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☆番外編3☆
honey moon 9
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撮影は、結局3日費やした。
初日こそ順調だったものの、2日目は午後から雨。その翌日早朝には、牛が出産するからとゲイブさんはそちらにかかりきりになり、撮影は押してしまった。
またニューヨークに帰って来たのは、向こうで4泊したハロウィン前日だ。
さすがに私は、外で撮影するのも連日に渡るのも初めてで、緊張が解けた帰りの車の中では、申し訳ないくらいぐっすり眠ってしまっていた。
「岡田さん、咲月さん。ありがとうございました」
車から降りたみかさんに、改めてそうお礼を言われる。
「こちらこそ。お世話になりました。本当にたくさん勉強させていただきました。今回の仕事、これから活かしていけると思います」
私がそう言うと、隣に立つ睦月さんもみかさんに笑顔を向けた。
「俺からもありがとう。みかちゃんが仕事を与えてくれたおかげで、ゲイブに教えを乞うことができたよ」
みかさんからの突然の依頼。睦月さんは楽しそうに私達を撮ってくれていた。そして、それを見たゲイブさんはその写真をとても気に入ってくれたようだ。最終日は睦月さんも一緒に撮影に参加して、三人三様のみかさんの写真が出来上がった。
「岡田さんにもマンハッタンでの撮影に参加していただきたかったけど、これ以上新婚旅行の邪魔はできないですものね?お兄さんだけで我慢しておきます」
最後にわざとらしくそう言って笑うみかさんに、長門さんは顔を顰めながらも「そうしろそうしろ。いい加減コイツらを2人の世界に放り込んでやらねーと暴動起こしそうだ」なんて返していた。
「さすが司!よくわかってる!と言うことで、今日は俺達の邪魔しないでね?」
笑いながら返す睦月さんに、「言われなくてもしねーよ!」と不機嫌そうに長門さんは言っている。もちろん本当に怒ってるわけじゃないのはわかっているから、それを見て私もみかさんもクスクス笑っていた。
「じゃあ、また。帰国前に会いましょうね」
車に乗り込むと、私達に手を振りながらみかさんはそういい、それに返しながら「はい。ぜひ!」と笑顔で別れた。
「さすがに疲れたな」
皆、それぞれスーツケースを押しながら玄関に向かい、キーを開けている長門さんはそう言う。
「ほんと。こんなに働いたの久々だしね」
玄関に入りながら睦月さんは答え、私が最後に扉を閉めたところで、奥から人影が現れた。
「帰ったな!3人とも!待ちわびていたぞ!」
豪快に笑うこの家のオーナーの登場に、なぜか目の前2人はげっそりとした表情を見せていたのだった。
◆◆
「Trick or Treat」
「Happy Halloween」
仮装した子供たちが次々と訪れ、私はひたすらお菓子を渡していた。近所どころか町中の人が来ているんじゃないだろうかと言うくらいに忙しい。
昨日、私達の帰りを待ち受けていたロイさんは、早速ハロウィンの衣装だと持って来たものを広げていた。
「本当に……これ着るの?」
差し出された衣装を受け取り、私は戸惑いながら睦月さんに尋ねる。日本でも仮装などしたことないのに、いきなりこれはハードルが高いんじゃないだろうか?
それを見た睦月さんも珍しく顔を顰めると、「ちょっとロイ!これ、スカート丈短くない?」とロイさんに抗議している。
「悪いな、それしかないんだ」
簡単な英語だから私にも聞き取れたが、悪いと言いつつ全く悪びれることなく笑っている。
「それよりツカサとムツキはどっちにする?」
ロイさんの差し出した衣装は2つ。それに長門さんは思い切り顔を顰めて「2択かよ」と呟いていた。
結局、今までかなりお世話になったからと、2人は渋々衣装を選んでいた。
「さっちゃん。こっちはどう?もうそろそろ終わり?」
家の中で盛大に行われているパーティーの接待に駆り出されていた睦月さんが様子を見にやって来た。
「うん。もうお菓子、きれいになくなっちゃった」
段ボールに山と入っていたお菓子も、もうさっきで最後だった。
「お疲れ様。向こうでパーティー楽しもう?」
そう言って睦月さんは黒いマントを翻して私に手を差し出す。その格好は、白いシャツに深い紅のベルベットのベスト、そして黒いパンツ。おまけに口から牙を覗かしている、本格的なその仮装は、どこからどうみてもヴァンパイアだ。
「どうかした?」
改めてその姿をじっと見ていた私に、睦月さんは尋ねる。
「ううん?格好いいなぁ……って思って」
しみじみとそう言う私に、睦月さんは笑顔を見せる。
「それを言うなら、俺の奥さんむちゃくちゃ可愛いんだけど?」
腰から引き寄せられると、睦月さんは私の横顔に音を立ててキスをする。
「ありがとう。でも、こんな短いスカート履くの初めてでスカスカするかも」
私の衣装は魔女だ。前を紐で編んである黒のトップスに、オレンジと黒のチュールが幾重にも重なっている膝上丈のスカート。それに黒いハイソックスを履いている。正直、学生時代でさえこんな格好はしたことはない。
「一つ思ったんだけど……」
「ん?」
「この衣装……絶対子供用だよね?」
私はそんなことを睦月さんに言った。
初日こそ順調だったものの、2日目は午後から雨。その翌日早朝には、牛が出産するからとゲイブさんはそちらにかかりきりになり、撮影は押してしまった。
またニューヨークに帰って来たのは、向こうで4泊したハロウィン前日だ。
さすがに私は、外で撮影するのも連日に渡るのも初めてで、緊張が解けた帰りの車の中では、申し訳ないくらいぐっすり眠ってしまっていた。
「岡田さん、咲月さん。ありがとうございました」
車から降りたみかさんに、改めてそうお礼を言われる。
「こちらこそ。お世話になりました。本当にたくさん勉強させていただきました。今回の仕事、これから活かしていけると思います」
私がそう言うと、隣に立つ睦月さんもみかさんに笑顔を向けた。
「俺からもありがとう。みかちゃんが仕事を与えてくれたおかげで、ゲイブに教えを乞うことができたよ」
みかさんからの突然の依頼。睦月さんは楽しそうに私達を撮ってくれていた。そして、それを見たゲイブさんはその写真をとても気に入ってくれたようだ。最終日は睦月さんも一緒に撮影に参加して、三人三様のみかさんの写真が出来上がった。
「岡田さんにもマンハッタンでの撮影に参加していただきたかったけど、これ以上新婚旅行の邪魔はできないですものね?お兄さんだけで我慢しておきます」
最後にわざとらしくそう言って笑うみかさんに、長門さんは顔を顰めながらも「そうしろそうしろ。いい加減コイツらを2人の世界に放り込んでやらねーと暴動起こしそうだ」なんて返していた。
「さすが司!よくわかってる!と言うことで、今日は俺達の邪魔しないでね?」
笑いながら返す睦月さんに、「言われなくてもしねーよ!」と不機嫌そうに長門さんは言っている。もちろん本当に怒ってるわけじゃないのはわかっているから、それを見て私もみかさんもクスクス笑っていた。
「じゃあ、また。帰国前に会いましょうね」
車に乗り込むと、私達に手を振りながらみかさんはそういい、それに返しながら「はい。ぜひ!」と笑顔で別れた。
「さすがに疲れたな」
皆、それぞれスーツケースを押しながら玄関に向かい、キーを開けている長門さんはそう言う。
「ほんと。こんなに働いたの久々だしね」
玄関に入りながら睦月さんは答え、私が最後に扉を閉めたところで、奥から人影が現れた。
「帰ったな!3人とも!待ちわびていたぞ!」
豪快に笑うこの家のオーナーの登場に、なぜか目の前2人はげっそりとした表情を見せていたのだった。
◆◆
「Trick or Treat」
「Happy Halloween」
仮装した子供たちが次々と訪れ、私はひたすらお菓子を渡していた。近所どころか町中の人が来ているんじゃないだろうかと言うくらいに忙しい。
昨日、私達の帰りを待ち受けていたロイさんは、早速ハロウィンの衣装だと持って来たものを広げていた。
「本当に……これ着るの?」
差し出された衣装を受け取り、私は戸惑いながら睦月さんに尋ねる。日本でも仮装などしたことないのに、いきなりこれはハードルが高いんじゃないだろうか?
それを見た睦月さんも珍しく顔を顰めると、「ちょっとロイ!これ、スカート丈短くない?」とロイさんに抗議している。
「悪いな、それしかないんだ」
簡単な英語だから私にも聞き取れたが、悪いと言いつつ全く悪びれることなく笑っている。
「それよりツカサとムツキはどっちにする?」
ロイさんの差し出した衣装は2つ。それに長門さんは思い切り顔を顰めて「2択かよ」と呟いていた。
結局、今までかなりお世話になったからと、2人は渋々衣装を選んでいた。
「さっちゃん。こっちはどう?もうそろそろ終わり?」
家の中で盛大に行われているパーティーの接待に駆り出されていた睦月さんが様子を見にやって来た。
「うん。もうお菓子、きれいになくなっちゃった」
段ボールに山と入っていたお菓子も、もうさっきで最後だった。
「お疲れ様。向こうでパーティー楽しもう?」
そう言って睦月さんは黒いマントを翻して私に手を差し出す。その格好は、白いシャツに深い紅のベルベットのベスト、そして黒いパンツ。おまけに口から牙を覗かしている、本格的なその仮装は、どこからどうみてもヴァンパイアだ。
「どうかした?」
改めてその姿をじっと見ていた私に、睦月さんは尋ねる。
「ううん?格好いいなぁ……って思って」
しみじみとそう言う私に、睦月さんは笑顔を見せる。
「それを言うなら、俺の奥さんむちゃくちゃ可愛いんだけど?」
腰から引き寄せられると、睦月さんは私の横顔に音を立ててキスをする。
「ありがとう。でも、こんな短いスカート履くの初めてでスカスカするかも」
私の衣装は魔女だ。前を紐で編んである黒のトップスに、オレンジと黒のチュールが幾重にも重なっている膝上丈のスカート。それに黒いハイソックスを履いている。正直、学生時代でさえこんな格好はしたことはない。
「一つ思ったんだけど……」
「ん?」
「この衣装……絶対子供用だよね?」
私はそんなことを睦月さんに言った。
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