偽物のご令嬢は本物の御曹司に懐かれています

玖羽 望月

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番外編: 煩悩の犬を飼い慣らす

5*

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「何で……そんなこと、聞くんですか……?」

 涙目のまま荒い息でちーちゃんは尋ね返した。まさか初めてで勝手もわからず不安なんですとも言えず口を噤んでしまう。

「あ……の……」

 ちーちゃんは戸惑ったように声を漏らす。それに急速に熱が冷めていく。背中には冷たい感覚が忍び寄っていた。
 そんな僕の腕に、ちーちゃんはツウッと指を滑らせた。

「気持ち、いいです……。これ以上焦らさないでください」

 またちーちゃんにフォローされ、自分を情けなく思ってしまう。でも、今そんなことを反省している場合ではない。
 できるだけ焦りを悟られないよう、あくまでも自然な感じを装ってちーちゃんに軽く口付けする。

「少しだけ、待っててください」

 心の中は今暴風が吹き荒れているような激しさ。とりあえず、まずはを付けなくては、と着ていたバスローブのポケットに入れっぱなしだったものを拾い上げた。
 ちーちゃんから見えないようベッドから降りると、封すら開けてないものを慌てて開ける。もっとスマートに、漫画で描写があったみたいにカッコよく付けられたらよかっただろうけど、今全くそんな余裕はない。中身を取り出し小袋を開けると、初めての手触りに余計に焦った。

 これ、でいいのか……?

 付け方が合っているかなんてちーちゃんに聞くわけにいかない。さすがにこれに関してはビデオにも漫画にも出てこなかったから。

 ようやくちーちゃんの元へ戻り、組み敷くように見下ろす。恥ずかしそうにしながらも、ちーちゃんは僕の首に腕を回した。

 心臓が……破裂しそう……

 見たこともないちーちゃんの表情。艶やかで情欲に掻き立てられる。

「……きて……?」

 小さく囁くちーちゃんに、頭がクラクラした。

挿入いれ……ますよ?」

 必死で昂る気持ちを抑えながら尋ねると、薄目を開け僕を見ながらコクリと頷く。
 屹立したものを熱く蕩けるその場所に当てがうと、ゆっくりと沈めた。

「あっ、ん、んんっ……」

 どうにか……なりそう……

 進むたびに包み込まれていく自分自身に、恍惚とした感覚を覚える。身を捩るちーちゃんの手を握りしめ、その匂いを嗅ぐように耳元に鼻を近づけた。

「千春さんは……本当にいい匂いがしますね」
「っ……んっ」

 耳の後ろに鼻をつけ、匂いを嗅ぎながら囁く。体を揺らして反応してくれるちーちゃんに嬉しくなり、その耳元でふふっと息を漏らす。

「……可愛い」

 もう、理性などとっくに焼き切れた。本能のまま白い首筋をベロリと舐めた。
 ちーちゃんから僕を誘う濃密な香りが漂ってくる。むせかえるような甘い花のような香り。それだけでもう天に昇りそうだ。

「やっ、あっ! 倉木、さ、ん……」
「名前……呼んでください」

 唇を耳に付けた囁く。倉木さんと呼ばれるのはお終いにしたい。あの懐かしい呼び方を僕に聞かせて欲しい。

「名前、知り……ま、せん……」

 逃れるように体を捩るちーちゃんに、意を決して囁いた。

「冬弥……です」
「とう、や、さん……?」

 絡め合った両手を握ると僕は言う。

「さん、は嫌です……」

 そんな他人行儀な呼び方はされたくない。正直に思いを告げるとちーちゃんはおずおずと続けた。

「……とう、や、くん……?」

 どうしよう。嬉しい……

 ほんの0.01ミリの薄い膜だけで遮られたが、自分でもわかるくらいズクリと大きさを増す。

「ひっ、やっ、あぁ!」

 悲鳴のような声を漏らすちーちゃんが欲しくて堪らない。思わず舌舐めずりをしてしまう。

「本当。……可愛いよ」

 そこからはもう、我を忘れて僕はケモノに成り果てていた。ちーちゃんの嬌声が上がるたび、もっと喰らい付きたくなって求めてしまう。

「ああっっ! ダメ、ぁっ、とうやく……」

 僕の首に縋りつき体を震わせているこの姿は演技なんかじゃないはずだ。本能のままに貪り続け、ついに僕は膜越しに果てた。

 お互い何キロもマラソンしてきたみたいに肩から息をしている。

 ここから出たくない……

 熱くて柔らかくて気持ちのいいちーちゃんの中。少しの刺激でまた反応しそうだ。仕方なくそれを抜くと、ちーちゃんから「んっ」と甘く誘う声がする。

「千春……さん……」

 潤んだ瞳でハァハァと息をするちーちゃんの唇に触れる。その息で火傷しそうなほど熱い。
 しばらくゆっくりと唇を求めあったあと僕は言った。

「もう一回……してもいいですか?」
「えっ!」

 さすがに驚いていたけど、僕の体の反応を確かめたあと恥ずかしそうに頷いた。

 次の日の朝。窓から差し込む明るい陽の光に起された。当たり前に、目の前には可愛い寝顔があると思っていた。
 二度目が終わると二人とも意識を失うように眠り、目が覚めた夜中にもう一度抑えきれず求めてしまった。我ながら、やりすぎたと後悔しても遅い。

 ――ちーちゃんは目の前から消えていた。

Fin
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