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☆番外編3☆
honey moon 15
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ハロウィン翌日。
今日は司の誕生日だ。一年前は瑤子ちゃんとラブラブ動物園デートを楽しんだみたいだけど、まさか結婚した最初の誕生日を一緒に祝えないとは本人達も思ってなかったと思う。それは承知の上で今回の仕事を受けたのだろうけど、それでも朝からどんよりした表情でコーヒーを啜る司には、ちょっと同情してしまう。
「誕生日おめでとう!って何暗い顔してるのさ?」
コーヒーをカップに移しながら、目の前に座る司に投げかける。今はキッチンに2人きり。まだ早い時間だから、昨日無理をさせてしまったさっちゃんは起こさずにいた。
「別に。普通だ」
「そんなに誕生日一緒に祝えなかったの寂しかったわけ?」
不機嫌そう顔を顰めてカップを口に運ぶ司に、笑いながら返して前の椅子に座る。
「そんなんじゃねーよ」
「じゃ何?昨日瑤子ちゃんからお祝いの電話かかってこなかったとか?」
そう言って、俺は司が淹れただろう薄いコーヒーを口に運んだ。
「いや……。電話はしてくるなって言ってある」
「えっ?そうなの?」
哀愁すら漂わせて答える司に、俺は驚きの声を上げた。
こっちに来て1週間が過ぎ、残りの予定は半分。と言っても、さっちゃんはもうお役御免で、俺達はここからが本来の新婚旅行だ。でも、司は違う。明日からはニューヨークでの撮影に、最終的な打ち合わせやらで帰国前日まで仕事漬けのようだ。
来てすぐの頃は電話してる姿も見たのに、何で今更してくるなって言ったんだ?とその顔を眺めていて、ふと気がついた。
「あ、ホームシックになるからか」
心の声をそのままにボソッと呟くと、司は決まり悪そうな表情でこちらを見てから顔を逸らした。
「そんなんじゃねぇよ」
「えぇ~?だって瑤子ちゃん心配してたよ?」
「は?」
司は目を丸くして俺を見た。
「いつだったかなぁ、瑤子ちゃんがうちに遊びに来てた時にそんなこと言ってたよ。あと、仕事に支障でそうなら喝入れてくださいねって頼まれたんだった」
その言葉に、不甲斐ないといった様子で司は溜め息を吐いている。
「あー……。本当に俺は、あいつには一生勝てねえな」
そう言ってガシガシと頭を掻いている司に、俺は笑顔を返す。
「司にそんなことを言わせるのは世界中探しても瑤子ちゃんだけだろうね。と言うことで。不甲斐ない仕事をしたら瑤子ちゃんに顔向けできないからね!後半戦も頑張って!」
ようやく司は「ぜってー瑤子を唸らせるようなもの撮ってやる」と吹っ切ったように笑みを浮かべていた。
その日は、なんとか機嫌を直した司と、俺とさっちゃん。それにレイちゃんとアンちゃんを呼んでささやかな誕生日お祝いをした。場所は、ニューヨークに住んでいた頃行きつけだったステーキハウス。ちょうど2年前、ニューヨークで迎えた最後の司の誕生日もここで祝ったんだっけ、と懐かしくなった。
そういえばそのとき、俺は司に尋ねたんだっけ。『自分の誕生日を過ごしたい特別な相手はいないの?』って。司は『そんなやつ、この先もいねーよ』みたいなこと言ってたけど、今じゃ特別な相手と過ごせなくてしょげ返るくらいだ。
本当に、司が幸せになってくれなきゃ、俺もこんなに幸せじゃなかったかもな
大切な人たちの中で笑顔を見せる、一番大事な人の顔を眺めながら、俺はそんなことを思っていた。
それから、楽しく飲んで、食べて、他愛もない話で盛り上がったその翌日。
「じゃ、行ってくるね~!」
朝早い空港。司が送ってくれると言うからお言葉に甘えそれに乗っかった。これから俺たちは、元々予定していた新婚旅行先に向かうのだ。ここから飛行機で3時間ほど。行き先はフロリダだ。
「長門さん、ありがとうございました」
さっちゃんはそう言うとペコリとお辞儀をした。
「あぁ。楽しんでこい」
穏やかに返す司とは正反対に、俺は浮かれ気味で声を上げる。
「もちろん楽しんでくるよ!司にもお土産買ってくるからさ。いい耳があるといいけど」
笑いながらそう言うと、「お前、何言ってんだ?」と司は顔を顰めている。
「もちろんあれだよ、あれ!頭に付ける耳!司に似合いそうなのあるかな?」
「そんなもんいるか!絶対に買ってくんなよ?瑤子にこっそり渡すのもなしだからな!」
「え~?瑤子ちゃん、喜んでくれると思ったのにぃ!」
おっさん2人のくだらないやりとりを、すっかり見慣れたのかさっちゃんは俺達を見てクスクス笑っている。
「ったく!バカなこと言ってないでとっとと行きやがれ!俺も今から仕事だからもう行くぞ」
シッシッとばかりに司は手を振るとそう言った。
「そうだね。司も仕事頑張って!帰ったらまた見せてよ」
「行ってきます。みかさん達によろしくお伝えください」
「りょーかい。じゃあな」
そんなことを言い合って空港で別れ、俺達は2泊3日の、束の間の新婚旅行に出発したのだった。
今日は司の誕生日だ。一年前は瑤子ちゃんとラブラブ動物園デートを楽しんだみたいだけど、まさか結婚した最初の誕生日を一緒に祝えないとは本人達も思ってなかったと思う。それは承知の上で今回の仕事を受けたのだろうけど、それでも朝からどんよりした表情でコーヒーを啜る司には、ちょっと同情してしまう。
「誕生日おめでとう!って何暗い顔してるのさ?」
コーヒーをカップに移しながら、目の前に座る司に投げかける。今はキッチンに2人きり。まだ早い時間だから、昨日無理をさせてしまったさっちゃんは起こさずにいた。
「別に。普通だ」
「そんなに誕生日一緒に祝えなかったの寂しかったわけ?」
不機嫌そう顔を顰めてカップを口に運ぶ司に、笑いながら返して前の椅子に座る。
「そんなんじゃねーよ」
「じゃ何?昨日瑤子ちゃんからお祝いの電話かかってこなかったとか?」
そう言って、俺は司が淹れただろう薄いコーヒーを口に運んだ。
「いや……。電話はしてくるなって言ってある」
「えっ?そうなの?」
哀愁すら漂わせて答える司に、俺は驚きの声を上げた。
こっちに来て1週間が過ぎ、残りの予定は半分。と言っても、さっちゃんはもうお役御免で、俺達はここからが本来の新婚旅行だ。でも、司は違う。明日からはニューヨークでの撮影に、最終的な打ち合わせやらで帰国前日まで仕事漬けのようだ。
来てすぐの頃は電話してる姿も見たのに、何で今更してくるなって言ったんだ?とその顔を眺めていて、ふと気がついた。
「あ、ホームシックになるからか」
心の声をそのままにボソッと呟くと、司は決まり悪そうな表情でこちらを見てから顔を逸らした。
「そんなんじゃねぇよ」
「えぇ~?だって瑤子ちゃん心配してたよ?」
「は?」
司は目を丸くして俺を見た。
「いつだったかなぁ、瑤子ちゃんがうちに遊びに来てた時にそんなこと言ってたよ。あと、仕事に支障でそうなら喝入れてくださいねって頼まれたんだった」
その言葉に、不甲斐ないといった様子で司は溜め息を吐いている。
「あー……。本当に俺は、あいつには一生勝てねえな」
そう言ってガシガシと頭を掻いている司に、俺は笑顔を返す。
「司にそんなことを言わせるのは世界中探しても瑤子ちゃんだけだろうね。と言うことで。不甲斐ない仕事をしたら瑤子ちゃんに顔向けできないからね!後半戦も頑張って!」
ようやく司は「ぜってー瑤子を唸らせるようなもの撮ってやる」と吹っ切ったように笑みを浮かべていた。
その日は、なんとか機嫌を直した司と、俺とさっちゃん。それにレイちゃんとアンちゃんを呼んでささやかな誕生日お祝いをした。場所は、ニューヨークに住んでいた頃行きつけだったステーキハウス。ちょうど2年前、ニューヨークで迎えた最後の司の誕生日もここで祝ったんだっけ、と懐かしくなった。
そういえばそのとき、俺は司に尋ねたんだっけ。『自分の誕生日を過ごしたい特別な相手はいないの?』って。司は『そんなやつ、この先もいねーよ』みたいなこと言ってたけど、今じゃ特別な相手と過ごせなくてしょげ返るくらいだ。
本当に、司が幸せになってくれなきゃ、俺もこんなに幸せじゃなかったかもな
大切な人たちの中で笑顔を見せる、一番大事な人の顔を眺めながら、俺はそんなことを思っていた。
それから、楽しく飲んで、食べて、他愛もない話で盛り上がったその翌日。
「じゃ、行ってくるね~!」
朝早い空港。司が送ってくれると言うからお言葉に甘えそれに乗っかった。これから俺たちは、元々予定していた新婚旅行先に向かうのだ。ここから飛行機で3時間ほど。行き先はフロリダだ。
「長門さん、ありがとうございました」
さっちゃんはそう言うとペコリとお辞儀をした。
「あぁ。楽しんでこい」
穏やかに返す司とは正反対に、俺は浮かれ気味で声を上げる。
「もちろん楽しんでくるよ!司にもお土産買ってくるからさ。いい耳があるといいけど」
笑いながらそう言うと、「お前、何言ってんだ?」と司は顔を顰めている。
「もちろんあれだよ、あれ!頭に付ける耳!司に似合いそうなのあるかな?」
「そんなもんいるか!絶対に買ってくんなよ?瑤子にこっそり渡すのもなしだからな!」
「え~?瑤子ちゃん、喜んでくれると思ったのにぃ!」
おっさん2人のくだらないやりとりを、すっかり見慣れたのかさっちゃんは俺達を見てクスクス笑っている。
「ったく!バカなこと言ってないでとっとと行きやがれ!俺も今から仕事だからもう行くぞ」
シッシッとばかりに司は手を振るとそう言った。
「そうだね。司も仕事頑張って!帰ったらまた見せてよ」
「行ってきます。みかさん達によろしくお伝えください」
「りょーかい。じゃあな」
そんなことを言い合って空港で別れ、俺達は2泊3日の、束の間の新婚旅行に出発したのだった。
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