年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月までー月の名前ー

玖羽 望月

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しばらくして、さっちゃんから送られて来た日程の中で、都合が合ったのは約1週間後の金曜日。
その日、さっちゃんの仕事終わりに現場近くで会おうとメッセージを送り、それのOKの返事をもらった。

1週間かぁ……。長いのか短いのか。

外に出る仕事はその間2回。合間には家でデータ補正や納品。
12月に入った途端、なんだか急に忙しくなったような気がする。
浮足立ちそうな気持ちを抑えながら、俺は仕事に打ち込んだ。

そして金曜日。

「お疲れ様です」

待ち合わせしたファミレス前で、さっちゃんは俺の姿を見つけると、重い荷物を肩から下げたままぺこりとお辞儀をした。

「お疲れ様。ごめんね。たいした場所じゃなくて。話するならこっちの方がいいかなって思って」

店の入り口に並んで向かいながら俺が言うと、安堵したようにさっちゃんは「いえ。こっちの方が気楽です」と答えた。

まだ夕食には少し早い5時前。まだ空いている店内の窓際の席に案内され、向かい合わせに座った。

「何か食べる?」

俺がそう言ってメニューを差し出すと、「何か飲めればそれで大丈夫です」と慌てたようにさっちゃんは返事をする。

「そう?」

と言いながら、俺はメニューに目を落とす。そこにはデザートフェアと書かれたページがあった。

「苺……美味しそうだなぁ」

俺が独り言のように言うと、「好きなんですか?」とさっちゃんは少し目を丸くしている。

「うん。結構好きだよ?こんなの見てたらつい食べたくなるよね」

と、メニュー表を飾る華やかなデザートを眺める。

「さっちゃんも食べない?俺、これにしようかな?」

そう言って指差したのは苺が添えられたショコラケーキ。最近の忙しさで、なんだか無性に甘いものが食べたい。

「睦月さんも甘いもの好きなんですね」

そう言って、さっちゃんは俺に笑顔を見せる。

「も、って他に誰が好きなの?」

そう尋ねると、急に恥ずかしそうになり「父が……好きなんです」と答えた。

俺と6つしか変わらないさっちゃんのお父さん。もしかして、そんな共通点を見てお父さんを思い出しているのかも知れない。
それでも、さっちゃんが安心したように笑ってくれるなら、それでもいいか……と思ってしまう。

さっちゃんは「せっかくなんで付き合います」とチーズケーキを選び2人で注文を終える。

「コーヒー入れてきますね」
「あ、俺が……」

行くよと言いかけたが、「大丈夫です。睦月さんは座ってて下さい」と素早く席を立ちドリンクバーへ行ってしまった。

本当、栗鼠みたい。可愛いなぁ……

なんて思いながら、俺はその姿を眺めていた。

さっちゃんが運んできてくれたコーヒーを飲みつつ、俺はさっちゃんに尋ねる。

「さっちゃんは司が仕事してるところ見た事あるの?」

コーヒーカップに視線を落としていたさっちゃんは、弾かれたように顔を上げて俺を見た。

「仕事は……ないんです。噂に聞くばかりで。香緒ちゃんの結婚式の時に撮られてたのは見たんですが、とても楽しそうにされてたので。噂とは違うなぁって」

それを聞いて、ようやく司がさっちゃんを選んだ理由を理解した。
あとで写真見せて貰ったけど、確かにあの香緒はいつにも増して綺麗だった。あのヘアメイクを担当したのがさっちゃんなら、確かに司が仕事をしてみたいと思うのは無理もないと思う。

それにしても……

「さっちゃん、一体司のどんな噂聞いてるの?」

と笑いながら尋ねてしまう。
何か、凄い鬼のような男になってるんだろうぁ、なんて容易に予想が付く。

「え……と。とにかく指示が細かいって。顔見知りのモデルさんは、あんな撮影2度と御免だと。同業者には、ミリ単位でメイクに修正入れられると思わなかった、撮影中気が気じゃなかったって」

さっちゃんは顔を引き攣らせ気味にそう言う。多分他にも色々と聞いているに違いない。

「ほんとっ!司がごめんね!」

手を合わせてさっちゃんにそう言うと、さっちゃんは頭を振りながら「むっ!睦月さんが謝る事じゃないですから!」と慌てたように言っている。

「だってそれ……全部本当の事だから……」

俺が申し訳なさそうにそう言うと、さっちゃんは「え……?」と口を開けたまま呆然とこちらを見ていた。

「お待たせいたしました~。ショコラケーキの方」

ケーキを運んできてくれた店員さんを向いて軽く手をあげると、それぞれの前に皿を置き、「ご注文はお揃いでしょうか?それではごゆっくりどうぞ」と頭を下げて店員さんは去っていく。

「さっちゃん?大丈夫?」

まだ硬い表情のままのさっちゃんに、思わずそう声をかける。

「私に……出来るか不安になってきました」

本当に不安そうにさっちゃんは俯く。俺はそのさっちゃんに、フォークを差し出しながら話しかける。

「司さ、ああ見えて、実はチョコレートに目がないんだよね」
「えっ?」

さっちゃんは目を丸くして俺を見上げている。

「意外だった?」

そう言って笑いかけると、さっちゃんは差し出していたフォークを「……はい」と受け取る。

「あとさぁ、苦手なものは椎茸!」

そう戯けて言いながら、昔話を始めると、さっちゃんは笑いながら俺の話に耳を傾け出した。
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