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3.その子犬は突然に
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ジャケットを借りたけど、あの雨では気休めにしかならなかった。鏡をふと見るとくっきりと下着の跡が映っていてギョッとしながらTシャツを脱いだ。下着までランドリーサービスに出すのは躊躇われ、ドライヤーで乾かそうと洗面台の端に置く。
パンツは裾がぐっしょり。でも腰回りはセーフ。ショーツはそのままでも大丈夫そうだ。
バスローブを羽織ると着ていた服をバスタオルに包む。そしてそっと扉を開け外に置いた。
じゃあ……せっかくだし……
髪の毛もぐちゃぐちゃだし体も冷えている。ありがたくお風呂に入ることにした。
自分の想像を超えるバスルーム。さすがスイートルームだ。シャワーブースは別にあり、バスタブは独立していた。
バスタブにお湯を張りながらシャワーブースに向かう。置いてあるアメニティはどれもこれも有名ブランドのもの。普段自分が使っているものより遥かに高級だ。
そうだ。バスボムも置いてたな。いれちゃお!
鼻歌混じりでシャワーを浴び、華やかな薔薇の香りのするバスボムを入れたお湯に浸かるころには、すっかり上機嫌でバスタイムを楽しんでいた。倉木さんの存在を忘れて。
温まった体にタオルを巻きパウダールームに戻る。
先にショーツを履きバスローブを羽織るとタオルに挟んで置いたブラジャーを取り出した。
まだちょっと湿ってるか……
そのタオルを今度は頭に巻くとスキンケアを行う。一通り揃っていてなんの問題もない。それからドライヤーを取り出すと、まずブラを乾かしはじめた。
それがいい具合に乾くと身につける。目の前には大きな鏡。下着姿の自分が目に入った。
ちゃんと上下揃っててよかった。可愛くはないけど……
ふと思ってから慌てて頭を振る。
見せないでしょ? 見せるつもりだったの⁈
と不埒な思考の自分に突っ込む。
急いで頭からタオルを外すとガシガシと乱暴に拭き、ドライヤーを持ち上げた。
それから無心で髪を乾かし整え終えた。倉木さんだってずぶ濡れだったのに自分ばかり時間をかけてしまい申し訳ないなと思いながら顔を上げる。そこにはドスッピンの自分がいた。
メイク!! ってバッグの中だ!
そろそろと扉を開け向こうの様子を伺うと、こちら側のベッドルームにその姿はない。ってことは向こう側か、と仕方なくそこを出る。
壁の切れ目からそおっと見ると、倉木さんはテーブルに向かってスマホを眺めていた。そしてその前に私のバッグが鎮座していた。
「く、倉木さん……」
闇の中を進むように手探り状態で下を向いてよろよろと進む。
「バッグ、とってもらえませんか?」
「あぁ、これですね」
立ち上がる気配がすると、スリッパが絨毯を蹴る音が近づく。
「千春さん、どうして下向いてるんですか?」
「そのっ。ス、スッピンで。とにかくバッグを……」
手を突き出し俯いたまま必死で答える。
「…………その顔が見たいです」
そう聞こえたかと思うと手首を掴まれ引き寄せられる。
「はいっ⁈」
反動で上を向くとバチっと目が合った。
「千春さんは、スッピンでも可愛いです」
目の前にいるのは、柴犬でもハスキーでもない。
あぁ、私は今から食べられるんだ。この、――狼に。
そう覚悟した。
パンツは裾がぐっしょり。でも腰回りはセーフ。ショーツはそのままでも大丈夫そうだ。
バスローブを羽織ると着ていた服をバスタオルに包む。そしてそっと扉を開け外に置いた。
じゃあ……せっかくだし……
髪の毛もぐちゃぐちゃだし体も冷えている。ありがたくお風呂に入ることにした。
自分の想像を超えるバスルーム。さすがスイートルームだ。シャワーブースは別にあり、バスタブは独立していた。
バスタブにお湯を張りながらシャワーブースに向かう。置いてあるアメニティはどれもこれも有名ブランドのもの。普段自分が使っているものより遥かに高級だ。
そうだ。バスボムも置いてたな。いれちゃお!
鼻歌混じりでシャワーを浴び、華やかな薔薇の香りのするバスボムを入れたお湯に浸かるころには、すっかり上機嫌でバスタイムを楽しんでいた。倉木さんの存在を忘れて。
温まった体にタオルを巻きパウダールームに戻る。
先にショーツを履きバスローブを羽織るとタオルに挟んで置いたブラジャーを取り出した。
まだちょっと湿ってるか……
そのタオルを今度は頭に巻くとスキンケアを行う。一通り揃っていてなんの問題もない。それからドライヤーを取り出すと、まずブラを乾かしはじめた。
それがいい具合に乾くと身につける。目の前には大きな鏡。下着姿の自分が目に入った。
ちゃんと上下揃っててよかった。可愛くはないけど……
ふと思ってから慌てて頭を振る。
見せないでしょ? 見せるつもりだったの⁈
と不埒な思考の自分に突っ込む。
急いで頭からタオルを外すとガシガシと乱暴に拭き、ドライヤーを持ち上げた。
それから無心で髪を乾かし整え終えた。倉木さんだってずぶ濡れだったのに自分ばかり時間をかけてしまい申し訳ないなと思いながら顔を上げる。そこにはドスッピンの自分がいた。
メイク!! ってバッグの中だ!
そろそろと扉を開け向こうの様子を伺うと、こちら側のベッドルームにその姿はない。ってことは向こう側か、と仕方なくそこを出る。
壁の切れ目からそおっと見ると、倉木さんはテーブルに向かってスマホを眺めていた。そしてその前に私のバッグが鎮座していた。
「く、倉木さん……」
闇の中を進むように手探り状態で下を向いてよろよろと進む。
「バッグ、とってもらえませんか?」
「あぁ、これですね」
立ち上がる気配がすると、スリッパが絨毯を蹴る音が近づく。
「千春さん、どうして下向いてるんですか?」
「そのっ。ス、スッピンで。とにかくバッグを……」
手を突き出し俯いたまま必死で答える。
「…………その顔が見たいです」
そう聞こえたかと思うと手首を掴まれ引き寄せられる。
「はいっ⁈」
反動で上を向くとバチっと目が合った。
「千春さんは、スッピンでも可愛いです」
目の前にいるのは、柴犬でもハスキーでもない。
あぁ、私は今から食べられるんだ。この、――狼に。
そう覚悟した。
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