183 / 183
☆番外編3☆
honey moon 20
しおりを挟む
見慣れた景色を眼下に、機体は旋回し陸に降りる。スピードを落としノロノロと動く飛行機に、『田舎の国内線と違って駐機場まで長いもんなぁ……」と思いながら身を預けていた。
「ったく!早く着かねーのかよ!」
向こう側から長門さんのイライラした様子の声が聞こえ、私は席から身を乗り出しそちらを伺った。
「もうちょっとでしょ?着陸してから駐機場まで時間かかるのいつもの事じゃん」
「うるせー!分かってる!」
私の隣の席の睦月さんは、その向こう側の長門さんとそんなやりとりをしていた。
長門さんが落ち着かないのも、仕方ないよね?
私は、向こう出発する前に届いたメッセージを思い返した。
『無事生まれました。女の子です。写真は司に送ってないので、当日のお楽しみ。まだ見せないでね』
そう送られてきた可愛らしい赤ちゃんの写真。まだクシャクシャだけど、それでも両親の美男美女ぶりは生まれたてでも受け継いでいる。
そのメッセージを空港にいる時に受け取り、長門さんはとにかく安堵しながら溜め息を吐きその場に座り込んでいた。
『もー!その情け無い姿、瑤子ちゃんに送るよ?』
笑いながらスマホを向けようとする睦月さんに『お前は本当に一言多い!』と言いながら、長門さんは立ち上がった。
『とにかく。おめでとう、司』
『おめでとうございます』
私達がそれぞれそう言うと、長門さんは穏やかな表情で『あぁ。ありがとな』と返してくれたのだった。
「俺は先に行く」
機体が止まり、シートベルト着用サインが消えたと同時に長門さんは立ち上がる。
「はいはい。瑤子ちゃんによろしくね!」
睦月さんの楽しげな言葉すら、届いているのかわからないくらい、あっという間に長門さんは消えていった。
「本当に、最後まで笑わせてくれるよねぇ」
「睦月さん、笑いすぎだと思うよ?」
私達はゆっくり立ち上がり、出口へ向かう。
「だって、あんなソワソワした司なんて、そうそう見れないよ?」
「確かに……凄く意外ではあったけど」
初めて会ったときは、近寄り難くて、話しかけることすらできなかったけど、この旅行でいっそう意外な一面を見た気がする。それから、睦月さんとの絆なようなものも。もちろん2人には言えないけど、大人になっても言いたいことを言い合える親友っていいな、なんて思ってしまった。
「どうかした?」
睦月さんの横顔を眺めながらそんなことを考えていると、睦月さんは私に笑顔を見せた。
「ううん?帰ってきたね!かんちゃんを迎えに行こう?」
「だね」
そう言って、睦月さんは私の手を握ってくれた。
◆◆
「はぁ~っ!可愛いっ!壱花ちゃん、また大きくなりましたね!」
年が明けた1月。
今まで長門さんのご実家に里帰りしていた瑤子さんが、ようやく自宅に戻ってきた。ご実家にいるときにも、もちろんお祝いを兼ねて顔を見せてもらいにいったのだけど、そのときはまだフニャフニャな感じだったのに、今はずいぶんしっかりしている。
「本当に。あっという間に大きくなっていくのよね。びっくりしちゃう」
そう言って瑤子さんは、壱花ちゃんを寝かせているベビーラックを覗きこみ、自分の愛娘の頰をつついている。
「確かに。日に日に重くなってる気はするな」
リビングに座る私たちを眺めるように、ソファの上から長門さんは言う。
「そんなこと感じるくらい子育てしてるんだねぇ……司が」
その隣でしみじみと言う睦月さんに、「俺だってやるときゃやるっつーの!」と長門さんは顔を顰めていた。
「岡田さんも、言ってるうちに他人事じゃなくなりますよ?ねぇ、咲月ちゃん」
「ですね。まだ全然実感湧かないんですけど」
そう言って、私は自分のお腹に手を当てる。まだまだ変化の少ないお腹に新たな命が宿ってるなんて、未だに信じられない。
「いいでしょ!ハネムーンベイビー!」
何故か得意気にそう言う睦月さんに、長門さんは「何がいいでしょ、だ!バカか!」と思いっきり呆れている。
4ヵ月に入ったし、いいタイミングだからと、さっき2人に子どもができたことを報告した。びっくりするくらい悪阻らしい悪阻もなく、それまで何度か会っていた瑤子さんには驚くのと同時に羨ましがられた。
「私もまだまだ新米だけど、何かあったらいつでも相談してね?」
「ありがとうございます。心強いです」
「お前には、俺がレクチャーしてやる!」
「えぇ~?急に先輩風吹かすなぁ」
そんなことを、笑いながら言い合う。そして私は、ぐずることなく宙を見上げている壱花ちゃんを覗き込んだ。
「壱花ちゃんも。生まれてきたら仲良くしてね?」
私が話しかけたのに答えるように、壱花ちゃんは笑顔になった。
「あ、笑った」
「えっ、見せて見せて!」
睦月さんも嬉しそうに寄ってくる。
「どうだ。俺の子は。可愛いだろう?」
「うわっ!司にそんなこと言われる日がくるなんて思ってなかった!」
笑い声が響く、穏やかで温かな昼下がり。
ずっとこれからも、こんなふうに過ごしていけたらいいな、なんて、ここにいる人たちの幸せそうな顔を眺めながら思う。
ううん?きっと続いていくのだろう。甘い甘い、honey moonは。……永遠に。
Fin
「ったく!早く着かねーのかよ!」
向こう側から長門さんのイライラした様子の声が聞こえ、私は席から身を乗り出しそちらを伺った。
「もうちょっとでしょ?着陸してから駐機場まで時間かかるのいつもの事じゃん」
「うるせー!分かってる!」
私の隣の席の睦月さんは、その向こう側の長門さんとそんなやりとりをしていた。
長門さんが落ち着かないのも、仕方ないよね?
私は、向こう出発する前に届いたメッセージを思い返した。
『無事生まれました。女の子です。写真は司に送ってないので、当日のお楽しみ。まだ見せないでね』
そう送られてきた可愛らしい赤ちゃんの写真。まだクシャクシャだけど、それでも両親の美男美女ぶりは生まれたてでも受け継いでいる。
そのメッセージを空港にいる時に受け取り、長門さんはとにかく安堵しながら溜め息を吐きその場に座り込んでいた。
『もー!その情け無い姿、瑤子ちゃんに送るよ?』
笑いながらスマホを向けようとする睦月さんに『お前は本当に一言多い!』と言いながら、長門さんは立ち上がった。
『とにかく。おめでとう、司』
『おめでとうございます』
私達がそれぞれそう言うと、長門さんは穏やかな表情で『あぁ。ありがとな』と返してくれたのだった。
「俺は先に行く」
機体が止まり、シートベルト着用サインが消えたと同時に長門さんは立ち上がる。
「はいはい。瑤子ちゃんによろしくね!」
睦月さんの楽しげな言葉すら、届いているのかわからないくらい、あっという間に長門さんは消えていった。
「本当に、最後まで笑わせてくれるよねぇ」
「睦月さん、笑いすぎだと思うよ?」
私達はゆっくり立ち上がり、出口へ向かう。
「だって、あんなソワソワした司なんて、そうそう見れないよ?」
「確かに……凄く意外ではあったけど」
初めて会ったときは、近寄り難くて、話しかけることすらできなかったけど、この旅行でいっそう意外な一面を見た気がする。それから、睦月さんとの絆なようなものも。もちろん2人には言えないけど、大人になっても言いたいことを言い合える親友っていいな、なんて思ってしまった。
「どうかした?」
睦月さんの横顔を眺めながらそんなことを考えていると、睦月さんは私に笑顔を見せた。
「ううん?帰ってきたね!かんちゃんを迎えに行こう?」
「だね」
そう言って、睦月さんは私の手を握ってくれた。
◆◆
「はぁ~っ!可愛いっ!壱花ちゃん、また大きくなりましたね!」
年が明けた1月。
今まで長門さんのご実家に里帰りしていた瑤子さんが、ようやく自宅に戻ってきた。ご実家にいるときにも、もちろんお祝いを兼ねて顔を見せてもらいにいったのだけど、そのときはまだフニャフニャな感じだったのに、今はずいぶんしっかりしている。
「本当に。あっという間に大きくなっていくのよね。びっくりしちゃう」
そう言って瑤子さんは、壱花ちゃんを寝かせているベビーラックを覗きこみ、自分の愛娘の頰をつついている。
「確かに。日に日に重くなってる気はするな」
リビングに座る私たちを眺めるように、ソファの上から長門さんは言う。
「そんなこと感じるくらい子育てしてるんだねぇ……司が」
その隣でしみじみと言う睦月さんに、「俺だってやるときゃやるっつーの!」と長門さんは顔を顰めていた。
「岡田さんも、言ってるうちに他人事じゃなくなりますよ?ねぇ、咲月ちゃん」
「ですね。まだ全然実感湧かないんですけど」
そう言って、私は自分のお腹に手を当てる。まだまだ変化の少ないお腹に新たな命が宿ってるなんて、未だに信じられない。
「いいでしょ!ハネムーンベイビー!」
何故か得意気にそう言う睦月さんに、長門さんは「何がいいでしょ、だ!バカか!」と思いっきり呆れている。
4ヵ月に入ったし、いいタイミングだからと、さっき2人に子どもができたことを報告した。びっくりするくらい悪阻らしい悪阻もなく、それまで何度か会っていた瑤子さんには驚くのと同時に羨ましがられた。
「私もまだまだ新米だけど、何かあったらいつでも相談してね?」
「ありがとうございます。心強いです」
「お前には、俺がレクチャーしてやる!」
「えぇ~?急に先輩風吹かすなぁ」
そんなことを、笑いながら言い合う。そして私は、ぐずることなく宙を見上げている壱花ちゃんを覗き込んだ。
「壱花ちゃんも。生まれてきたら仲良くしてね?」
私が話しかけたのに答えるように、壱花ちゃんは笑顔になった。
「あ、笑った」
「えっ、見せて見せて!」
睦月さんも嬉しそうに寄ってくる。
「どうだ。俺の子は。可愛いだろう?」
「うわっ!司にそんなこと言われる日がくるなんて思ってなかった!」
笑い声が響く、穏やかで温かな昼下がり。
ずっとこれからも、こんなふうに過ごしていけたらいいな、なんて、ここにいる人たちの幸せそうな顔を眺めながら思う。
ううん?きっと続いていくのだろう。甘い甘い、honey moonは。……永遠に。
Fin
0
お気に入りに追加
133
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
【R18】十六歳の誕生日、許嫁のハイスペお兄さんを私から解放します。
どん丸
恋愛
菖蒲(あやめ)にはイケメンで優しくて、将来を確約されている年上のかっこいい許嫁がいる。一方菖蒲は特別なことは何もないごく普通の高校生。許嫁に恋をしてしまった菖蒲は、許嫁の為に、十六歳の誕生日に彼を自分から解放することを決める。
婚約破棄ならぬ許嫁解消。
外面爽やか内面激重お兄さんのヤンデレっぷりを知らないヒロインが地雷原の上をタップダンスする話です。
※成人男性が未成年女性を無理矢理手込めにします。
R18はマーク付きのみ。
腹黒御曹司との交際前交渉からはじまるエトセトラ
真波トウカ
恋愛
デパートで働く27歳の麻由は、美人で仕事もできる「同期の星」。けれど本当は恋愛経験もなく、自信を持っていた企画書はボツになったりと、うまくいかない事ばかり。
ある日素敵な相手を探そうと婚活パーティーに参加し、悪酔いしてお持ち帰りされそうになってしまう。それを助けてくれたのは、31歳の美貌の男・隼人だった。
紳士な隼人にコンプレックスが爆発し、麻由は「抱いてください」と迫ってしまう。二人は甘い一夜を過ごすが、実は隼人は麻由の天敵である空閑(くが)と同一人物で――?
こじらせアラサー女子が恋も仕事も手に入れるお話です。
※表紙画像は湯弐(pixiv ID:3989101)様の作品をお借りしています。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~
真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
さっちゃんと似たような経験が有って、思わず応援しちゃいます。
さっちゃんに幸せになって欲しいなぁ。
はなここ様。
はじめまして。玖羽 望月と申します。
感想ありがとうございます。
同じような経験がおありなんですね。応援くださって嬉しいです。
まだまだ長い話になりますが、引き続き見守っていただけると幸いです☺️
ふんわりゆったりなステキな雰囲気…✨😍
なんですけど、ああっ!!なんて言ったら良いのかっ!!(>д<*)
じれじれ と こってり甘きゅんが同居融合!!
みたいなっ(///∇///)💕
中学生みたいなシーンなのに、隠れた色気がすごいっ!!
みたいなっ(*/∀\*)💕
今後の展開と更新を楽しみにしてますね~🥰💓
godisdora様
早速感想ありがとうございます🥰
本当に作者が思っている以上に、ジレジレで中学生みたいなピュアラブになっちゃってますが、連載当時、それを楽しんでくださってた読者様も多かったなぁと思い出しました。
まだまだ先は長いですが、お付き合いくださると嬉しいです。いつも励みになっております☺️