偽物のご令嬢は本物の御曹司に懐かれています

玖羽 望月

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3.その子犬は突然に

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 窓の外に広がるのは水平線を望む海。という最高のロケーションでいただくのはこの夏限定のアフタヌーンティーセット。
 夏らしく、マンゴーにメロン、パイナップルなどフルーツが盛りだくさんで見ているだけでも幸せな気分になってしまう。そして、それをワクワクしながら眺める私の前に置かれたのは、紅茶……ではなくスパークリングワインだった。

 やっぱりここでも断った。一度は。でも倉木さんに、「話のネタになりますから、飲んだ感想を聞かせてください」なんて微笑まれて、断れるわけはなかった。

「どうですか? お口に合いますか?」

 散々写真に収め、散々悩んだ挙句マンゴームースを手に取った私に倉木さんは尋ねる。

「はい。もう最高に美味しいです」

 スプーンを往復させる手を止めず答える。ほんの数回の往復でなくなってしまう量。でも美味しすぎてあっというまに完食してしまった。

「僕のも良かったら。遠慮なく食べてくださいね」

 倉木さんは私が食べているところを眺めて満面の笑みを浮かべている。

「だめです。倉木さんも食べてください。……って、もしかして甘いものも苦手、とか?」

 私に合わせているとすればそれもあり得る。恐る恐る尋ねると、微笑んだままそれを否定した。

「好きというほどではないですが、苦手ではないですよ?」
「なら、話のネタに食べてみてください。あ、私と感想言い合います?」

 それなら話も途切れないで済みそうだ。
 その提案に、倉木さんは「喜んで」とキラースマイルで返した。

 思いのほか作戦はうまくいった。
 それぞれ同じものを同じタイミングで食べる。で、それについて語り合う。と言っても難しいことは言わない。せいぜい「これはさっぱりして食べやすいですね」とか「これはもうちょっと甘みがあったほうが好みです」程度だけれど。

 倉木さんは終始ご機嫌で、ずっと笑顔だった。
 そしてその顔に無意識で見惚れてしまう自分がいた。綺麗な横顔だけど、それだけじゃない。なんとなく、どこかで会ったことがあるような。そんな懐かしさを覚えた。

「僕の顔に何かついてますか?」

 思い切り視線がぶつかり合うとニコリと笑顔を返される。

「えっ、と……。いえ。すみません不躾に」
「そんなことないです。僕も千春さんのことを、つい見てしまいますから」

 いつのまにっ⁈  

 頰どころか首まで熱くなる。こんなイケメンに微笑まれながら歯の浮くセリフを聞かされるのはもはや苦行だと思う。

「からっ……揶揄わないでください!」

 さすがにワインは最初の一杯だけ。その後飲んでいた紅茶のカップをソーサーに戻すと、慌てていたぶんガシャリと派手な音がした。

「? 揶揄っていませんよ? 千春さんは可愛いですから」

 真顔で言われて身の置き所がない。恥ずかしさのあまり、挙動不審な感じで勢いよく立ち上がる。もう食べ終えたタイミングでよかった。

「海っ! 海、見に行きましょう! 腹ごなしに」
「はい。行きましょうか」

 全く動じることなく倉木さんはゆったりと立ち上がった。
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