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さすがに彼の手が止まる。俺からは背中越しでその男の様子は見えないが、剣幕から言ってかなり怒っているようだ。
「女は連れ込んでいない」
希海、と呼ばれたその人は、変わらず淡々とした口調で答えた。
「だから、言ってるでしょ?響」
そう言って、さっきとは違う宥めるような優しい口調の声がした。
「だって香緒!あの靴、希海のじゃないだろ?誰のだよ!」
「さすがに女の子のサイズじゃないって。ね?そこの君」
香緒、と言う名前の穏やかな口調の男が、俺に問いかけている。
「俺の、です……」
振り返りながら頭に被せてあったタオルを取ると俺は答えた。
「お前、だれ?」
不審者でも見るかのようにこちらを睨み付けているのは、響と言われていたほうだ。
「あの……」
どう答えていいかわからず口ごもっていると「俺が拾って来た」と抑揚のない声で希海さんが答えた。
「拾った⁈拾ったってなんだよ!」
さすがに犬や猫じゃあるまいし、その言い草は……と思ったが、間違っていないので反論のしようもなく、俺は黙ったままでいた。
希海さんはふっと小さく息を吐くと「コーヒーでも入れてやる。座っていろ」と響に構うことなくキッチンへ向かって行った。
しかたなく俺は、さっきまで希海さんが座っていた半円形のデカイソファの隅に座る。反対側には、残された2人が座った。
「で?あんた何者だよ」
響は不機嫌さを隠す事なく俺に問う。
かなり怒っている様子で、眉間にはシワが刻まれいるが、響の顔はかなり整っていて、いわゆる王子様のような甘いマスクだ。
その隣にいる香緒さんも、スタイルも良くて一見すると女性にも見える中性的な顔立ちだ。ここの住人には顔の審査でもあるのかと、ついマジマジと見てしまった。
「おい、聞いてんのか?って言うか俺の顔見て何も思わないのかよ?」
そう言うと響の眉間に、より一層深くシワが刻まれる。
「いえ……。その……」
男相手に『綺麗な顔ですね』とも言えず、俺は口籠もる。
「は?俺の事知らねーの?あんたどこの世界から来たんだよ」
響は、はぁと深くため息を吐くと栗色の髪を大きくかきあげた。
「まあまあ、響。落ち着きなよ」
香緒さんが響を宥め、こちらを向いた。
「一応芸能人で、kyoって名前でドラマにも出てるんだけど……。見たことないかな?」
芸能人だったのか。そう説明され納得はできた。が、申し訳ないが俺はテレビを見られるような環境になかったので、ドラマなんてみようもなく、もちろんkyoについて何も知らなかった。
「すみません。俺、テレビ見ないんで……」
「お前、ほんとに現代人か?」
響は怒りを通り越して呆れていた。
「ほら、コーヒー入ったぞ」
ようやく良い香りを漂わせ、希海さんが戻ってくる。3人分のコーヒーをそれぞれの目の前に置くと、ソファの真ん中に座り、先程置いたグラスにウィスキーを注いでいた。
「希海!こいつほんとに何者だよ」
「……俺も知らん」
「は?」
希海さんは、俺を拾って連れて来た話を掻い摘んで話した。掻い摘むも何も、よく考えれば俺たちは自己紹介もしていない。
「ふーん。そうなんだ。僕は橋本香緒。26才。よろしくね」
大の大人が拾われてくると言う異様な状況をさらっと受け入れて、香緒さんはニッコリ笑いながら自己紹介する。
改めて見ても、性別を感じさせない綺麗な顔立ち。俺と変わらないくらい背が高く、手足は細くて長い。柔らかそうな薄茶色の髪は肩まであって、とても似合っている。
「俺は、土居武琉……24です」
俺達が自己紹介をしている横で、響はそっぽを向いてコーヒーを飲んでいた。
「俺は認めてないからな。こんな得体の知れないやつ!」
たぶんファンが見れば幻滅しそうなほど、響は不機嫌な様子を見せている。ただし、怒った顔も隙がないくらい整っている。ふわふわした金髪も見える栗色の髪に白い肌。さすが芸能人だと納得できる。
「ほんとに響は大人げないなぁ。この子の本名は三条響。22才。さっきも言った通り、俳優やってる。結構有名人だよ?」
響の横で、香緒さんが笑いながら説明した。
「お前だって有名だろ!」
「それを言うなら希海だってそうだよ。彼は大江希海。僕の一つ年上。カメラマンやってて、僕はその専属モデルってとこかな」
なんだか凄い経歴の持ち主が目の前に座っている事に唖然とする。
今まで生きて来て、こんな煌びやかな人間を間近で見ることなどなかった。
「で、こいつどうすんの?」
いまだに俺の事を信用していない響はかなり不機嫌だ。
「あの、俺……。服乾いたら出て行くんで……」
当たり前だ。俺は単なる雨宿りで拾って貰ったんだから。
「お前……。行くあてないんだろう?」
機械的にも聞こえる希海さんの低い声。希海さんはそう言うと、ウィスキーを飲み干しテーブルにグラスを置いた。
「あ……の……大丈夫です」
俺は図星を突かれて焦るが、なんとか取り繕った。
ここでようやく希海さんは人間らしい表情で、眉間にシワを寄せ不機嫌そうな顔を見せた。
「一部屋空いている。好きなだけここにいろ」
「希海!」
響は不満そうな声をあげるが、希海さんはそれに対して氷つきそうな冷たい視線を浴びせた。
「ここの家主は誰だ?」
「希海……です」
「ここにいる条件は?」
「家主の決めた事に逆らわない……」
響はシュンとした子犬のようになっている。それを見て希海さんはふっと小さく笑うと、「わかっているならいい」と響の頭を撫でていた。
「女は連れ込んでいない」
希海、と呼ばれたその人は、変わらず淡々とした口調で答えた。
「だから、言ってるでしょ?響」
そう言って、さっきとは違う宥めるような優しい口調の声がした。
「だって香緒!あの靴、希海のじゃないだろ?誰のだよ!」
「さすがに女の子のサイズじゃないって。ね?そこの君」
香緒、と言う名前の穏やかな口調の男が、俺に問いかけている。
「俺の、です……」
振り返りながら頭に被せてあったタオルを取ると俺は答えた。
「お前、だれ?」
不審者でも見るかのようにこちらを睨み付けているのは、響と言われていたほうだ。
「あの……」
どう答えていいかわからず口ごもっていると「俺が拾って来た」と抑揚のない声で希海さんが答えた。
「拾った⁈拾ったってなんだよ!」
さすがに犬や猫じゃあるまいし、その言い草は……と思ったが、間違っていないので反論のしようもなく、俺は黙ったままでいた。
希海さんはふっと小さく息を吐くと「コーヒーでも入れてやる。座っていろ」と響に構うことなくキッチンへ向かって行った。
しかたなく俺は、さっきまで希海さんが座っていた半円形のデカイソファの隅に座る。反対側には、残された2人が座った。
「で?あんた何者だよ」
響は不機嫌さを隠す事なく俺に問う。
かなり怒っている様子で、眉間にはシワが刻まれいるが、響の顔はかなり整っていて、いわゆる王子様のような甘いマスクだ。
その隣にいる香緒さんも、スタイルも良くて一見すると女性にも見える中性的な顔立ちだ。ここの住人には顔の審査でもあるのかと、ついマジマジと見てしまった。
「おい、聞いてんのか?って言うか俺の顔見て何も思わないのかよ?」
そう言うと響の眉間に、より一層深くシワが刻まれる。
「いえ……。その……」
男相手に『綺麗な顔ですね』とも言えず、俺は口籠もる。
「は?俺の事知らねーの?あんたどこの世界から来たんだよ」
響は、はぁと深くため息を吐くと栗色の髪を大きくかきあげた。
「まあまあ、響。落ち着きなよ」
香緒さんが響を宥め、こちらを向いた。
「一応芸能人で、kyoって名前でドラマにも出てるんだけど……。見たことないかな?」
芸能人だったのか。そう説明され納得はできた。が、申し訳ないが俺はテレビを見られるような環境になかったので、ドラマなんてみようもなく、もちろんkyoについて何も知らなかった。
「すみません。俺、テレビ見ないんで……」
「お前、ほんとに現代人か?」
響は怒りを通り越して呆れていた。
「ほら、コーヒー入ったぞ」
ようやく良い香りを漂わせ、希海さんが戻ってくる。3人分のコーヒーをそれぞれの目の前に置くと、ソファの真ん中に座り、先程置いたグラスにウィスキーを注いでいた。
「希海!こいつほんとに何者だよ」
「……俺も知らん」
「は?」
希海さんは、俺を拾って連れて来た話を掻い摘んで話した。掻い摘むも何も、よく考えれば俺たちは自己紹介もしていない。
「ふーん。そうなんだ。僕は橋本香緒。26才。よろしくね」
大の大人が拾われてくると言う異様な状況をさらっと受け入れて、香緒さんはニッコリ笑いながら自己紹介する。
改めて見ても、性別を感じさせない綺麗な顔立ち。俺と変わらないくらい背が高く、手足は細くて長い。柔らかそうな薄茶色の髪は肩まであって、とても似合っている。
「俺は、土居武琉……24です」
俺達が自己紹介をしている横で、響はそっぽを向いてコーヒーを飲んでいた。
「俺は認めてないからな。こんな得体の知れないやつ!」
たぶんファンが見れば幻滅しそうなほど、響は不機嫌な様子を見せている。ただし、怒った顔も隙がないくらい整っている。ふわふわした金髪も見える栗色の髪に白い肌。さすが芸能人だと納得できる。
「ほんとに響は大人げないなぁ。この子の本名は三条響。22才。さっきも言った通り、俳優やってる。結構有名人だよ?」
響の横で、香緒さんが笑いながら説明した。
「お前だって有名だろ!」
「それを言うなら希海だってそうだよ。彼は大江希海。僕の一つ年上。カメラマンやってて、僕はその専属モデルってとこかな」
なんだか凄い経歴の持ち主が目の前に座っている事に唖然とする。
今まで生きて来て、こんな煌びやかな人間を間近で見ることなどなかった。
「で、こいつどうすんの?」
いまだに俺の事を信用していない響はかなり不機嫌だ。
「あの、俺……。服乾いたら出て行くんで……」
当たり前だ。俺は単なる雨宿りで拾って貰ったんだから。
「お前……。行くあてないんだろう?」
機械的にも聞こえる希海さんの低い声。希海さんはそう言うと、ウィスキーを飲み干しテーブルにグラスを置いた。
「あ……の……大丈夫です」
俺は図星を突かれて焦るが、なんとか取り繕った。
ここでようやく希海さんは人間らしい表情で、眉間にシワを寄せ不機嫌そうな顔を見せた。
「一部屋空いている。好きなだけここにいろ」
「希海!」
響は不満そうな声をあげるが、希海さんはそれに対して氷つきそうな冷たい視線を浴びせた。
「ここの家主は誰だ?」
「希海……です」
「ここにいる条件は?」
「家主の決めた事に逆らわない……」
響はシュンとした子犬のようになっている。それを見て希海さんはふっと小さく笑うと、「わかっているならいい」と響の頭を撫でていた。
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