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1.お見合い話は突然に

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 有名ラグジュアリーホテルの超高級ディナー。それに釣られてないと言えば嘘になる。一度は味わってみたいと思っていた一人数万円のコースなら尚更。
 それと引き換えにだされた条件が、お見合いの替え玉、だった。

「大丈夫大丈夫! 私が行くより千春が行くほうがよっぽど社長令嬢に見えるでしょ!」

 笑い飛ばしている夏帆に、『全くその通り』とは言えず黙ったまま溜め息を吐く。

「どーしてもってパパに言われたんだけどさ。全く気乗りしないし、彼氏に悪いでしょ」

 何人目かもう覚えていないその彼氏。いったいいつまで続くのやら、と思いながら白い目を投げかけた。
 夏帆はまぁ、自由奔放だ。性格も恋愛事情も。それなりの規模の会社の社長令嬢と言っても、誰一人信用してくれない。

「じゃ……じゃあ、とりあえずディナーだけいただいて、さようならってことでいいの?」

 4杯目のビールを片付けジョッキを置くと尋ねる。
 さっきと同じ店員さんがやってくると、恐る恐る「次は……どうします?」と聞きてきた。

「あー……じゃあハイボールで」

 その人は、まだ飲むのかと言いたげな引き攣った顔で消えていった。

「で、続きだけど」

 またタバコを手にした夏帆は切り出す。

「うん。どうぞ?」
「色々あって、簡単に断れないんだよね。とりあえず1回でさよならは無しで」
「は、いっ? そんなの困るよ。その先も会えって?」

 夏帆はタバコを咥えて吸うと、真っ赤なマニキュアの塗られた指でそれを離した。

「いいじゃん。相手はいいとこのお坊ちゃんだからご馳走になっちゃえば。何回か会ったあとなら、やっぱり相性が、とかなんとか言い訳できるでしょ?」

 それらしいことを言っているが、断る前提で何度も奢ってもらうのはただたかっているのと同じで気が引ける。

「そんなこと言われても……」

 戸惑う私に、向かいで夏帆はパンっと音を立てて手を合わせた。

「お願いっ! パパの顔も立てなきゃいけないし。私もお礼に奢るから。このとおりっ!」

 懐かしいな、この光景。学生時代、テスト前にこうやって何度も勉強教えてとお願いされたことを思い出す。

「けど、相手が一回でお断りしてくることだってあるじゃない?」
「あ、それはないから。向こうからは断らないよ」
「えぇ? なのに何回か会ってこっちから断るの?」

 やけにハードルの高い注文だ。けれど、高級ディナーにぐらついてしまう。

「あとで色々問題起こっても責任取らないからね?」

 プイッと横を向いてやけに薄いハイボールを口に運ぶ。

「わかってますって。さすが千春委員長! 頼りになるぅ」

 夏帆は茶化しながら笑う。
 私は深い溜め息と共に頭を抱えた。なんでか知らないけど、周りからなにかと頼りにされ続け、学生時代は学級委員長を何度かやった。
 まさかこんな歳になっても同級生を世話をしなきゃいけないとは思ってなかったけど。

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