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番外編 酸いも甘いも
side 夏帆3
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私の頰に擦り寄りキスするとアルは明るく言う。
「面白がってはいないよ? ただ、君たちはそんな一言で壊れる関係なのかな? とは思ってる」
口調こそ軽いが、言っていることはまともだ。自分だって人生の大半を一緒に過ごし、いて当たり前の存在だった千春と、たった一言だけで取り戻せない関係になるなんて思いたくない。
「……でも。千春、すっごく怒ってた」
「いいじゃないか。それだけ怒るってことはカホのことがそれだけ大事なんだよ。興味のない人間にそんなに怒りは湧かないよ」
的を射たことをいうアルに、少し慰められる。さすが私より伊達に10年長く生きてはいない。
「そうだね。あとでちゃんと謝る。千春にも、ふゆちゃんにも」
「大丈夫。きっと二人なら許してくれるさ」
ぎゅっと私を抱きしめて、アルはしみじみと言った。
明日、連絡取ってちゃんと謝ろう。二人が上手くいってくれていたら……いや、きっと上手くいっていると信じている。だから、今度は三人で昔みたいに笑って話しがしたい。その時には……、この男がそばにいてもいい、かな?
そんなことを考えながらアルの顔を見上げる。アルはニコリと笑うと啄むように唇を重ねる。そして私の顔をじっと眺めた。
「ところでカホ。髪の毛をまたブルーにする予定はないの?」
「なんなのよ、唐突に」
話しの脈絡のなさに呆れる。
また、と言うのは始めて会ったときの髪色がそうだったからだ。今よりもう少し長めのショートボブだった。いつも派手な髪色にしていて、そのとき気分でブルーにしたばかりだった。
もう三年前の若気の至り。と言っても、今はそれより落ち着いて見えるアッシュグレイだが。
「また推しに似ているカホが見たい」
「だからっ! 推しっていったい誰なのよ!」
アルが日本のアニメをこよなく愛しているのは知っているが、そういえば今の今までその最愛の推しが誰なのか聞いていない。
「あれ? 言ってなかった?」
あっけらかんと言うと、アルは続いてそのキャラクターの名前を口にした。
「はぁ? 全く似てないじゃん! あんたの目、節穴なの?」
意表を突いたその名前。私くらいの世代以上ならたいていの人が知っていそうな、美少女たちが月に変わってお仕置きするアニメのキャラクター。優等生で頭のいい、水色がイメージカラーの彼女と自分が、どこをどう取っても似ているとは思えない。
「そうかなぁ。素顔のカホは彼女に似てると思うんだけど」
呆れ果てながら体を起こすとザバァとお湯が音を立て波打った。
「とりあえず、あんたの頭はとてつもなく残念なことはよくわかった! のぼせそうだから上がる」
バスタブに手をかけ出ようとするとアルは追いかけるように体を動かす。
「おや。今日はここでいいことしないのかい? 残念だな」
私はそんなアルに思い切り顔を顰めて言い放つ。
「あんた、バカ?」
それを聞いたアルは、グッジョブと言いたげに指を突き出した。
「いいね、その有名なセリフ! ツンデレ最高!」
すこぶる笑顔を見せるアルに溜め息が出る。
私は早まったのかも知れない。
『付き合ってみないと相性なんてわからないよ』
なんて丸め込まれて付き合い始めた結果、体の相性は抜群で、なんだかんだで我儘を聞いてくれる男と、結婚してもいいかも、と思ってしまったことを。
「あんたも早く出なさいよ! ここではしないけど、ベッドの上ならいいわよ」
アルは立ち上がると私を抱き寄せる。
「カホ。マイスイートエンジェル。アイラブユー」
ニコニコして胸焼けしそうな甘い言葉を吐き、アルは私にキスをした。
「面白がってはいないよ? ただ、君たちはそんな一言で壊れる関係なのかな? とは思ってる」
口調こそ軽いが、言っていることはまともだ。自分だって人生の大半を一緒に過ごし、いて当たり前の存在だった千春と、たった一言だけで取り戻せない関係になるなんて思いたくない。
「……でも。千春、すっごく怒ってた」
「いいじゃないか。それだけ怒るってことはカホのことがそれだけ大事なんだよ。興味のない人間にそんなに怒りは湧かないよ」
的を射たことをいうアルに、少し慰められる。さすが私より伊達に10年長く生きてはいない。
「そうだね。あとでちゃんと謝る。千春にも、ふゆちゃんにも」
「大丈夫。きっと二人なら許してくれるさ」
ぎゅっと私を抱きしめて、アルはしみじみと言った。
明日、連絡取ってちゃんと謝ろう。二人が上手くいってくれていたら……いや、きっと上手くいっていると信じている。だから、今度は三人で昔みたいに笑って話しがしたい。その時には……、この男がそばにいてもいい、かな?
そんなことを考えながらアルの顔を見上げる。アルはニコリと笑うと啄むように唇を重ねる。そして私の顔をじっと眺めた。
「ところでカホ。髪の毛をまたブルーにする予定はないの?」
「なんなのよ、唐突に」
話しの脈絡のなさに呆れる。
また、と言うのは始めて会ったときの髪色がそうだったからだ。今よりもう少し長めのショートボブだった。いつも派手な髪色にしていて、そのとき気分でブルーにしたばかりだった。
もう三年前の若気の至り。と言っても、今はそれより落ち着いて見えるアッシュグレイだが。
「また推しに似ているカホが見たい」
「だからっ! 推しっていったい誰なのよ!」
アルが日本のアニメをこよなく愛しているのは知っているが、そういえば今の今までその最愛の推しが誰なのか聞いていない。
「あれ? 言ってなかった?」
あっけらかんと言うと、アルは続いてそのキャラクターの名前を口にした。
「はぁ? 全く似てないじゃん! あんたの目、節穴なの?」
意表を突いたその名前。私くらいの世代以上ならたいていの人が知っていそうな、美少女たちが月に変わってお仕置きするアニメのキャラクター。優等生で頭のいい、水色がイメージカラーの彼女と自分が、どこをどう取っても似ているとは思えない。
「そうかなぁ。素顔のカホは彼女に似てると思うんだけど」
呆れ果てながら体を起こすとザバァとお湯が音を立て波打った。
「とりあえず、あんたの頭はとてつもなく残念なことはよくわかった! のぼせそうだから上がる」
バスタブに手をかけ出ようとするとアルは追いかけるように体を動かす。
「おや。今日はここでいいことしないのかい? 残念だな」
私はそんなアルに思い切り顔を顰めて言い放つ。
「あんた、バカ?」
それを聞いたアルは、グッジョブと言いたげに指を突き出した。
「いいね、その有名なセリフ! ツンデレ最高!」
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私は早まったのかも知れない。
『付き合ってみないと相性なんてわからないよ』
なんて丸め込まれて付き合い始めた結果、体の相性は抜群で、なんだかんだで我儘を聞いてくれる男と、結婚してもいいかも、と思ってしまったことを。
「あんたも早く出なさいよ! ここではしないけど、ベッドの上ならいいわよ」
アルは立ち上がると私を抱き寄せる。
「カホ。マイスイートエンジェル。アイラブユー」
ニコニコして胸焼けしそうな甘い言葉を吐き、アルは私にキスをした。
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