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2.貴公子はやっぱりワンコ
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「千春さん! お待たせしてしまいましたか?」
そこから颯爽と現れたのは、なんとなく予想できたがやはり倉木さんだ。
白いシャツの上にはネイビーの柔らかそうなテーラードジャケット。下はベージュのチノパン。オフィスカジュアル風の爽やかさ。そしてとてつもなく眩しい。倉木さんの顔が。
「い、いえ。私もついさっき着いたばかりです」
ありきたりな決まり文句を返すが、よくよく見ると額には玉のような汗が浮かんでいるに違いない。
「そうですか……? では乗ってください」
当たり前だけど助手席に促され、私は緊張しながらそこに乗った。
車の中は生き返るほど涼しい。車内には明るめの洋楽が流れていて、へー、こんな曲聞くんだなんて思う。
助手席側から回ってきた倉木さんは運転席に乗るとシートベルトをしていた。
あ、そっか、私もだ
普段タクシーくらいしか乗らないからつい忘れそうになる。
「暑かったでしょう? ドリンクを買ってきたのでよかったら」
運転席との間にはドリンクホルダーが付いていて、そこにカップが二つ置いてあった。その見覚えのある緑色のストローが目に入り、あの店ねと思いながら笑顔を作った。
「お気遣いいただいてありがとうございます」
倉木さんは私を見て頰を染めると「い、いえ」と目を逸らした。
車はロータリーを回り幹線道路に出る。私はせっかくなのでカップを手に取った。
「あ、え? 紅茶……?」
当たり前にコーヒーだと思っていた。店の名前にもコーヒーと付くくらいなんだから。もちろん紅茶も置いていて、夏帆と行ってもコーヒーが少し苦手な私はいつも紅茶を飲んでいる。
「……この前のディナーで紅茶を選ばれていたので……」
そう言えば……と思ったけど、なんで一番好きなシトラスティーなんだろう? と不思議に思う。
まあいいかと私はそれで乾いた喉を潤すと「美味しいです」と横を向いた。
うん。また照れてるな
まだ会って2回目。それもたったの数時間を過ごした間柄。けれど、黙っていればドーベルマン風の凛々しい横顔は、今……シベリアンハスキーっぽい。大きいけどなんとなく愛嬌があって可愛い。
「倉木さんって……氷の貴公子って感じじゃないですよね」
ついそんな言葉を思い出し口を衝いて出る。倉木さんは途端にムッとしたように顔を顰めた。
「……。誰に聞いたんですか?」
あ、しまった。これを言ったのは本物のお見合い相手だ。
「えっと、その。お父さんです。そんなこと言ってたなぁ~って」
夏帆のパパの、気の良さそうで、頭のてっぺんがちょっと寂しくなった顔を思い出しながら誤魔化す。
「別に……。好きで呼ばれてるわけではないので」
ムスッとしたまま倉木さんは言う。
怒らせちゃったかなぁ……
そう思いながら「そうですよね~」とわざとらしい笑いを漏らすしかなかった。
そこから颯爽と現れたのは、なんとなく予想できたがやはり倉木さんだ。
白いシャツの上にはネイビーの柔らかそうなテーラードジャケット。下はベージュのチノパン。オフィスカジュアル風の爽やかさ。そしてとてつもなく眩しい。倉木さんの顔が。
「い、いえ。私もついさっき着いたばかりです」
ありきたりな決まり文句を返すが、よくよく見ると額には玉のような汗が浮かんでいるに違いない。
「そうですか……? では乗ってください」
当たり前だけど助手席に促され、私は緊張しながらそこに乗った。
車の中は生き返るほど涼しい。車内には明るめの洋楽が流れていて、へー、こんな曲聞くんだなんて思う。
助手席側から回ってきた倉木さんは運転席に乗るとシートベルトをしていた。
あ、そっか、私もだ
普段タクシーくらいしか乗らないからつい忘れそうになる。
「暑かったでしょう? ドリンクを買ってきたのでよかったら」
運転席との間にはドリンクホルダーが付いていて、そこにカップが二つ置いてあった。その見覚えのある緑色のストローが目に入り、あの店ねと思いながら笑顔を作った。
「お気遣いいただいてありがとうございます」
倉木さんは私を見て頰を染めると「い、いえ」と目を逸らした。
車はロータリーを回り幹線道路に出る。私はせっかくなのでカップを手に取った。
「あ、え? 紅茶……?」
当たり前にコーヒーだと思っていた。店の名前にもコーヒーと付くくらいなんだから。もちろん紅茶も置いていて、夏帆と行ってもコーヒーが少し苦手な私はいつも紅茶を飲んでいる。
「……この前のディナーで紅茶を選ばれていたので……」
そう言えば……と思ったけど、なんで一番好きなシトラスティーなんだろう? と不思議に思う。
まあいいかと私はそれで乾いた喉を潤すと「美味しいです」と横を向いた。
うん。また照れてるな
まだ会って2回目。それもたったの数時間を過ごした間柄。けれど、黙っていればドーベルマン風の凛々しい横顔は、今……シベリアンハスキーっぽい。大きいけどなんとなく愛嬌があって可愛い。
「倉木さんって……氷の貴公子って感じじゃないですよね」
ついそんな言葉を思い出し口を衝いて出る。倉木さんは途端にムッとしたように顔を顰めた。
「……。誰に聞いたんですか?」
あ、しまった。これを言ったのは本物のお見合い相手だ。
「えっと、その。お父さんです。そんなこと言ってたなぁ~って」
夏帆のパパの、気の良さそうで、頭のてっぺんがちょっと寂しくなった顔を思い出しながら誤魔化す。
「別に……。好きで呼ばれてるわけではないので」
ムスッとしたまま倉木さんは言う。
怒らせちゃったかなぁ……
そう思いながら「そうですよね~」とわざとらしい笑いを漏らすしかなかった。
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