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☆番外編3☆
honey moon 8
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昨日は打ち合わせだけに留めた撮影は、今朝から本格的に開始された。撮影のコンセプトは、『Natural and Artificial』。
まずこの大自然を背景にメイクを施したミッシェルを撮り、ニューヨークのマンハッタンでは、素顔のミッシェルを撮るということらしい。
撮るのはゲイブと司。ヘアメイクはさっちゃんだ。撮る2人は外での撮影の経験はあるが、さっちゃんは外での撮影は初めてらしい。緊張しながらも、真剣な眼差しでミッシェルに向かって手を動かしている。
それにしても……と思いながら俺は周りを見渡す。
凄いギャラリーなんだけど……
撮影の様子を離れたところから見ている人間が20人はいる。中には、映画監督や、芸術関連の関係者もいるらしい。
みかちゃんには『どこで聞いたのかしら?気にしないで下さいね』なんて言われたが、さすがにこの多さは気にしないほうが無理だ。それに、どうもギャラリー達はミッシェルだけを見に来ているわけじゃなさそうだ。昔は知る人ぞ知るカメラマンで、実は司が昔憧れていた人でもあるゲイブのことも見に来ているみたいだ。
なんだかやり辛いが、俺には依頼された仕事がある。気持ちを切り替えて俺はカメラを構えた。
『撮影風景のオフショットを撮っていただけませんか?もちろん咲月さん多めで構いませんから』
昨日打ち合わせが終わったあと、笑顔を浮かべたみかちゃんからの依頼。
俺は二つ返事でそれを受けた。そんな楽しそうな話、受けない理由はない。
そして今俺は、現場の邪魔にならない少し離れた場所から皆の様子を写真に収めていた。
ほんと、いつにも増して綺麗だなぁ
レンズ越しに愛する妻の顔を眺めながら、そんなことを思う。
さっちゃんは、テスト撮影の画面が映るモニターを挟み真剣に議論を交わすカメラマンとモデルの要望に即座に対応しているようだ。何度もメイクを修正していた。
背景は、秋も深まった牧場だ。緑の色も褪せ、何処か物悲しい雰囲気を纏う白っぽい空の色。そこに立つのは、鮮やかな赤いドレスを纏うミッシェル。
背景と衣装をどうマッチさせるのか、さっちゃんは一生懸命考えているのだろう。その瞳に宿る熱は、いつもより高い気がする。そして何よりも美しいと思う。
そんな彼女の瞳を見ながら俺は思い出していた。さっちゃんと出会ってのは、1年前の今頃だ。あの時と同じように真摯に仕事に向き合う彼女を見て、改めて『俺も負けないように頑張らなきゃ』と俺は心に誓った。
1日目は無事終了し、明日はまた場所と衣装を変えて撮影することになった。
そして今は、来ていた人間や牧場の使用人も合わせて盛大なバーベキューパーティーの真っ最中だ。あちこちで歓談の輪ができていて、そこに司はすっかり溶け込んでいる。どうもギャラリーには司に興味津々の者もいるらしい。けれど、それは司だけじゃなく、さっちゃんにも向けられているようだ。
離れたところから見ていると、みかちゃんに連れられたさっちゃんの元には代わる代わる人が寄って行っている。
なんか……凄いなぁ……
単純にそう思う。
初めて会った時から、さっちゃんは自分が思っている以上に才能に溢れていて優れた腕の持ち主だとは思っていた。けれど、なかなかそれを自分では認められないようだったけど、ここでいろんな人の目に止まり、自分の凄さを認められたかも知れないな、なんて思った。
「ムツキ!どうだ、飲んでるか?」
ビールジョッキ片手のゲイブにそう声を掛けられる。
「えぇ。飲んでますよ?」
俺は笑顔でそう返す。
「ムツキはツカサと長い間仕事をしていたんだって?」
隣に立ちゲイブはビールを呷りながら俺に尋ねた。
「はい。1年ほど前まではずっとアシスタントをしていました。……司はどうですか?一緒に仕事してみて」
「日本には、こんな逸材がいたんだなぁと思ってるよ。こっちにいる間に出会いたかった」
輪の中心になって臆することなく会話している司を、俺達は遠くに眺める。
「そうですか。でも、それだと俺達は日本に帰ってなかったかも知れない。だとしたら、司は今の司じゃなかったと思います」
不思議な不思議な巡り合わせ。
日本に帰ることがなければ、司は瑤子ちゃんに出会うことはなかった。司が一層才能を開花させているのは、瑤子ちゃんに出会ったからこそだと俺は思う。
酒を飲みながら、俺はそんな話をゲイブにした。
「運命とは不思議なものだな。私は娘がいることを知らず、ずっとここで暮らしていた。日本にいる華を探しに行くこともできず、面影だけを追っていたときにミッシェルに出会った。彼女に出会わなければ、私は華に再会することはなかった。ほんの小さな出会いが、大きく運命を変えるのだと思ったよ」
しみじみとそう言うゲイブの視線の先には、ゲストをもてなす華さんの姿がある。
「ですね。そう思いますよ。俺も、妻と出会うために日本に帰ったんだなって思いますから」
そう言いながら、俺は愛する妻の笑顔を遠くから眺めていた。
まずこの大自然を背景にメイクを施したミッシェルを撮り、ニューヨークのマンハッタンでは、素顔のミッシェルを撮るということらしい。
撮るのはゲイブと司。ヘアメイクはさっちゃんだ。撮る2人は外での撮影の経験はあるが、さっちゃんは外での撮影は初めてらしい。緊張しながらも、真剣な眼差しでミッシェルに向かって手を動かしている。
それにしても……と思いながら俺は周りを見渡す。
凄いギャラリーなんだけど……
撮影の様子を離れたところから見ている人間が20人はいる。中には、映画監督や、芸術関連の関係者もいるらしい。
みかちゃんには『どこで聞いたのかしら?気にしないで下さいね』なんて言われたが、さすがにこの多さは気にしないほうが無理だ。それに、どうもギャラリー達はミッシェルだけを見に来ているわけじゃなさそうだ。昔は知る人ぞ知るカメラマンで、実は司が昔憧れていた人でもあるゲイブのことも見に来ているみたいだ。
なんだかやり辛いが、俺には依頼された仕事がある。気持ちを切り替えて俺はカメラを構えた。
『撮影風景のオフショットを撮っていただけませんか?もちろん咲月さん多めで構いませんから』
昨日打ち合わせが終わったあと、笑顔を浮かべたみかちゃんからの依頼。
俺は二つ返事でそれを受けた。そんな楽しそうな話、受けない理由はない。
そして今俺は、現場の邪魔にならない少し離れた場所から皆の様子を写真に収めていた。
ほんと、いつにも増して綺麗だなぁ
レンズ越しに愛する妻の顔を眺めながら、そんなことを思う。
さっちゃんは、テスト撮影の画面が映るモニターを挟み真剣に議論を交わすカメラマンとモデルの要望に即座に対応しているようだ。何度もメイクを修正していた。
背景は、秋も深まった牧場だ。緑の色も褪せ、何処か物悲しい雰囲気を纏う白っぽい空の色。そこに立つのは、鮮やかな赤いドレスを纏うミッシェル。
背景と衣装をどうマッチさせるのか、さっちゃんは一生懸命考えているのだろう。その瞳に宿る熱は、いつもより高い気がする。そして何よりも美しいと思う。
そんな彼女の瞳を見ながら俺は思い出していた。さっちゃんと出会ってのは、1年前の今頃だ。あの時と同じように真摯に仕事に向き合う彼女を見て、改めて『俺も負けないように頑張らなきゃ』と俺は心に誓った。
1日目は無事終了し、明日はまた場所と衣装を変えて撮影することになった。
そして今は、来ていた人間や牧場の使用人も合わせて盛大なバーベキューパーティーの真っ最中だ。あちこちで歓談の輪ができていて、そこに司はすっかり溶け込んでいる。どうもギャラリーには司に興味津々の者もいるらしい。けれど、それは司だけじゃなく、さっちゃんにも向けられているようだ。
離れたところから見ていると、みかちゃんに連れられたさっちゃんの元には代わる代わる人が寄って行っている。
なんか……凄いなぁ……
単純にそう思う。
初めて会った時から、さっちゃんは自分が思っている以上に才能に溢れていて優れた腕の持ち主だとは思っていた。けれど、なかなかそれを自分では認められないようだったけど、ここでいろんな人の目に止まり、自分の凄さを認められたかも知れないな、なんて思った。
「ムツキ!どうだ、飲んでるか?」
ビールジョッキ片手のゲイブにそう声を掛けられる。
「えぇ。飲んでますよ?」
俺は笑顔でそう返す。
「ムツキはツカサと長い間仕事をしていたんだって?」
隣に立ちゲイブはビールを呷りながら俺に尋ねた。
「はい。1年ほど前まではずっとアシスタントをしていました。……司はどうですか?一緒に仕事してみて」
「日本には、こんな逸材がいたんだなぁと思ってるよ。こっちにいる間に出会いたかった」
輪の中心になって臆することなく会話している司を、俺達は遠くに眺める。
「そうですか。でも、それだと俺達は日本に帰ってなかったかも知れない。だとしたら、司は今の司じゃなかったと思います」
不思議な不思議な巡り合わせ。
日本に帰ることがなければ、司は瑤子ちゃんに出会うことはなかった。司が一層才能を開花させているのは、瑤子ちゃんに出会ったからこそだと俺は思う。
酒を飲みながら、俺はそんな話をゲイブにした。
「運命とは不思議なものだな。私は娘がいることを知らず、ずっとここで暮らしていた。日本にいる華を探しに行くこともできず、面影だけを追っていたときにミッシェルに出会った。彼女に出会わなければ、私は華に再会することはなかった。ほんの小さな出会いが、大きく運命を変えるのだと思ったよ」
しみじみとそう言うゲイブの視線の先には、ゲストをもてなす華さんの姿がある。
「ですね。そう思いますよ。俺も、妻と出会うために日本に帰ったんだなって思いますから」
そう言いながら、俺は愛する妻の笑顔を遠くから眺めていた。
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