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☆番外編3☆
honey moon 7
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そしてやって来た撮影日。
今日から2泊3日の泊まり込みの予定で行われるそれは、みかちゃんのお父さんが経営する……牧場で行われる。
同じ州内にあるとは言え、そこはやっぱり広い国。片道3時間程の旅になる。毎日行ったり来たりするわけにもいかず、その上その本業次第で日程が延びるかも知れないと言うことで、泊まり込みとなったのだ。もちろん俺も一緒に。
「お疲れ様でした。着きました」
ずっと運転してくれていた直也君が車を停め、振り返るとそう言う。
すでに途中から大自然の中を走り続けていたけど、着いた場所はザ牧場だ。牛も羊も、そして馬も、遠くまで自由に歩き回っているのが見えた。
「わぁ!うちの田舎を100倍大きくしたみたい!」
車から降りると、さっちゃんは景色を眺めながらそう声を上げた。確かにさっちゃんの田舎には主に牛のいる牧場が山の麓にあり、その牛からとれた牛乳で作ったソフトクリームは濃厚で美味しかった。
そんなことを思い出していると、向こう側から馬に乗った人がこちらに向かって来た。
「Gabe~!」
車から降りて来たみかちゃんが、その人に大きな声で呼びかけている。それに呼び寄せられるように馬の走るスピードが上がると、あっという間に目の前までやって来て、まんまカウボーイ姿のその人は馬から降りた。
年は俺よりも一回りは上だと思う。身長は司とそう変わらないのに、体格がいい分大きく見える。歩きながら取ったハットの下には明るい茶色の巻き毛が見え、端正な顔立ちなのに無精髭が生えているからかワイルドさを醸し出している。
「ミッシェル!待っていたよ!」
その人の口から飛び出したのは、流暢な日本語。みかちゃんは腕を引くように笑顔で俺達の前に連れてきた。
「紹介します。私の父のゲイブです」
「ガブリエル=スミスだ。気軽にゲイブと呼んでくれ」
そう言うとゲイブは最初に司に手を差し出した。その手を、司はフッと息を漏らしながら取ると握手を交わしている。
「長門司です。にしても、天使の父も天使とはね」
何の話?と思っていたらゲイブは笑いながらそれに答えた。
「あぁ。ミッシェルの名前を知っているのか。My Angelは最高の名前を付けてくれたよ!」
いまいち会話の意味が理解できず、キョトンとしたままの俺とさっちゃんに、みかちゃんが恥ずかしそうに顔を向けた。
「実は私。本当の名前は、みかえるって言うんです」
それを聞いた俺達は、思わず「えっ⁈」と声を上げていた。
ゲイブに案内され、皆で自宅に向かう。少し先に見える一番大きな建物が母屋。周りに点在するのはここで働く人達の家やゲストハウスだそうだ。全てがとにかく大きくて、アメリカに数年住んでいた俺でも驚くくらい広かった。
「My Angel!」
大きな木製のドアを開けて中に入るとゲイブは大声で言う。しばらくすると奥から女性がやって来た。
「みかちゃんおかえりなさい。皆さん、ようこそいらっしゃいました」
日本語でそう言う彼女は、ふんわりとした茶褐色の長い髪を靡かせて、穏やかに微笑んでいる。見た目は俺と同じくらいの年齢に見える。でも、みかちゃんのお母さんだとしたら説明がつかないんだけど、とその姿を眺めた。
ゲイブはその人の横に立つと肩を引き寄せる。
「私の妻の華だ。そしてミッシェルの母でもある」
やっぱりそうかと思いながらも、その見た目の若さに驚き、思わずさっちゃんと顔を見合わせてしまった。
「華です。はるばるお越しくださってありがとうございます。なんのおもてなしもできませんが、ゆっくりして行ってくださいな」
まったりフワフワした口調で華さんはそう言い、俺達は代わる代わる自己紹介を行う。そしてリビングへ向かいながらみかちゃんが口を開いた。
「じゃあ早速なんだけど。お兄さん、咲月さん。撮影の打ち合わせをしておきたいんだけどいいかしら?」
みかちゃんがそう言うと、2人はそれに了承する。
「岡田さんもぜひご一緒に」
気を遣ったのか、みかちゃんは俺にそう言って笑いかけた。
「いいの?仕事のお邪魔じゃない?」
「何言ってるんですか!それに……、岡田さんには別の仕事を頼みたいな、って思ってるんです」
「えっ?俺に?」
ニコニコと笑うみかちゃんの突然の申し出に、多少困惑しつつさっちゃんと司と顔を見合わせる。
確かに昨日、過去に司のアシスタントをしていて、今はフリーのカメラマンだと話はしている。
もしかして、アシスタント要員?とも思うが、ずっと現場でぼんやり見てるより、何かすることがあるほうが気が紛れるか、と思い直し、俺は「俺でお役に立てるなら」と返事をした。
「ありがとうございます。じゃあ、打ち合わせ、始めましょう!」
みかちゃんを先頭に、直也君、ゲイブ、華さん、司と続く。さっちゃんはゆっくり歩きながら俺の袖を引っ張った。
「嬉しいな。睦月さんとも一緒に仕事できるの!」
「うん。俺も。さっちゃんに恥じないよう頑張るよ?」
そう言って俺は、愛らしい表情を浮かべた妻の額に唇を落とした。
今日から2泊3日の泊まり込みの予定で行われるそれは、みかちゃんのお父さんが経営する……牧場で行われる。
同じ州内にあるとは言え、そこはやっぱり広い国。片道3時間程の旅になる。毎日行ったり来たりするわけにもいかず、その上その本業次第で日程が延びるかも知れないと言うことで、泊まり込みとなったのだ。もちろん俺も一緒に。
「お疲れ様でした。着きました」
ずっと運転してくれていた直也君が車を停め、振り返るとそう言う。
すでに途中から大自然の中を走り続けていたけど、着いた場所はザ牧場だ。牛も羊も、そして馬も、遠くまで自由に歩き回っているのが見えた。
「わぁ!うちの田舎を100倍大きくしたみたい!」
車から降りると、さっちゃんは景色を眺めながらそう声を上げた。確かにさっちゃんの田舎には主に牛のいる牧場が山の麓にあり、その牛からとれた牛乳で作ったソフトクリームは濃厚で美味しかった。
そんなことを思い出していると、向こう側から馬に乗った人がこちらに向かって来た。
「Gabe~!」
車から降りて来たみかちゃんが、その人に大きな声で呼びかけている。それに呼び寄せられるように馬の走るスピードが上がると、あっという間に目の前までやって来て、まんまカウボーイ姿のその人は馬から降りた。
年は俺よりも一回りは上だと思う。身長は司とそう変わらないのに、体格がいい分大きく見える。歩きながら取ったハットの下には明るい茶色の巻き毛が見え、端正な顔立ちなのに無精髭が生えているからかワイルドさを醸し出している。
「ミッシェル!待っていたよ!」
その人の口から飛び出したのは、流暢な日本語。みかちゃんは腕を引くように笑顔で俺達の前に連れてきた。
「紹介します。私の父のゲイブです」
「ガブリエル=スミスだ。気軽にゲイブと呼んでくれ」
そう言うとゲイブは最初に司に手を差し出した。その手を、司はフッと息を漏らしながら取ると握手を交わしている。
「長門司です。にしても、天使の父も天使とはね」
何の話?と思っていたらゲイブは笑いながらそれに答えた。
「あぁ。ミッシェルの名前を知っているのか。My Angelは最高の名前を付けてくれたよ!」
いまいち会話の意味が理解できず、キョトンとしたままの俺とさっちゃんに、みかちゃんが恥ずかしそうに顔を向けた。
「実は私。本当の名前は、みかえるって言うんです」
それを聞いた俺達は、思わず「えっ⁈」と声を上げていた。
ゲイブに案内され、皆で自宅に向かう。少し先に見える一番大きな建物が母屋。周りに点在するのはここで働く人達の家やゲストハウスだそうだ。全てがとにかく大きくて、アメリカに数年住んでいた俺でも驚くくらい広かった。
「My Angel!」
大きな木製のドアを開けて中に入るとゲイブは大声で言う。しばらくすると奥から女性がやって来た。
「みかちゃんおかえりなさい。皆さん、ようこそいらっしゃいました」
日本語でそう言う彼女は、ふんわりとした茶褐色の長い髪を靡かせて、穏やかに微笑んでいる。見た目は俺と同じくらいの年齢に見える。でも、みかちゃんのお母さんだとしたら説明がつかないんだけど、とその姿を眺めた。
ゲイブはその人の横に立つと肩を引き寄せる。
「私の妻の華だ。そしてミッシェルの母でもある」
やっぱりそうかと思いながらも、その見た目の若さに驚き、思わずさっちゃんと顔を見合わせてしまった。
「華です。はるばるお越しくださってありがとうございます。なんのおもてなしもできませんが、ゆっくりして行ってくださいな」
まったりフワフワした口調で華さんはそう言い、俺達は代わる代わる自己紹介を行う。そしてリビングへ向かいながらみかちゃんが口を開いた。
「じゃあ早速なんだけど。お兄さん、咲月さん。撮影の打ち合わせをしておきたいんだけどいいかしら?」
みかちゃんがそう言うと、2人はそれに了承する。
「岡田さんもぜひご一緒に」
気を遣ったのか、みかちゃんは俺にそう言って笑いかけた。
「いいの?仕事のお邪魔じゃない?」
「何言ってるんですか!それに……、岡田さんには別の仕事を頼みたいな、って思ってるんです」
「えっ?俺に?」
ニコニコと笑うみかちゃんの突然の申し出に、多少困惑しつつさっちゃんと司と顔を見合わせる。
確かに昨日、過去に司のアシスタントをしていて、今はフリーのカメラマンだと話はしている。
もしかして、アシスタント要員?とも思うが、ずっと現場でぼんやり見てるより、何かすることがあるほうが気が紛れるか、と思い直し、俺は「俺でお役に立てるなら」と返事をした。
「ありがとうございます。じゃあ、打ち合わせ、始めましょう!」
みかちゃんを先頭に、直也君、ゲイブ、華さん、司と続く。さっちゃんはゆっくり歩きながら俺の袖を引っ張った。
「嬉しいな。睦月さんとも一緒に仕事できるの!」
「うん。俺も。さっちゃんに恥じないよう頑張るよ?」
そう言って俺は、愛らしい表情を浮かべた妻の額に唇を落とした。
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