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4.お見合い話は突然に(side倉木)
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考えてばかりでもしょうがない。体を動かそう!
そう思い立ちスポーツウェアに着替える。目的地は三キロほど先にある神社。梅雨真っ盛りの今日、雨は降りそうで降らないらしい。
家を出ると、煩悩を振り払うように走り出した。
今なら、ちーちゃんより早く走れるんだろうな……
自分の足元から響く軽快な足音が耳に届く。
小さい頃は本当に体が小さくて体力もなく、足も遅かった。急成長し出したのは小学校高学年になってからだ。そこは父に似たらしい。気がつけば体力もつき、こうして走る楽しさも覚えたのだ。
いつもなら境内だけをぐるっと回るだけのところを、今日は本殿まで向かう。
こんな格好だけど、今日は許して欲しい。僕はとにかく祈った。
どうかまた、ちーちゃんと仲良くなれますように
それだけをひたすら祈り神社をあとにした。
ちーちゃんに会うのは一週間後。それまでになんとしてでも、ちーちゃん好みの男になってみせる。そう決意して、この一週間は仕事よりそっちに情熱を傾けた。
◆◆
「あら。そんな格好でどこ行くの?」
リビングでテレビを見ていた母が不思議そうな顔をしている。
とうとうやってきた、ちーちゃんとのお見合いの日。
場所がホテルのレストランということもあるし、夏帆ちゃんからのアドバイスに基づき選んだ服装は、自分が持っているなかで一番良いもの。
完全に母の趣味で誂えたものだ。一度袖を通したっきりでどこにも着て行っていない一張羅、ダークネイビーのスリーピース。店員さんには『よくお似合いですよ』と言われたが、似合っている自信はまったくなかった。
「お連れ様は先にお見えです」
案内されたレストランの個室の扉の前で、僕は深呼吸をした。スタッフに連れられそこに入ると、窓際に女性の姿があった。
心臓が跳ねて落ち着かない。できるだけ冷静に見えるように、まず待たせたことを謝罪した。
「いえ、とんでもない。私が早く来てしまったもので」
ちーちゃんの声が返ってきた。紛れもなく、間違えることのないちーちゃんの声。そしてその姿が目に入ると、死ぬ間際でもないのに走馬灯が過ぎった。
僕の前を走っている後ろ姿。繋いだ手の温もり。『冬弥君』と呼んでくれるちーちゃんの笑顔。懐かしくて温かいものが胸一杯に広がる。
けど、面映くてその顔をなかなか見ることができずにいた。
それでも、予習してきたことを思い出し演技を始める。
少しでも僕に興味を持って欲しい。少しでも君のことが知りたい。そう思ったから。
それからは、気を抜けば地が出てしまうそうなのを堪えながらちーちゃんと食事をした。
ちーちゃんは、昔と変わらずなんでも美味しそうに食べていた。
小さい頃は苦手なものが多くていつも給食に苦戦していた僕は、ちーちゃんがなんでも笑顔で食べる姿をを見て食べられるものが増えた。
アルコールも入りフワフワした頭で、ちーちゃんを眺める。
どうしよう……。凄く……可愛い……
ちーちゃんはちーちゃんのままだった。時おり見せる素のちーちゃんは、僕の知るちーちゃんだ。
けど、大人になったキリッとしたちーちゃんはドキッとするくらい綺麗だった。
そう思い立ちスポーツウェアに着替える。目的地は三キロほど先にある神社。梅雨真っ盛りの今日、雨は降りそうで降らないらしい。
家を出ると、煩悩を振り払うように走り出した。
今なら、ちーちゃんより早く走れるんだろうな……
自分の足元から響く軽快な足音が耳に届く。
小さい頃は本当に体が小さくて体力もなく、足も遅かった。急成長し出したのは小学校高学年になってからだ。そこは父に似たらしい。気がつけば体力もつき、こうして走る楽しさも覚えたのだ。
いつもなら境内だけをぐるっと回るだけのところを、今日は本殿まで向かう。
こんな格好だけど、今日は許して欲しい。僕はとにかく祈った。
どうかまた、ちーちゃんと仲良くなれますように
それだけをひたすら祈り神社をあとにした。
ちーちゃんに会うのは一週間後。それまでになんとしてでも、ちーちゃん好みの男になってみせる。そう決意して、この一週間は仕事よりそっちに情熱を傾けた。
◆◆
「あら。そんな格好でどこ行くの?」
リビングでテレビを見ていた母が不思議そうな顔をしている。
とうとうやってきた、ちーちゃんとのお見合いの日。
場所がホテルのレストランということもあるし、夏帆ちゃんからのアドバイスに基づき選んだ服装は、自分が持っているなかで一番良いもの。
完全に母の趣味で誂えたものだ。一度袖を通したっきりでどこにも着て行っていない一張羅、ダークネイビーのスリーピース。店員さんには『よくお似合いですよ』と言われたが、似合っている自信はまったくなかった。
「お連れ様は先にお見えです」
案内されたレストランの個室の扉の前で、僕は深呼吸をした。スタッフに連れられそこに入ると、窓際に女性の姿があった。
心臓が跳ねて落ち着かない。できるだけ冷静に見えるように、まず待たせたことを謝罪した。
「いえ、とんでもない。私が早く来てしまったもので」
ちーちゃんの声が返ってきた。紛れもなく、間違えることのないちーちゃんの声。そしてその姿が目に入ると、死ぬ間際でもないのに走馬灯が過ぎった。
僕の前を走っている後ろ姿。繋いだ手の温もり。『冬弥君』と呼んでくれるちーちゃんの笑顔。懐かしくて温かいものが胸一杯に広がる。
けど、面映くてその顔をなかなか見ることができずにいた。
それでも、予習してきたことを思い出し演技を始める。
少しでも僕に興味を持って欲しい。少しでも君のことが知りたい。そう思ったから。
それからは、気を抜けば地が出てしまうそうなのを堪えながらちーちゃんと食事をした。
ちーちゃんは、昔と変わらずなんでも美味しそうに食べていた。
小さい頃は苦手なものが多くていつも給食に苦戦していた僕は、ちーちゃんがなんでも笑顔で食べる姿をを見て食べられるものが増えた。
アルコールも入りフワフワした頭で、ちーちゃんを眺める。
どうしよう……。凄く……可愛い……
ちーちゃんはちーちゃんのままだった。時おり見せる素のちーちゃんは、僕の知るちーちゃんだ。
けど、大人になったキリッとしたちーちゃんはドキッとするくらい綺麗だった。
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