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番外編 酸いも甘いも
side 千春2
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「で。お父さん、お母さん。さっき冬弥君が言ったことの返事! 聞かせてくれる?」
勢いよく尋ねると、両親はそれぞれポカンと口を開いていた。もうすでに忘れているのかも知れない。
「あら。さっきの、ドッキリじゃなかったの?」
母は呑気にそう言うと、残しておいただろうケーキの苺を頬張っている。
「そんなわけないでしょ? あのね、私たち結婚しようと思ってるの。いいわよね?」
自分で選んだ、ブルーベリーソースのかかったレアチーズケーキを食べ終えると、母の出してくれた紅茶を啜る。そのまま向かいを見ると、父は同じく残していたショートケーキの苺を口から落としそうになっていた。
「千春! いったいいつの間に冬弥君と付き合っていたんだ⁈」
聞かれるとは思ったけど……。なんて言おう? 昨日って正直に言う?
頭の中でグルグル考えていると、先に口火を切ったのは冬弥君だった。
「おじさん、おばさん。僕たち、まだ付き合ってないんです。再会してまだ1か月も経ってなくて。でも僕は真剣です。結婚するのはちーちゃん……いえ、千春さんしか考えられません。どうか認めてください!」
少し後ろに下がると、そこで冬弥君は土下座をする。その伏せの姿勢の良さにしばし見惚れてから我に返った。
「わっ、私からもお願いします。その、突然で驚いただろうけど、私、冬弥君とこれからも一緒にいたいなって思ったから」
親にこんな告白をするのはとてつもなく恥ずかしい。けど、冬弥君がこんなにも一生懸命になっているのだから、私だって頑張りたい。
同じように頭を下げていると沈黙が訪れる。二人はいったいどんな顔をしてるんだろうと思うと怖くて顔が上げられない。ドキドキしていると、父のわざとらしい咳払いが聞こえてきた。
「二人とも、顔を上げなさい」
真面目な父の声に、頭を下げたまま冬弥君と顔を見合わせる。その冬弥君はかなり表情を強張らせていた。
恐る恐る顔を上げると、一応はそれなりの会社で部長をしている父は、なんとなく威厳のある表情を作っていた。
「冬弥君。娘は……嫁に、やらない」
「……え?」
そう漏らしたのは私だ。冬弥君は言葉も出ないようだ。そんなことを言われるなんてと言った表情で、ただ呆然としていた。
居間の古びた時計の音だけがやけに大きく聞こえていた。しばらく息を呑んでお父さんの顔を見つめていると、急にその顔が緩んだ。
「……なーんてね! 母さん、ようやく僕にも息子ができるよ。嬉しいなぁ」
真顔から一転、急に表情を崩すと父は母に話しかけている。母も笑顔で父と手を取り合っていた。
「本当よね、お父さん! こんなにイケメンよぉ! どうしましょう」
そんな二人を見て思い切り脱力する。ドッキリを仕掛けられたのは私たちのほうだったみたいだ。
「お父さん! 冗談にしてはタチが悪いわよ! 冬弥君が泣いちゃったらどうするの⁈」
怒りながら父に言うと、隣から冬弥君の小さな声がする。
「大丈夫だよ、ちーちゃん……」
そう言いながらも、冬弥君は血の気の引いた顔色のままチワワのようにプルプルと震えていた。
勢いよく尋ねると、両親はそれぞれポカンと口を開いていた。もうすでに忘れているのかも知れない。
「あら。さっきの、ドッキリじゃなかったの?」
母は呑気にそう言うと、残しておいただろうケーキの苺を頬張っている。
「そんなわけないでしょ? あのね、私たち結婚しようと思ってるの。いいわよね?」
自分で選んだ、ブルーベリーソースのかかったレアチーズケーキを食べ終えると、母の出してくれた紅茶を啜る。そのまま向かいを見ると、父は同じく残していたショートケーキの苺を口から落としそうになっていた。
「千春! いったいいつの間に冬弥君と付き合っていたんだ⁈」
聞かれるとは思ったけど……。なんて言おう? 昨日って正直に言う?
頭の中でグルグル考えていると、先に口火を切ったのは冬弥君だった。
「おじさん、おばさん。僕たち、まだ付き合ってないんです。再会してまだ1か月も経ってなくて。でも僕は真剣です。結婚するのはちーちゃん……いえ、千春さんしか考えられません。どうか認めてください!」
少し後ろに下がると、そこで冬弥君は土下座をする。その伏せの姿勢の良さにしばし見惚れてから我に返った。
「わっ、私からもお願いします。その、突然で驚いただろうけど、私、冬弥君とこれからも一緒にいたいなって思ったから」
親にこんな告白をするのはとてつもなく恥ずかしい。けど、冬弥君がこんなにも一生懸命になっているのだから、私だって頑張りたい。
同じように頭を下げていると沈黙が訪れる。二人はいったいどんな顔をしてるんだろうと思うと怖くて顔が上げられない。ドキドキしていると、父のわざとらしい咳払いが聞こえてきた。
「二人とも、顔を上げなさい」
真面目な父の声に、頭を下げたまま冬弥君と顔を見合わせる。その冬弥君はかなり表情を強張らせていた。
恐る恐る顔を上げると、一応はそれなりの会社で部長をしている父は、なんとなく威厳のある表情を作っていた。
「冬弥君。娘は……嫁に、やらない」
「……え?」
そう漏らしたのは私だ。冬弥君は言葉も出ないようだ。そんなことを言われるなんてと言った表情で、ただ呆然としていた。
居間の古びた時計の音だけがやけに大きく聞こえていた。しばらく息を呑んでお父さんの顔を見つめていると、急にその顔が緩んだ。
「……なーんてね! 母さん、ようやく僕にも息子ができるよ。嬉しいなぁ」
真顔から一転、急に表情を崩すと父は母に話しかけている。母も笑顔で父と手を取り合っていた。
「本当よね、お父さん! こんなにイケメンよぉ! どうしましょう」
そんな二人を見て思い切り脱力する。ドッキリを仕掛けられたのは私たちのほうだったみたいだ。
「お父さん! 冗談にしてはタチが悪いわよ! 冬弥君が泣いちゃったらどうするの⁈」
怒りながら父に言うと、隣から冬弥君の小さな声がする。
「大丈夫だよ、ちーちゃん……」
そう言いながらも、冬弥君は血の気の引いた顔色のままチワワのようにプルプルと震えていた。
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