偽物のご令嬢は本物の御曹司に懐かれています

玖羽 望月

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4.お見合い話は突然に(side倉木)

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 元々人と話すのも苦手で、頑張って自分を作っていたけどそれも止めた。必要最低限、特に女性と会話はほぼしない。だから『氷の』と付くのだそうだ。

 それを夏帆ちゃんに洗いざらい話す。夏帆ちゃんは女の子だけど、取り繕う必要がないから。

「ふーん。酷い女に当たったもんだ。ふゆちゃんはふゆちゃんのままでいいと思うんだけど」

 冷たい言い草のようで、夏帆ちゃんは僕を肯定してくれた。それにまた泣きそうになってしまう。

「ありがとう。夏帆ちゃん。元気でた」
「それはよかった」

 夏帆ちゃんは紫煙を吐き出しながら笑った。

「でさ、これってお見合いなんだっけ?」

 夏帆ちゃんは何杯目かのサワーを空にして言う。度数のキツそうなアルコールを飲みそうなのに意外だ。

「一応、そう……らしいね」

 僕も三杯目のウーロン茶を空にして答えた。

「じゃあ、私と付き合っちゃう?」

 軽い調子で笑う夏帆ちゃんの姿に「えっ!」と声を上げると、ニタリと笑われた。

「なーんて冗談だよ。私、彼氏いるし」
「……。冗談キツイよ」

 あからさまにホッとしながら傍らの呼び出しボタンを押す。

「ふゆちゃんは? っていないか」
「うん。……好きな子なら、いる……」

 酔ってもないのにポロっと口にしてしまう。もちろん夏帆ちゃんは、目を輝かせて食いついてきた。

「そうなの⁈  どんな子? 教えてよ!」

 夏帆ちゃんが前のめりになると、部屋の扉が開く。「ご注文は?」と尋ねる店員さんを見ることもなく「カルピスサワー二つ!」と夏帆ちゃんは言い切った。

「僕、お酒は……」
「あんなのお酒じゃないわよ」
「それはちょっと乱暴じゃ……」
「いいからいいから。で、どんな子?」

 店員さんが居なくなると、より一層前のめりで尋ねられる。言うんじゃなかったと後悔しても後の祭り。それに……。

「夏帆ちゃん。聞きたいんだけど……。その……」

 実は夏帆ちゃんに聞きたかったけど言い出せなかったこと。それを口に出そうとするが勇気が出ない。

「何? どした?」

 不思議そうに顔を顰めて夏帆ちゃんは尋ねる。そうしているうち、早くもカルピスサワーが届いた。
 それを持つと、僕は勢いよくグビグビと流し込む。途端に体の中からカァーッと熱が湧き上がる。そのグラスをドンと置くと勢いのまま僕は尋ねた。

「ちーちゃん、元気にしてる?」

 今まで話に出てこなかったから、もしかしたらもう友だちじゃないのかも知れない。けれど、知っているなら教えて欲しい。

「ちーちゃんって、千春?」

 目を丸くしている夏帆ちゃんにコクリと頷いてみせる。途端に夏帆ちゃんはニヤニヤし始めた。

「そっかあ……」

 意味深に呟くと夏帆ちゃんは続けた。

「さすがに忘れてなかったか。犬は三日飼えば三年恩を忘れないって言うしねぇ」

 一人頷きながらしみじみと言う夏帆ちゃんに「いったい何の話し……?」と問いかけた。

「ふゆちゃん、鬼ごっこのときさ、千春に手繋がれて引っ張られてたじゃん? もう子犬を散歩してるみたいでさ。必死で走ってくるのがおかしくって!」

 夏帆ちゃんは思い出したのか、腹を抱えて笑っていた。
 そういうところ、本当に変わってないなと再認識した。
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