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☆番外編3☆
honey moon 19
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「なんだ司、いたの?」
帰宅前に寄ったのはレイさんたちのお店。扉にはcloseの札がかかっていたけど、入ると、奥のソファに長い足を投げ出して、面倒くさそうな顔をして長門さんが座っていた。
「いたの、じゃねーよ。レイが店番しとけっつったんだ」
「送ってくれるつもりなんでしょ?それよりさ……」
そう言うと睦月さんは嬉しそうにスーツケースを寝かせて開け始める。何を取り出すのか、私にはわかっているけど、本当にそれでよかったのだろうかとこの瞬間でも思ってしまう。
「みんなにお土産!」
すでに小分けの袋に入れたそれを、中身を確認しながら睦月さんは渡していく。真っ先に渡されたレイさんは、さっそく袋から中身を取り出していた。
「へー。ムツキにしてはまともだ」
レイさんはそれを広げて掲げるとそんなことを言う。アンさんも同じように広げると「本当ね。いいんじゃない?」と笑っている。
喜んでくれている2人を横目に長門さんは座ったまま、眉間に皺を寄せていた。
「これも、同じようなもんじゃねぇだろうな?」
まだ開けていない袋を手に、長門さんはそう言った。
「柄は違うけど、同じに決まってるでしょ。夏になったら瑤子ちゃんと着てね?そのTシャツ」
そう。みんなへのお土産は、パークで売られているTシャツ。日本でも売られているが、こっち限定のものもたくさんあった。
それにしても、睦月さんは「ネタなの?」って言うくらい、なんというか、キャラクターが全面に描かれているものばかり選んでいた。もっと格好いいのとか、シンプルなものもあったのに。
『大丈夫大丈夫。司はともかく、レイちゃんとアンちゃん、意外と変な服着るから。前なんか全面寿司柄のTシャツ着てたし。お気に入りだって』
そのとき、思い出し笑いをしながら睦月さんは言っていた。それを考えると、有名キャラクターが全面に散らばっているTシャツはまだマシか、と私は思っていた。
『あ、でも司がそんな服着てるのは見たことないからさ~。絶対着てもらお!』
睦月さんは悪戯を仕掛ける子どものようにワクワクした顔でTシャツを選んでいたのだった。
そして、渋々長門さんが袋から出したもの。もちろん瑤子さんとペアだ。
「お前の前じゃぜってー着ねぇからな!」
長門さんは、有名キャラクターカップルが大きく描かれたTシャツを前にして、不機嫌そうに言う。
「あ、着てくれるんだ。よかった!」
対照的に笑顔で言う睦月さんに、長門さんは「うるさい!」と照れたように返していた。
実質、ニューヨークでの最後の日となった今日。明日は昼の便で立つから、早いうちにここを出ないといけないのだ。
遊び疲れで2人して寝坊し、まだ眠い目を擦りながら私はまずベッドから手を伸ばしてスマホを手にした。そして、
「えっ!」
と思わず声を上げていたのだ。
「どうしたの?さっちゃん……」
私の声で起こしてしまった睦月さんが、寝転がったまま尋ねてきた。
「それが……。瑤子さんから……」
私はそう言うと、届いていたメッセージを睦月さんに見せたのだった。
「……うわぁ……。司、大丈夫かな?」
睦月さんはそう言いながら起き上がる。
「瑤子さんもきっとそれが一番気がかりなんじゃないかな?」
私はそのメッセージを読み返しながらそう答えた。
今日の朝方に入っていた、瑤子さんからのメッセージ。
『今日陣痛が始まって入院しました。かんちゃんは義姉にお願いしているので、様子を見て行ってくれると思います。司のことよろしくお願いしますと岡田さんにお伝えください』
と書いてあった。
「長門さん、心配してるだろうな。今から帰るのかな?」
私が横に並ぶ睦月さんにそう言うと、睦月さんは「あっ!だから……」と一人納得したように声を上げた。そして、「きっと予定通り一緒に帰るよ?」と笑った。
着替えて顔を洗い、遅めの朝食を取ろうと2人でキッチンへ向かう。そこにあるダイニングテーブルには、こちらに背を向けて、項垂れるように小さくなっている長門さんの姿があった。
「おはよ!司。コーヒーある?」
「……知らねー」
素っ気なく返す長門さんは、どうやらテーブルに置いたスマホを眺めているようだ。その横には、昨日帰り際にアンさんから貰ったチョコレートタブレットが無惨な姿で割られて置かれていた。
「も~!朝ご飯それ?ちゃんと食べなよ。コーヒーとチョコだけじゃダメでしょ!……お父さん?」
長門さんは不愉快そうに顔を上げたかと思うと、少し溜めてから大きく息を吐き出した。
「俺、やっぱり今からかえ……」
「はい、ストッ~プ!」
睦月さんは、長門さんの言葉に被せるように大袈裟に手を突き出しそう言った。
「more haste, less speed. 昨日、アンちゃんに言われたの、忘れたの?」
長門さんは、苦虫を噛み潰したような表情で睦月さんを見たかと思うと、今度は長く息を吐き出し「……だな」と頭を掻いた。
「あの、睦月さん。それ、どう言う意味なの?」
私が小さく尋ねると、睦月さんは笑顔で「急がば回れ、だよ?」と答えてくれた。
帰宅前に寄ったのはレイさんたちのお店。扉にはcloseの札がかかっていたけど、入ると、奥のソファに長い足を投げ出して、面倒くさそうな顔をして長門さんが座っていた。
「いたの、じゃねーよ。レイが店番しとけっつったんだ」
「送ってくれるつもりなんでしょ?それよりさ……」
そう言うと睦月さんは嬉しそうにスーツケースを寝かせて開け始める。何を取り出すのか、私にはわかっているけど、本当にそれでよかったのだろうかとこの瞬間でも思ってしまう。
「みんなにお土産!」
すでに小分けの袋に入れたそれを、中身を確認しながら睦月さんは渡していく。真っ先に渡されたレイさんは、さっそく袋から中身を取り出していた。
「へー。ムツキにしてはまともだ」
レイさんはそれを広げて掲げるとそんなことを言う。アンさんも同じように広げると「本当ね。いいんじゃない?」と笑っている。
喜んでくれている2人を横目に長門さんは座ったまま、眉間に皺を寄せていた。
「これも、同じようなもんじゃねぇだろうな?」
まだ開けていない袋を手に、長門さんはそう言った。
「柄は違うけど、同じに決まってるでしょ。夏になったら瑤子ちゃんと着てね?そのTシャツ」
そう。みんなへのお土産は、パークで売られているTシャツ。日本でも売られているが、こっち限定のものもたくさんあった。
それにしても、睦月さんは「ネタなの?」って言うくらい、なんというか、キャラクターが全面に描かれているものばかり選んでいた。もっと格好いいのとか、シンプルなものもあったのに。
『大丈夫大丈夫。司はともかく、レイちゃんとアンちゃん、意外と変な服着るから。前なんか全面寿司柄のTシャツ着てたし。お気に入りだって』
そのとき、思い出し笑いをしながら睦月さんは言っていた。それを考えると、有名キャラクターが全面に散らばっているTシャツはまだマシか、と私は思っていた。
『あ、でも司がそんな服着てるのは見たことないからさ~。絶対着てもらお!』
睦月さんは悪戯を仕掛ける子どものようにワクワクした顔でTシャツを選んでいたのだった。
そして、渋々長門さんが袋から出したもの。もちろん瑤子さんとペアだ。
「お前の前じゃぜってー着ねぇからな!」
長門さんは、有名キャラクターカップルが大きく描かれたTシャツを前にして、不機嫌そうに言う。
「あ、着てくれるんだ。よかった!」
対照的に笑顔で言う睦月さんに、長門さんは「うるさい!」と照れたように返していた。
実質、ニューヨークでの最後の日となった今日。明日は昼の便で立つから、早いうちにここを出ないといけないのだ。
遊び疲れで2人して寝坊し、まだ眠い目を擦りながら私はまずベッドから手を伸ばしてスマホを手にした。そして、
「えっ!」
と思わず声を上げていたのだ。
「どうしたの?さっちゃん……」
私の声で起こしてしまった睦月さんが、寝転がったまま尋ねてきた。
「それが……。瑤子さんから……」
私はそう言うと、届いていたメッセージを睦月さんに見せたのだった。
「……うわぁ……。司、大丈夫かな?」
睦月さんはそう言いながら起き上がる。
「瑤子さんもきっとそれが一番気がかりなんじゃないかな?」
私はそのメッセージを読み返しながらそう答えた。
今日の朝方に入っていた、瑤子さんからのメッセージ。
『今日陣痛が始まって入院しました。かんちゃんは義姉にお願いしているので、様子を見て行ってくれると思います。司のことよろしくお願いしますと岡田さんにお伝えください』
と書いてあった。
「長門さん、心配してるだろうな。今から帰るのかな?」
私が横に並ぶ睦月さんにそう言うと、睦月さんは「あっ!だから……」と一人納得したように声を上げた。そして、「きっと予定通り一緒に帰るよ?」と笑った。
着替えて顔を洗い、遅めの朝食を取ろうと2人でキッチンへ向かう。そこにあるダイニングテーブルには、こちらに背を向けて、項垂れるように小さくなっている長門さんの姿があった。
「おはよ!司。コーヒーある?」
「……知らねー」
素っ気なく返す長門さんは、どうやらテーブルに置いたスマホを眺めているようだ。その横には、昨日帰り際にアンさんから貰ったチョコレートタブレットが無惨な姿で割られて置かれていた。
「も~!朝ご飯それ?ちゃんと食べなよ。コーヒーとチョコだけじゃダメでしょ!……お父さん?」
長門さんは不愉快そうに顔を上げたかと思うと、少し溜めてから大きく息を吐き出した。
「俺、やっぱり今からかえ……」
「はい、ストッ~プ!」
睦月さんは、長門さんの言葉に被せるように大袈裟に手を突き出しそう言った。
「more haste, less speed. 昨日、アンちゃんに言われたの、忘れたの?」
長門さんは、苦虫を噛み潰したような表情で睦月さんを見たかと思うと、今度は長く息を吐き出し「……だな」と頭を掻いた。
「あの、睦月さん。それ、どう言う意味なの?」
私が小さく尋ねると、睦月さんは笑顔で「急がば回れ、だよ?」と答えてくれた。
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