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「ただいま~!」
香緒さんと共に、散々買い物をした物を持ってリビングに入る。かなりの量だ。食料にキッチン用品や食器と、香緒さんは子供のように目を輝かせて嬉しそうに選んでいた。
買い物を終え、大量の袋を抱えて車に戻ると、すでにいくつも紙袋が積んであった。
どうやらあの時他にも服を買っていて、店長に乗せて貰っていたらしい。
その量に唖然とする俺に、香緒さんは「だって、必要でしょ?」当たり前の様にそう言って笑った。
夕食は散々悩んだ挙句、ハンバーグを作ることにした。なんせ、希海さんのリクエストは「普通の家庭料理」だ。俺は普通の家庭で育ったわけじゃない。貧相なイメージから捻りだした結果がこれだった。
食材を選びながら、香緒さんは、「手作りのハンバーグなんて久しぶりだから楽しみだよ」と喜んでくれたのが救いだった。
リビングに入ると、希海さんは昼と同じように雑誌を眺めていた。
「ただいま帰りました……」
朝と全く違う自分が気恥ずかしく、なんだか目を合わせられない。
「ずいぶんと変わったな。いい男になった」
口調は相変わらず淡々としているが、なんとなく嬉しそうなのを感じた。
「香緒さんのおかげです」
「そうか。良かったな」
希海さんはそう言うと少し笑みを浮かべた。
「武琉~!材料どうしたらいい?」
キッチンから冷蔵庫に材料を運んでくれていた香緒さんの声が聞こえてくる。
「あ、俺やります」
俺はキッチンに入ると、食材を冷蔵庫に入れ夕食の準備を始めた。
香緒さんがスマホを貸してくれて、作り方は確認しながらだが、多分出来るだろう。
「何か手伝う?」
香緒さんがスマホに目を落としている俺の横顔を覗き込んだ。
「大丈夫です。疲れたでしょうからゆっくりしててください」
香緒さんは、「何かあったら呼んでね」と言いながらサーバーからカップにコーヒーを入れ、希海さんのいるリビングに向かって行った。
「わ~!美味しそ」
テーブルに並べられた料理を見て、香緒さんが声を上げる。
至って普通のハンバーグに、サラダとスープ。何とか食べて貰えるものにはなったと思う。人の為に作るなんて初めてで、ちょっと緊張はしていた。
希海さんは、赤ワインを用意して、それぞれのグラスに注いでいる。
「ただいまぁ~。って今から飯?ラッキー!」
ちょうど帰って来た響がすぐさま手を洗いに行った。
「連絡は入れておいたけど、珍しく時間通りだね」
戻って来た響に香緒さんが言う。
「今日は撮影押さなかったの!なんだよ~、早く帰ってきたのに」
とぶつぶつ言う響に、香緒さんはごめんごめんと謝っていた。
「いただきまーす!」
響は勢い良く箸を持つと、真っ先に食べ始めた。
「ん!うまっ。これどこの?」
一口食べて顔を上げると、響がそう言った。
それを聞いて、ニコニコ笑いながら香緒さんもハンバーグを口にした。
「うん!美味しいよ。武琉」
香緒さんも喜んでくれている。が、その横で響が驚いた顔で箸を落とした。
「は?もしかして、お前が作ったの?」
響はバツの悪そうな顔でこちらを睨んでいる。
「響、美味しいって言ったよね?今日は武琉の手料理だよ」
「……」
しばし無言になるが、再び箸を持つと食事に手をつける。
「まぁ……。食べられないこともない」
褒められているのか貶されているのか分からないが、食べてくれるみたいだ。
自分が作ったものを喜んでくれることがこんなにも嬉しいんだと俺は思っていた。
「うまい。どこで習ったんだ?」
ワインを飲みながら食べていた希海さんに質問される。
「俺……。施設で育ったんですけど、その時母親がわりだった人が、将来困らないようにって教えてくれたんです」
「そうか。これがお前の母の味なんだな」
希海さんは、至って普通の料理を食べてくれていた。
そうか、幼い頃は何も思わなかったが、あの時教えられた事がちゃんと生きてるんだな。
そんなことを思いながら、俺は自分の作った食事を初めて味わって食べた。
香緒さんと共に、散々買い物をした物を持ってリビングに入る。かなりの量だ。食料にキッチン用品や食器と、香緒さんは子供のように目を輝かせて嬉しそうに選んでいた。
買い物を終え、大量の袋を抱えて車に戻ると、すでにいくつも紙袋が積んであった。
どうやらあの時他にも服を買っていて、店長に乗せて貰っていたらしい。
その量に唖然とする俺に、香緒さんは「だって、必要でしょ?」当たり前の様にそう言って笑った。
夕食は散々悩んだ挙句、ハンバーグを作ることにした。なんせ、希海さんのリクエストは「普通の家庭料理」だ。俺は普通の家庭で育ったわけじゃない。貧相なイメージから捻りだした結果がこれだった。
食材を選びながら、香緒さんは、「手作りのハンバーグなんて久しぶりだから楽しみだよ」と喜んでくれたのが救いだった。
リビングに入ると、希海さんは昼と同じように雑誌を眺めていた。
「ただいま帰りました……」
朝と全く違う自分が気恥ずかしく、なんだか目を合わせられない。
「ずいぶんと変わったな。いい男になった」
口調は相変わらず淡々としているが、なんとなく嬉しそうなのを感じた。
「香緒さんのおかげです」
「そうか。良かったな」
希海さんはそう言うと少し笑みを浮かべた。
「武琉~!材料どうしたらいい?」
キッチンから冷蔵庫に材料を運んでくれていた香緒さんの声が聞こえてくる。
「あ、俺やります」
俺はキッチンに入ると、食材を冷蔵庫に入れ夕食の準備を始めた。
香緒さんがスマホを貸してくれて、作り方は確認しながらだが、多分出来るだろう。
「何か手伝う?」
香緒さんがスマホに目を落としている俺の横顔を覗き込んだ。
「大丈夫です。疲れたでしょうからゆっくりしててください」
香緒さんは、「何かあったら呼んでね」と言いながらサーバーからカップにコーヒーを入れ、希海さんのいるリビングに向かって行った。
「わ~!美味しそ」
テーブルに並べられた料理を見て、香緒さんが声を上げる。
至って普通のハンバーグに、サラダとスープ。何とか食べて貰えるものにはなったと思う。人の為に作るなんて初めてで、ちょっと緊張はしていた。
希海さんは、赤ワインを用意して、それぞれのグラスに注いでいる。
「ただいまぁ~。って今から飯?ラッキー!」
ちょうど帰って来た響がすぐさま手を洗いに行った。
「連絡は入れておいたけど、珍しく時間通りだね」
戻って来た響に香緒さんが言う。
「今日は撮影押さなかったの!なんだよ~、早く帰ってきたのに」
とぶつぶつ言う響に、香緒さんはごめんごめんと謝っていた。
「いただきまーす!」
響は勢い良く箸を持つと、真っ先に食べ始めた。
「ん!うまっ。これどこの?」
一口食べて顔を上げると、響がそう言った。
それを聞いて、ニコニコ笑いながら香緒さんもハンバーグを口にした。
「うん!美味しいよ。武琉」
香緒さんも喜んでくれている。が、その横で響が驚いた顔で箸を落とした。
「は?もしかして、お前が作ったの?」
響はバツの悪そうな顔でこちらを睨んでいる。
「響、美味しいって言ったよね?今日は武琉の手料理だよ」
「……」
しばし無言になるが、再び箸を持つと食事に手をつける。
「まぁ……。食べられないこともない」
褒められているのか貶されているのか分からないが、食べてくれるみたいだ。
自分が作ったものを喜んでくれることがこんなにも嬉しいんだと俺は思っていた。
「うまい。どこで習ったんだ?」
ワインを飲みながら食べていた希海さんに質問される。
「俺……。施設で育ったんですけど、その時母親がわりだった人が、将来困らないようにって教えてくれたんです」
「そうか。これがお前の母の味なんだな」
希海さんは、至って普通の料理を食べてくれていた。
そうか、幼い頃は何も思わなかったが、あの時教えられた事がちゃんと生きてるんだな。
そんなことを思いながら、俺は自分の作った食事を初めて味わって食べた。
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