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☆番外編3☆
honey moon 4
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「そんなことしたの?」
荷物をそれぞれしまったあと、キッチンに集合して軽食を取りながら私達は話をしていた。
話題はもちろん、溜め息を吐きたくなるようなハロウィンパーティーについて、だ。
「そうそう。本格的な仮装は必須、だよね?」
睦月さんはそう長門さんに同意を求めている。
確かに、今でこそ日本でもメジャーになったイベント。日本にあるテーマパークでも仮装OKの日があるくらいだ。こっちは本場なんだから、余計に気合いは入ってそうだ。
「まったくロイのやつ……。言ってるうちに衣装持って現れるぞ」
長門さんは、睦月さんの作ったサンドイッチ片手に盛大に息を吐いていた。ロイさん、と言うのはこの家の持ち主で、睦月さん達がこっちに住んでいたときの家のオーナーでもあるらしい。
「目に浮かぶよ。お祭り好きのロイだからねぇ。俺はいいけど、司がいるって知れたらまた近所中の女性陣がこぞってやってくるんじゃない?」
睦月さんはその時を思い出したのか苦笑いで長門さんにそう言った。
「被り物してる方がマシだっつーの」
あまりにもゲンナリした顔を見せる長門さんに、私はそれ以上聞かずそっとしておいた。
それにしても、この家は想像していた以上に凄かった。約1年前にここを訪れた瑤子さんからは色々話は聞いていたし、写真も見せてもらっていたけど、自分の目で見るとまた違った。
まず、暖炉のある広いリビング。
瑤子さんの時は大きなクリスマスツリーが飾られていたと見せられたスマホの画面は、それはそれは華やかだった。
でも今は……、明かりを付けなきゃ近寄れないほどのホラーハウスになっている。等身大の骸骨の騎士、その回りを取り囲むジャックオランタン。天井からはコウモリや蜘蛛の巣が垂れ下がっている。
絶対ここに一人で夜来れないよ……
私はまず最初にそう思ったのだった。
「さってと!俺は部屋に戻る。明日はみかが歓迎会とやらをしてくれるんだろ?」
長門さんは立ち上がり、伸びをしながら尋ねる。
「そう。夕方からね。それまでは自由行動でいい?」
「そりゃ、お前たちの新婚旅行なんだから好きにすればいい。俺も適当にする」
「OK!じゃ、瑤子ちゃんによろしく。どうせ今から電話するんでしょ?」
笑顔の睦月さんにそう言われて、案の定長門さんは顔を顰める。
「悪いかよ。言っとくがな、俺もまだ新婚だ。いいだろ別に」
不服そうにそう言う長門さんに、睦月さんは思いっきり笑ってしまい、しばらく会話にならなかった。
次の日。
まだ時差に慣れてはいないけど、なんとか朝早い時間に目を覚ますことができ、ニューヨーク観光をすることにした。
最初に来たのは公園だ。ニューヨークのオフィス街のど真ん中にあるそこは、平日の午前中にもかかわらず、結構な人で溢れ返っていた。
「ここでレイちゃんに初めて会ったんだよ」
睦月さんは、懐かしそうにそう言いながら私の手を引いて歩いている。
向こう側に立ち並ぶビルが見える公園には椅子が至るところにあり、コーヒー片手に談笑する人達や、ビジネスの合間の休憩、といった人で賑わっている。
「司とこっちに来たばっかりの頃ってさ、仕事なんて言うほどなくて結構暇でさ」
今でこそ業界内じゃ海外にも名前が知られている長門さんだけど、ニューヨークに来た頃はそうじゃなかったらしい。それは希海さんからも聞いたことがあった。
「そこの図書館で本借りて、ここで英語の練習してたんだよね」
睦月さんがそう言って指を指す先には、まるで神殿のような大きな建物が見える。図書館だけど見どころはたくさんあるとかで、私達は今そこに向かって歩いていた。
「睦月さんでも練習必要だったの?」
私は顔を上げて尋ねる。睦月さんは今は普通に、と言うか流暢に英語で会話している。練習が必要だったなんて、とてもじゃないけど思えなかった。
「はは。最初は聞くだけでいっぱいいっぱいだったよ。発音も不安だったし。で、公園で借りて来た本を朗読してたら、隣でスケッチしてたレイちゃんに思いっきり笑われたんだよねぇ……」
苦笑いを浮かべて睦月さんはそう言う。
「そうなんだ……」
ってことは、今の私くらいだったのかな?なんて思う。
「で、そのあとずっとレイちゃんが先生になってくれたんだよね。それがきっかけで司に仕事回ってきて、おかげでそれなりに名前が売れて、レイちゃんの店も有名になったんたけどね」
図書館の入り口に向かう階段を歩きながら、睦月さんは笑みを浮かべる。
「そんな出会いだったんだ。睦月さんも長門さんも、レイさんとアンさんといい友達なんだなって、見てて感じたよ?」
「うん。本当に、2人は大事な友達。でもさ、あとでレイちゃんに言われたんだけど……」
階段を登りきり、入り口を潜りながら、睦月さんは思い出すように続けた。
「moonを持つ男が私達にlucky starをもたらすってアンに言われたけど、まさか名前がmoonだと思わなかった、だって」
とにかく当たると言うアンさんの占い。私はその凄さを思い知り、ポカンとしながらそれを聞いていた。
荷物をそれぞれしまったあと、キッチンに集合して軽食を取りながら私達は話をしていた。
話題はもちろん、溜め息を吐きたくなるようなハロウィンパーティーについて、だ。
「そうそう。本格的な仮装は必須、だよね?」
睦月さんはそう長門さんに同意を求めている。
確かに、今でこそ日本でもメジャーになったイベント。日本にあるテーマパークでも仮装OKの日があるくらいだ。こっちは本場なんだから、余計に気合いは入ってそうだ。
「まったくロイのやつ……。言ってるうちに衣装持って現れるぞ」
長門さんは、睦月さんの作ったサンドイッチ片手に盛大に息を吐いていた。ロイさん、と言うのはこの家の持ち主で、睦月さん達がこっちに住んでいたときの家のオーナーでもあるらしい。
「目に浮かぶよ。お祭り好きのロイだからねぇ。俺はいいけど、司がいるって知れたらまた近所中の女性陣がこぞってやってくるんじゃない?」
睦月さんはその時を思い出したのか苦笑いで長門さんにそう言った。
「被り物してる方がマシだっつーの」
あまりにもゲンナリした顔を見せる長門さんに、私はそれ以上聞かずそっとしておいた。
それにしても、この家は想像していた以上に凄かった。約1年前にここを訪れた瑤子さんからは色々話は聞いていたし、写真も見せてもらっていたけど、自分の目で見るとまた違った。
まず、暖炉のある広いリビング。
瑤子さんの時は大きなクリスマスツリーが飾られていたと見せられたスマホの画面は、それはそれは華やかだった。
でも今は……、明かりを付けなきゃ近寄れないほどのホラーハウスになっている。等身大の骸骨の騎士、その回りを取り囲むジャックオランタン。天井からはコウモリや蜘蛛の巣が垂れ下がっている。
絶対ここに一人で夜来れないよ……
私はまず最初にそう思ったのだった。
「さってと!俺は部屋に戻る。明日はみかが歓迎会とやらをしてくれるんだろ?」
長門さんは立ち上がり、伸びをしながら尋ねる。
「そう。夕方からね。それまでは自由行動でいい?」
「そりゃ、お前たちの新婚旅行なんだから好きにすればいい。俺も適当にする」
「OK!じゃ、瑤子ちゃんによろしく。どうせ今から電話するんでしょ?」
笑顔の睦月さんにそう言われて、案の定長門さんは顔を顰める。
「悪いかよ。言っとくがな、俺もまだ新婚だ。いいだろ別に」
不服そうにそう言う長門さんに、睦月さんは思いっきり笑ってしまい、しばらく会話にならなかった。
次の日。
まだ時差に慣れてはいないけど、なんとか朝早い時間に目を覚ますことができ、ニューヨーク観光をすることにした。
最初に来たのは公園だ。ニューヨークのオフィス街のど真ん中にあるそこは、平日の午前中にもかかわらず、結構な人で溢れ返っていた。
「ここでレイちゃんに初めて会ったんだよ」
睦月さんは、懐かしそうにそう言いながら私の手を引いて歩いている。
向こう側に立ち並ぶビルが見える公園には椅子が至るところにあり、コーヒー片手に談笑する人達や、ビジネスの合間の休憩、といった人で賑わっている。
「司とこっちに来たばっかりの頃ってさ、仕事なんて言うほどなくて結構暇でさ」
今でこそ業界内じゃ海外にも名前が知られている長門さんだけど、ニューヨークに来た頃はそうじゃなかったらしい。それは希海さんからも聞いたことがあった。
「そこの図書館で本借りて、ここで英語の練習してたんだよね」
睦月さんがそう言って指を指す先には、まるで神殿のような大きな建物が見える。図書館だけど見どころはたくさんあるとかで、私達は今そこに向かって歩いていた。
「睦月さんでも練習必要だったの?」
私は顔を上げて尋ねる。睦月さんは今は普通に、と言うか流暢に英語で会話している。練習が必要だったなんて、とてもじゃないけど思えなかった。
「はは。最初は聞くだけでいっぱいいっぱいだったよ。発音も不安だったし。で、公園で借りて来た本を朗読してたら、隣でスケッチしてたレイちゃんに思いっきり笑われたんだよねぇ……」
苦笑いを浮かべて睦月さんはそう言う。
「そうなんだ……」
ってことは、今の私くらいだったのかな?なんて思う。
「で、そのあとずっとレイちゃんが先生になってくれたんだよね。それがきっかけで司に仕事回ってきて、おかげでそれなりに名前が売れて、レイちゃんの店も有名になったんたけどね」
図書館の入り口に向かう階段を歩きながら、睦月さんは笑みを浮かべる。
「そんな出会いだったんだ。睦月さんも長門さんも、レイさんとアンさんといい友達なんだなって、見てて感じたよ?」
「うん。本当に、2人は大事な友達。でもさ、あとでレイちゃんに言われたんだけど……」
階段を登りきり、入り口を潜りながら、睦月さんは思い出すように続けた。
「moonを持つ男が私達にlucky starをもたらすってアンに言われたけど、まさか名前がmoonだと思わなかった、だって」
とにかく当たると言うアンさんの占い。私はその凄さを思い知り、ポカンとしながらそれを聞いていた。
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