺める。会社帰りのサラリーマンにOL、これから飲みに行くのか楽しそうに歩く団体。こんな風に他人を眺める事もなかったな、と思った。
「あの……」
ぼんやりしていると、いつの間にか隣に同じ位の歳の女の子が2人立っていて声をかけて来た。
「……?」
一瞬自分に声をかけて来たのか分からず返事に困っていると、持っていたバッグから雑誌を取り出して見せてくる。
「この写真の人ですよね?」
見ると香緒さんと写っている俺だった。
「え⁈……そう、ですが」
俺が思わずそう答えると、2人はキャー!と声を上げ、「やっぱり!似てるなって見てたんです~!モデルさんですか~?名前教えてください!」と凄い勢いで話し始めた。そのあまりの勢いに、俺は押され気味になる。今まで話した事もないような人達で、困惑していると、いつの間にか身体に触れてくる。
「あのっ!俺はモデルとかじゃなくて……」
「えっ、じゃあ芸能人とか?すごーい」
俺の話を全く聞く事なく、勝手に話を進める2人に俺は困り果てる。
「良かったら私たちと飲みに行きませんかぁ?」
二人が両側に回り込に、俺に腕を絡めてきそうになったところで声がした。
「お待たせー!って知り合い?」
「祐樹……」
俺の乏しい表情でも困り果てているのを察したようだ。
「えーっと。俺の彼氏に何か用?」
2人の女の子を交互に眺めて祐樹はそう言った。
「えっ?彼氏?」
2人はそれを聞いて俺から離れる。それを見て祐樹は俺の間に割り込み、腕を絡めた。
「はいはい、デートの邪魔しないでね~」
と言いながらひらひら手を振ると、俺と腕を組んだまま歩き出した。2人は声を出す事なく呆然としたまま俺達を見送っていた。
今日は皆出ていて、家には俺1人。ひと通り家の事を終わらせてから、部屋のベッドに転がって本を読んでいると、傍にあるスマホから通知音が聞こえてきた。
誰だ……?
スマホを開くと、1枚の写真に短いメッセージ。
『この看板お前か⁈』
屋上から撮っただろうあの看板の写真。送り主は祐樹だった。平日の昼下がり、多分今は休憩時間なんだろう。
『よく分かったな』
すぐに既読が付き、『当たり前だろ!コーヒー吹きそうになったわ』と返ってきた。なんだか様子が目に浮かんで俺は笑ってしまう。
『つか、今週空いてる日あるか?やっと仕事も落ち着いたから飲みに行かね?』
『木曜日なら大丈夫だと思うけど聞いてみる』
そう送ると、祐樹からOKと書かれたスタンプが送られてきた。
こんな何気ないやりとりが嬉しくて、しばらくスマホのメッセージを眺めてしまう。ほんの数ヶ月前まで携帯すら持った事がなくて、あんな大きなビルに入る事もなかった。
希海さんに拾われてから、俺の生活は一変した。そして何もかもが嘘みたいに上手く行っている。
でも時々不安に苛まれる。
この夢はいつか醒めるんじゃないだろうかと。全ては長い長い夢の中の出来事で、ある日突然消えてなくなるんじゃないかと。
何も持っていなかった頃はこんな気持ちになる事なんてなかった。ただ、日々を流されるままに生きていた。でも、一度手に入れてしまうと途端に失うのが怖くなる。
もしも……香緒さんを失ってしまったら、俺はどうなってしまうんだろうか。そう思うだけで背筋が寒くなる。
ずっと一緒に居られるなんて、あるわけないのに……
◆◆
木曜日午後7時前。ビジネス街に程近い駅前。
俺は待ち合わせ場所のコンビニの前に立っていた。
希海さんと香緒さんに夜出かける事情を説明し、承諾を貰った。と言っても2人とも『自分達に遠慮する事なく自由に出かけたらいい』と言ってくれた。
香緒さんは祐樹と再会した経緯を知っているから『祐樹に会ってきます』と伝えると、自分のことのように喜び、『楽しんで来てね』と声を掛けてくれた。
それから祐樹とやりとりし、土地勘のない俺でも分かるだろう駅前のコンビニ前を待ち合わせ場所に指定してくれたのだった。
早めに着き、俺は行き交う人々を眺める。会社帰りのサラリーマンにOL、これから飲みに行くのか楽しそうに歩く団体。こんな風に他人を眺める事もなかったな、と思った。
「あの……」
ぼんやりしていると、いつの間にか隣に同じ位の歳の女の子が2人立っていて声をかけて来た。
「……?」
一瞬自分に声をかけて来たのか分からず返事に困っていると、持っていたバッグから雑誌を取り出して見せてくる。
「この写真の人ですよね?」
見ると香緒さんと写っている俺だった。
「え⁈……そう、ですが」
俺が思わずそう答えると、2人はキャー!と声を上げ、「やっぱり!似てるなって見てたんです~!モデルさんですか~?名前教えてください!」と凄い勢いで話し始めた。そのあまりの勢いに、俺は押され気味になる。今まで話した事もないような人達で、困惑していると、いつの間にか身体に触れてくる。
「あのっ!俺はモデルとかじゃなくて……」
「えっ、じゃあ芸能人とか?すごーい」
俺の話を全く聞く事なく、勝手に話を進める2人に俺は困り果てる。
「良かったら私たちと飲みに行きませんかぁ?」
二人が両側に回り込に、俺に腕を絡めてきそうになったところで声がした。
「お待たせー!って知り合い?」
「祐樹……」
俺の乏しい表情でも困り果てているのを察したようだ。
「えーっと。俺の彼氏に何か用?」
2人の女の子を交互に眺めて祐樹はそう言った。
「えっ?彼氏?」
2人はそれを聞いて俺から離れる。それを見て祐樹は俺の間に割り込み、腕を絡めた。
「はいはい、デートの邪魔しないでね~」
と言いながらひらひら手を振ると、俺と腕を組んだまま歩き出した。2人は声を出す事なく呆然としたまま俺達を見送っていた。
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