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4.お見合い話は突然に(side倉木)
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この前の日曜日。母が言ったお見合いの相手。それは今目の前にいる幼なじみ、安田夏帆ちゃんだった。
小学1年から3年の一学期まで、と短い期間同じ小学校だった彼女とはよく遊んだ。いや、遊ばれていたのかも知れない。
鬼ごっこをすれば追いつけず、かくれんぼをすれば鬼のような形相で追いかけられた記憶しかない。でも、おとなしくて人見知りも激しかった僕と一緒に遊んでくれるのは単純に嬉しかった。
仲良くなったきっかけ。それは名前だった。夏帆ちゃんには夏。僕には冬。そして、ちーちゃん……千春ちゃんには春。みんな季節が入っているね、とはしゃぎあった。
夏帆ちゃんの家は大きくて、何度も訪れた。そのうち親同士も顔見知りになっていた。
その夏帆ちゃんのお父さんと、うちの母が都内の異業種経営者交流会なるもので再会したのが先週の土曜日。
そこから何がどうなったのか、僕たちをお見合いさせようと意気投合したようだ。
「それにしても久しぶりだね。元気にしてた?」
「なんとか。夏帆ちゃんは? 今何してるの?」
面影のある夏帆ちゃんの顔。すっかり姿は変わっても、この物怖じしないところは一つも変わっていない。
「私はね……」
と言いかけたところで「お飲みものをお伺いします」と店員さんがやってきた。
「私はコークハイ。ふゆちゃんは? ビール? ワイン?」
そう振られて、僕はモジモジしながら「ウーロン茶を……」と答えた。
「では。かんぱーい!」
夏帆ちゃんの音頭でガチャンとグラスを合わせる。それを下ろすと夏帆ちゃんはゴクゴクとコークハイを飲んでいた。
「しっかし。ふゆちゃん変わってないな」
グラスを置くとしみじみと言われてしまう。
「そう、かな?」
「うん。そりゃ見た目はさ、だいぶ成長してるけど、お酒飲めないところとか想像通り!」
ケラケラと笑いながら夏帆ちゃんはフライドポテトを摘む。
「どんな想像? それを言うなら夏帆ちゃんだって変わってないと言うか……」
「そこはさ、『綺麗になったね。見違えたよ』くらい言いなさいよ」
誰の真似なのか知らないが、途中、わざとらしい低い声色を出し夏帆ちゃんは笑う。
「変わってないなら、そんな気の利いたこと言えないくらいわかるでしょ」
肩を落としつつ僕もポテトに手を伸ばした。
「そりゃそうか。氷の貴公子って言われるくらいなんだから、いい感じに成長してると思ったんだけど」
「…………。なんで知ってるの?」
「え~? おばさんから聞いたって。パパが言ってた」
はぁ~と深い溜め息を吐く。全く有難くも嬉しくもない二つ名。会社の女性社員からそう呼ばれていると言うのは母から聞いた。もちろん笑いながら。
僕は平均より顔が良いらしい。全く自覚はないが学生時代周りに言われた。けれど、その所為で女性不信になった。
『倉木くんってさぁ、あんな俺様ドS系の顔して真逆なのよ。ドM? ってくらい。それになんか頼りないし……』
当時付き合っていた彼女にこう陰口を叩かれたのを耳にしてしまってから。
小学1年から3年の一学期まで、と短い期間同じ小学校だった彼女とはよく遊んだ。いや、遊ばれていたのかも知れない。
鬼ごっこをすれば追いつけず、かくれんぼをすれば鬼のような形相で追いかけられた記憶しかない。でも、おとなしくて人見知りも激しかった僕と一緒に遊んでくれるのは単純に嬉しかった。
仲良くなったきっかけ。それは名前だった。夏帆ちゃんには夏。僕には冬。そして、ちーちゃん……千春ちゃんには春。みんな季節が入っているね、とはしゃぎあった。
夏帆ちゃんの家は大きくて、何度も訪れた。そのうち親同士も顔見知りになっていた。
その夏帆ちゃんのお父さんと、うちの母が都内の異業種経営者交流会なるもので再会したのが先週の土曜日。
そこから何がどうなったのか、僕たちをお見合いさせようと意気投合したようだ。
「それにしても久しぶりだね。元気にしてた?」
「なんとか。夏帆ちゃんは? 今何してるの?」
面影のある夏帆ちゃんの顔。すっかり姿は変わっても、この物怖じしないところは一つも変わっていない。
「私はね……」
と言いかけたところで「お飲みものをお伺いします」と店員さんがやってきた。
「私はコークハイ。ふゆちゃんは? ビール? ワイン?」
そう振られて、僕はモジモジしながら「ウーロン茶を……」と答えた。
「では。かんぱーい!」
夏帆ちゃんの音頭でガチャンとグラスを合わせる。それを下ろすと夏帆ちゃんはゴクゴクとコークハイを飲んでいた。
「しっかし。ふゆちゃん変わってないな」
グラスを置くとしみじみと言われてしまう。
「そう、かな?」
「うん。そりゃ見た目はさ、だいぶ成長してるけど、お酒飲めないところとか想像通り!」
ケラケラと笑いながら夏帆ちゃんはフライドポテトを摘む。
「どんな想像? それを言うなら夏帆ちゃんだって変わってないと言うか……」
「そこはさ、『綺麗になったね。見違えたよ』くらい言いなさいよ」
誰の真似なのか知らないが、途中、わざとらしい低い声色を出し夏帆ちゃんは笑う。
「変わってないなら、そんな気の利いたこと言えないくらいわかるでしょ」
肩を落としつつ僕もポテトに手を伸ばした。
「そりゃそうか。氷の貴公子って言われるくらいなんだから、いい感じに成長してると思ったんだけど」
「…………。なんで知ってるの?」
「え~? おばさんから聞いたって。パパが言ってた」
はぁ~と深い溜め息を吐く。全く有難くも嬉しくもない二つ名。会社の女性社員からそう呼ばれていると言うのは母から聞いた。もちろん笑いながら。
僕は平均より顔が良いらしい。全く自覚はないが学生時代周りに言われた。けれど、その所為で女性不信になった。
『倉木くんってさぁ、あんな俺様ドS系の顔して真逆なのよ。ドM? ってくらい。それになんか頼りないし……』
当時付き合っていた彼女にこう陰口を叩かれたのを耳にしてしまってから。
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