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2.貴公子はやっぱりワンコ

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『ぶはぁっ! あははははっ!』

 電話の向こうで夏帆が大笑いしている。その爆音に思わずスマホを耳から離すとスピーカーに切り替えた。

「笑いごとじゃないって! 雨の中捨てられた子犬みたいな顔されたら、こっちも、うんって言うしかないじゃない!」

 実家の自室で私は声を張り上げる。両親の寝室は1階で、隣の部屋だった妹は先に家を出て一人暮らしをしている。だから夜中に多少大きな声を出しても苦情は出ない。

 家に帰り、お風呂を済ませて夏帆に電話をした。とりあえず今日の出来事を話したわけだけど、最後にあったことを話した途端これだ。

『いや、だって、犬っ、子犬っ!』
「本当にそうだったんだって!」

 まだ濡れた頭に被せたタオルをゴシゴシと拭きながら言い返す。

 誰だって思うわよ、あの顔みたら

 氷の貴公子のはずが、蓋を開けてみれば、潤んだ瞳で眉を下げ必死に訴えかける子犬だった。
 そしてその子犬……ではなく倉木さんは言った。

『僕はまた千春さんに会いたいと思ってます。明日……は駄目ですか?』

 私はそれに『ダメに決まってます! そんなに暇じゃありません!』と慌てて返す。本当は暇なんだけど。

『では来週の土曜日……。ドライブでもどうですか?』

 一瞬シュンとしたかと思うと次の瞬間子犬は貴公子になっていた。

 なんかしてやられた気もしないでもないが、その後倉木さんはご満悦の様子で私をタクシー乗り場まで送ってくれた。
 もちろんその前に連絡先の交換は忘れずに。

「はぁ~。なんかもう、どうすればいいのよ。私はもうちょっとこう、気軽にご飯だけ食べるつもりだったのに」

 溜め息を吐きつつ、私はヘアオイルを手に取ると程よく乾いた髪に塗り始める。

『いいじゃん。気軽にドライブ行けば』
「簡単に言うけど、ドライブデートなんてしたことないんですけど?」
『あぁ、千春の歴代彼氏に車持ちいないっけ。じゃあ尚更普段行けないとこ連れてってもらえば?』

 他人事だと思って夏帆は軽い調子だ。より一層深い溜め息しか出なかった。

「なんでよ。断る前提なのに」
『別に無理して断らなくていいじゃん』
「ちょっと夏帆? 面白がってるでしょ?」
『あ、バレた?』

 明らかに笑っている夏帆に、今から家に乗り込んで文句言ってやろうかと呆れ果てる。

『でもさ、せっかくだし、楽しめばいいんだって。行くとしたらどんなところがいい?』

「えぇ~。もうどこでもいいよ。そんなに遠くなくて、景色がいいとこ。あと美味しいスイーツにありつけたら文句ないな」
『ふんふん。なるほど。じゃあ向こうにそういえば?』
「言えるわけないでしょ! 面倒だからお任せです!」
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