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☆番外編3☆
honey moon 18
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私達の結婚式のあと、旅行までの間にあったのは、希海さんと香緒ちゃんとの仕事だった。その日は睦月さんも別の撮影の仕事で、久しぶりに香緒ちゃんが帰りに送ってくれることになった。
「時間あるなら、お茶でもしに行かない?聞いて欲しい話があって」
少し躊躇ったように香緒ちゃんは切り出し、私はなんだろう?と気になりながら頷いた。
スタジオ近くの雰囲気の良い静かな喫茶店。何度かきたことがあるが、本格的なティーポットで出てくる紅茶はお気に入りだ。
「ごめんね。時間取らせて」
「ううん?香緒ちゃん……悩み事?」
撮影中はもちろんそんな顔は微塵も見せてなかったけど、今はなんとなく浮かない顔をしている。
「うん。……実はまだ誰にも、武琉にも、希海にも話してないんだけど……」
そう言って香緒ちゃんはティーカップに視線を落とした。私はその様子を黙って見ていた。
「その……。そのうちモデル辞めようかなって思ってるんだよね」
言い辛そうに言ってから、私の反応を確認するように香緒ちゃんは顔を上げて、意外そうな顔を見せた。
「さっちゃん、驚かないの?」
「うん。そう遠くないうちにそんな話が出るかなって思ってたから」
「そっか……」
そう言うと香緒ちゃんはホッとしたように息を吐いた。
「実はね、随分前に希海さんにも言われたの」
ティーカップを手にした香緒ちゃんは「希海に?」と驚いたように口にした。
「うん。目標を達成したから、いつまでもモデルは続けないだろうって。でも続けてるのは……私のこと心配してくれてたからだよね?」
私がこの仕事を始めたころ、一番大きな仕事は香緒ちゃんだった。今でもそれは変わらないけど、あの頃と違うのは、他の人からもたくさん声を掛けてもらえてるってことだ。それこそ、スケジュールが合わずお断りしなきゃいけないくらい。
「あ、うん……。僕が辞めたらさっちゃんの仕事減っちゃうな、って思ったんだけど……。今はもう大丈夫だなって思ってる」
「それは、香緒ちゃんと希海さんのおかげだよ?2人に拾われなかったら、今の私はなかったから」
当時、無名のアシスタントだった私に『一緒にやろう』と言ってくれたから私の世界は変わった。2人に出会わなかったら、睦月さんに出会うこともなかったかも知れない。
「希海が……拾い物の名人なんだよ?武琉のことも拾ってきたくらいだからね?」
香緒ちゃんは悪戯っぽい顔で笑っている。私もそれに笑顔を返す。
「本当、そうだね!」
そう言って。
睦月さんは、穏やかで柔らかな笑みを浮かべ、ポンポンと私の頭を撫でた。
「さっちゃんならそう言うと思った。香緒を最後まで見届けたいよね?」
「え?……睦月さん、何か聞いてるの?」
穏やかな表情のままそう言う睦月さんに、私は驚きながら尋ねる。香緒ちゃんは希海さんにすらまだ言っていないと言っていたのに。
「何も?ただ、なんとなくそろそろ次を考えてるのかなって。そう思っただけ」
離れていた時期も長かったけど、睦月さんだって香緒ちゃんの理解者の一人だ。きっと、何も言わなくてもわかってしまうのだろう。
「……うん。そんなにすぐってわけじゃないんだけど。それまで、もっともっと頑張る。だから……ここにはまた、いつか……」
そう言って振り返り、遠くなったパークのエントランスを眺めた。
「そうだね。……次は、2人だけじゃなくて、家族で、来たいよね?」
睦月さんも振り返って、名残惜しそうに眺めている。
家族……。そうだ。私たちには、これからきっと、新しい家族が増えるだろう。それがいつかはわからないけれど、一緒にここを訪れたい。
「だね。そのときを楽しみにしてる」
私はそう言うと睦月さんの手を取った。睦月さんは私の手を握り返して笑顔を見せた。
「俺も。……じゃ、帰ろうか。お土産も配り歩かなきゃいけないしね?」
そして、私たちは未来に思いを馳せ、楽しい思い出とともに帰路についた。
「あ、いたいた!おーい!」
空港の到着口を出たところで、睦月さんはその人たちの姿を見つけると手を振った。もう、夕方を通り越し夜と言っていい時間だけど、私たちを迎えにわざわざ来てくれたのだ。
「Hi!ムツキ、サツキ。楽しかった?」
合流した私たちに、アンさんはそう声をかける。もちろん英語なのだけど、長い間英語に浸かっていると、だいぶ聞き取れるようになってきた。
「もちろん!ね?さっちゃん!」
ニコニコと私にそう言う睦月さんに、レイさんがニヤリと笑ってみせた。そんな表情はちょっと長門さんに似ているかも知れない。
「本当にムツキはサツキが可愛くてしょうがないって感じだよね。ツカサが呆れるのもわかる」
「レイちゃん?司にいったい何聞いたのさ」
「うーん。ムツキは口を開けばサツキが可愛いって話ししかしないから鬱陶しいって」
「自分のこと棚に上げて何言ってんの?」
「だよねぇ。ツカサはヨーコに会えなくて寂しいオーラ出しまくってるのにさ」
それを聞いた睦月さんは「だよね!やっぱり!」なんて言いながら盛大に笑っていた。
「時間あるなら、お茶でもしに行かない?聞いて欲しい話があって」
少し躊躇ったように香緒ちゃんは切り出し、私はなんだろう?と気になりながら頷いた。
スタジオ近くの雰囲気の良い静かな喫茶店。何度かきたことがあるが、本格的なティーポットで出てくる紅茶はお気に入りだ。
「ごめんね。時間取らせて」
「ううん?香緒ちゃん……悩み事?」
撮影中はもちろんそんな顔は微塵も見せてなかったけど、今はなんとなく浮かない顔をしている。
「うん。……実はまだ誰にも、武琉にも、希海にも話してないんだけど……」
そう言って香緒ちゃんはティーカップに視線を落とした。私はその様子を黙って見ていた。
「その……。そのうちモデル辞めようかなって思ってるんだよね」
言い辛そうに言ってから、私の反応を確認するように香緒ちゃんは顔を上げて、意外そうな顔を見せた。
「さっちゃん、驚かないの?」
「うん。そう遠くないうちにそんな話が出るかなって思ってたから」
「そっか……」
そう言うと香緒ちゃんはホッとしたように息を吐いた。
「実はね、随分前に希海さんにも言われたの」
ティーカップを手にした香緒ちゃんは「希海に?」と驚いたように口にした。
「うん。目標を達成したから、いつまでもモデルは続けないだろうって。でも続けてるのは……私のこと心配してくれてたからだよね?」
私がこの仕事を始めたころ、一番大きな仕事は香緒ちゃんだった。今でもそれは変わらないけど、あの頃と違うのは、他の人からもたくさん声を掛けてもらえてるってことだ。それこそ、スケジュールが合わずお断りしなきゃいけないくらい。
「あ、うん……。僕が辞めたらさっちゃんの仕事減っちゃうな、って思ったんだけど……。今はもう大丈夫だなって思ってる」
「それは、香緒ちゃんと希海さんのおかげだよ?2人に拾われなかったら、今の私はなかったから」
当時、無名のアシスタントだった私に『一緒にやろう』と言ってくれたから私の世界は変わった。2人に出会わなかったら、睦月さんに出会うこともなかったかも知れない。
「希海が……拾い物の名人なんだよ?武琉のことも拾ってきたくらいだからね?」
香緒ちゃんは悪戯っぽい顔で笑っている。私もそれに笑顔を返す。
「本当、そうだね!」
そう言って。
睦月さんは、穏やかで柔らかな笑みを浮かべ、ポンポンと私の頭を撫でた。
「さっちゃんならそう言うと思った。香緒を最後まで見届けたいよね?」
「え?……睦月さん、何か聞いてるの?」
穏やかな表情のままそう言う睦月さんに、私は驚きながら尋ねる。香緒ちゃんは希海さんにすらまだ言っていないと言っていたのに。
「何も?ただ、なんとなくそろそろ次を考えてるのかなって。そう思っただけ」
離れていた時期も長かったけど、睦月さんだって香緒ちゃんの理解者の一人だ。きっと、何も言わなくてもわかってしまうのだろう。
「……うん。そんなにすぐってわけじゃないんだけど。それまで、もっともっと頑張る。だから……ここにはまた、いつか……」
そう言って振り返り、遠くなったパークのエントランスを眺めた。
「そうだね。……次は、2人だけじゃなくて、家族で、来たいよね?」
睦月さんも振り返って、名残惜しそうに眺めている。
家族……。そうだ。私たちには、これからきっと、新しい家族が増えるだろう。それがいつかはわからないけれど、一緒にここを訪れたい。
「だね。そのときを楽しみにしてる」
私はそう言うと睦月さんの手を取った。睦月さんは私の手を握り返して笑顔を見せた。
「俺も。……じゃ、帰ろうか。お土産も配り歩かなきゃいけないしね?」
そして、私たちは未来に思いを馳せ、楽しい思い出とともに帰路についた。
「あ、いたいた!おーい!」
空港の到着口を出たところで、睦月さんはその人たちの姿を見つけると手を振った。もう、夕方を通り越し夜と言っていい時間だけど、私たちを迎えにわざわざ来てくれたのだ。
「Hi!ムツキ、サツキ。楽しかった?」
合流した私たちに、アンさんはそう声をかける。もちろん英語なのだけど、長い間英語に浸かっていると、だいぶ聞き取れるようになってきた。
「もちろん!ね?さっちゃん!」
ニコニコと私にそう言う睦月さんに、レイさんがニヤリと笑ってみせた。そんな表情はちょっと長門さんに似ているかも知れない。
「本当にムツキはサツキが可愛くてしょうがないって感じだよね。ツカサが呆れるのもわかる」
「レイちゃん?司にいったい何聞いたのさ」
「うーん。ムツキは口を開けばサツキが可愛いって話ししかしないから鬱陶しいって」
「自分のこと棚に上げて何言ってんの?」
「だよねぇ。ツカサはヨーコに会えなくて寂しいオーラ出しまくってるのにさ」
それを聞いた睦月さんは「だよね!やっぱり!」なんて言いながら盛大に笑っていた。
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