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1.お見合い話は突然に
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し・あ・わ・せー!
口には出していない。けれど、この大きな心の声は、顔には出ているだろう。
あまりにも美しい料理をまず写真におさめようと倉木さんに断りを入れる。
「千春さんのお好きになさってください。ここには僕たちしかいませんし」
と、またそっけない態度に戻り倉木さんは言った。私はもう、遠慮なくスマホで写真を撮りまくり、そしてその見た目を裏切らない料理を味わった。
「お口にあったようで嬉しいです」
私の半分のスピードでちびちびとワイングラスを傾けた倉木さんはほんのりと微笑む。
「あ。はい。とても美味しいです」
見た目と違うと言われるが、食べることと飲むことが大好きだ。美味しいものを食べるだけで仕事のストレスも何もかも吹っ飛ぶ気がする。
けれど今は、よく考えてたら私は社長令嬢。しかもお見合いの席だった。
「く……倉木さんは、よく来られてるんですか?」
当たり障りのない質問をすると、倉木さんはまた硬い表情になった。
「……ごく、たまに、です」
「そ、そうなんですね」
どうしよう。まったく会話は弾まない。せめて共通点でもないかと模索する。
「あの……倉木さんは、おいくつなんですか?」
夏帆からは、お互いなんの情報も交換していないと聞いている。わかっているのは名前くらいだと。だから、『何か聞かれても自分の話しすればいいからね~』と軽い調子で言われたのだ。
「今年の冬で27になります」
「じゃあ、同級生ですね」
「はい。そうです」
ディナーは魚料理を過ぎ、今は口直しのシャーベットをいただいているところだ。
共通点は見つかったものの、取っ掛かりは見つからない。結局、ブツブツと途切れた質問を繰り返すだけだった。
「えーと。倉木さんはどんなお仕事をされているんですか?」
「僕ですか? 会社の常務をしています」
「あぁ、常務なんですね。私は専務の秘書をしてます」
社長ですと言われたら驚いていたが、常務と言われて安心する。笑顔で言うと、倉木さんは赤く染まる顔を私に向けた。
「千春さんが秘書なんて……羨ましいです」
「はい?」
「あっ、いえ。きっとよくお出来になると思ったので」
この人は……酔っているのだろうか? 顔はより真っ赤になっている。
そういえば、さっき魚料理と一緒に出された白ワイン。明らかに私のグラスのほうが量が多かった。もしかしなくても、見た目と違ってお酒に弱いのかも知れない。
「そんなことはないですよ。ごく普通の秘書です」
一応謙遜しながら答えると、「そうですか……」と何故か肩を落としていた。
それにしても、さっきから倉木さんが大きな犬に見えてくる。それも、澄ましていた犬が、突然デレ始めたみたいに。
倉木さんは私を見ると、潤んだ瞳で何か訴えかけている。けれど、私にはそれがどう言う意味なのか、まったく検討もつかなかった。
口には出していない。けれど、この大きな心の声は、顔には出ているだろう。
あまりにも美しい料理をまず写真におさめようと倉木さんに断りを入れる。
「千春さんのお好きになさってください。ここには僕たちしかいませんし」
と、またそっけない態度に戻り倉木さんは言った。私はもう、遠慮なくスマホで写真を撮りまくり、そしてその見た目を裏切らない料理を味わった。
「お口にあったようで嬉しいです」
私の半分のスピードでちびちびとワイングラスを傾けた倉木さんはほんのりと微笑む。
「あ。はい。とても美味しいです」
見た目と違うと言われるが、食べることと飲むことが大好きだ。美味しいものを食べるだけで仕事のストレスも何もかも吹っ飛ぶ気がする。
けれど今は、よく考えてたら私は社長令嬢。しかもお見合いの席だった。
「く……倉木さんは、よく来られてるんですか?」
当たり障りのない質問をすると、倉木さんはまた硬い表情になった。
「……ごく、たまに、です」
「そ、そうなんですね」
どうしよう。まったく会話は弾まない。せめて共通点でもないかと模索する。
「あの……倉木さんは、おいくつなんですか?」
夏帆からは、お互いなんの情報も交換していないと聞いている。わかっているのは名前くらいだと。だから、『何か聞かれても自分の話しすればいいからね~』と軽い調子で言われたのだ。
「今年の冬で27になります」
「じゃあ、同級生ですね」
「はい。そうです」
ディナーは魚料理を過ぎ、今は口直しのシャーベットをいただいているところだ。
共通点は見つかったものの、取っ掛かりは見つからない。結局、ブツブツと途切れた質問を繰り返すだけだった。
「えーと。倉木さんはどんなお仕事をされているんですか?」
「僕ですか? 会社の常務をしています」
「あぁ、常務なんですね。私は専務の秘書をしてます」
社長ですと言われたら驚いていたが、常務と言われて安心する。笑顔で言うと、倉木さんは赤く染まる顔を私に向けた。
「千春さんが秘書なんて……羨ましいです」
「はい?」
「あっ、いえ。きっとよくお出来になると思ったので」
この人は……酔っているのだろうか? 顔はより真っ赤になっている。
そういえば、さっき魚料理と一緒に出された白ワイン。明らかに私のグラスのほうが量が多かった。もしかしなくても、見た目と違ってお酒に弱いのかも知れない。
「そんなことはないですよ。ごく普通の秘書です」
一応謙遜しながら答えると、「そうですか……」と何故か肩を落としていた。
それにしても、さっきから倉木さんが大きな犬に見えてくる。それも、澄ましていた犬が、突然デレ始めたみたいに。
倉木さんは私を見ると、潤んだ瞳で何か訴えかけている。けれど、私にはそれがどう言う意味なのか、まったく検討もつかなかった。
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