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番外編 酸いも甘いも
side 千春1
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ラブホテルでプロポーズされると言う珍事⁈ を経た翌日の午後。
「千春さんとの結婚をお許しください‼︎」
うちのリビング、という洒落た言いかたの似合わない居間。そこに昔からあるダークウッドの座卓の前で正座した冬弥君は深々と頭を下げている。
突然の来客で取り繕う暇もなかった父はよれたスエット姿。母はなんとか外に出られる最低限の服装でもちろんすっぴん。
そんな二人は、冬弥君が買ってくれた近所の店のケーキを前に口を開けていた。
「えーっと。なんだ? あれか? ほら。ドッキリ大成功! とかいうやつ」
お父さんは挙動不審なまま辺りを見渡している。
「そうよね? 彼氏の一人も連れてこなかった千春が結婚なんて……」
お母さんは顔を引き攣らせて父に言っていた。
顔を上げた冬弥君は、さっきの勢いはどこへやら。不安そうに私を見ていた。
「ちーちゃん。……ドッキリって、何?」
「あっ、あのね、冬弥君……」
これは本気で尋ねている。冬弥君、ドッキリは知らなかったようだ。テレビのバラエティ番組で、出演者がイタズラを仕掛けられ、あとでドッキリ大成功、とか札持って現れるやつを。
私が乾いた笑いを漏らしながら口を開こうとしたとき、母は突然声を上げた。
「冬弥君? 冬弥君ってあの⁈ 久美ちゃんところの冬弥君⁈」
さっきも名前を紹介したはずなのに、母は全く気づいてなかったようだ。自分もだから人のことは言えないが。
「今なの⁈」
「だって、千春。倉木さんなんて言われても誰かわからないわよ。ちーちゃん、って呼んでて気づいたわぁ。あの、子犬のように千春の後を追いかけてた冬弥君ね? ま~! 男前になったわねぇ」
完全におばちゃん化している母はしみじみとしている。その隣で父も思い出したのか、ポンと手を叩いた。
「ああ。あの。可愛らしかった冬弥君か! 大きくなったなあ!」
冬弥君は戸惑ったまま、今頃になって「ご無沙汰しています。おじさん。おばさん」と挨拶した。気づかれていなかったとは思ってなかったようだ。
「元気そうでよかったわ。久美ちゃんは元気にしてる? どうしてるのか心配してたのよ」
「はい。母も変わらず。きっとお二人にも会いたがると思います」
冬弥君が近くに住んでいた頃は家族ぐるみでお付き合いもあった。うちの母と夏帆のママ、冬弥君のママは年齢も違うが仲良くしていたみたいだ。
「そお! 色々あったから苦労したんじゃないかと思って。でも、冬弥君をこんなに立派に育てて。えらいわぁ!」
「それほどでも……」
それからは母の独壇場だ。矢継ぎ早に質問を始めると、冬弥君は一生懸命答えていた。
気がつけばケーキを食べながら世間話に興じていて、なんのために冬弥君を連れて来たのか忘れそうになっていた。
隣で明らかに困惑している冬弥君の整った横顔にキュンとするのを抑えつつ私は切り出した。
「千春さんとの結婚をお許しください‼︎」
うちのリビング、という洒落た言いかたの似合わない居間。そこに昔からあるダークウッドの座卓の前で正座した冬弥君は深々と頭を下げている。
突然の来客で取り繕う暇もなかった父はよれたスエット姿。母はなんとか外に出られる最低限の服装でもちろんすっぴん。
そんな二人は、冬弥君が買ってくれた近所の店のケーキを前に口を開けていた。
「えーっと。なんだ? あれか? ほら。ドッキリ大成功! とかいうやつ」
お父さんは挙動不審なまま辺りを見渡している。
「そうよね? 彼氏の一人も連れてこなかった千春が結婚なんて……」
お母さんは顔を引き攣らせて父に言っていた。
顔を上げた冬弥君は、さっきの勢いはどこへやら。不安そうに私を見ていた。
「ちーちゃん。……ドッキリって、何?」
「あっ、あのね、冬弥君……」
これは本気で尋ねている。冬弥君、ドッキリは知らなかったようだ。テレビのバラエティ番組で、出演者がイタズラを仕掛けられ、あとでドッキリ大成功、とか札持って現れるやつを。
私が乾いた笑いを漏らしながら口を開こうとしたとき、母は突然声を上げた。
「冬弥君? 冬弥君ってあの⁈ 久美ちゃんところの冬弥君⁈」
さっきも名前を紹介したはずなのに、母は全く気づいてなかったようだ。自分もだから人のことは言えないが。
「今なの⁈」
「だって、千春。倉木さんなんて言われても誰かわからないわよ。ちーちゃん、って呼んでて気づいたわぁ。あの、子犬のように千春の後を追いかけてた冬弥君ね? ま~! 男前になったわねぇ」
完全におばちゃん化している母はしみじみとしている。その隣で父も思い出したのか、ポンと手を叩いた。
「ああ。あの。可愛らしかった冬弥君か! 大きくなったなあ!」
冬弥君は戸惑ったまま、今頃になって「ご無沙汰しています。おじさん。おばさん」と挨拶した。気づかれていなかったとは思ってなかったようだ。
「元気そうでよかったわ。久美ちゃんは元気にしてる? どうしてるのか心配してたのよ」
「はい。母も変わらず。きっとお二人にも会いたがると思います」
冬弥君が近くに住んでいた頃は家族ぐるみでお付き合いもあった。うちの母と夏帆のママ、冬弥君のママは年齢も違うが仲良くしていたみたいだ。
「そお! 色々あったから苦労したんじゃないかと思って。でも、冬弥君をこんなに立派に育てて。えらいわぁ!」
「それほどでも……」
それからは母の独壇場だ。矢継ぎ早に質問を始めると、冬弥君は一生懸命答えていた。
気がつけばケーキを食べながら世間話に興じていて、なんのために冬弥君を連れて来たのか忘れそうになっていた。
隣で明らかに困惑している冬弥君の整った横顔にキュンとするのを抑えつつ私は切り出した。
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