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☆番外編3☆
honey moon 3
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「Welcome to New York.」
空港に降り立つと、レイさんは私にそう言う。
「Welcome back to Tsukasa and Mutsuki, huh?」
2人に向かって楽しげに言うのはアンさんだ。
半日掛けてやって来たニューヨーク。日本を夕方の便で出発し、こちらに着いたのは同じ日の夕方だ。海外に来たのは初めてじゃないけど、時差の大きな都市に来るとやっぱり戸惑ってしまう。
「これからどうするの?」
到着口を出て睦月さんに尋ねると、「車借りてここから家に直行かなぁ。どっかで軽くご飯食べる?」と返って来た。そして、睦月さんの向こう側にいる長門さんからも「それでいいんじゃね?運転はお前な」と聞こえきた。
「はいはい。わかってますよ~」
それぞれが大きなスーツケースを押しながら、そんな会話をする。
今日からの宿泊先はホテルではない。睦月さんが借りてくれたのは一軒家だそうだ。なんでも前に瑤子さんと長門さんがニューヨークに来た時使ったところらしく、瑤子さんからも『素敵なおうちだったわよ』と聞いていた。
そこに……、長門さんも一緒に滞在するんだけど。
最初はさすがに睦月さんも「え~?さっちゃんとのラブラブ新婚旅行に司もいるの?」なんて言っていたけど、話を聞くとかなり広い家で、各部屋に独立したバスルームもトイレも付いていて、ちょっとしたホテル並みの部屋がいくつかあるとのことだった。
それにここで仕事をするときには、もしかしたら長門さんと打ち合わせも必要になってくるかも知れないし、仕事先には睦月さんが送迎してくれるとなると、バラバラに宿泊したほうが面倒なんじゃないかと思った。だから私は睦月さんに、「私は気にしないよ?」と答えた。
「さっちゃんがそう言うなら……」
私の返事を聞いて睦月さんは渋々OKしたのだ。
「ま、司がホームシックにかかったら俺達で慰められるしね。あ、とりあえず、裸で部屋から出てこないでね」
話が決まったとき、真顔で睦月さんはそんなことを言い、長門さんは思いっきり顔を顰めていた。
「ホームシックにもかからねーし、裸で歩き回ったりしねーよ!お前だってそこらじゅうで盛るなよ?」
「さすがにそこはわきまえてます!ま、司の前で多少イチャイチャしてても許してよね?新婚さんなんで」
そんな2人の会話にすっかり慣れた私は、その時瑤子さんと顔を見合わせて、お互い苦笑いしたのだった。
7人乗りの大きな車に乗り、空港から街へと走る。ニューヨーク、と一口に言っても広い。日本人がイメージするニューヨークはマンハッタンだけど、睦月さんが元々住んでいたのも、今向かっている場所も、そこからは少し離れているらしい。
睦月さんはナビを使うことなく、自然にハンドルを握っていて、レイさんとアンさん、それに長門さんと英語を交えて話をしている。私はと言うと、その会話を聞き取るだけで必死だ。
「さっちゃん。レイちゃんもアンちゃんもこのまま家に帰るって。俺達も先に家に向かおうか。たぶん食べるものはあると思うけど、なかったらスーパーに買いに行けばいいし」
睦月さんがそう言ってくれて、私はそれに賛成した。
それからしばらく走ると、段々とビルの群れが近づいてくる。それは日の沈み行く濃紺と橙色の混ざり合う空に、明るさを増した光の洪水が押し寄せてくるようにも見えた。
そんな、画面の中でしか見たことのない景色を車窓から眺めていると、少し細いストリートの一角に車は停まる。
「じゃ、また店に寄るね!」
睦月さんはたぶんそんな意味の言葉を、車から降りた2人に投げかけている。それに2人が手を振って答えるのを確認すると、睦月さんはまたハンドルを握った。
そして、そこから30分ほど。
あっという間にマンハッタンから離れると、いつのまにかそこは住宅街だ。迷うことなく車を進め、広々とした庭がある一軒家が立ち並ぶ地域に来ると、その一つに向かい車は曲がって行った。
「着いたよ~!」
睦月さんがそう言う前から、長門さんはさっさと車を降りている。
「ここ……?」
家に横付けされた車の中から外を眺める。さっきチラリと見ただけでも、かなり大きな家に見えた。
「そう。さ、降りよ?」
睦月さんに促され、私は車を降りた。
「なんか……凄い……」
最初に、そんな言葉しか出てこない。
「うわぁ……。これまた気合い入ってるなぁ」
睦月さんはそんな声を上げた。
それもそのはず。家の周りを取り囲むディスプレイ。それはオレンジの、この時期なら日本でもたくさん見かけるカボチャ、いや、ジャックオランタンの群れだった。それだけじゃなくて、壁には蜘蛛の巣やら、黒猫やオバケのモチーフまで飾られている。
「これ、覚悟しといたほうがいいぞ?」
「だよねぇ……」
2人が同時に溜め息を吐きながらそう言う。
「何、を?」
私が不思議に思いながら尋ねると、阿吽の呼吸で2人の声が揃う。
「「ハロウィンパーティー」」
空港に降り立つと、レイさんは私にそう言う。
「Welcome back to Tsukasa and Mutsuki, huh?」
2人に向かって楽しげに言うのはアンさんだ。
半日掛けてやって来たニューヨーク。日本を夕方の便で出発し、こちらに着いたのは同じ日の夕方だ。海外に来たのは初めてじゃないけど、時差の大きな都市に来るとやっぱり戸惑ってしまう。
「これからどうするの?」
到着口を出て睦月さんに尋ねると、「車借りてここから家に直行かなぁ。どっかで軽くご飯食べる?」と返って来た。そして、睦月さんの向こう側にいる長門さんからも「それでいいんじゃね?運転はお前な」と聞こえきた。
「はいはい。わかってますよ~」
それぞれが大きなスーツケースを押しながら、そんな会話をする。
今日からの宿泊先はホテルではない。睦月さんが借りてくれたのは一軒家だそうだ。なんでも前に瑤子さんと長門さんがニューヨークに来た時使ったところらしく、瑤子さんからも『素敵なおうちだったわよ』と聞いていた。
そこに……、長門さんも一緒に滞在するんだけど。
最初はさすがに睦月さんも「え~?さっちゃんとのラブラブ新婚旅行に司もいるの?」なんて言っていたけど、話を聞くとかなり広い家で、各部屋に独立したバスルームもトイレも付いていて、ちょっとしたホテル並みの部屋がいくつかあるとのことだった。
それにここで仕事をするときには、もしかしたら長門さんと打ち合わせも必要になってくるかも知れないし、仕事先には睦月さんが送迎してくれるとなると、バラバラに宿泊したほうが面倒なんじゃないかと思った。だから私は睦月さんに、「私は気にしないよ?」と答えた。
「さっちゃんがそう言うなら……」
私の返事を聞いて睦月さんは渋々OKしたのだ。
「ま、司がホームシックにかかったら俺達で慰められるしね。あ、とりあえず、裸で部屋から出てこないでね」
話が決まったとき、真顔で睦月さんはそんなことを言い、長門さんは思いっきり顔を顰めていた。
「ホームシックにもかからねーし、裸で歩き回ったりしねーよ!お前だってそこらじゅうで盛るなよ?」
「さすがにそこはわきまえてます!ま、司の前で多少イチャイチャしてても許してよね?新婚さんなんで」
そんな2人の会話にすっかり慣れた私は、その時瑤子さんと顔を見合わせて、お互い苦笑いしたのだった。
7人乗りの大きな車に乗り、空港から街へと走る。ニューヨーク、と一口に言っても広い。日本人がイメージするニューヨークはマンハッタンだけど、睦月さんが元々住んでいたのも、今向かっている場所も、そこからは少し離れているらしい。
睦月さんはナビを使うことなく、自然にハンドルを握っていて、レイさんとアンさん、それに長門さんと英語を交えて話をしている。私はと言うと、その会話を聞き取るだけで必死だ。
「さっちゃん。レイちゃんもアンちゃんもこのまま家に帰るって。俺達も先に家に向かおうか。たぶん食べるものはあると思うけど、なかったらスーパーに買いに行けばいいし」
睦月さんがそう言ってくれて、私はそれに賛成した。
それからしばらく走ると、段々とビルの群れが近づいてくる。それは日の沈み行く濃紺と橙色の混ざり合う空に、明るさを増した光の洪水が押し寄せてくるようにも見えた。
そんな、画面の中でしか見たことのない景色を車窓から眺めていると、少し細いストリートの一角に車は停まる。
「じゃ、また店に寄るね!」
睦月さんはたぶんそんな意味の言葉を、車から降りた2人に投げかけている。それに2人が手を振って答えるのを確認すると、睦月さんはまたハンドルを握った。
そして、そこから30分ほど。
あっという間にマンハッタンから離れると、いつのまにかそこは住宅街だ。迷うことなく車を進め、広々とした庭がある一軒家が立ち並ぶ地域に来ると、その一つに向かい車は曲がって行った。
「着いたよ~!」
睦月さんがそう言う前から、長門さんはさっさと車を降りている。
「ここ……?」
家に横付けされた車の中から外を眺める。さっきチラリと見ただけでも、かなり大きな家に見えた。
「そう。さ、降りよ?」
睦月さんに促され、私は車を降りた。
「なんか……凄い……」
最初に、そんな言葉しか出てこない。
「うわぁ……。これまた気合い入ってるなぁ」
睦月さんはそんな声を上げた。
それもそのはず。家の周りを取り囲むディスプレイ。それはオレンジの、この時期なら日本でもたくさん見かけるカボチャ、いや、ジャックオランタンの群れだった。それだけじゃなくて、壁には蜘蛛の巣やら、黒猫やオバケのモチーフまで飾られている。
「これ、覚悟しといたほうがいいぞ?」
「だよねぇ……」
2人が同時に溜め息を吐きながらそう言う。
「何、を?」
私が不思議に思いながら尋ねると、阿吽の呼吸で2人の声が揃う。
「「ハロウィンパーティー」」
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